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第4話

 ガタガタゴトゴトガタンッゴトゴト。

 

 不規則に揺れる馬車の上に私はいた。

 

「いやぁ、危ない所助かりました」

「ふっ、気にしなくて良いわ。かわりにこうして街まで馬車に乗せてもらってるのだから」

「いえいえ、命を助けていただいたのだから、その程度は当然です」

 

 御者台に座るでっぷりした中年が丁寧に礼を述べてくる。

 

「本当に助かりました。都合があわず護衛も雇えなかったので」

「偶然私が通りかかってよかったわね」

「こんな可愛らしい魔法使いの人に助けられるとは思いませんでした」

 

 幌も何もない荷台に一緒に座る少年も笑顔でお礼を言ってきた。

 

 ゴブリンの住処を出てから三日。

 私は森を彷徨った。

 適当に進めば街道に出るだろうと思ったのだけど……。まさか三日も彷徨う嵌めになるとは……。

 

 三日後に街道に出て歩いていたら、野犬に襲われていた馬車を発見した。

 私は恩を売る為に野犬を撃退し助けた。

 助けた馬車に乗っていたのが彼らと言うわけ。

 

 彼らは親子で商人らしく、街へ向かうので助けてくれたお礼に乗りませんかと言ってきた。

 影の支配者になる為に街を目指していた私はその誘いに頷いた。

 

 そして今に至る。

 

「私の名前はゼルア・ノービスと申します。そしてこちらが息子の」

「僕はラクシア・ノービスといいます!」

 

 でっぷりおじさんと少年が自己紹介してきた。

 私も自己紹介を返す。

 

「私の名はユカリ! 天才魔法使いユカリよ!」

 

 私はあえて吸血鬼と名乗らなかった。

 それはなぜか!

 影の支配者目指しているのに、堂々と吸血鬼と名乗るのはないわーと森を彷徨い中に思ったから!

 天才魔法使いを仮の姿と決めたのだ。

 

「ユカリさんですか。その年で魔法を使えるなんてと思ったけど天才だったんですね! 凄いです!」

「そ、そう?」

「はい!」

 

 素直に賞賛されて顔がにやけてしまう。

 自分で言っておいてなんだけど、素直に天才で凄いっていわれると恥ずかしいわ。

 もし私が逆の立場なら「あーはいはい」くらいの態度だと思うし。

 

 父親のほうは武器屋を営んでてダンジョンにでも入りそうな見た目なのに。

 息子の方は純真な美少年だ。

 

「僕、魔法使いの人を初めて見ましたよ。あ、神殿にいる神官様も魔法使いか。でもユカリさんみたいに若い魔法使いの人は初めてです!」

 

 にこにこ笑顔が眩しいラクシア君。

 私は折角の機会なので色々聞いてみる事にした。

 情報を制する者は世界を制す!

 

「魔法使いって珍しいの?」

「そうですね。魔法の才能があるのは100人に1人と言われています。さらにちゃんと魔法が使えるようになるには修行が必要らしいです。才能が有っても使えるようになる人は稀だそうです」

「才能が在るのに使えるようになるのが稀?」

 

 才能があるのに使えないとは意味不明よね。

 

「えーと、僕はよく分からないんですけど、魔法を使うには世界と繋がらないとダメだそうで。魔力があっても世界に繋がらない人が多いそうです」

「サッパリ分からないわ!」

「才能が在るというのは魔力が在るということなんです。そして世界と繋がると言うのは神の声を聴くこと、あとは精霊の声を聴けるかなどらしいです」

「……なるほど」

 

 ラクシア君の補足をしてくれたゼルアさんが「私らにはさっぱりわかりませんがね」と言って閉めた。

 

 世界に繋がってなくても魔法が使える私にもさっぱりだ。

 とにかく、魔法使いと言うのは凄く珍しいというのは分かった。

 

「あの、僕も聞いて良いですか?」

「何かしら?」

 

 ラクシア君が上目遣いで聞いてきた。

 男の子なのに上目遣いをナチュラルにするとは恐ろしい。

 

「ユカリさんは貴族の方ですか?」

「いえ、違うわよ」

 

 そのうち貴族になるけど今は違う。

 

「えっと、冒険者……ですか?」

「違うわよ」

 

 さっきから何を聞こうとしているのかしら?

 もじもじして何か言っていいか悩んでる様子のラクシア君にイラっとしてしまう。

 

「男ならもじもじしてないで、聞きたいことがあるならはっきり言いなさい!」

「は、はい! ユカリさんみたいな10歳位の子供が何でこの街道に一人でいるのかなと思って!」

 

 言われて気づく。

 確かに私のような美少女が剣と魔法の世界で一人で居るのはおかしい。

 と冷静な部分の私はそう分析したが、私の大部分は違う事を考えていた。

 

「だ、れ、が! ぺちゃぱい幼児体型よ! 私はこれでも15歳なのよぉお!」

「嘘!? 15歳!? あ、ちょ、苦しい。苦しいですよぅ!?」

「あんたみたいな12歳くらいの子供に子供扱いされたくないわっ!」

「えぇえ! 僕こう見えても14歳なんですけどっ!? 後1歳で成人なんですけどっ!?」

「声変わりも来てないソプラノボイスの癖に!」

「うぐっ!? 確かにたまに女の子に間違われたりしますけどっ!? 15歳なのにまっ平らなユカリさんよりは男らしいですっ!」

「なんですってぇええ!」

 

 私とラクシア君の不毛な争いは日が暮れかけて野営するまで続いたのだった。

 

 

 

 

 日が暮れる前に、街道の途中で野営をする事になった。

 ゼルアさんはせっせと火を起し夕食の準備をしている。

 

 待ってる間は暇なのでラクシア君と話をしようと思う。

 

「ねぇ、ラクシア君」

「は、はいっ! なんですか! ユカリさん!」

 

 何故かすっかり従順になったラクシア君。

 しっかり私を年上として敬ってくれている。

 

「どうして野犬の死体を荷台に乗せてるわけ?」

 

 二人を襲ってた野犬を撃退した時に2匹ほど殺したのだ。

 その死体を二人は荷台に乗せて運んでいる。

 まさか食べるのかと思い気になっていたのだ。

 犬を食べたくはない。

 ちなみに初の動物殺生に関しては、吸血鬼になった影響か特に何もなかった。

 

「え? だってシルバーウルフですよ? もったいないじゃないですか。本当ならもっと森の奥に居るはずの魔物で体毛は金属のように硬く、素材として高く売れるんですよ」

「へ? 野犬じゃないの? 魔物?」

「野犬って……。結構強い魔物なんですけどね。シルバーウルフ……。高ランクの冒険者がパーティーで倒すはずなんですけどね……。あっさり倒してましたけど」

 

 犬だと思ったら狼で、その上魔物だった。

 反応から考えて常識っぽい。

 は、恥かしい。

 

「それにしてもラッキーでしたよ」

「何がかしら?」

 

 恥かしさを誤魔化す為にラクシア君に話を促す。

 

「護衛が雇えないから森を避けた大回りの北周りの街道じゃなくて、こっちのアルビアの大森林を通過する街道を選んだんですよ。その道を選んだ結果、シルバーウルフを2匹もゲットですからね」

「私が通らなければ、そのウルフに食べられてたと思うんだけど?」

「そうなんですけどね。シルバーウルフが出たのは予想外でした。でもおかしいんですよね。この街道に現れる魔物は弱くて馬で引き離せる程度のはずなんですよ」

 

 なんでだろうなぁと悩んでるラクシア君。

 話を聞いていてふと思った。

 もしかしてこの森って魔物の巣窟なのかしら?

 

 私はゴブリン達以外に、一切魔物と出会わなかったんだけどなぁ。

 

「もしかしたら、強力な魔物に追い立てられたんですかね~」

「強力な魔物?」

「キマイラとかドラゴンとかの魔物が住処を変えるとたまにあるらしいです。魔物の大移動が」

「へぇ~」

 

 ドラゴンとかの影は一切見なかったけどなぁ。

 どうやらこの世界にはドラゴンが居るらしいことはわかった。

 いつか見ようと心のメモに書いておく。

 

「ご飯が出来たぞー」

 

 ゼルアさんが私達に声をかけた。

 私とラクシア君はゼルアさんの傍に向かった。

 

 向かう途中にふと疑問が浮かぶ。

 

「護衛が居ないならこそ、安全っぽい北の街道を行けばよかったんじゃないの?」

「あ~、北の街道はですね。魔物は出にくいんですけど盗賊がでるんですよ」

 

 なるほど。

 どこの世界も何より人が怖いって事かしらね。

 

 それから3人で一緒に食べたこの世界初めての食事。

 固いパンと野菜のスープだった。

 正直おいしくはなかったけど、久しぶりに人と会話する食事は楽しかった。

 

 ゼルアさんとも先程のラクシア君と同じ様な話をすると。

 

「シルバーウルフが2匹も持って帰れるとは幸運すぎる!」

 

 と大喜びをしてた。

 私に対して報酬も約束してくれた。

 

 ここの街道で盗賊が出ない理由も話してくれた。

 魔物が出るような街道に待ち構えたら、盗賊自身が魔物の獲物にされてしまうからだと。

 そりゃそうよね。

 魔物からしたら商人も盗賊も同じ獲物でしょうし。

 

 この世界の商人は随分と剛毅なようね。

 盗賊より魔物の方が良いって言うんだから。

 

 その後は私が夜警に立候補し二人は静かに寝静まった。

 

 そして翌日の街道――

 

 

 

 

「へへ、大人しく金目のもんを置いていきやがれ」

 

 私達はぼろい服を着た強面の男達数人に囲まれていた。

 

「盗賊、出たわよ?」

「出ましたね……」

「ビックリですね……」

 

 昨日の会話がフラグだったのだろうか?

 まさか魔物を恐れない盗賊がいるとは。

 

「魔物を物ともしないほど強い盗賊なんでしょうか?」

「それはないわね」

 

 吸血鬼になったせいか、私はなんとなくだが相手の強さが分かるようになっていた。

 詳細なステータスや戦闘力が分かるわけじゃないので、あくまでもなんとな~くだけどね。

 

「あいつら、昨日のシルバーウルフより弱くてゴブリンよりちょっと強いかなくらいよ」

「ほぼ全ての盗賊がシルバーウルフより弱くてゴブリンより強いと思いますよ」

 

 あれ?

 ここは私の慧眼を感心するところなはずなのに。

 逆にラクシア君に呆れた眼をされた。

 おかしいわね。

 

「まぁいいわ。それじゃあ私が撃退するんで二人は前に出ないようにね」

 

 私は荷台から飛び降り、話しかけてきた推定ボス盗賊の前に着地した。

 スカートが翻ったりしない優雅なジャンプだったわ。

 

「お? なんだお嬢ちゃん、俺らとやろうってのか?」

「そんなつもりはないわ」

 

 私はこいつらと戦う気なんてない。

 

 やろうとしてるのは実験よ。

 吸血鬼としての肉体性能の実験。

 森を彷徨っている間に気づいたのだ。

 今の私は人間にはありえないほどの力を持っていると。

 や、吸血鬼なんだから当然なんだけど。

 

「へへへ、良い返事だぜ。大人しくしてたら命だけは――」

「とか言って、結局殺すんでしょ? それか奴隷にするとかかしら。ぷぷ、あ、ごめんなさい。あなたがあまりにベタな台詞を言うから可笑しくって。実は最初から笑いを我慢してたのよ」

 

 こいつら、あまりにもザ・盗賊と言った風貌なのだ。

 さらに台詞までテンプレ。

 あ、今顔を真っ赤にして怒り始めた。

 凄いお約束の反応に、ぶふっ。

 まずい、笑いが我慢できないわ。

 

「人が下手に出てりゃあいい気になりやがって!」

「あなたは次にこう言うわね。『やろうども! やっちまえ!』と」

「やろうども! やっちま、何!?」

 

 あまりのテンプレ具合に先読みで言ってみたけど。

 まさか本当に言うとは!

 誰もがしてみたい、敵の台詞の先言いが出来て満足です!

 

「ぷっ、プフーーー。アハハハハ。もーダメ、ここまで三下臭を出されると我慢できない」

「くそっ! ガキだと思ってたら調子に乗りやがってぇええ!」

 

 右手の剣を振り上げて私に斬りかかってくる盗賊ボス。

 狙いは私の左肩から斜めに斬るつもりのようだ。

 

 私は左に一歩動いてしゃがみ、剣を避けると同時に盗賊ボスの膝裏を蹴る。少し力を入れて蹴った蹴りは、盗賊ボスをその場で回転させた。グルグルと回転した盗賊ボスは地面に頭を強打して動かなくなる。

 

 ゆっくり立ち上がって盗賊ボスが白目をむいて気絶してるのを確認していたら、他の盗賊が襲い掛かってきた。

 

 盗賊の数は残り7人。

 

 最初に斬りかかって来た奴は手を振り上げた隙に懐に潜り込み、下からアゴに向けて右手で掌底を放つ。右肘を左手で押すおまけ付だ。盗賊は反り返りながら地面に倒れた。

 

 次は左右同時に来た。

 

 右は突きで左は払いのようだ。

 私は突いてきた盗賊に近寄りその腕を握る。突き中に腕を握られた盗賊はギョっとした顔をした。それに構わず、そのままその盗賊を左にいた盗賊に向けて振り上げる。そして見事左の盗賊に当たる。手で持ってた盗賊を離すと二人そろって吹き飛びごろごろと地面に転がり動かなくなった。

 

 ここで私を脅威と見たのか、3人の盗賊がゼルアさんとラクシア君に向かう。

 

 人質にするつもりだろうけど、そうはさせない。

 私はジャンプして馬車の反対側に移動する。ついでにジャンプした勢いで盗賊の一人に蹴りを放つ。まさか飛んでくると思わなかったのか、モロに蹴りを顔面で受けた盗賊は吹き飛び藪の中へ消えていった。

 

 馬車の反対側から飛んで来た私に驚いたまま固まっていた盗賊2名の胸倉を左右の手で掴む。そのまま両手に力を入れて持ち上げ、2名の盗賊の顔がぶつかり合うように体の前で交差させた。手を離すとぶつかった状態のまま地面に落ちた。やっててなんだけど、ぶつかった瞬間凄い痛そうだった。

 

 残った一人に歩いて向かう。

 

「ひぃい。わ、悪かった。助けてくれ」

 

 命乞いをする盗賊に、顔面――は届かなかったので鳩尾に向けて拳を放つ。私が放った拳を引くと盗賊は前のめりに倒れた。

 

 戦い始めてから5分も経っていない。

 父親に習った護身術と吸血鬼の肉体性能。

 その二つを持って盗賊をあっさりと全滅させた。

 

「ふ、ふふふふふ、あはははは。我が軍は圧倒的ね! この天才魔法使いユカリ様に逆らう愚かさを、身をもって味わったでしょう! ア~ハッハッハッハッ」

 

 勝利の雄たけびの変わりに優雅に笑う。

 

「軍じゃなく個人ですし、魔法は1回も使ってませんでしたよね」

 

 高笑いする私に突っ込みを入れるラクシア君。

 分かってないわね。

 我が軍は圧倒的は様式美だと言うのに。

 

 私が勝利の余韻に浸って居るとラクシア君が盗賊達に近づいていた。

 そして何かを拾っているようだ。

 

「何してるのかしら?」

「こいつらの使えそうな装備を取ってるんですけど?」

「え?」

「え?」

 

 気絶してる盗賊達から装備を剥ぎ取っている?

 それにちょっと驚いてゼルアさんを見た。

 これって普通の事なのか知りたくて。

 

「いや、まぁ……普通は盗賊から取ったりしませんな。盗賊の援軍がくるかもしれないのですぐに移動します」

「何を言ってるんですか父さん! 折角こうやって使えそうな剣や短剣、ベルトを持ってるんですよ! もったいないじゃないですか!」

 

 そう反論しながらもせっせと盗賊の装備を回収していた。

 

「こいつらもバカですよね~。命懸けで商人とか襲っても、その日暮らしで街などで儲けを使いますし、暴れたいなら兵士にでもなればいいのに」

「ラ、ラクシア君?」

「しかもここの街道に出るって事は相当のバカですね! 魔物に襲われたらどうするんでしょうか。お、こいつ小金も持ってますね! あ、こいつは宝石まで持ってますよ! 宝石を持ち歩くとかバカですか! バカでしたね!」

 

 気絶する盗賊からテキパキと金品をかっぱって行く。

 

「あ~、武器類はちょっと痛んでますね。命を預けるのに手入れを手抜くとかバカの見本です。それにしても臨時収入が増えました。これもユカリさん様々ですね! 護衛の代わりにと馬車にユカリさんを乗せてラッキーです! 冒険者じゃないなら正規の報酬を払う必要はないですし、また道中に盗賊出ませんかね~。うへへへへ」

 

 相当楽しいのか黒い何かがラクシア君から漏れていた。

 

 それを聞いたゼルアさんが謝ってくる。

 

「すいません。報酬はきっちり払いますので。……息子はたまにあ~なるんですよ」

「あ、いえ。はぁ、そうですか」

 

 盗賊を圧倒した勝利も忘れ、私とゼルアさんはラクシア君を見続けた。

 

「ふぅ。これで全部乗せました! さぁ、行きましょう! 父さん! ユカリさん! 僕達の利益の為に新たなるバカな盗賊を求めて! 魔物でも良いですね! ユカリさん、頼みますよ!」

 

 この世界の商人は思った以上に剛毅だ。

 

 そしてラクシア君は予想外に黒かった。

 

 


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