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第6話

■サイドストーリー とある受付嬢の戦い


 私の名前はピュラ・ミーヌ。

 獣人族で19歳の乙女。

 職業は冒険者ギルドの受付嬢。


 そんな私のカウンターにある少女がやってきた。


 真っ黒いドレスを着た黒髪黒目の少女。黒いドレスと相反するように肌は真っ白で染み一つない。顔の造詣は整っていて、いえ、整いすぎていてまるで女神の彫刻が動いているようだった。


 その少女はこれまた綺麗な侍従の少年を連れていた。

 一瞬女の子かと思ったけど、僕と言っていたので男の子だろう。たぶん。


 その二人が冒険者登録をしたいという。


 私はまたかと思った。

 貴族の子供は英雄譚などを好む。

 そして一般人はあまり使えない魔法を使える事も多い。

 魔法使いの血を自分の家系に入れようとするので当然なのだが、貴族の子供って言うのはそれに気づかないらしい。


 だから調子に乗る。

 神に与えられた才能だと。

 自分は特別だと思うのだ。


 英雄になる、ではない。

『既に英雄になっている』と思っているのだ。


 家を継ぐ長男はその傾向が少ない。

 しかしそういった次男三男の多いこと多いこと。


 そんな彼ら彼女らが冒険者ギルドにきては、偉そうな態度で自分の中身のない偉大さを語って登録する。その後は初依頼、良くても二回目の依頼で失敗する。

 そこで挫折を味わうだけならいいんだけど、中には命を落とす人も居る。

 いくら生意気で気に食わない貴族のぼんぼんでも、死なれると良い気分ではない。


 そういった犠牲者を出さない為にも、私達受付は貴族の子供のギルド登録を諌めるんだけど――今回もやはり上手く行かなかった。


 でも今回は街中の依頼を受ける約束を取り付けた。

 街中で現実を分からせてあげたら良いよね。


 私はそんな風に軽く考えていた。





 まず少女には手紙や荷物の配達依頼を受けさせた。


 これはギルド全体の指針で、新人冒険者に街の各所に顔を売らせる為に勧めている。

 鍛冶職人や武器屋防具屋に雑貨屋、錬金術ギルドや薬剤師、果ては衛兵の詰め所など。


 魔物と戦う為の装備や薬品や道具を揃えるのやその他諸々、依頼と言う形で顔を売っておけばその後がやり易いからなんだけど……。


 とても人気がない。

 貴族の子だけじゃなく普通の新人にも人気がない。

 大抵は魔物と戦う姿を思い浮かべて冒険者になるのだから、当然では在ると思う。


 しかし!

 そんな依頼を彼女はすぐに達成した!


「も、もう達成したんですか? 期限どおりに?」

「ハァ? 荷物を期限どおりに届けるのは当然でしょ?」


 達成報告を受けた私は驚いた。

 これには裏目的もあったから。


 この配達依頼を受けた冒険者は大抵嫌々行う。

 なので配達期限を過ぎる。

 そして過ぎてから達成報告をしてきた冒険者に言うのだ。


 期限を守る大切さを。

 契約遵守の大切さを。

 そして叩きつけるのだ。

 依頼失敗と言う現実を。


 だと言うのにこの少女は!


「荷物って言うのはね、依頼された時間にしっかり届けるのが大事なの! いい? 早くても遅くてもダメなのよ。折角家族にばれないようにネット通販で18禁乙女ゲーを購入したのに、業者が早めに届けたせいでママにばれたりしたら最悪なのよ!」


 何故か逆に私が説教をされてしまった。

 内容はほとんど理解できなかったけれど……。





 最初の依頼で敗北した私は次の依頼を提示した。


 鍛冶職人からの依頼だ。

 大量の兵士用の武器や防具の納品作業。


 一本や二本を持って渡すなら容易いでしょう。

 しかし大量の武具を鍛冶場からお城や詰め所にもって行き、所定の位置に置かなければいけない。さらには古い武具を引き取って持ち帰るのだ。


 地味なのにかなり辛い肉体労働。


 冒険者は魔物と戦う。

 この程度の肉体労働で音を上げてたらお説教の一つもしなきゃいけない。

 ……大抵の冒険者は音を上げるんだけどね。


 ギルドの意向を受けた鍛冶場の親方がわざと音を上げるようにしてくれるから。


 だと言うのにこの少女は!


「面白かったわね。鍛冶場なんて初めて見たわ。お城も入れてよかったし。古城は見た事あるんだけど、現在進行形で使われてるお城はやはり違うわね!」

「あ、あはは、楽しかったのなら何よりです」


 音を上げるどころか嬉々として感想を言ってくる。


 ……この少女はどんな体力をしてるんだろう。





 あの少女、ユカリさんは貴族ではないらしい。

 侍従と思ったラクシア・ノービス君の実家の商店でお世話になってるそうだ。


 例え貴族じゃなくとも、私と彼女の戦いは終わらない。


 次に私が用意した依頼!

 一般のご家庭の屋根の修理!


 冒険者ギルドは人々の生活を助ける為の組織。

 なのでこういった戦いとは無縁の仕事も多数あるのだ。


 街の人との交流を持って貰い、冒険者のイメージをより身近に。

 と言う建前はあるが実質ただの雑用なので人気がない。

 そのやる気のなさが現れて依頼人からよく苦情が来る。


 その苦情を盾にお姉さんがお説教をしてあげるわよ。


 と思ってたのに!


「魔法で日曜大工を体験しといてよかったわ。おまけで余った木材でテーブルと椅子を作ったら凄い喜んでくれたのよ」

「あ、は、は。そ、そうなんですかぁ」


 魔法で大工とは何事だ。

 魔法って言うのは火の玉を飛ばしたり傷を治したり、戦う為の技術でしょう?


 ……この少女は一体なんなんだろう。





 普通の依頼ではダメだと思った私は切り札を出した。


 これはそう。

 現実を教える為なのよ。


 そう思って私が出した依頼は『騎士団の訓練参加依頼』よ!


 お城に勤める精鋭の兵士である騎士達。

 その相手を務めるのだ。


 練習相手ならもっと高ランクの冒険者をと思うかもしれない。

 しかし実は騎士団が求めてるのは普段と違う相手と戦い打ち勝つ練習なのだ。

 だから低ランクの冒険者でも受けられる。といってもこれは内密な話なのだが。


 騎士より魔物と戦う冒険者のほうが強いと思う人も居るかもしれない。

 でもよく考えて欲しい。

 彼らの任務は犯罪者などを取り締まる街の治安任務と戦争なのだ。

 対人のスペシャリストと言って良い。

 もっと言えば国が脅威と思う凶悪な魔獣狩りには、冒険者だけではなく彼らも参戦するのだ。


 これもユカリさんに現実を見せる為と受けさせたのだけど……。


「ホーホホホホホ。精鋭の騎士があの程度とはね。いつも街に篭ってるから鈍ってたのかしら。騎士団長とやらは少しやるようだったけど、私の敵じゃなかったわね」

「あ、はは……は……」


 後日騎士団より。

 素手で騎士を制圧するような高ランクの冒険者を送ってくるなと、かなり強い苦情が届いた。

 私宛に。


 ……素手で騎士を制圧とか冗談ですよね?





「ユカリさん! 最後の勝負よ!」

「受けて立つわ! 身の程を知るが良いのよ。猫娘!」


 ユカリさん担当は私と言う暗黙の了解がギルドで出来ていた。


 数知れない街中の依頼をこなした彼女に送る最後の依頼。


 それは『保育所の保育役』!


 仕事で子供の面倒を見れない親の子供を預かる施設。

 そこで子供の面倒を見てもらうのだ。


 荒事を生業とする冒険者には無理な依頼。

 いえ!例え冒険者じゃなくても子供の面倒を見るのは大変!


 もしこの依頼を達成したのなら冒険者として、いいえ、人として貴女を認めるわ。


 まー無理だと思いますけどね。

 私がやれって言われてもきっと無理だから。


 そんな風に思っていたのに。


 後日、依頼の結果確認の為に保育施設を訪ねてみると恐るべき事が起こっていた。


「ユカリさんが考えてくれたヒーローごっこって言うのが子供達に大人気なの」

「ヒーローごっこ?」

「えぇ。正義のチームと悪の組織が戦う遊びなんだけどね」

「あ、あぁ。よくある英雄の物まね遊びですかぁ」


 過去の英雄の物語や御伽噺の真似をするのは子供の定番だ。

 それを上手に使ったのかと思った。

 でもそうじゃなかった。


「いいえ。それだと悪役をやる子って居なくなるじゃない? でもヒーローごっこは違うのよ。『悪には悪の理由がある! 野望の為に我らは好んで悪へと堕ちようぞ!』『勇者よ! 世界の半分を与えよう! そして我が仲間となるのだ!』『フハハハハ、例え私が滅びようと第二第三の魔王が再び現れるぞ!』」

「何ですかそれ?」


 突然、保育員の方が話した言葉にギョっとした。


「悪役の台詞なのよ。ユカリさんがヒーローごっこをする時にしてた悪役の台詞とポーズがかっこよくてね。それを見たせいで悪役をやりたい子が多いのよ」

「へ、へぇ……」

「特に戦隊ヒーローごっこって言うののブラック役が人気でね。今子供たちに大流行なのよ」

「そ、そうなんですかぁ」

「ユカリさん、また来てくれないかしらねぇ」


 最後の依頼もとても大成功でした。




 その後ユカリさんに負けを認めた。


 そしてユカリさんは、気づけばアルカディアの街の人気者になっていた。




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