第二話
ミホちゃんは僕が帰ってくる前日に自宅近くでひき逃げされたそうだ。犯人はまだ捕まっていない。藤堂沙織の言葉が現実になった形だ。だが、ずっと落ち込んでばかりいれるほど僕はいいご身分ではなく、近くのお洒落カフェで日雇いバイトを始めた。お洒落カフェのバイトは接客をする店員班と搬入や搬出をする裏方班がある。店員班は女子で裏方班は男子が受け持つことになっているが、4日目は女子の応募がたらずに僕は店員班となった。昼過ぎのこと。僕のアパートの大家さんがお店にやって来た。僕は注文を取りにテーブルに向かう。大家さんと息子さんかな。
「いらっしゃいませ。大家さん、ここにはよくいらっしゃるんですか?」
僕がそう言うと消え入るような声で大家さんは言った。
「ミホを助けてください」
そう言うと隣のオジサンが見覚えのあるポータブルゲーム機を取り出す。
「私は酒井涼介。ミホの父親だ。機密事項もあるから話はゲームの中でお願いする」
そう言うと2人は消えてしまった。
いや、正確には僕が現実世界から消えてしまったのだろう。
「これはポータブルゲーム機の試作ソフト『君も名探偵』というゲームソフトで私が開発主任をしている。試作機の段階まできているのだが、家に予備を保管している間にミホが見つけてしまったらしい。履歴をみたがパートナーが風宮さんだと知ってここに来たんだ」
ハイ、すべての元凶が現れました。
「このゲームソフトには次世代型生成AIが組み込まれているのだが、実はこの生成AIは現在の科学力では作れないものなんだ。普通、RPGっていうとあらかじめプログマーが作成したプログラムに沿ってプレイヤーがゲームをするんだけど、このゲームソフトはプレイヤーの現況を判断して最適なプログラムを生成AIが作成してプレイヤーにゲームさせるんだよ。言ってる意味がわかるかい?」
僕は首を横に振る。
「君の左上に何か見えないかい?」
「N警察署」
僕は見えている通りに読んだ。
「そう、このゲーム機の画面にもN警察署と書いてある。つまりね。まだゲームオーバーじゃないんだよ。風宮君、ミホを助けるためにN警察署に向かってくれ」
僕はオジサンの言葉を最後まで聞かずに走り出していた。可能性が1%でもあるならやるべきだ。もう後悔したくない。
N警察署に到着した。なんか建物がレゴブロックで作られたような感じ。こんな建物だったっけ。
受付に着くと案内してくれた。
「突き当たりが取り調べ室です。警部がお待ちです」
お待ち?
僕が廊下の突き当たりまでくると奥から声がする。
「おお、名探偵。早かったな」
奥から声?
僕は取り調べ室に入ると、警官が2人と容疑者らしき男が1人。
おかしい。
ヤケに人間人間している。
「ガルが妙なことを呟いているんだが」
容疑者らしき男はガルのようだ。
ガルを見るとなんかブツブツ呟いている。
「じんるいあるぴじけいかくじんるいあるぴじえいかく……」
意味がわからん。
仕方ねえ。
僕はメガネのボタンに指をやる。
ここでの会話が走馬灯のように僕の頭を駆け抜けていく。
「警部、わかりましたよ。人類RPG計画が次のステージに入ったようです。先日、押収した魔法の種はタイムマシーンでしたよね。ここにお持ちください」
「おい、例の魔法の種を持ってこい」
民間人に証拠品を見せるのか!
「警部、お持ちしました」
もう一人の警官が魔法の種を持ってきた。
「これをどうするんだ?」
警部の問いに僕は何も言わずに魔法の種を手に取る。
「こうするんです」
僕はそう言って、魔法の種を口に放り込んだ。
「何してんだ。名探偵。さっさと吐き出……」
すでに僕は消えていた。
ここは時の狭間なのだろうか。想像していたものとは大分違う。多くの人々もいるし、植物も動物もいる。
僕はしばらく歩いていく。
トントン。
トントン。
あ、佐伯さんがずっとドアを叩いていたな。
音の鳴ったあたりをノックする。
トントン。
ガラ。
その向こうに入った現実世界が広がっていた。
僕はドアの向こうに入った。間違いない。N大学1号館102教室だ。少し新しいけど、10年という歳月だ。こんなもんだろう。
「こんにちは。藤堂教授」
僕は藤堂教授に挨拶をする。
「あなたたちを助けに未来から来ましたよ。10年後の未来から。藤堂教授、佐伯さんが殺害された未来からですよ」
僕がそう言うと藤堂教授と佐伯さんはうなだれる。
「そうだ。藤堂沙織さんは今どこですか?」
「沙織さんは先月秘密結社に殺害されました」
僕の問いに佐伯さんが答える。
「戸籍上はでしょ。僕ね、10年後の未来で藤堂沙織さんに会っているんですよ」
「そんなバカなことがあるか!」
僕の言葉に藤堂教授は声を荒げる。
「10年後の未来では沙織さんは藤堂教授に殺されたことになっています。藤堂教授、思い当たることはございませんか?」
僕の言葉に藤堂教授は首を横に振る。
おそらく秘密結社から沙織さんを守るために戸籍上亡くなったことにしたのだろう。動機は理解できる。しかし、どうやって?
仕方ねえ。
やるか。
僕はメガネのボタンに指をかける。
ポチッ!
いつもより音が大きい。その瞬間、今までの情報が僕の頭を駆け抜けていく。
多い。
多すぎる。
気持ちわりい。
『港』
「さっきの件ですけどレッドバロンから娘を守るために魔法の種でその辺の死体を娘さんに偽装したんですよね。藤堂教授、未来から魔法の種を取り寄せるのはご法度なんだよね。そんなことをやるから皆殺しになるんだよ」
僕はそう言って教室を出ていった。
僕は港に向かって歩いていく。間違いない。こいつが描く悪のアジトは100%港にある。ほら、あの倉庫の出入口に化け物がいるだろう。これもセットで100%だ。
「すいやせんね。藤堂沙織さんに会いに来たんで入れてください」
僕は下手に出る。
「お嬢は知らんもんには会わん。さっさと帰れ!」
僕がメガネのボタンを押す。
『一旦引く』
気乗りしないが僕は一度引いた。小一時間ほど港をぶらぶらして元の倉庫に戻ってきた。
アレ?
さっきの門番がいない。
ラッキー!
僕は倉庫のドアを開けた。奥には化け物が数体倒れていたが、藤堂沙織さんがいない。僕はメガネのボタンに指をのばす。
ポチッ!
『魔法少女』
よくわからん⋯⋯。
僕は仕方なくN大学Ⅰ号館102教室に戻ってきた。藤堂教授のもとには眠っている幼女がいた。
「ありがとうございます。東條さん」
僕に向かって礼を言う藤堂教授。
東條さん?
誰と勘違いしてんだよ。
「先ほど、魔法少女さんがやってきて沙織ちゃんを連れてきてくれたんですよ。それとこれ。『タイムマシーン』というそうです。東條補佐官!」
僕に向かって『魔法の種』を差し出す佐伯さん。
魔法少女?
確かに『魔法の種』に間違いない。
まあいい。
乗っかちゃおう。
「これですべてが変わるはずです。佐伯さん、10年後の目印がほしいので、そのドアをトントンと定期的に叩いてください」
「それから、藤堂教授、この魔法の種は10年後に僕が取りに来ますのでそれまでは厳重に保管しておいてください」
そう言うと、僕はドアを開け時の狭間へと入っていった。
僕は未来に向かって歩いていく。しかし、いくら歩いても合図が聞こえない。ひょっとしたら時間軸が違うのだろうか。しばらく歩いていくと道の先に何かが見える。僕は出口のような光の中に入っていった。
ここはどこだろう。
一面、焼け野原。
大勢の人が倒れている。
すでに絶命している人たちばかり。人類は滅亡してしまったのか⋯⋯
「とうじょう⋯⋯」
そう言って僕の足に縋り付いてくる瀕死の女の子。
「魔法少女サリー、無念であります。東條補佐官!」
東條補佐官?
魔法少女?
さっきの話と繋がっているのか?




