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八人の女たち

 人は、季節や時期といったものに影響を受けやすい。それに合わせて生活していると安心するものだ。恋人作るなら、クリスマスまでに! と行動するのと同様、次のステップである次年度が見えてくる一月から三月に別れを決意する人が多いようだ。

 高校生から今まで(それ以前にも彼女と呼んだ人はいたが、その付き合いは、恋愛というにはいろんな意味で可愛すぎるので)八人の女性とお付き合いしてきたが、七人の女性と年が変わり次学期が見え始めたこの時期に別れている。その内、一年以上お付き合いしたのは一人だけ。


 そして俺は二月の半ば、俺は八人目の彼女である蜷川と映画を楽しみ、その後喫茶店にいる。

 ロマンチックなラブコメディーを観た後だというのに、彼女の表情はどこか虚ろで言葉も少ない。

 彼女の本当の笑顔を見たのっていつの事だったのだろうか? と俺は彼女との日々を回想する。岩手県での旅行中だけだったのかもしれない。それ以外の時は、良い彼女であろうと必死で笑顔を作っている、そんな感じだった。

 俺は、今まで付き合ってきた彼女にとって、優しく面白い最高の彼氏だったと自負している。ただ相性の問題や、趣味の相違だけでお互いの何が悪いからというではなく別れてきた。浮気とか暴力で相手を傷つけたこともないし、そんな男最低なヤツだと思っている。

 だからこそ、蜷川に対しても俺は良き彼氏であろうと頑張り、彼女もそれに必死で付き合ってきた。でもそれも限界なようだ。

「黒沢さん、私ね」

 『明彦さん』ではなく『黒沢さん』。彼女の中で俺の立ち位置がハッキリ変更になったようだ。俺は静かに頷く。俺の顔をみて寂しそうにチョット笑ってから下を向く。

「気になる人が出来たの」

 彼女は、ジッとティーカップの中の琥珀色の液体を見つめている。

「そうか、分かった」

 俺は静かに答える。俺の言葉に彼女は静かに顔を上げる。その瞳から涙がスッとながれる。

 俺はハンカチを差し出すけど彼女は首を横にふり、バックから自分のハンカチを出し自分の涙をぬぐう。

「私……」

「今まで本当にありがとう……そしてゴメン」 

 彼女は、静かに涙流しながら、首を横にふる。

 俺はそんな蜷川を静かに見守るしかできない。何を言ってやれる? 今この子に。

「私こそ、ありがとう……じゃあ もういくね。じゃあ、さようなら」 

 なんとか涙を止めた彼女は、真っ直ぐ俺をみて笑う。

 そして、千円札をテーブルに置き、振り向きもせず去っていった。。

 俺は大きく深呼吸をし、カップに残っていた珈琲を、口に含む。いつも以上に珈琲が苦く感じた。


 こうして、俺と蜷川は恋人から単なる同僚になった。


 二ヶ月程して、彼女が同期の男性と楽しそうに歩いているのを見掛けた。相手の男性は可愛い蜷川にベタ惚れしている感じだ。そんな相手の愛を一心に受けて蜷川美香も幸せそうだ。俺に向けていた笑顔とは違い、心の底から嬉しそうな笑みを返している。

 その様子に俺は寂しさよりも、嬉しさを覚え、ホッと胸をなで下ろす。俺の彼女に対する罪悪感が少し軽くなった。


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