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冒険者生活

 吾郎が冒険の神キシリクとの契約を終えたのは深夜二時であったため、ハミンの計らいで一日ギルドに泊めてもらい、次の日の朝に冒険者登録をすることになった。


「じゃあ、冒険者証明書を出してもらおう」


 マスターが向かいの椅子で足を組み、煙草を燻らす。

 冒険者登録は一応個人の情報を扱うので、ギルドの奥部屋で行うのが恒例となっている。この部屋は防音が効いており、聞かれたくない話をする時にも使われるらしい。


「冒険者証明書は、契約の時に使った紙ですよね?」


「そうだな」


「あの、消えてしまったんですが……」


 そう、冒険者証明書は契約を終えたと同時に消えてしまっていたのだ。

 吾郎が不安そうに俯きがちでいると、マスターが「そうだろうな」と頷く。


「大神キシリクとの契約の際に使った冒険者証明書は、契約を終えると同時に己の魂に刻まれるものだ。なんとなく、その存在を胸の内に感じないか?」


「……わかりません」


「まぁ、最初はそうかもな」


 マスターはそう言うと、机に置いてある分厚い本を手に取り、ぺらぺらと捲り始めた。


「ゴロー、体に異変はないか? 例えば、力が強くなったり、頭が冴えたり、不思議な現象を起こせたり」


「――えっと、そうですね」


 この質問に吾郎は、一つ身に覚えのある答えがあった。


「力が少し強くなった気がします。キシリク協会の門が行きと違い少し軽く感じました」


「そうだろう、あの門はそのためにあるからな。まぁ、少し悪ふざけが過ぎて重過ぎる仕様になったが……」


 マスターは何かを思い出すように少し笑う。


「でだ、ゴロー。お前は大神キシリクと契約して二つの力を得たはずだ。その一つが、その力だ。そして、もう一つを神術と言う」


「はい、それは少しあの、カミュエルに話を聞きました」


「カミュエルか。そうか、それならば話は早い」


 マスターは頷き、短かくなった煙草を揉み消す。


「じゃあ、神術を使って証明書を出してみろ」


「えっ、神術で証明書を? ……いや、いきなり言われても無理ですよ。何か、練習とかやり方とか無いんでしょうか?」


「契約が成功したならば使えるはずだ。お前の魂に既に刻み込まれているのだからな。身体の中に感覚を向けてみろ、冒険者ならば分かるはずだ。いいから、黙ってやってみろ」


 ――そう言われても、使える訳がない。

 吾郎はそう思いつつ、目を瞑り自身の内側へと意識を向けて見た。――すると、どうだろう。

 不思議な感覚が吾郎の身内から湧き上がり、出来るというよく分からない確信が湧いていた。


「マインネーション」


 吾郎がそう呟くと、身体から僅かに力が抜ける感覚がし、手元に冒険者証明書が現れた。


「ほらな、冒険者ならば出来るんだよ」


 マスターがにやりと口角を上げる。

 吾郎は驚きと感動で体が震えるのが分かった。――これだよ、これがファンタジーの醍醐味だよ!

 吾郎は感動に打ち震えつつ、冒険者証明書を確かめる。前回は空白が多かったはずなのだが、今はその空白が文字で埋められていた。


「ゴロー、そこに書いてあるのがお前の力だ」


「これが……、自分の力」


 冒険者証明書には、まるでゲームのように吾郎のステイタスが書かれていた。筋力や耐久などの文字の後に、数値が書かれており、使える神術まで書かれている。


「それは大神キシリクから見た評価らしい。なので、その数値が絶対という訳ではないが、参考にはなるだろう。それがあれば、己の技量が分かり分不相応な依頼を受ける危険性が減る。まぁ、便利な恩恵の一つだな」


「確かに便利ですね」


 吾郎が一通り証明書を読むのを待ち、マスターが証明書を渡すよう催促する。


「お前は文字の読み書きができなかったな。それに書いてある情報を登録書に書き写すから、よこせ。後は、ゴローの顔を念写する」


「ね、念写ですか?」


「そういう神術がある。元々は探索や偵察の際に使うのだが、個人証明に便利だからな」


 マスターはそう言うと証明書をひったくり、登録書にペンで書き写した後、神術で吾郎の顔を念写した。


「これで登録は終わりだ、お前はもう冒険者ということになる。それに相応しい行動を心掛けるようにな。……お疲れ」


 マスターはそう言うと、カード状の冒険者ギルド登録証を吾郎に渡し、部屋を出て行った。

 登録作業も契約と同じで瞬く間に終わってしまった。

 吾郎がした事といえば、証明書を神術で出したくらいだろう。

 とはいえ、これで吾郎は名実ともに冒険者となった訳だが、まだまだ駆け出しで正直、何をすればいいかも分からなかった。


 ――まぁ、しばらくはゆっくりとするか。



 アルヘトイドでは、異世界人が冒険者か兵士になると国から少額だが支援金が出る。これば異世界人への救済制度でもあるが、異世界人を冒険者か兵士にするためという裏もある。

 支援金の支払いは三ヶ月間保証されており、ある程度冒険者稼業に慣れたようだとギルドが認識すれば、三ヶ月経っていなくとも支援金を打ち切ることもある。

 金額は月千アール。ケルン市民の平均月収が千五百から千八百アールほどらしいので、妥当といえる。

 アールとはアルヘトイドの通貨単位であり、アルヘトイドで使用されている貨幣は金、銀、銅(青銅)と順に価値は下がっていく。国によっては鉄貨などもあるらしい。

 銅貨には二種類有り、普通銅貨と一アール小銅貨がある。普通銅貨一枚を二十アールとし、現在のケルンでの両替相場は銀貨が六百四十アール、金貨が九千二百アールである。

 国によっては貨幣価値は変わるらしいが、アルヘトイド貨幣は価値が高い方だ。貨幣価値はその国の情勢や信用度、鋳造精度などによって価値が変動する。隣国のフェネアはそういう意味で貨幣価値が急落しており、アルヘトイドもその煽りを少しずつ受け始めているという。


 吾郎はケルンの中央広場にある役場から出ると、支援金を懐に納める。吾郎のような異世界人の支援金狙いのスリや強盗がいるのだ。

 大通りを警戒しながら進み、冒険者ギルドへと戻った。


「まるで子を守る親猫のようですね」


 とは、ハミンの言葉である。

 四方をギラギラとした目付きで睨み、逆に柄の悪い輩に絡まれかねない様子だったという。


「そ、そうでしたか……」


 吾郎は苦笑いで答え、カウンター席へと座る。

 カウンターの向こうにはマスターが立っており、冒険者達と依頼の相談を受けていた。

 冒険者とは、住民や貴族、ギルドや国からの雑多な仕事を引き受ける何でも屋といった感じの職業である。依頼の中には危険を伴うものから安全なものまであるが、主な依頼は魔物や蛮族の討伐で、そのために冒険者の力があると言っても過言ではない。

 吾郎も冒険者になり力を得たが、これは冒険の神キシリクが与えられたものだ。

 神様は元人間である。キシリクはおよそ八百年前に活躍した冒険者で、魔物や蛮族を数えきれないほど討伐し、蛮族に至っては五十近い種族を滅ぼした英雄である。

 その英雄キシリクが昇神すると、多くの冒険者から冒険者の神として崇められることになり、キシリクもまた多くの冒険者に恩恵を与えた。

 その恩恵が魔物や蛮族と戦うための力であり、そしてそれは人間には決して向けらることの出来ない力である。そう、あの人間を殺してはいけないという契約はそのためにあるのだ。

 故に、冒険者は兵士にはなれないのである。


「何か飲みますか?」


 カウンターに座ってからずっと、ぼーっと店内を眺めている吾郎を見かねてハミンが声を掛けた。


「あー、じゃあビールを下さい」


 日本にいた時にはよく飲んでいたビールを頼む。とはいえ、あの味は期待出来ない。


「はい、八アールですよ」


 吾郎はハミンにアルヘトイド銅貨を一枚を渡すと、半分に割れた普通銅貨と二枚の小銅貨が返ってきた。半銅貨である。

 二十アール以下の価値の貨幣としてフェネア銅貨や一アール銅貨等があるが、普通銅貨を割って半価値としたりすることもある。そういった貨幣を半貨幣や欠貨幣という。


 ハミンが店の奥へと一度下がり、木製のジョッキを手に返ってくる。

 ――さて、異世界のビールはどんなものか? と、ジョッキの中を覗くと、そこには泡立った濃い茶色の液体がなみなみと注がれていた。

 ハミンが「サービスですよ」と笑うが、吾郎としてなんだこのビールといった感じである。

 恐る恐る口元へ運ぶと、ぬるい液体が喉を通り麦酒の濃い薫りと何らかのハーブの薫りが口内に広がった。


 ――不味くはない。


 しかし、癖が強く日本のビールと思って飲むと厳しいものがある。

 ハミンは吾郎のその様子を見て「ハーブか果汁を足しますか?」と聞いてきたが、吾郎は手を振りそれを断った。

 ちびちびとビールを飲みながら店内を眺めていると、何だか場違いな冒険者か入ってきた。


「おいジーグ、しゃきっとしろよ! 冒険者は舐められたらおしまいだぞ!!」


 ローブを纏った小柄な男が大声で言う。


「だ、だってぇ……僕には無理だよぉ」


 もう一人、ジーグと呼ばれたローブを纏った小柄な男が弱音を吐く。


「馬鹿野郎、何のために村から出たと思ってるんだ!!」


「うぅ、分かってるけど……」


 気の強い方の男が気の弱そうな男――ジーグのローブを引っ掴み、ずりずりと引き摺るようにカウンター席へと向かう。その様子を周りの冒険者達が何事かと見つめていた。

 吾郎も何となく目を離せず、何でもないように装いながらも目で追う。


 男はドスンと席に座ると、


「すいませーん!!」


 と大声でマスターを呼ぶ。

 マスターは他の冒険者と話していたが、一言断りをいれその男達へと向かう。


「なんだ坊主共、ここは子供の遊び場じゃないんだがな?」


 億劫そうにそう言うと、カウンターに手をつきため息をつく。

 マスターをずっと観察していれば分かるが、マスターは誰にでも口が悪い。吾郎は最初嫌われているのかと思ったが、他の冒険者にもだいたいこんな感じで接しているのを見て知った。

 いきなり口の悪い返事で男達は少し怯むが、気の強い方の男はそれでもめげずに口を開く。


「俺達を冒険者にして欲しいんだ!!」


 バンとカウンターを叩き、男は身を乗り出した。

 どうやらまだ冒険者ではなかったらしい、つまり吾郎の方が先輩になる訳だ。

 吾郎がにやりと笑うと、それを見てハミンがにっこりと笑った。

 マスターは眉を顰め、目を細くさせ男達二人を眺め観察する。


「……お前達、何歳だ?」


「どっちも十三歳です」


 間髪入れず男が答える。


 ――十三歳、若いな。


 それが吾郎の感想だ。

 マスターも同じことを思ったのだろう、眉間の皺を深め「若いな」と小さく呟く。

 男はマスターの様子に更に身を乗り出し、


「ケルンでは十三歳で冒険者になれるって聞きました! 俺達は冒険者になれますか? どうなんですか!!」


 と大声で詰め寄った。

 するとマスターは舌打ちし、諦めた様子で男の言葉を肯定する。


「……あぁ、なれるよ」


「やっぱり!!」


 男達は顔を見合わせると、ほっと安堵したように笑顔を見せた。

 やはり、その顔は幼く見える。

 マスターは二人に市民票の提示を求めると、慌てる様子無く男達は懐から市民票を出す。


「アイダの村出身か……、確かに十三歳だな」


 マスターは二人の年齢を確認すると市民票を二人に返し、ハミンを手招きし後を任せると、先程話していた冒険者の元へと戻った。

 ハミンは男達に自己紹介をし、軽く冒険者登録の説明を行う。

 吾郎はその様子を眺めながら、ビールを口に持っていくがいつの間にか空になっていた。

 少し飲み足りないのでもう一杯貰おうと手を上げると、小さな女の子が「はーい」と元気良くやって来る。

 薄茶色の髪が肩くらいまで伸びており、俗に言う狸顔で、まるっとした瞳が活発的な印象的を与える。彼女の名は確か――ユラ、という子だったはずだ。

 ユラはとてとてとその短い歩幅で走り寄ると、


「ご注文ですかー?」


 と可愛らしく首を傾げる。

 吾郎はまたビールを頼み、半銅貨を渡す。

 二杯目は味に慣れたのか、そこそこ美味しく感じた。


 しばらくしてビールを飲み終えると、吾郎は冒険者ギルドの横にある冒険者専用の宿へと足を運ぶ。

 宿屋は四階建てで出来ており、外観は石造りであるが中は木造のようだ。出入り口の扉は木製だが厳重で、(かんぬき)が二つ付いている。

 入ってすぐに受付があり、奥には食堂らしき内装が見えた。泊まる部屋は二階以降にあるのだろう。

 吾郎は無人の受付に置かれた鈴を鳴らすと、奥から宿の主人らしき男が走り出てきた。


「はいよーはいはいー」


 男は受付に回り、少し乱れた息を正すと、


「いらっしゃい、泊まり? それとも食事かい?」


 と吾郎に尋ねる。


「泊まりでお願いします」


「はい、泊まりね。じゃあ、何日にします?」


「そう――ですね、例えば一ヶ月泊まったら幾らぐらいします?」


 吾郎はとりあえず一ヶ月泊まるつもりであったが、宿の相場が分からなかった。――はたして千アールでどれほどの生活が可能なのか?

 主人は少し考える様子を見せたが、


「えーと、一泊二十アールだから、三十日で六百アールだね。食事がいるなら更に五アールで朝と夜の食事がつくよ。つまり、七百五十アールだね」


「……七百五十アールか」


 ――意外といけるな、と吾郎は思った。

 残り二百五十アールあれば、色々と揃えられるだろう。


「じゃあ、一ヶ月の宿泊を食事付きでお願いします」


 そう言って、支援金の入った袋から銀貨一枚と普通銅貨六枚を取り出す。


「あいよ」


 主人は硬貨を確認した後に小銅貨を十枚返し、宿帳を取り出す。


「服装からして異世界人だろうけど、一応ギルド登録証見せてもらえるかい?」


 冒険者専用の宿なので、ギルドから発行される冒険者ギルド登録証が必要なのだ。

 吾郎がギルド登録証を手渡すと、主人はしばらくそれを眺め宿帳に何かを書き込むと、きちんと登録証を吾郎に返した。


「宿泊部屋は二階からで、こちら階段です。どうぞ」


 主人は階段を指差すと、先導して宿泊部屋を案内する。


「部屋は三階の七号室になります」


 階段を上がってから左に二番目の部屋だ。

 主人に促され部屋に入ると、中には大きな木製のベッドと机と椅子が二脚あり、広さは四畳半といったところだろう、おそらくは二人部屋だ。主人が木窓を開け、空気を入れ替える。

 窓から光りが差し、部屋の中は存外明るい。


「異世界の方だから問題無いと思うけど、あまり暴れないでくださいね。便所は一階にあるから、使ってください。食事は朝と夜、どちらも七刻だよ。あと、蝋燭は一本で三アールだよ、火の扱いは注意してね」


 主人は他に注意事項を幾つか説明すると、部屋の鍵を置いて一階へと戻った。――七刻とは、つまり七時の事だ。

 吾郎はすぐに鍵を掛け、ベッドに寝転がる。

 ベッドには敷布団と薄い毛布が掛けられていたが、敷布団は藁に布を被せただけの代物で、寝心地は悪かった。

 日本の物と比較してはいけないのだろうが、どうにも比較せずにはいられないのだ。


 すくと起き上がると、吾郎は今手持ちの物を取り出し机に並べる。

 まず、アルヘトイド普通銅貨が十一枚と小銅貨が十四枚。スマートフォンに腕時計、鞄にはクリアファイルと資料だった紙が十八枚。筆記用具がボールペン四本とシャーペン一本、替えの芯が二十三本と消しゴム一つ。スマートフォンの充電器とハンカチとポケットティッシュに、財布の中にはカード類が十一枚と、二万五千三百十八円が入っている。後は、着ているスーツ上下にシャツと、タンクトップにボクサーパンツと靴下と革靴、以上だ。


 さて、ここで考えるべきは、どの程度の異世界技術の流出が許されるのか――だ。

 もし、スマートフォンを落としてしまい、それが技術向上に繋がると判断され死んでしまえば笑うに笑えない。

 日本から持ってきた殆どの持ち物は、隠しておくに限るだろう。

 筆記用具や紙は地図を作った時と同様に役立ち、腕時計も時間が同じなので役に立つ。後は鞄に入れて隠しておくのが良いだろう。

 問題は服装だが、これも買い替えた方が良いだろう。被服技術に貢献してしまいかねない。


 吾郎は街へと出掛けると、まずは冒険者ギルド付近の商店を見回ってみた。

 何処も冒険者向けの服や防具を販売していたので、どうにも少し割高に思える。おそらく品質は良いのだろう、長旅に耐えうる等のそういった需要に答える品が多いように思え、故に高い。

 吾郎は幾つかのお店を冷やかし、次は中央広場付近の商店に顔を出す。

 この辺りは一般の市民が使用する普通の商店が軒を連ねている。

 とはいえ、ケルンは街の規模からして大きい方で、発展度も高い。やはりというか、普通の服ですら少し高く感じる値段設定である。

 吾郎は金袋を開け、一つため息をついた。


 ――お金が足りねぇ。


 結局吾郎は、貧民街近くで簡易な灰色のチュニックと薄茶色のズボンに、脛まである皮のブーツを買い、下着を十枚購入した。

 次に鍛冶屋通りを抜けて職人街へ行き、安くて頑丈な剣鉈を購入した。冒険者用の武具店にも武器は売っていたが、職人街の方が武器ではないので安く、品質もそこそこ良さげだったので購入を決めたのだ。

 全品しめて二百十アール、ギリギリであった。


 吾郎は最後に十アールで皮の手袋を購入し、残金は十四アール。ビールを一杯しか飲めない金額である。

 宿に戻り、購入したチュニックとズボンに着替え、剣鉈を腰紐で結びつける。

 少しは冒険者らしくなったかと期待したが、山師というか正直浮浪者のような格好になってしまっていた。

 仕方がないので再度貧民街へと赴き、六アールでボロボロのローブを購入したのだか、羽織ってみると冒険者どころか浮浪者度が上がっていた。


 ――さて、これでいよいよお金を稼がなくてはならなくなってしまったな。


 吾郎はそう思いながらも、その日はゆっくりと眠ることにした。宿と食事はあるのでそう急ぐことはない。

 だが、明日はギルドで簡単な依頼を探してみようと吾郎は思った。



 次の日、六時に起きた吾郎は宿の主人に小銅貨一枚を渡し、(たらい)にお湯を入れ、水差しと歯磨き道具を貰い、朝の準備をこなす。歯ブラシが綿と木の枝ということに少し引いたが、何とかはなった。――おそらく。


 七時に宿の食堂が開き、吾郎や他の冒険者がぞろぞろと現れる。多くの冒険者は意外と規則正しい生活をしているらしく、食堂は朝早いというのに賑わっていた。

 朝食は豆と肉の入ったスープにライ麦パンのサンドイッチだった。不味くはないが、特別美味くもない。いや、日本の物と比べれば味気なさ過ぎる感も否めないが、おそらくはこれがこの世界の普通の家庭の味なのだろう。

  吾郎は朝食を綺麗に食べ終えると、一人だけ食事に祈りを捧げる。


「ごちそうさまでした」


 周りを見ると、どうも食前食後に祈りを捧げる習慣は無いらしい。冒険者だからという可能性もあるが、ファンタジー物ではよく見る光景だと思っていたので、少し残念ではあった。


 その後すぐ準備を終え、吾郎は冒険者ギルドへと向かう。

 ギルドへと足を踏み入れると、ハミンが「あら?」と首を傾げているのが少し面白かった。一夜にしてスーツ姿から浮浪者になった吾郎を不思議がっているのだ。


「随分、冒険者らしくなったじゃないか?」


 カウンターに座ると、マスターが少し笑いを含んだ声で話しかけてくる。


「そうでしょうか?」


「あの姿よりかは、まだ冒険者らしいだろうな」


 そう言われ吾郎は自身の姿を眺める。

 ――少しは覚悟が認められたという事だろうか?

 吾郎はきゅっと拳を握り、自身を奮い立たせる。そう、今日は冒険者として仕事を探しにきたのだ。


「今日は何だ、何か飲むのか?」


 マスターの言葉に吾郎はゆっくりと首を振り、


「今日は依頼を探しに来ました。何か簡単な仕事ありませんか?」


 と言った。

 マスターは少し考えるように天井へと視線を移し「あぁ」と声を上げる。


「あるよ、ゴローにうってつけの依頼だ。……やるか?」


「やります!!」



 市民の所有畑の草刈りを終え、吾郎は八十アールを手に入れた。

 田山 吾郎


 冒険者レベル 1


 体力 11 神力 14

 筋力 12 耐久 9

 器用 13 敏捷 12

 精神 16 反応 13

 集中 15 生命 10

 視力 10 聴力 11


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