表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/30

予期せぬ出来事

 俺は、客先から原稿もらい、車に乗り込んだ時に携帯をチェックする。会社からの連絡メールに混じって井口からのメールが入っている。

『やっほ〜♪ あっくんの仕事、私が愛を込めてやっときました〜♪ 今日は定時であがって職場のみんなで飲み会なんだ〜!』

 彼女の声が、そのまま聞こえてくるようなメールに思わず笑ってしまう。

『サンキュー! まだ外だけど、帰ったら成美の愛を、しかと受け取っておくよ! アリガト』

 メールを返し、会社に戻ることにする。

 このあと、井口がやった版下をチェックして、製版出し、今日もらった原稿を現場に回せばいいだけだ。今日は久しぶりに早く帰れそうだ。一人で映画でも観るか。俺は早くも解放的な気分に心躍らせていた。その後トンデモナイ事態が待っているとも、今の俺に分るはずもない。

「戻りました〜東和さんから無事全部の原稿もらえました」

 俺は、元気に営業部に戻り、自分の席に戻る。俺の机には現場から上がってきた版下が置かれている。外に出歩いている事の多い営業では、現場にいった人が、他の人の上がった版下を全部一緒に引き上げ、このように受注者の机に配るのが決まり事になっている。

 伝票の作業者の場所に、井口成実のサインとハートマークがついている。俺はそれをみて苦笑しつつ、袋の中から版下を出して顔を引きつらせる。

「なんだ コレ!」

 一目見ただけで分かる、とにかく雑なのだ。版下用台紙は、当たり用青のラインがひいてある、それに従って作ればここまで曲がりまくったものになるとは思えないのに、眺めているだけで平行感覚がおかしくなる。


 俺は電話を慌ててとり、現場に電話をする。すると製版部は誰だかの結婚祝いとか何かで、殆どが飲み会に出て、残っている一部の人は手一杯で、そんな事今言われても困ると言われる。確かに時間が定時をかなりまわっているものの、そちらがチャンと仕事しないからだろうと言いたくもなる。

「どうした?」

 俺の電話のやり取りをみていた、他の営業部の人も集まり、俺は電話をかけながら、その版下を他の人に示す。皆、『コレは……』という顔をする。

 そこに、営業制作課の井筒次長も騒ぎを聞き、やってくる。その版下をみて露骨に不快そうな顔をし、俺から電話を取り上げる。

「てめえのトコは、どんな教育しているんだ! まともに作業も出来ないうえ、チェックもしないで回すのか! あ? 反論する前に仕事をチャンとしやがれ」

 俺も相当、感情的な電話をしたものの、その井筒次長の言葉にチョット慌てる。今日中になんとか修正してもらわないと困るのだ。

 散々怒鳴り、電話を切ってしまった。

「おい、黒沢、作業伝票をコチラに回せ! そして現場には、こんな仕事認められんと作業終了伝票をつっかえせ」

 呆然としている俺を無視して、井筒次長は自分の課の方を向く。

「月見! この版下コピーしてから、お前が直せ!」

 仕事が終わり、机の上を片づけていた月ちゃんは、名前を呼ばれ一瞬ビクっとする。すぐに笑顔で「はい!」と答えた。

 あ、彼女も今日は久しぶりに早く帰れると喜んでいたのに……。

 井筒次長は、版下のコピーを受け取り、態々赤ペンでラインを引き、どこかどのくらい曲がっているか、何処が間違えているかを強調したものを俺の所に持ってきた。

「コレを伝票につければ、現場も何もいえないはずだし、証明になる」

 この細かさが、現場から嫌われる要因なのだろうなと思う。 

 月ちゃんを見ると、長めになってきた前髪を、星のついたピンで止め、ライトをつけ例の版下と原稿を交互にシゲシゲ見つめ作業を始めたようだ。

 上司は、俺の肩をポン叩く。


「もう、これで問題はないだろ、井筒次長は仕事だけは確かだから、後で井筒次長と月見里さんにお礼いっとくんだぞ」


 確かに、凄く助かったのは確か、でもなんか色んな意味で申しわけない。

 ジッと見ている俺の視線に気付いたのか、月ちゃんはコチラに『任せて』といった感じで笑う。

「一時間もあれば、修正できるから、心配しないで!」

「缶コーヒーとか欲しいよな〜 月もそう思わないか?」

 ただ、彼女の前に座っていた、営業制作課の三池主任がニヤニヤとコチラ意味ありげに見る。 

 いつも笑えないオヤジギャグをいってくるこのオッサン、でもこういう時には不思議とその緊迫感のない空気が助かる。缶コーヒーで手打ってやるから気にするなという意味だ。

「分かりました! 買ってきますよ! どんな味のモノがいいですか?」

「次長はブラック、主任は砂糖ミルクいり、係長はミルクのみだよ」

 俺の質問に、三池主任の前から声が聞こえる。三時のお茶タイムに、いつも三人の為に飲みのも入れているから月ちゃんは上司の好みを知り尽くしているのだろう。

「いや、俺は麦味の泡の出るほうがいいな〜」

「仕事中です!」

 メッといった感じで、月ちゃんは上司を叱る。そして、作業を再開する。


 俺は邪魔しないように、近所のコンビニに缶コーヒーを買いに行った。オッサン三人には、普通の缶コーヒー、そして作業している月ちゃんには珈琲ショップの名のついたチルドカップの珈琲と小さなチョコ菓子を買って帰る。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ