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今度こそやるぞ!リベンジデート

「おっはよ〜!」

 

 今日もいい陽気になりそうな、青空が覗く廊下で。前を歩く小宮の背中を叩いた。

 少し驚いた顔が振り返る。

「あ……おはよ、比奈さん」

 相変わらず顔も体も固いけどもう慣れた。恥ずかしそうにしてる顔も可愛いし。

「明日楽しみにしてるよ〜」

 にこっと笑って言うと、小宮は嬉しそうに目を細めた。こういうトコロはホントに可愛い。

 

 小宮との意外と楽しかった初デートの翌週、学校で会った小宮はいつもの真面目一徹少年だった。あたしに話しかけてくることもなくて、デートしたのが嘘みたい。

 放課後、裏庭を掃除してた小宮に、「次はいつデートする?」と声をかけると、小宮はビックリした顔で振り返った。

  

「またデートしてくれるの? その……僕とのデート、つまらなくなかった……?」

 

 つまり、あたしにまた誘われるとは思ってなかったってコトなんだろう。もう二度と話しかけてくれないだろうとまで思ってたみたい。

「そんなことないよ〜。楽しかったよ?」

 そう言うと、小宮は嬉しそうにはにかんだ。抱きつこうとしたらかわされたのはちょっと不満だけど、笑顔が可愛かったから許してあげた。

 

 そんなわけで、また今週土曜日デートの運びとなり、学校でも親密な挨拶を交わす仲にまで進展。

「比奈、最近小宮と親しいよね」

 あたしと小宮のやり取りを見てた麻美が突っ込んできた。

「うん、ちょっと頼まれごとしててね」

 小宮が童貞で脱・チェリーしたがってるってコトは、麻美にも内緒にしてる。小宮には不名誉なコトだもんね。

 不思議そうな顔をする麻美を促して朝の教室に入った。

 そしてまたやってきた土曜日のデートは。

 

「小宮……えーと、なんて言ったらいいのかな」

 

 笑いそうにひくつく頬を抑えて、あたしは小宮から顔を逸らした。

 

「とりあえずTシャツだけでも、と思ったんだけど……」

 

 理容室のシンボルマークみたいなTシャツの上にチェック地のシャツを着た小宮がしょんぼりした顔で呟く。

 そう、美容院でなく理容室とかの入り口に立ってるアレ。赤・白・青の斜めストライプ。

 

「派手な方がお洒落なのかな、と思って……」

「派手な服は上級者向けだよ。ストライプの上にチェックなんてあり得ないよ! 目がチカチカするじゃん!」

「ごめん。また失敗しちゃったね、僕……」

 はい、大失敗です。

 大失敗なんだけど、可笑しくて仕方ない。

 真面目に落ち込む小宮を見てると、恰好が恰好なだけに……。ダメだ。可笑しすぎて涙まで出てきた。

「と、とにかく、今日は服、見に行こうよ。どんなのがいいか、選んであげるからさ」

 震える声で言うと、小宮が更に真剣になった顔を上げてあたしを真っ直ぐに見つめた。

 

「うん! よろしくお願いします!」

 

 思いっきりかしこまった口調でピシッと姿勢を正す。

 拍子にまたメガネがずりっ。

 

 ちょい待て。ホントにそれ、狙ってやってない!?

 うっく、も、もう……。

 

「あはははは! ダメ! もうダメ〜〜〜〜! 小宮可笑しすぎる〜〜〜〜〜っ!!」

 

 どこまで天然なのコイツ!

 

 お腹抱えて笑い転げるあたしを小宮はぽかーんとした顔で見つめる。これを素でやってるんだから凄い。

 

 小宮って、本人は至って真面目なんだろうけど、はたから見たら色々ちぐはぐで面白い。

 学校で授業受けてる時なんてすっごい勉強できそうだし、冗談なんか通じなさそうに見えるんだけど。

 学校の外で会う小宮は世間慣れしてない子供みたいで印象がガラッと変わる。

 

 これが天然の放つオーラってやつなのかな?

 

 眩しすぎてお腹痛い〜〜!

 

 その後もあたしの笑いは、駅からしばらく歩き、メンズショップの中に入るまで続いた。

 ちょっとむくれた小宮が「比奈さん笑いすぎ……」とジト目で見るのが更に可笑しくて、笑いがなかなか止まらなかった。

 しまいにはチェックのシャツを脱いでバッグにしまう小宮。

 

「あぁ〜もったいない!」

「何が!?」

 

 いやいや笑えるところが。

 ちょっと写メに撮りたかった。

 

 そんなこんなで笑いを止めるのに苦労したけど、なんとかひとしきり笑って落ち着いた後、早速小宮の服選びを開始した。

  

 ジーンズの種類も豊富なカジュアル系の店にて物色する。

 

「このTシャツのロゴ可愛い〜! ね、これどう? 小宮」

 棚に畳んで置かれてるTシャツを一枚一枚広げて確認しながら選ぶ。

 男の子の服を選んであげるのって、なんか新鮮。楽しくなってきた。

 

「それ、文字がちょっと……」

 ん? 小宮の反応はイマイチ。

 あたしはTシャツを両手に掲げてじっとロゴに見入った。

 黒地にピンクの印刷で『LOVE CHILD』。どっかおかしいのこれ?

「いいデザインだと思うけどなぁ〜。可愛いじゃん。ラ・ブ・チャ・イ」

「『隠し子』って意味だよ、それ」

「ル・ド……。へー……」

 声に出す前に言ってよ小宮。

 

「あはは……で、でもよく知ってるね小宮! さすが優等生!」

 なんとなく白けたムードを笑顔でカバー。ファイトだあたし!

「今の、優等生なポイントなんだ……」

 こらっ。複雑そうな顔をしない、そこっ。

「わりと知られてる話だと……」

「ん? あたしが物知らずだって言いたいのかな?」

 デートでそいつぁNGだよ、小宮。

「す、すみません」

 分かればよろしい。

 

 うんうんと頷きながらシャツを畳むあたし。

 ふふっ。優位に立つのって気持ちいい〜〜♪

 

 ……しかし、一体誰が買ってくんだろうか、このシャツ……。あっちに子供服版もあるんだけど。子供が着たらシャレになんないような……。

 

 色々と問題のあるロゴシャツは生温かい目で見守りながら棚に戻した。

 それから気を取り直して今度はボトムスを選びに、別の棚へ移動。

 小宮は細いから細身のブーツカットがいいかな〜とデニムを漁る。カーゴパンツもカッコよくて好きなんだけどね。

 それから更にGジャンや黒のTシャツを選んで小宮に渡し、試着室へと背中を押す。このチョイスなら多分失敗は少ないはず!

 

「ひ、比奈さん。このズボン、股上が……。おヘソが見えちゃうよこれっ」

 試着室から聞こえる恥ずかしそうな小宮の声。

「イマドキ、ローライズは常識だよ! 男ならおヘソ見えたくらいでガタガタ言わない!」

 ピシャリと返すとカーテンの向こうは静かになった。

 しばらく待ってると、シャッ、とカーテンが開く。

 

 大変身を遂げた小宮が現れた。

 

「わぁ〜っ! ホラ、似合ってるじゃん!」

 さっきまでとは段違いにカッコよくなった小宮に大満足!

 シンプルながらもスラッとスマートな男を演出する黒はあたしの大好きな色。思った通り小宮によく似合う。

 広めの襟ぐりから覗く鎖骨や、細く引き締まった腰のラインも思わずグッとくるセクシーさ。

 あたしがいっぱい褒めまくると、小宮は恥ずかしそうに顔を俯けた。そういう仕草が妙に可愛らしい。

「あとは髪型とそのメガネなんだけど……」

「あのっ。僕、あんまりお金持ってきてないんだけど。この服買ったら、財布空っぽかも……」

「ああ、そうだよね〜。とりあえず他も回って色々着てみようよ! どんだけ小宮がカッコ良くなるか、あたしも楽しみだよ〜」

 言いながら、何気なく小宮の胸を指先でつつ〜っと撫でた。あんまりセクシーに変身したから触りたくなっちゃったんだ。

 

「ひゃっ!」

 

 途端、小宮は真っ赤になって飛びのいた。勢いよすぎて背後の鏡にぶつかるくらいの素早さで。

 

 ……………………。

 

 なんてゆーか。小宮って、かなりウブい?

 

 これから脱・チェリーしようって男がこんな調子で大丈夫なんだろうか。

「店で暴れないでください」と注意してくる店員さんに慌てて謝る小宮。せっかくのスマートな衣装も形無し。

 

 一抹の不安を抱えながら、そのショップを後にした。

 

 

 

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