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第2話

 夜が明け太陽が昇る。


「ふっ。異世界でも太陽は爛々と燃えさかっているのね」


 腕を組み、胸を張りながら朝日を見つめた。


 この地で拝む初めての夜明け。

 美しい光景だったけど私の心は高ぶらない。


 ……あまりに自分の周辺が荒れ果てていたから。


「魔法が使えるのが楽しくて調子に乗ってしまったわね」


 周辺の木は折れ、燃え、凍結し、切られ、粉々にされている。

 多数のクレーターが地面を彩り、底なし沼のような場所まであった。


「少しやりすぎたかしら」


 今は反省している。

 だが後悔はしていない。


 過去を振り返らず、私は歩き出した。


「しかし吸血鬼なのに太陽は平気なのね。それにお腹も空かないし睡眠欲もない。ふふふ、便利だわ」





 大分歩き再び森の中を進む。

 歩きながら今後の事を考える。


「さて、これからどうしましょ?」


 異世界に来たは良い。

 しかし特に目標が無かった。


 異世界に行ってみたいわ。てへ♪


 くらいの気持ちで次の人生の行き先を決めたのだ。


「もし魔王とか居たら勇者として倒してみる?」


 自分で言ってみたが冗談じゃない。

 無償で命を懸けて魔王を倒しに行くとか、勇者という人種は気が狂っていると思う。

 私ならばそんな事はしない。

 もし私ならば。


「くくく。魔王なんていたら我が深遠なる魔法をもって打ち滅ぼし、私が次代の魔王となって君臨するわっ! オ~ホホホホホ」


 それが人として正しいあり方だろう。

 うん。魔王に成るとか良いかもしれない。


「でも表立って力を誇示するとか小物臭がするわね。はっ!? 裏から国を操る黒幕とか良いかも。表の王を傀儡として裏で君臨する吸血鬼! これよ!」


 王すら逆らえない正体不明の上級貴族とか。


「国を裏から動かす正体不明の美人貴族。しかしてその正体は吸血鬼の真祖!」


 自分の将来の方向が決まった。


 私は将来の自分の優雅な姿を妄想しつつ、ルンルン気分で森を進む。

 ダンスパーティーでは引く手数多。

 日常的にあらゆる贈り物を送られる。

 週末にでもなれば求婚してくる貴族達。


「んふふふ、もう仕方ないわねぇ」


 キン、カン、キィン。


 王城のテラスで王子に求婚されていた私の耳に金属音が聞こえた。

 その音で私は王城から森の中へと呼び戻される。


「くっ。王子の求婚を断り、泣き崩れる王子を踏みつけ足蹴にする私の邪魔をするのは誰!」


 音のする方向へ足を向ける。

 進むほどに音は大きくなり、同時に声も聞こえてきた。


「このままじゃやられちまう!」

「ギャー。手が、手がぁ」

「掠り傷だろが! 頑張りやがれ!」


 どうやら何者かが何かに襲われているようだ。


 その声を聴いてチャンスを感じた。

 襲われた人物を助け恩を売る。

 襲われているのがどこぞの王子だったりすれば国に入り込める。

 下手すると助けた私の美しさにやられてしまい、先程のように求婚されてしまうかもしれない。


「うふふふ。いきなりこんなビッグチャンスがくるとは、さすが私ね!」


 今後の計画を考えながら走る。


 そして見えた。

 矮躯の緑肌のモンスターと戦う鎧を着た人間達が。


 私は見つからないように木陰に隠れる。


 鎧を着て剣を持っている男が2名。

 革鎧を着て剣を持ってる女が1名。

 神官服を着て盾とワンドを持ってる女が1名。


 4人の男女は男二人を前面に立て、矮躯のモンスターと戦っていた。


「あれはきっとゴブリンね。あ、革鎧の女は耳がとんがっている!」


 エルフキターーー!


 そう叫びそうになった自分の口を押さえる。

 ファンタジーではお約束のエルフ。

 それを早々に目撃できる自分の幸運に感謝する。


「それはさておき。う~ん」


 ゴブリンと戦ってるのはおそらくだが冒険者だろう。

 王子でもなければ貴族でもなく、お金とコネが在りそうな商人ですらない。

 助けて恩を売っても仕方なさそうだ。


「まぁそれでも――」


 それでも初めて発見した第一村人ならぬ第一人類。

 将来の布石として恩を売るのも良いでしょう。

 どんな布石になるかは未定だけど。


「うりゃぁぁ!」

「やぁぁぁぁ!!!」

「ギャァァア!!!!!」


 冒険者たちを助ける事に決めた。

 そして私は気合の声と悲鳴を聞きながら木に登り始めた。





「お待ちなさい!」


 木に登った私の眼下に立つ者達に呼びかけた。

 全身から黒いオーラを放ち、威厳たっぷり低めの声で。


 この黒いオーラ。

 カッコいい登場用のオーラを出すだけの魔法だ。

 色はその時の気分で自由自在。


「な、なんだ!?」


 冒険者たちもゴブリン達も突如現れた木の上の私に注目した。

 ふっ、オーラの魔法を練習しといてよかったわ。


「とうっ!」


 注目の視線に満足し、木の上から飛び降りる。

 気分が良くてつい三回転捻りをしようとして着地に失敗する所だったのは内緒。


 大地に立った私は眼前の有象無象に向かい言い放つ。


「死の淵に立ちし愚者達よ! 私の助力が欲しくば頭を垂れて跪け! さすれば汝らに力を貸そうぞ!」


 両手を広げ高らかに宣言した。

 冒険者とゴブリンの驚くような視線が気持ち良い。


 私、今すごいカッコいいわね!


「な、なんでこんな所に人間の子供が?」


 私の言葉が聞こえなかったのか、男の冒険者Aがうろたえていた。

 うろたえてないで「助けてくれ!」とか言えば良いのに。


「君は一体? 子供のようだが……」


 もう一人の男の冒険者Bも私の言葉をスルーした。

 子供子供としつこい。


 私は背が140センチ台で二次成長も来てるか怪しい見た目ではある。

 しかし15歳とは思えないほどの美貌を持っていると自負している。

 なのに子供子供言いおってからに。


「よく聴きなさい! 私は真なる吸血鬼――」


 失礼な冒険者に名乗ろうと思って言葉が止まる。


 色々な魔法は練習したが吸血鬼の名乗り口上を考えていなかった!

 私としたことが何たる失態!


 仮にここで本名である大日縁を名乗るとする。

「吸血鬼のオオヒルユカリで~す♪ よろしくね☆」

 ……ダメだ。

 私の名前だと吸血鬼と合わない。


 私が思わぬ強敵に身動きできずに居るとゴブリン達に動きがあった。


『ハハァ~~』


 ゴブリン達が声を揃えて跪いたのだ。

 そして冒険者の方にも動きがあった。


「ここアルビアの大森林は魔の森と言われているのよ! そんな場所にドレスを着た人間の子供が居るわけないでしょう!」

「そうです! 黒髪黒目に人を惑わす美貌。そして視認できるほどの闇の波動を纏っています! 上位の魔物に違いありませんわ!」

「だ、だが人間の少女にしか見えないぞ!」

「う、うむ。かなり可愛い少女にしか見えない!」

「それが手なのです! 騙されず心を強く持ち、邪悪を打ち払うのです!」


 エルフ女と神官女の言葉を受けて、男達が私に向かい剣を構えた。


 あれ?

 私は確か冒険者を助けに来た筈なのに?

 なんでかゴブリンに跪かれて冒険者に剣を向けられているわ?


 予定外の状況に首を捻りつつも場の空気に合わせることにした。

 空気を読む。

 これ日本人の特技よね。


 片手で顔を覆い、片目だけ出すポーズをする。


「くくくく、愚かなる冒険者共。良いでしょう。真なる吸血鬼である私が相手をしてあげるわ!」


 決まった。


「吸血鬼だと! やはり化け物だったのか! 食らえ!」

「吸血鬼!? あ、バカ、辞めなさい!」


 冒険者Aが私に斬りかかってきた。

 ポーズを決めて悦に入ってた私はそれに吃驚して後ろにジャンプする。


「なっ! なんだと。一瞬であんなに移動した!?」

「バカ! 吸血鬼相手に不用意に斬りかからないで!」

「吸血鬼相手では普通の武器では効果がありません。銀の武器か魔力を帯びた武器でなければ」


 冒険者Aにエルフ女が注意してる。

 神官女が吸血鬼的に重要な事を言っていた。


 しかし私は冒険者達を冷静に見ていられなかった。


 なぜならば。

 軽くジャンプしたはずが20mくらい後に飛んでいたんだもの。


 日本に居た時の私は運動神経が良かった。

 だけど20mバックステップとかは無理だったはず。

 ならばこれは吸血鬼になったから。

 そう言えば冒険者Aの動きが驚きつつもスローに見えたわね。


 吸血鬼の身体能力、半端ないわね。


 吸血鬼の身体能力に納得した私は改めて冒険者達を見た。

 冒険者A,Bは見た目が20代の若造と言った感じ。

 動きも余裕で眼で追える。

 格闘家だった父親から護身術を習ってた私より動きが悪い気がする。


 それに比べエルフ女と神官女は違う。

 私に視線を合わせ動きを観察していた。

 エルフ女は冒険者Aを抑えつつも剣を自由に動かせる間合いはあけている。

 神官女は私を見つつ、跪いて動かないゴブリンもしっかり気にしていた。

 熟練の冒険者という雰囲気だ。


「貴方達は下がってて。エル、行くわよ!」

「はい。サーシャ」

「『ファイアーボール』!」

「『ライトアロー』!」


 男二人を後ろに下がらせた女達から魔法が飛んで来た。

 火の玉と光の矢っぽい。


 当たる寸前まで来たそれを――軽く手を振ってかき消した。


「なっ!」

「そんな!? 防ぐのでもかわすのでもなく消滅させた……?」


 驚愕する二人に呆れながら応える。


「今のが必殺の魔法なんて言わないわよね? しょぼかったわよ」


 ギリっと歯軋りが聞こえそうな表情で睨んでくるエルフ女。

 でも仕方ないじゃない?

 実際しょぼかったんだもの。


 昨日私が練習した魔法に比べたら小規模だ。

 昨日はあまりの余波に私自身が死ぬ思いをした。

 その為、途中で魔法を防ぐ魔法を開発したのだ。


 左手を振る事であらゆる魔法を消滅させる魔法。


 決して自分で発生させた大量の水に溺れかけて生きる為に偶然生まれた魔法ではない。

 こうした時の為に生み出した魔法なのだ。

 左手を振らないと発動しないのは、生み出した時のトラウマではないのです。


「その程度が実力と言うなら、今なら見逃してあげるわ。これ以上するというのなら吸血鬼の深遠を覗くことになるわよ。ふふふふ」


 余裕たっぷり風味で言う。

 心の中では、溺れないように左手で掴んだ枝が折れた時の恐怖を思い出していたが。


「ここは引くわよ」


 エルフ女がそう言うと、冒険者達はすごすご背を向け消えていった。


 助けるはずだった冒険者との戦闘。

 何でこうなったかはわからない。


「しかし過程はおいといて私の初戦闘で初勝利ね。ア~ハハハハ」


 私は勝利を喜び高らかに笑った。

 そして笑い終わると静かになる。

 静かになり、現実を見つめた。


 私に向かい跪くゴブリン達。


 これ、どうしましょう?




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