滑舌悪いオペレーター奮闘記 完結編
銀行のエントランスに取られた人質の数およそ20人、一般の客も含まれている様子だった。
強盗の数は5人、うち3人が人質にサブマシンガンを突きつけ、出入り口に1人ずつ、同じくサブマシンガンを持った強盗が待機している状況。
建物の構造から、侵入できるルートは3つ。
正面入り口、裏口、そして、隣の建物伝いに、2階から侵入、の3つだ。
作戦はおおざっぱに3つある。
1、突撃
これは文字通り、正面から一気に警察を投入して、制圧する方法だ。
そのためにまず、入り口と出口の強盗を始末しなければならない。
見通しのいい正面からでは、敵の恰好の餌食になるため、大体裏口から攻めていくことになるが、敵が無線で連絡を取っていた場合、突入がバレれば中の人質はただでは済まない。
そのため成功率は低めだ。
2、狙撃
突入せず、中の強盗を一人ずつ葬っていく作戦だ。
これは、突入と同時に行われる場合が多い。
今回のようなケースなら、まず人質に銃を突き付けてる強盗を先に始末し、突入により、入り口と出口の強盗を後から始末していく。
3、交渉
これが一番の安全策で、基本はまずこの交渉から進めていく。
オペの仕事は、人質の数、建物の構造、敵の配置、持っている武器、相手が無線でやり取りしているかの有無、を現場の警察にデータ送信し、突入時の敵の動きの補足が主となる。
「オペレーター、聞こえるか?」
隊長のレイジが連絡してくる。
「データの送信を頼む」
「了解しました」
直ちに、建物をスキャンし、そこから得られた必要なデータを送信した。
「オーケーだ、突入時はよろしく頼む」
「了解」
突入だけはやめてよね、今回はシュンがいるから、私のオペでやられるようなことになったら、立ち直れないわよ…
ネゴシエーターのゴウが交渉に当たっていた。
しかし、かなり狼狽していた。
「こちらはどんな要求でものむ、お互い、穏便に済ませるのが正しい選択じゃないか?」
「今、建物内に爆弾を設置した。もしそちらが突入すれば、それを起動させる。そうしたら人質は皆死ぬ。
加えて、今から10分置きに人質を一人ずつ始末していく。それを止める方法は、そちらの隊員の死体を一人ずつ差し出すことだ。それで10分は人質を殺すのをやめてやる」
「君たちの要求を教えてくれ、隊員の命など、本来の目的とは違うはずだ」
しかし、その会話は途切れてしまった。
「爆弾はプラフですね」
「了解だ、突入の準備に入る」
さっきのスキャニングで、爆弾の存在は確認されなかった。
突入を防ぐためのプラフだわ。
しかし、相手の狙いが分からないわね。
金が目当てなら、そういう要求を出すはず。
隊員の命なんて、相手にとってどんなメリットがあるのかしら?
別チームから連絡が入った。
「犯人の身元判明、全員殉職した警察官の身内です」
「何っ!」
署内に動揺が走った。
更にネゴシエーターのもとに、新たな連絡が入った。
「オペレーターに伝えろ、俺たちはお前の殺した警察官の身内のものだ、大事な人間を失った苦痛を味合わせてやる、お前の同僚を一人ずつ殺し、同じ痛みを味合わせてやる、まずは、お前らをその気にさせる」
ドンという銃声、そして悲鳴があがる。
「やめてくれっ!」
「次の10分を楽しみにしている」
そして通話は途切れた。
「……どうやら、オペレーターのお前に恨みがあるらしい」
「そんな……」
今まで私のミスで死んでいった警官の身内が犯人、そして、私を苦しめるのが目的なんて……
「安心しろ、お前を差し出すような選択肢は存在しない、突入のカウントダウンに入る」
ドクン……
滑舌の悪さがこんな波紋を呼ぶなんて……
そして、この突入で、シュンは死ぬかもしれない。
相手はやりあう気だ。
ああ、なんでこんなことに……
「突入開始3分前!」
「データ送信します!」
相手の配置は変わらず、もう人質が一人死んでしまった以上、強行策を取らざるを得ない。
狙撃の範囲内に相手も現れない。
一番成功率の低い方法を取らざるを得ない。
「ジュリア、聞こえるか?俺だ」
この声はシュン
「聞こえるわ」
「君のオペ次第だ、それで人質が助かるかどうかが決まる」
こんな時にプレッシャーかけないでよ
「俺の命は二の次でいい、とにかく、人質優先のオペを頼むぞ」
やめて、やめてよ……
「いくぞっ!」
隊員が突入した。
「入り口付近に敵がいます、気を付けて」
何とか言えた。
でももう口が言うことを聞かない。
「人質をとらえてる犯人3人に動きあり、す、速やか、速やかに犯人さ……犯人確保に……」
もうだめ!!
「ジュリア!」
頭の中が真っ白になった。
なんでこんなことに……
「問題ね、聞き取れらし」
え?今なんて??
「津軽弁の勉強したんだ 問題きゃえさ」
まさか、私のために津軽弁を!?
それならもう気にすることはないわ!
「そのまま突き当りば、右さいってけろ!」
「了解!」
終わり
まじめか