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これって微妙?初デート

「比奈」

 

 廊下を歩いてると、前方から呼び止められた。

 金に近い茶髪の男子。ルックスもスタイルもマルでどこか野性的な雰囲気がある。廊下の窓に寄りかかるポーズがなかなかセクシーだ。

「やっほぉ、イツキ」

 あたしは彼に挨拶を返した。イツキはよく一緒に遊ぶ友達。カッコよくて遊び慣れてて楽しいヤツなんだ。

 

「土曜の夜、空いてるか?」

「今週の土曜? ゴメン、先約があるや」

 片手で謝る仕草をするとイツキはさして気にした風もなく、

「そっか。じゃ、また今度な」

 と軽く手を振った。

 横を通り過ぎる時に流し目をくれる。その抜けめない色っぽさがイツキらしい。女の子の扱いに慣れてる感じ。

 

 ちなみに先約ってのは小宮とのデートのこと。こないだ交わした脱・チェリーの相手をするって約束により、早速週末デートを決行することになったのだ。

 イツキはエッチがすごく上手だからちょっと惜しかったけど、小宮とのデートも結構楽しみ。ああいうコって、デートの時どんな恰好してくるのか想像すると面白い。

 スーツでビシッとキメてきたらどうしよ? もしくはすんごいド派手な恰好とか。花束とか持ったりしてさ。

 

「今夜はキミを帰さないよ」 

 

 なんてセリフを真顔で言ってくれたりしたら大爆笑なんだけど。

 ある意味滅茶苦茶潔くてカッコいくない? 惚れちゃうかもしんない。

 

 とりあえず、どんな恰好で来ても合わせられるように、あたしはやや可愛いめでカジュアルすぎない服でいこーっと。とか考えながら、週末になるのを待った。

 

 そしてやってきた約束の時。

 

 あたしは駅前の噴水広場でポカーンと口を開けて立っていた。

 

 目の前には小宮がいる。いつもの茶色い縁のメガネをかけて、気弱そうな笑みを浮かべた小宮が。

 そのダサいメガネ、なんとかして欲しいけどまぁ仕方ない。メガネって結構高いしね。

 でも、服装はもう少しなんとかなったんじゃない?

 あたしは小宮の恰好を上から下までマジマジと見つめた。

 水色デニム地の長袖シャツの中に白いTシャツ。中途半端によれよれなジーンズ。

 なんてゆーかいわゆるアキバ系?

 

「小宮ぁ〜。デートにその恰好はないんじゃない?」 

「えっ!? これ、どっかマズかった? 僕こういうのしか持ってなくって」

 不満げに頬を膨らますあたしを見て、小宮は焦った顔で言った。

「マズいなんてモンじゃないよ。やる気ないのかと思っちゃうよ〜?」

「え……そうなの?」

 真剣に心配顔になって「どうしよう……」と焦りだす小宮。コイツ、初体験どころか初デートもまだだよ絶対。

「そのシャツとか、いかにも近くのスーパーで一枚500円のヤツってカンジじゃない? ブランド物で固めろとは言わないけど、せめてTシャツくらいはこだわりを見せなきゃ」

「そ、そっか……。確かに、服はいつも母さんが近くのスーパーで買ってくるのを着てるから……」

 信じらんない。服を自分で買ったことがないなんて。

「まぁ、もういいけどさ。初体験するって記念日なのは小宮だから。小宮がそれで納得してるんならいいよ」

 言うと、小宮のしょんぼり顔はさらにしょんぼり萎んだ。

 しょうがないヤツ。このくらいで許してやるか。

「ま、何事もケイケンだからね! とりあえず遊ぼ! 人生、遊ばなきゃソンだよ!」

 にこっと笑ってうなだれた顔を下から覗き込む。小宮は慌てて身を退いた。

「どこに行く? カラオケ? ゲーセン?」

 エッチする前は楽しい遊びで盛り上がるのがあたし流。特に小宮は初体験だし、気持ちをリラックスさせようと思って、すぐ思いつく場所を適当に並べたのだ。だけど小宮はあんまり乗り気じゃなさそう。

「どっちも行ったことないんだ、僕。お金もあんまりないし……。比奈さんは、何か買いたいものある?」

「買いたいもの? そりゃ欲しいものはいっぱいあるけど。春物の靴とか、アクセとか。服も欲しいし」

「じゃ、ショッピングに行こう。服とか靴とか見に行こうよ」

 

 はぁ〜〜〜〜??

 

 あたしは目を丸くして小宮を見た。

「今日はデートでしょ? ショッピングは別にいいよ。あたし、買い物長いし」

 男って、女の買い物に付き合わされるのが一番嫌いなもんなんじゃないっけ?

「僕は平気だよ。女の子って、普段どんなところで買い物してるのか興味あるし。店を見て回るだけでも楽しいよね」

 そう言う小宮の顔は全然遠慮してる風でもなく嬉しそうにはにかんでる。

 

 コレハ珍しいパターンデスヨ?

 

 あたしは首を捻った。デートで買い物に行こうって言われたのは初めてだ。どう反応を返せばいいのか分からない。

 でも今日は小宮のためのデートだし、小宮がそうしたいのならそうした方がいい……のかな?

「じゃあ……可愛い小物の店があっちにあるから……行く?」

「うん、行こう」

 そうしてあたし達はなんとも奇妙な初デートを始めた。

 

 

 

 デートでショッピングなんて、逆に気をつかっちゃって楽しめない。……かと思ってたけど、これが意外に楽しかった。

 小宮はちっとも嫌な顔せずにあたしの買い物に付き合ってくれたし、「可愛いね」とか「こっちもいいよ」とか色々感想を言ってくれた。

 二人でクレープを食べながら歩いて、ペットショップで子犬を撫でた。

 可愛いニットワンピースを見てたら、「こないだのポニーテールに合いそうだよね」とちょっと照れながら言ってくれた。

 

 およよよ? まったく女慣れしてないオタク系かと思ったけど、結構いいカンジじゃない?

 

 小宮のイメージはガラッと変わって、「意外と話せるヤツ」に出世した。

 

「ねぇねぇ。このヘアバンドどうかな?」

「うん、可愛いと思うよ」

「小宮はこっちのなんてどう?」

「えっ!? 僕は男だからそういうのは……」

「ふっる〜い! イマドキの男の子はお洒落でこういうの着けるんだよ。知らないの?」

 

 アクセサリーショップで髪飾りを物色しながら小宮をからかう。

 真面目な小宮は「そうなの?」と眉根を寄せてヘアバンドを凝視する。

 

「試しに着けてみなよ」

 

 あたしの言葉に恐る恐る水玉のリボン付きヘアバンドを頭に被る小宮。

 神妙な顔つきで装着した後、店の鏡に映してみると、その顔はしかめっ面のハテナ顔になり、

「これ、お洒落なの……?」

 確認するようにあたしを向く。その頭を見て思わず噴き出しそうになった。

 茶縁メガネにボサボサ頭が水玉リボン付きヘアバンドを……!

 

 イカス――ッ!

 

「や、やばすぎっ。可愛い小宮ぁ〜〜!」

「比奈さん、もしかしてからかってない……?」

 

 頬を赤らめて拗ねる小宮に「ごめーん☆」とクネって謝る。

 優等生のギャップがステキすぎる〜。小宮ってなんか可愛い!

 

 なかなか楽しいデートにすっかりテンションは上がってた。

 これならきっとエッチも楽しくできるな〜と期待も徐々に膨らんでくる。

 小宮もデートを楽しんでくれてるようだし……。

 

 ……なんだけど

 

 …………楽しんでくれてるよね?

 

 リラックスしてるようには見えるんだけど……。うーん。

 

 困ったな。

 

 さっきから小宮。全然、あたしに触れてこないのだ。 

 

 ふとした拍子に手を繋ごうだとか、肩にもたれかかろうだとかすると。

 

「わっ!」

 

 とかって、真っ赤な顔で焦りまくる。次には1、2メートルほど飛びのいて離れちゃうのだ。

 

「ねぇ、これからエッチしようって仲なんだからさぁ。もっとスキンシップしないと〜。固すぎるよ小宮」

 拒絶されっぱなしでちょっと面白くないあたしはぷう、と頬を膨らませた。

「……………………ごめん」

 こういう時、目もまともに合わせてくれない。

 今日はショートパンツとブーツで来たんだけど、いきなり生足はひかれちゃったのかな?

 我ながら可愛いし、ついでにフェロモンもいいカンジに出てると思うんだけど。触りたいって思わないのかな?

 はぁ〜〜。プライドが傷付いちゃうよ。

 

「せめて手くらいは繋ごうよ。ホラ」

 小宮が飛びのく前に、無理矢理手を掴んだ。

 ほっそい指。でも長くてキレイ。

「ひっ、比奈さんっ!」

 小宮は慌てて振りほどこうとする。でもあたしは頑として離さなかった。

 両手で小宮の左手をがっしと掴み、自分の胸元に引き寄せる。

 あ、別に乳触らせようとしてるわけじゃないからね、言っとくけど。

 自然と小宮の体が近くなって、真正面に小宮の顔が来る。

 緊張でガチガチに固まってる顔だった。

 

「もぉ〜っ。ちゃんとあたしの目を見て!」

 ホント、すぐ目を逸らそうとする。困ったヤツ。

「ごめん。でも恥ずかしくて……」

「その恥ずかしいってのがイイんじゃない! 気持ちが盛り上がってくるでしょ〜?」

 じっと小宮の顔を見る。もう真っ赤すぎてトマト状態だ。

 しつこく見つめてると、やや顔を背けながらも、目はちらちらとあたしを見始めた。

 数回視線があうと、あたしも体の奥がじんと熱くなってくる。そうそうコレコレ。

 盛り上がってきた証拠。こうしてるとキスしたくなるんだよね。

 そろそろ目を閉じてみようかな〜と思った時。

 

「あっ! 雨降ってきたよ!」

 小宮が叫ぶと同時にポツッと冷たい物が鼻にかかった。

「ひゃっ!」

 雨だ。確かに雨だ。お昼はいい天気だったのに、いつのまにか空は曇ってる。

「やだっ。早くどっか入ろ〜〜」

 もうサイアク。せっかくの可愛いチュニックが汚れちゃう! お気に入りのニット帽も。濡らしたくない〜。

「あそこ! ちょうど百円ショップがあるよ。傘買おう」

 小宮はあたしを手招きしながら近くの百円ショップに駆け込んだ。

 それから傘を2本買って、あたしに1本渡してくれる。外に出て傘を差すと、

「雨降ってきたから今日はもう帰ろっか。付き合ってくれてありがとう、比奈さん」

「へ? 帰る?」

 今、信じられない言葉を耳にした? あたし。

「うん、せっかくの服が濡れちゃうし」

「でもエッチは? 初体験は?」

 当初の目的はどうしちゃったのか。目をぱちくりさせながら訊いた。

「え!? えーと……」

 途端、口ごもって視線が泳ぎ出す小宮。

 どうしたんだろう?

 訝しげにじーっと見てると、困ったような愛想笑いを浮かべた小宮があたしに視線を戻した。

 

「えっと、それはまた今度頼んでもいい? 僕、とにかく何もかもが初めてだから……服もこんなだし、次はもっとお洒落に気をつかってみるよ」

 ハハハ、と顔を引き攣らせながら。小宮は駅の方に足を向けた。 

 

 そっか。服装のこと、やっぱちょっぴり気にしてたんだ。じゃあしょうがないか。

 でももうちょっとデート続けたかったのに残念。服なんてもう気にならないのに……。

 なんとなく釈然としないながらも、小宮の後についていく。

 こうして午後から始まったデートは、夜に突入することなく終わった。

 

 ビミョーなデート。

 

 家に着いた途端、楽しかったのかイマイチだったのか、微妙なカンジのデートだったな〜、と顎に指を当てて考えてみた。

 

 エッチが目的のはずなのに、な〜んかやる気が感じられないし。

 

 普通ならもう二度とデートしようとは思わないかもしんない。

 

 だけど――――なんでだろう。

 

 

 もっと小宮と話してみたい。

 

 

 そう思ってるあたしがいた。

 

 

 

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