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彼女は最高

 何事も努力すればなんとかなるものだ。人は成長する。あんなに大変だと思っていた会社の仕事も、慣れと自分のレベルが上がることで余裕も生まれ楽しくなってきた。毎日やっていると知識も自ずとついてきて、コツも覚え、一ヶ月たった頃から一人で仕事をこなせるようになってきた。

 元来人と話すのも好きなこともあり、営業という仕事は結構天職なのかもしれない。社会人になることで広がった世界が、自分が大人になったことを感じさせ、俺は元来の脳天気さと自惚れを取り戻した。


 余裕が生まれると、欲しくなってくるのは彼女という存在。去年就職活動に翻弄されたこともあり、十ヶ月も彼女がいない状態が続いている。小学校時代からも彼女らしき人が何やかんや居つづけた俺としてはありえない状況である。なんと侘びしい時間を過ごしてきたというのだろうか? 俺としたことが。

 友達からはタラシとよく言われる俺だが、それは大きな誤解。空気が読めるフェミニストなだけ。

 姉妹の中で育ってきたこともあり、女性に慣れている。自然に女性を怒らせない接し方が身についているだけだ。チョットいいかなと思っている女性が困っていたり、悩んでいたりするとほっとけない。こういう事を心がけていると、自然に恋愛の芽が発生するというもの。

  

 社会人になって、身近なところを見渡してみる。一番気になっているのは、やはり月ちゃん。正直いうと、会ったその日から惹かれていたと思う。運命なんて信じていないが、出会いからその後の展開、まるで恋愛映画のようではないか? たまたま同じ日に面接をうけた男女は、同じ会社を選択し再会する。そして趣味も同じなこともあり、互いに惹かれる。実際、仲良くなるのも殆ど時間もかからなかった。他の人がややついて行けない、マニアックな話題で盛り上がり、その事が俺達の仲を急速に近づけた。

 映画以外の話をしていても楽しくて、一緒にいると凄く癒される。なかなか就職先が決まらず辛かった就職活動の日々も、全てが彼女との出会いの為の布石だったのではとすら感じていた。

 しかも同期の他の女の子から、彼女がどうやら前の彼氏とは、とっくに別れて今はフリーであるという事もしっかりチェック済み。だからあの長い綺麗な髪がなくなったのだと納得する。今のショートも、彼女を快活な雰囲気にして、それはそれでキュートで可愛いけれど、やはり女性のロングヘアーは男心をどうしようもなく擽るものがある。本当に勿体ない限りだ。

 映画にも、一緒に行くようになり、今では堂々とブログにもコメント残していっている。未だに『星』の名前のコメントがあるのが気になるところだが……。

 何度も一緒に映画に行くようになり、社内でもかなり仲の良いと評判の二人になったように思える。非常に良い感じの距離感を築いて、全てが順調に思えた。


 エンドロールを静かに見つめる、彼女の様子をそっと伺う。映画を愛しているだけあり、予告編からエンドロールまでシッカリ落ち着いて楽しむ姿勢が好ましい。映画マナーといったら、映画を観ているときは喋らない、携帯の電源を落とす、音を立てない、椅子を蹴らない、暴れないというのが一般的なものだが、そんな簡単な事が出来ない人が本当に多い。映画好きにとって、そういったマナーの悪いヤツが近くの席にいるというのは凄いストレスとなっている事を、もう少し世間の人に知ってもらいたいものだ。携帯バイブ音をいつまでも鳴らすヤツ、さらに映画館で携帯のバックライトを煌々とさせ何かしているヤツ、レジ袋をずっとガサガサさせるヤツ、映画を愛する多くの人がそういった行為を腹立たしく、場合によっては死んでくれ! とまで思っていたりする。

 月ちゃんも映画館の中のマナーの悪い人が許せないようだ。ずっと喋っている後ろの席のカップルを、わざわざ振り返って睨み付けている。温厚な彼女がこんな殺気立った顔をする程、そう言ったヤツラは映画好きを苛立たせている。

 また、残念に思うのは、映画が始まってから堂々と入ってくる人、たかだか数分の事なのにエンドロールが流れ始めた途端に席を立って劇場を後にする人、これが意外多いこと。作品によってはオープニングに重要な秘密が隠れているものや、エンドロールの後に物語があることがある。またエンドロールも作品の一部であり、最初から最後までシッカリ見ることが、映画を本当に楽しむというものではないだろうか? またエンドロールを見守るのも、そこに流れている映画の製作に携わった人達への敬意を払うという意味でも大切な事である。

 彼女は、その文字を時々頷きながら、静かに目で追う。最後まで見てから、俺の方を向き笑いかけてくる。

「なかなかの、世界感だったね。なんか横溝小説っぽくもあるよね。閉ざされた孤島、過去から続く名家の壮絶な秘密とかいったノリがなんとも、そんな感じ!」

「たしかに、ドロドロで淫靡な部分も、通じるものあるよね」 

 俺は頷きながら、席を立つ。彼女もそれに続く。 

「でも、ヒロインがいいよね! 強烈で。あの容赦なさがなかなか!」

 嬉しそうな顔で、入り口に張られた映画のポスターの中央にいる女優の方に目をやる。

「今までになかった、ヒロインだよね〜。あの容赦なさは、なかなか」

 映画について、自然なやり取りが続く。

「でもさ、この映画の怖いところって、出てくる男性の殆どが大変なサド野郎って……この国結構憧れていたに、旅行する気がやや失せちゃった」

 眉をよせて参ったというように言う彼女の言葉に、思わず笑ってしまう。

「あんなに、ほら北欧って夜が長いから、その分内に籠もって色々している事が多いとか」

 ニヤニヤした俺の顔を、チラっとみて「ん?」という顔をする。

「かもね〜って、何言わせるの!」

 可愛く睨んでくるが、すぐいつもの笑顔になる。

 ノってツッコミいれてくる所も、楽しい。かなりハードな内容の映画を観るだけあってエロ方面の話も、意外に大丈夫だし。変に気を遣わなく色んな事が素直に楽しめる。また映画を観てシーンシーンで様々な表情を素直に見せる彼女の反応が可愛らしい。映画の後、思わずニヤニヤ笑って見ている俺の視線の中で、涙を恥ずかしそうに拭く月ちゃんの表情なんて最高である。見ていた映画以上に俺をドキドキさせる。


 本当に最高のペアだと思っていた。後になって考えてみたら、俺にとってこの時期くらいまでの彼女との関係が、幸せの絶頂だったように思う。

 一人でどんどん盛り上がり、そのまま二人で幸せな未来を掴めると信じていた。だけどそうは簡単にいかないのが、『月見里百合子』という女性だった。俺の常識がまったく通じない相手であることをすぐに知る事になる。

【物語の中にある映画館】にて

「ドラゴン・タトゥーの女」

http://ncode.syosetu.com/n5267p/

の解説あります

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