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日曜日が待ち遠しい!

 カーテンで区切られた椅子が七つ置かれた丸いテーブルに、俺と月ちゃんと荻上さんと西河が座っている。このメンバーでそれなり楽く会話しているが、なんとも不思議な組み合わせである。

 月ちゃんは職場において荻上さんを尊敬し彼女を目指しているようで最近では言動までも真似し始めている。そして西河は月ちゃんを理想としているようで月ちゃん風の仕事や人の接し方を真似している。となると最終的に西河は荻上さんのような女性になるのか? というと絶対そうはならないだろう。現段階において、月ちゃんは月ちゃんのまんまだし、西河は西河のまま成長していっている。

 西河は課が同じだから、俺とはそれなりに仲よいが、荻上さんとは接点が殆どないように思う。多分、月ちゃんがいなければ、この、メンバーでこの店で飲むことなんてないのではないだろうか?


 暫くすると、入り口の所にウチの会社にはいないOLという感じの可愛らしい女性三人が入ってくる。その三人を見てそういえば、エレベーターで時たま会った事があるなと改めて思い出す。女性というより女の子という可愛い感じ。真面目そうな雰囲気が蜷川となんとなく似ている。

 月ちゃんはその子らに手をふると、その三人も手をふりながら嬉しそうに近づいてくる。そう彼女達が今日の飲み会の残りのメンバー! 今日は実は月ちゃんが同じビルの六階にある会社の高森物産に勤めている女の子をエレベーターでナンパしたのだ。そして女子会を開くことになり、それに俺が便乗した状態。

 何故、態々女子会に厚かましく参加したかって? お酒の席だと、結構恋バナに発展しやすいから、月ちゃんにもう彼氏がいるのかどうかといったのも、見えてくるかな? と思ったからだ。純粋に飲み会を楽しみたいというのもあったけど。


 結局喋っているのは、俺と月ちゃんと高森物産の女性三人が中心で、それに時々荻上さんが茶々を入れるという感じで会は和やかに進む。西河は皆の言葉に相槌を打ったり、驚いたりと反応して楽しんでいるようだ。

「モリシマさんって、ウチと違って若い人多くていいですよね〜楽しそうで」

 月ちゃんは、俺や荻上さんに『そうかな?』といった表情で問いかけてくる。

「ウチは、オジサンしかいなくて!」

 眉を困ったように寄せて、高森物産の女の子の一人が答える。

「あら? 時々三十代前後の方、エレベーターでお見かけしますが」

 月ちゃんは首を傾げる。

「ウチって、本社関西なので、出張で時々若い人くるけど、基本いるのはオジサンばかりで、そうでない人も既婚者ばかりなんですよね」

「まあ、恋愛したいというのではなくて、私達が会社で少数派になるのが辛くて〜」

 高森の三人の女の子は『ねえ』と頷きあう。

「そんなんでしたら、ウチの会社のモノが、喜んで話し相手になりますよ!」

 俺の言葉に、月ちゃんと西河はうんうんと頷いているが、荻上さんはジロっとコチラを睨んでくる。

「まあ、若いのいても、ウチの会社のようにロクなのがいないのも困りもの、恋愛相手としては微妙でもにぎやかしにはいいよ!」

 荻上さんの言葉に皆笑う。 

「そうかな〜俺なんて、優良物件だと思うけど、ね、月ちゃん」

 急に話しかけられて隣の月ちゃんはキョトンとするが、ウーンと悩んでいるようだ。

「まあ、そうかな〜? うん!」

 何だろう、その微妙な言い回しは……。

「そういう含みある言い方止めてよ! 高森さん誤解するじゃん」

 月ちゃんは、大袈裟に嘆く俺にヘラっと笑う。

「いやいや、高森さん、この人は頼りがいあるし、優しいし、イイ奴だよ! ホント、ホント! 仕事一緒にしてると分かるけど」

 月ちゃんは西河に『ね!』っと同意を求める。

「仕事の仕方で、その人の人間性ってよく見えませんか? 仕事しているときって本性が剥き出しになる感じで」

 皆、その言葉に、『分かる、分かる』と頷く。確かに、仕事の向き合い方で、コイツ調子よくて狡いな、とか生真面目で頑固な感じとか見えてくるものがある。

「黒くんの仕事の仕方って、本当に真面目で誠実という感じで協調しながら作業を進める感じなの。一緒に仕事していても物事がスムーズに進むのよね。そういう所凄いと思う。周りをよく見ているし」

 俺は彼女の言葉にチョット感動する。俺の事を、そのように見てくれていたという事が嬉しかった。

 結局、その日の飲み会は月ちゃんに本当に恋人がいるのかどうかは聞けなかったけど、その言葉を貰えただけでも来た甲斐があったように思う。


 散会になり、俺はJRの駅の方に向かう月ちゃんを追いかける。

「あ、月ちゃん! 俺もそっちだから」

「あれ? そうだっけ?」

 不思議そうな顔の月ちゃん。そうか、彼女に引っ越しした話はしてなかった。

「うん引越ししたから、新宿方面で方向も同じ!」

「そうなんだ、小田急? 中央線?」

 月ちゃんは、横浜に住んでいる。

「中央線で中野の方! その方が終電も遅くて楽だから」

「なるほどね〜よく会社泊まっていたもんね! それはそうと、今日は残念だったね〜彼女ゲットできなくて」

 俺は苦笑する。荻上さんがサドッ気を発揮し、俺を散々貶めてきたのだ。それはいつもの事で気にしてはないが、月ちゃんにも女漁りにきたように思われているのかとチョット悲しくなる。

「俺ってそんなに、彼女欲しさにガツガツしているように見える? 純粋に交流楽しみたかっただけなんだけどね。 月ちゃんとも久しぶりに飲めたし」

 そんな俺の言葉に、フワリと柔らかい笑みを返してくる。

 夜の道を歩きながら、二人で他愛ない会話を楽しむ。彼女の体温を隣に感じ、その熱が俺の心を熱くする。

「それはそうと、久しぶりに映画でも行かない? 今週末とか!」

 俺は、勇気を出してデートに誘ってみる。今ココには邪魔する者は誰もいない。

「いいね! あ、でも 日曜日でいい? 土曜日用事があって」

 楽しそうに彼女は答える。

「電車そろそろ来るよ、走ろうよ!」

 彼女の声で、二人は同じ方向に向かって走り出す。

 ところが彼女のヒールが道路の溝に引っ掛かったのか、月ちゃんがコケそうになる。俺は慌てて腕を引き寄せることで防ぐ。

 一瞬だけ腕の中に抱く形になってしまった。彼女の髪から、出会ったときと同じシャンプーの香りがする。自分の体温が少し上昇するのを感じた。

「ゴメン、助かった!」

 月ちゃんは照れたようにヘラっと笑う。

「危ないな〜! そんなヒールなんて履いているから!」

「これでも、厳選して、かなり歩きやすさを優先したバランスの良いものにしてるんだよ! じゃあ、走ろう!」

 そう言って走り出す。確かにヒール履いているわりに、その走りは自然で軽い。俺達は走ったお陰で、狙っていた電車に乗る事が出来た。

「ところでさ、最近、なんでヒール履いているの?」

 月ちゃんは、視線をあげて『うーん』考える。

「気持ち良いからかな?」

「気持ち良い?」

 意外な言葉に俺は思わず聞き返す。周りの人が、大きめの声になってしまった俺の方を怪訝な顔でみる。公衆の面前で変な会話していると思われたようだ。

「なんかね、いつもよりチョット高めの視線が、もっと広い世界を見る事ができるような、そんな感じというのかな?」

 周りの空気を察して、月ちゃんはあえて周りにも聞こえるトーンで会話を続ける。なんか言いたい事は分かったような気がする。そして、彼女がヒールをはき始めた理由が、好きな人の為に、女らしくしたいとかいうのではない事にちょっとホッともした。

「なるほどね〜。で、ヒール分なんか良いもの見れた?」

 月ちゃんはちょっと考えてニッコリと笑う。

「タップリと色々ね!」

「どれどれ」

 俺はちょっと屈んで、月ちゃんの目の高さに自分の顔の高さを合わせて外の景色を見る。確かにいつもよりチョット世界が違ってみえた。

 そんな俺の行動に、月ちゃんはビックリした顔をしたが、フッと柔らかく微笑んだ。


コチラの女子会は『半径三メートルの箱庭生活』の

『二メートルの世界 <2>』にて、描かれているのを同じです。

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