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パーティー結成

 シシリアが依頼の農作業を終えるのを待ち、吾郎達は冒険者ギルドでパーティーの登録を申請した。


「じゃあ、この四人でパーティーを組むってことでいいんだな?」


 マスターの確認に、吾郎達は「はい」と頷く。皆の返事を、マスターは満足そうな顔で聞きながら、さらさらと冒険者登録書にパーティー情報を書き足し、四人に更新された冒険者ギルド登録証を返した。

 冒険者ギルド登録証には、パーティーを組んでいるという欄に丸が付けられている。所属パーティーの欄は、まだパーティー名が無いので空欄だ。とりあえずは、仮のパーティーという事になるらしい。


 吾郎は、結局冒険者になってしまったな――と、ギルド登録証をぼんやりと見つめる。その横では、アランは興奮したように椅子を揺すらせていた。


「おおーっ、これで俺達も正真正銘の冒険者かー!!」


 アランの動きに合わせてカウンターが揺れ、案の定マスターに怒られている。

 ――阿呆め。


「う、うん。これで僕達も冒険者の依頼を受けられるね」


 ジーグも感動したように、ギルド登録証をためつすがめつする。


「お金、稼ぐ」


 シシリアがぐっと拳を握る。

 各々が喜びを噛みしめる中、吾郎は一つ、ずっと気になっていた事を皆に話し始めた。


「……なぁ、そろそろ自己紹介しないか?」


 その言葉に、ぴたりと時間が止まったように三人は動きを止めた。

 吾郎はそれを見ながら、話を続ける。


「冒険するなら、お互いの能力ぐらい把握していた方がいいんじゃないか。正直俺は、お前達の名前くらいしか知らないのだが?」


 言い終えると、しばらくの時を待ってジーグが「確かに」と肯定の姿勢を見せる。ついで、二人も納得顔でこちらを見た。

 ――こいつらと一緒で大丈夫なのだろうか? といった考えが、一瞬吾郎の頭を過ったのは言うまでもないだろう。

 吾郎が一つ息を吐くと、ぽんと肩に手が置かれた。


「そういや、俺おっさんの名前まだ聞いてなかったな。俺はアラン・バシュタインっていうんだ、よろしくな!」


 アランは自身を親指で指し、眩しい笑顔を見せた。


「おっさんじゃないが、俺は田山 吾郎だ。見ての通りかは分からないが、異世界人という奴で、この世界についてはあまり詳しくない。そういう意味では足を引っ張るかもしれないが、まぁよろしく頼む」


「へぇ、おっさん異世界人だったのか……」


 上から下へと、よく観察するようにアランは吾郎を眺める。ジーグはやはりといった様子で、シシリアは興味なさげに吾郎を見ていた。


「何度も言うがおっさんじゃない。というか、アランは異世界人が珍しいのか? 異世界人は結構多いと聞いたのだが……」


 吾郎の疑問にジーグが答える。


「いえ、僕達のいた村が小さすぎて異世界の方に会う機会が無かっただけだと思います」


「そうか。そういえば、お前達は最初から知り合い同士みたいだが?」


 吾郎の問いにアランが答える。


「ああ、俺とジーグは幼馴染だからな」


「アラン君とは同村出身なんですよ。あ、僕の名前はジーグ・ミルシュトラトフと言います。よろしくお願いします」


 頭を下げるジーグに、吾郎は「あぁ」と頷き、次にシシリアへと視線を向ける。

 シシリアは視線に気付き、しばらく宙空を見つめた後、


「……私は、シシリア・シシス・シシレヒア。見た通りエルフ族。たくさん、お金稼ぎたい。よろしく」


 そう言って少し頭を下げた。

 アランが覚え込むように、吾郎とシシリアの名前を幾度か呟く。


「よし、おっさんとシシリアだな。覚えたぞ!」


 とりあえずアランの目を突いておいた。

 床でのたうち回るアランを無視して、吾郎は話を進める。


「それじゃあ、細かいところを教えてくれ。まずは、俺からだが――」


 吾郎はそう言いながら、腰の剣鉈を取り出す。


「正直、この程度の武器しかない。防具も今着ている物で全てだ。お金は三百と少しあるから、それで必要な物は買うつもりだが、どうだ?」


「おっさん、それしょぼすぎだろ……」


 早くも復活したアランが恨みがましい目で言う。シシリアも「貧乏?」と呟いた。


「いや、ゴロウさんは異世界人だから、仕方がないよ。……えっと、ゴロウさんはこちらに来てどれくらいになりますか?」


「二三週間ほどだな」


「それだと支援金以外の余裕はないですね」


 ジーグの言葉に吾郎は頷く。

 実際はキシリアとの契約が二日で済んだため、幾らか働いて稼いだのだが、宿を一月分前払いしてしまったためお金が無かった。――少しお金の使い方を失敗したなと反省する。


「僕は、村から出る時に皮の防具一式と両刃剣を両親に貰いまして、お金は二百ほどあります。アラン君は――」


「俺も剣と皮の防具一式はある。金は正直言うとほとんど無いけどな」


「と言った感じです。あの、シシリアさんは?」


 そう言って三人はシシリアへと向く。


「……私は、防具は持ってない。けど、弓と短剣はある。お金は三千アールくらいある」


 シシリアの所持金に三人は驚いたように声を上げる。


「さ、三千ですか……雑務依頼だけでそれは、凄いですね。あの、シシリアさんはいつから冒険者を?」


「……一年前くらい?」


「なるほど、シシリアが一番先輩冒険者という訳だな。最年長は俺だが」


「ゴロウさんはおいくつで?」


「三十になる」


「やっぱりおっさんじゃねぇか」


 吾郎はアランの頭を力一杯に(はた)き、話を続ける。


「年齢はいいんだ、各々の能力とかどんな感じか……とか、聞いてもいいのものなのか?」


 吾郎がジーグへ視線を送ると、ジーグは頷いて肯定する。


「そうですね、誰も彼もに話す事では無いですが、パーティー内なら構わないかと。でないと、作戦も立てられないですから」


「それもそうだな」


 ならばと、三人は「マインネーション」を唱え、冒険者証明書を取り出した。

 しかし、シシリアだけは黙して、それを見つめるだけである。これは、シシリアが冒険者証明書を見せる事に抵抗がある、という訳ではない。

 単純に、シシリアは神術が使えないだけなのだ。

 それは亜人だからである。

 人間には身体の内で、神術を使用する際に消費されるエネルギーがあり、これをマナという。

 マナはエーテルで作られる。エーテルとは、自然界にある神の施した物全てに存在するエネルギーであり、それは人間や亜人に留まらず、草木や家畜にも存在している。

 しかし、マナの生成だけは人間にしか行えず、亜人はその範疇から外れているという。

 故に、亜人。人に劣る人族である。

 蛮族も自身でマナを生成出来ないということで、亜人を蛮族同様に人に非らずと敵視する者もいる。


「ど、どんな感じだよ」


 アランがテストの点数を教え合う学生のように、ジーグの証明書を覗き込む。


「僕は神力が高めですね」


 ジーグが吾郎に証明書を差し出す。

 ――文字は読めないんだが? と思いながら吾郎は証明書受け取る。やはりと言うか、証明書は吾郎には読めない文字で書かれていた。


「俺は片恩恵だから、文字か読めないんだ」


 そう言って証明書を返そうとしたが、ジーグがそれを手で制する。

 訝しむようにジーグを見るが、ジーグは何故か頷き、吾郎に証明書を見るよう促してくるのだ。仕方なく、しばらく証明書を見つめていると、徐々に読めなかった文字が日本語に変わっていく。吾郎は驚きに目を開き、ジーグを見た。


「証明書は神が作り出したものです。なので、片恩恵でも読めるはずですよ。もっと言えば、文字を知らない人間でも読めるはずです」


 文字を知らなくとも読めるとは、どういった事なのか想像出来ないが、そういえば、日本語で書かれているはずの吾郎の証明書をマスターが読んでいた事を思い出す。

 ――なるほど、これが神の力という奴か。

 吾郎は改めて、ジーグの証明書を見る。

 最高値は神力の十八だ。

 神力とは、マナの生成能力と神術の適性を表している。


「えーと、こういう場合はジーグは後衛になるのか?」


 吾郎が問うと、ジーグはええと頷く。


「そうですね、僕自身も術士を目指していますので、後衛がいいと思います」


 冒険者のパーティーには役割分担があり、戦闘の際の分担を大雑把に分けると、前衛、中衛、後衛、と分かれる。前衛は敵との近接戦を主とした役割で、中衛が近接戦、或いは中遠距離からの間接戦となり、後衛が遠距離戦、または支援役と分担する。

 ジーグの言う術士とは、その中でも後衛で、主に支援の役割を果たす。


「なら、俺は前衛だな」


 アランはそう言うと、証明書を差し出す。

 最高値は耐久の二十である。しかも、体力と筋力も十七十八と高い。


「完全な戦士型のステイタス値ですね」


「アランは前衛で決まりだな」


「……金食い虫」


 三者三様に感想を述べる。

 シシリアの言った金食い虫という言葉だが、前衛戦士は武具防具にお金が掛かるのでそう言われているのだ。

 前衛はアラン、後衛がジーグに決まり、次は吾郎の証明書をジーグへと手渡す。

 ジーグはそれを見て、少し眉を顰めた。

 ――そうだろう。

 吾郎は心の中でそう思った。

 吾郎のステイタスの最高値は精神の十六である。精神値は、簡単に言うとストレスへの耐性が強いことを意味する。アランとジーグの数値は八だったので、吾郎の数値は普通よりは高いと言える。

 確かに吾郎は精神が強い。それは、異世界へ来たにも関わらず、それに順応し、冒険者として生きていく覚悟も早々に固めてしまえたことから分かるだろう。

 これは、ブラック会社で長年勤めた結果だろうと、吾郎は勝手に思っている。慣れれば、それが酷い苦痛を伴っていたとしても、何とかなるのだ。だから、深く考えない部分をあえて作るのだ。流れに任せ、受け入れてしまう大切さを吾郎は知っていた。

 しかし、そんな精神値を持った吾郎のステイタス値は、全体的に低く、突出したものが無い。

 これには、ジーグも困ってしまうだろう――、そう思っていた。


「ゴロウさんは、人間ですよね?」


 ジーグが吾郎に問い掛ける。

 予想外の問いに、吾郎は「ああ」と頷くだけになってしまった。


「視力と聴力の値が、人間のそれを超えているんですが……?」


 ジーグが言うと、アランが証明書を覗き込む。


「……本当だ、おっさんのステイタス値何かおかしくねぇか?」


「アラン君もそう思う? あの、シシリアさんはどう思いますか?」


 そう言って、ジーグはシシリアへと証明書を渡す。


「……私は、あまり分からない。けど、視力はエルフ族並にあるかも? 何か、おかしい?」


「そうなんです、おかしいんです。冒険の神キシリクの恩恵で上昇するステイタスは、主に体力、筋力、耐久、神力、敏捷といった冒険者に必要な能力がほとんどのはずなのですが、ゴロウさんは精神が最高値を示してます。ここが、まずおかしいんです。集中反応の値も高い。そして一番おかしいのが、視力と聴力です」


 ジーグの説明に吾郎は困惑したように、声を漏らした。


「……そうだったのか、マスターにも特に何も言われなかったから気にしてなかったのだが」


「もしかして、これが異世界人の恩恵という奴なのでしょうか?」


 異世界人はルーグテリアに呼ばれた際、二つの恩恵を受けるという。

 ――しかし、吾郎は片恩恵だ。

 特殊な恩恵を受けていないと思っていたが、どうやら吾郎にもしっかりと恩恵があったらしい。――何とも微妙な恩恵だが。


「そうか、片恩恵でもしっかりと恩恵があったんだな」


 吾郎が言葉を漏らすと、ジーグが反応する。


「さすが異世界人と言いますか、片恩恵でもこのステイタス値ですか……。普通、視力と聴力の人間平均は五です。エルフ族で八。そして、ゴロウさんは十です。暗視と遠視、動体視力が尋常じゃなく高そうですね」


 そう言われ、なんとなく吾郎にも少し心当たりがあった。

 夜でも昼と変わらず物が見えること、遠いものでも集中すればはっきりと見えること、小さな音でも聞き逃さないこと。

 ――なるほど。

 吾郎は頷き、自身の証明書を見つめる。


「それじゃあ、俺は中衛かな?」


「あ、そうですね。神力も高めですし、支援と近接の中衛ですね。探索などの時は頼りっぱなしになってしまいそうです」


「……まぁ、任せろ、と言っておくよ」


 吾郎は少し笑う。

 そして最後の最後、シシリアへと顔を向ける。


「シシリアは、中衛だな」


「エルフですしね」


 シシリアはこくりと頷く。

 証明書は無いが、エルフ族の平均的なステイタス値を考えると中衛になるだろう。エルフ族は神術を使えない。しかしその分、器用値が突出している。体力や筋力は低いが、敏捷が高く、優秀な中衛として有名なのだ。


「前衛がアラン、中衛が俺とシシリア、そして後衛がジーグ。これで、いいな?」


 確認のため吾郎が聞くと、三人とも各々に頷いた。

 ――これで、一応だがパーティーの体を成したと思う。後は、やってみるしかない。


 時刻を見ると、夜の七時を過ぎたところだった。

 冒険者ギルドは朝六時から、夜の九時まで開いているが、食事は朝七時から夜七時までとなっている。

 さすがに夜となると、ギルド内の人数も減っていた。

 この世界の人々は朝日が出る前に起きて、夜になると少しして就寝する。商店なども夜になると軒並み閉まるので娯楽も無い。そして何より毎日の照明費が高いので、結果早寝早起きとなるのだ。

 ギルド内には、カウンターと客のいるテーブルにだけ油皿の照明が置かれているが、その照明の光は決して明るくはない。

 吾郎達の周りをぼんやりと暗闇が包んでいる。


「マスター」


 さて帰ろうかという雰囲気が皆を包み始めた頃、吾郎はマスターを呼んだ。

 他の三人はそれを、何だろうとただ見つめている。


「なんだ、もう食事は出さないぞ?」


「分かっています。ちょっと聞きたいことがあって……」


「ほう?」


「今から依頼を受けて明日明後日に、依頼を始めることって可能ですか?」


 吾郎が聞くと、マスターはニヤリと口角を上げた。


「なんだ、そんな事か。当然可能だ、準備もあるだろうからな。お前達は冒険者用の依頼を受けるのだろう?」


「はい、そう思ってます」


「急ぎの依頼の時もあるが、初心者にそんな難しい依頼は任せるつもりもないから安心しろ。期限があったとしても、それは月単位だろうから気にしなくていい」


「そうですか、分かりました。ありがとうございます」


「で、今から依頼を受けるのか?」


 吾郎は「どうする?」と三人を順々に見回し、肯定の雰囲気を感じると話を進めた。


「お願いします」


「よし、わかった。じゃあそうだな――」


 マスターはそう言いながら、いつぞや見た羊皮紙の束をペラペラと捲る。おそらくはあれが依頼書の束なのだろう。


「そうだな、これとかどうだ?」


 吾郎達の前に一枚の羊皮紙が差し出される。吾郎以外の三人は競うようにそれを覗き込むが、吾郎は文字が読めないので、マスターの説明を待った。


「最近、ナクムの村近辺の農場が魔物に幾度も荒らされているらしい。お前達には、その魔物の討伐を頼みたい。報酬は一人頭八百アールだ。どうだ、受けるか?」


 マスターの問い掛けに、三人は顔を見合わせた。

 シシリアは驚いたように目を見開き、まじまじと依頼書を見つめている。


「……八百アール、凄い」


 雑務依頼で八百アールを稼ごうと思えば、二十日近く働らかなければならない。この依頼が何日程で終えれる依頼かは分からないが、たった一つの依頼でこれだけ稼げるのは破格だ。

 つまり、それだけ危険もあるという事だろう。

 おそらくは、吾郎達でも達成可能な依頼をマスターは選んでくれたはずで、そこは信用していいはずである。

 ――ならば、受ける以外の選択肢はないだろう。


「はい、受けまーす!!」


 吾郎が口を開く前にアランが手を上げ答えた――、がそれを華麗にスルーし、マスターの視線がアランから吾郎へと移される。


「で、受けるのか?」


 マスターの再度の問い掛けに、吾郎は「はい」と頷いた。アランは不服そうに吾郎を睨みつける。


「よし、ならこの依頼はお前達に任せる。しっかりやれよ」


 そう言いながら、マスターは依頼書に何かを書き始めた。おそらくは、依頼を受けた冒険者の情報を書いているのだろう。

 ――これで本当に、冒険者として依頼を遂行せねばならなくなってしまった。さて、ならば出来るだけ安全に依頼を完遂するために、可能な事はしておこう。

 吾郎は少し頭を巡らせるため、目を伏せた。

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