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恋と涙の太陽

 今年の冬は、あの猛暑の夏が嘘のように激しく気温を下げていった。もうすぐ十一月になろうという所だが、もう冬を思わせる気候となっている。


 こんな寒いのに、脳天気にディズニーランドに行って来たヤツがいるようだ。外勤から帰ってくるとキャラクターの入ったチョコクランチが机に置いてあった。

「あ、それ月ちゃんのお土産ね」

 菓子をしげしげ見つめていると、同じ課の人が教えくれる。

(さようですか……)

「月ちゃん、チョコクラ、サンキュー!」

 俺は隣のグループの月ちゃんに声かけると、顔を上げてニッコリ笑う。最近は髪を伸ばしてきたようで、軽くウェーブのかかった髪型が、彼女を華やかにみせている。月ちゃんのおでこに、俺があげたヘアピンが光っている。それを見ると心がチクリと傷み、その気持ちから逃げるように給湯室へと向かう。


 廊下を出たタイミングで、後ろから声がかかる。河瀬さんが白い封筒を俺に差し出す。この河瀬さんからのラブレターなんて良いものである筈はない。同期もとかのである井口の結婚式の招待状である。井口もその相手である同じ課の上司も直接は俺に渡しにくいものがあったようだ。

 俺は苦笑しながら受け取るしかない。同期と直属の上司の結婚式となるとあまり気は進まないけれど出るしかないだろう。

「じゃあ、確かに渡しておいたから」

 河瀬さんは用事が終わったとばかりに、俺の側から離れようとする。

「あ、河瀬さん、あのさ」

 俺は思う所があって、つい呼び止めてしまう。河瀬の冷たい目が俺を『なに?』と見返してくる。日本人形を思わせる顔立ちだけあり、こういう表情をしていると怖い。

「……月ちゃんの、彼氏ってどんな人なの」

 河瀬さんは眉をしかめる。

「いいヤツ? 俺より良い男?」

 冗談めかして聞いてみる。

 多分、河瀬さんなら、『太陽』の正体を知っている。知りたかった、どんな男なのか。

 でも、何も答えず、冷たい視線で見上げてくる。

「月見里さんの様子みたら、大体分かるでしょ? 貴方もさっさと新しい彼女見付けたら?」

 そう言って去っていく。

 否定なしで、見込みないから諦めろときたか。

 元彼女の結婚式の招待状もらっても、何の動揺もしなかった俺だが、俺は自分で聞いておきながら、河瀬さんの言葉に心をざわめかしていた。


 ここで食らいつくべきなのか、諦めるべきなのか?

 恋愛なんてずっと上手くいくとは限らない。月ちゃんの恋愛が壊れるのを待つ?


 『付き合おう』と言い出せないまま、時間だけが過ぎていく。いや、言うのを躊躇わざるを得ない状況になってから数ヶ月経ったと言うべきか。フラれるのが確実で告白するなんてマゾな事は俺には出来ない。もう月ちゃんに彼氏がいるかも、なんてレベルじゃない、コレはいるだろう! 完璧に。


 『月』の向こうに、『星』どころじゃない存在感を見せてくる『太陽』。

 その『太陽』の存在感が俺の心を冷やす。


 寒さを凌ぐ為に、俺は手頃な場所で暖を求める。この俺が、クリスマスの季節を一人寂しく過ごすなんて有り得ない。またクリスマスに男友達との単なる飲み会なんてもっと有り得ない。

 会社の飲み会の帰り、現場の女の子とイルミネーションが綺麗な東京ドームシティーを通り、そこでその娘にキスをする。それで新しい恋愛は簡単にスタートした。


 月ちゃん以外の女性なら、こうも恋愛は簡単なモノ。不思議である。俺に魅力ないというわけでは無いだろ。

 とはいえ、お手軽に始まった恋愛は、二ヶ月も持たずにアッサリと終わる。それなりに楽しくはあったけど、大した思い出もなければ傷もない薄っぺらな恋愛となった。


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