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勝負(かた)をつけろ

挿絵(By みてみん)


『人間は、無理しないで手に入れた物に囲まれていたほうが幸せになる』って、酔っぱらった親戚のオジサンが偉そうに言っていた。

 『何だ? それ?』 って言いたくもなるが、意外に的を射た言葉だったりする。

 様々なものを犠牲にして無理して手に入れたものを必死に守って生きるより、自分の身の丈にあった世界で自然に生きていく方が幸せって事はあるだろう。無理をしなければ、それなりの幸せを堪能することができるものである。


 俺はそれまでの人生、ノリの良さと明るさで、それなりに上手くやってきたと思う。イケメンとは言えないけど、女の子からのウケもよく彼女に困るということもなかった。持ち前の要領の良さもあり、楽しく面白く過ごしてきた。


 そんな俺の人生初めての挫折は、就職活動だった。自分にそれなりに自信があっただけに、就職なんてすぐ決まると思っていたし、社会に出ても今まで通り面白おかしく過ごしていけるのだろうと、愚かにも信じていた。

 しかし『景気は上向き傾向』という政府の言葉はどこやら、新卒者の就職は年々厳しいものとなっていた。

 最初は誰もが知っているような、所謂大企業を目指したものの、二流大学の俺は人事の人と顔を会わす前の書類審査の段階で、落とされまくる状態。

 行きたかった企業は夏休み前に求人を締め切ってしまった。俺は大学の就職課で必死に求人票を探り、殆ど興味のなかった業種の企業など範囲を広げることになった。


 いい加減着飽きたリクルートスーツに身を包み熱い夏の日訪れたのは、株式会社モリシマという、正直生まれて初めて名を聞くような印刷会社。

 自社ビルとはいえ、小さい鉄筋コンクリート四階建てのその会社は、素敵な会社とは言い難い。

「こんにちは! 面接に参りました黒沢明彦です」

 受付で挨拶をすると、愛想のない女性社員が応接室に面倒くさそうに案内する。俺は得意の愛想笑いを浮かべその社員にお礼を言いながら部屋に入った。

 中では、俺と同じように面接を受けに来たと思われる、小柄の女の子が応接室の長いすの方にチョコンと座っていた。

 俺はその子に『ドモ』といいながら、隣に腰掛けた。その子も、俺に対して軽く頭を下げる。シャンプーの良い香りが、鼻をくすぐる。

 左右の髪をキッチリ編み込んでからバレッタで背後に纏め、それを長い後ろ髪と一緒に流している。暗めな典型的なリクルートに身を包んだその子は、目も鼻も口も全てが小粒という感じの地味で大人しそうな女の子だった。

 キョトンとした感じの丸い目が、なんか兎を連想させる。


 少し早めに来たこともあり、応接室に二人だけで待たされる。ハッキリいって手持ち無沙汰。横目でその子の様子を伺う。何故か大きいバインダーを大事そうに膝の上で抱え、緊張しているようで時々小さく深呼吸をしている。

 コチラの視線に気がついたのか、不思議そうに俺の方を見る。意味もなく見つめあう形になる二人。チョット気まずい……。

 彼女は突然ニコっと笑う。穏やかで人柄の良さそうな柔らかい笑み。俺もその子の笑顔につい釣られて、笑い返す。


 コレが、俺のその後の数年を散々なものにして、もう一つの挫折を味合わせてくれる存在『月見里(つきみさと)百合子』との初めての出会いだった。


現在が舞台の小説で、初めて男性視点で描いているので、不自然な所があるかもしれません。もしあったら是非教えて下さい

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