ノーテンキすぎて困ります(友人一同)
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「……でさ、あたし、小宮が起きるまで一時間も待たされたんだよ〜。信じられる!?」
廊下を歩きながら麻美に昨日の出来事を説明するあたし。
小宮の脱・チェリーを手伝うって約束以外は全部話した。小宮には悪いけど。麻美は口が固いから愚痴るくらいは許してね。
「確かに異常なウブさだね」
「ホント、おかしいよね。待ってる間、あたしナニしてるんだかな〜って自分が悲しかったよ。小宮の体の線なぞって死体ごっこしたり、石積みながら数え唄歌ったりして過ごしたんだよ?」
「ごめん。おかしさはいい勝負だわアンタら。案外お似合いのカップルかもね」
「えぇ〜〜どういう意味よソレ〜〜」
そんな会話しながら教室に向かってると、前方に数人の男子がたむろってるのが見えてきた。廊下を半分以上占領してちょっと邪魔くさい。
端を通ろうかと思った時、男子の一人があたしに目をとめた。ニヤニヤ笑いながら隣の男子に何事かを囁く。なんだろう?
「ああ……あれが……」
「結構可愛いよな。あれで……なんて信じらんねぇよな」
「へ〜。俺も声かけてみっかな……」
会話が半分聞こえてくるけど何の話だかよく分かんない。横を通り過ぎようと思ったけど、彼らは道を塞ぐように廊下の真ん中に躍り出てきた。
うわ。カンペキに邪魔だ。どうしようかな。
と思った直後、彼らの体が前方に傾いだ。
「わっ!」
「す、すみませんっ!」
聞き覚えのある声にハッとなる。
小宮だ。うひゃっ。なにやってんだか。
大小の地図やらプリントやらを抱えた小宮が男子達の背後からぶつかったようなのだ。
「よく前が見えてなくて……すみませんでした」
「気を付けろよお前!」
ムカッ。アンタらが邪魔なのがいけないんじゃん!
ちょっと頭にくる場面だった。
数人の男子に責められて謝る小宮が可哀想。あんなに気が弱いのに。きっと何にも言い返せない。
助けなきゃ、と止まってた足を動かした。
でも彼らは短く罵った後、さっさと教室に戻って行ってしまったのだ。
むぅ。ヒトコト言ってやりたかった。
「小宮! そんだけ大荷物だと前が見えないのもムリないよ。あたしも手伝うから貸して。次の地理に使うんでしょコレ?」
あたしは荷物を持ち直そうとする小宮に駆け寄って地図のひとつを掴んだ。
「ありがとう比奈さん」
ぶつかった拍子にずれたのか、メガネを直しながらあたしを見る小宮。
あれ? 思ったより平気そう。あんまり萎縮してる風じゃない。
「へぇ……やるじゃん、小宮」
あたしの後ろから麻美が小宮に意味不明な賞賛を送る。小宮は一瞬キョトンとあたしの背後に目を向けた後、照れたように微笑んだ。
なんだ? このやり取り。
目をぱちくりさせて小宮と麻美を交互に見る。その時ポケットの携帯が震えた。
「あ、メールだ」
スカートから携帯を取り出し画面をさっと確認。
イツキからだ。
『今夜みんなで踊りに行く。比奈もこいよ。その後はナオんチで飲みだけど、お前はジュースでいいからさ。クラブに集合!』
うへー。飲みがあるのか。
踊りは好きだけどお酒は好きじゃないんだよね、あたし。
それを知ってるからイツキは『ジュースでいい』って言ってくれてるんだけど。
男の子ってみんなワルイんだからなーもう。
お酒はハタチになってから、ですよー。
でもあたしが止めたげないと、どこまでも調子に乗る奴らなのでイエスの返事を送る。
しょうがない奴らだよ。
そんなバカなところも結構好きなんだけどね。
「イツキからの誘い?」
麻美に訊かれて「うん」と答える。
バサッと音がして横を見ると小宮が地図を落としてた。
慌てて拾い上げるも今度はプリントを落とす小宮。なんて落ち着きのなさなんだか。
「大丈夫?」
「あ、うん……」
なんだか元気のない返事。
どうしたんだろう急に。気のせいか目も逸らされてるような……。
プリントを拾ってあげると、受け取る小宮が目を伏せたまま、
「比奈さん……」
とあたしを呼んだ。
「ん? なに?」
答えてみれども小宮の言葉は続かなかった。
数瞬迷った様子を見せた後、
「ううん。なんでもない」
と弱々しい笑みを浮かべて会話終了。
その後はいつもの小宮に戻ったのだった。
その日の夜、皆が集まるクラブに顔を出した。
ダンスイベント中心のディスコ・クラブ。未成年もOKの店でお酒は出ない。
熱気ムンムンの店内は中心に広いステージがあって周囲にテーブル席がある。
小気味いいヒップホップが流れる中、イツキ達の姿を奥のテーブルに見つけた。
「やっほーみんな!」
「おーっ! 比奈じゃん!」
「久しぶり〜っ! ナニそのリップ可愛い〜っ!」
「ここに座る? おいでおいでーっ」
声をかけると口々に挨拶を返してくれる明るい仲間達。大半はこのクラブで知り合った躍り好きの連中だ。
その中心にいるのはイツキ。よくつるんでるナオと小突き合って楽しそうにしてる。笑った顔をあたしに向け「よっ」と挨拶した後、飲み物を頼んでくれた。
あたしの好きなカルピス。やっぱりイツキはよく分かってる。
一気に飲み干した後、気持ちいい汗を流すべくステージに向かった。
「疲れたか?」
しばらく躍ってソファーに倒れこんだところにイツキが声をかけてきた。
「試しにブレイクダンスしようとして目が回っちゃった」
ぐるぐるする頭を起こして答えると、
「お前がする踊りじゃねぇだろ」
笑いながら隣にかけるイツキ。だって面白そうだったんだもん。全然ダメだったけどさ。
どうにか身を起こしてきちんと座り直す。
目を閉じてハンカチを額に当て、呼吸を整えてるとイツキの声だけが耳元に響いた。
「なぁ比奈。最近メガネかけたヤツとよく一緒にいるよな?」
誰のことだかすぐに分かった。
「小宮? うん。たまに一緒に帰ったりしてる」
「オツキアイ、ってやつ、してんのか?」
「はぁっ!?」
思わず勢いよく反応してしまった。
「そ、そんなワケないでしょっ! ちょっと仲良くなっただけだよっ!」
額から落ちたハンカチを慌てて拾いながら反論。
どっからそんな発想が。一緒に遊ぶ男友達は他にもいっぱいいるじゃん!
「いや……なんつーかいつもと違うタイプだったからよ。全然遊び慣れてなさげな、いかにもガリ勉そうなヤツじゃね? アイツ」
まったくその通りだけど、それでオツキアイは飛躍しすぎなような。
「話すと意外と面白いんだよ。なんかほっとけないカンジするしさ」
それでエッチの手ほどきすることになりました。ってのはナイショナイショ。
「まぁいいけどよ。あんまりあーゆーのと付き合わない方がいいぜ」
「なんで? 友達は幅広い方がいいじゃん」
キョトンとしてイツキを見る。
「小ウルサイだろ? あーいう輩」
え? そうかな?
「小宮はうるさくないよ。なーんもクチ出ししてこないもん」
そのうえ手も出してきません。これは改善求ム。
「あーいうのに限ってムッツリスケベだったりするしよ」
「それなら話は早いんだけどね……」
「は?」
「あは。あは。なんでもない」
誤魔化しながら飲みかけのカルピスを手に取った。
「……? なんか知んねーけど、やたらアイツを庇ってねぇか比奈?」
「えっ!? べ、別に庇ってなんか……。友達だもん」
それよりイツキこそ、なんでそこまで言うんだか。イツキって優等生嫌いなトコあるんだよね。
あーいう輩、ってやたら使いたがるし。そんな優等生を一括りにしなくてもいいと思うんだけどな。
「イツキー! 次のヤツ一緒にやらね?」
ナオに声をかけられ、「おう!」と立ち上がるイツキ。あたしはまだ休むつもりでゆっくりカルピスを飲んだ。
イツキはすぐ向かうかと思いきや、立ち上がったままあたしを振り向いた。
何か言いたさげに、じっと見つめてくる。
「ん? なに?」
「いや……」
それから前に向き直るイツキ。
去り際ボソッと声を落としてきた。
「あんまりハマるなよ、比奈」
へ? 何に?
問い返す間もなく去ってく背中。
ステージ中央へと、光の中に溶けていく。
あたしはハテナ顔でその背中を見つめ、
「なんなんだろ今日は……」
そう、呟くしかなかったのだった。