第四話
僕はメガネのボタンに手を掛ける。
ポチッ!
その瞬間、僕の頭にこの研究室での会話が蘇る。
『数』
魔法使いがいないか、1人かの違いだろ。バカにするな。非正規だってそんなことくらいわかる。
僕は研究室を見渡す。
ん?
なんだろ。
1人足らないような気がする。
いや、気のせいだろう。
机に両肘をつき呆然として椅子に座っている女。
「変なオジサンってね。あれ、なんでオジサンだって思ったんだ?」
知らねえよ。
お前が見たんだろ!
念のためもう一度。
「変なオジサンってね。あれ、なんでオジサンだって思ったんだ?」
次に窓際で本を読んでいる男に声を掛ける。
「魔法使いっていってもランクがあるんだ」
でしょうね。
念のためもう一度。
「魔法の種の種類によってもランクが分かれるんだよ」
へえ。
だから、ガルは金庫破りの魔法では納得しなかったんだね。
次は一番前の席で寝ている男。
「魔法使いじゃないからこの研究所に入って魔法の種の研究をしている」
念のためもう一度。
「魔法使いじゃないからこの研究所に入って魔法の種の研究をしている」
次は前の出入口でドアにぶつかりながら歩いている女。
「魔法の種で魔法使いになれる」
知ってるよ。
念のためもう一度。
「魔法の種で魔法使いになれる」
なんだ。
この違和感。
僕は警官Bに話掛ける。
「うわっ血だらけじゃないか!」
えっ?
どこが?
念のためもう一度。
「うわっ血だらけじゃないか!」
意味がわからん。
警官Aにもとりあえず声を掛ける。
「あっちとこっちじゃ見えるものが違うんだ」
何言ってんの?
警部の発言には僕の理解が追いつかない。
念のためもう一度。
「あっちとこっちじゃ見えるものが違うんだ」
あっちとかこっちとかやめろよな。
そういえば。
このオジサンにも話掛けよう。
「魔法の種が盗まれた」
このオジサンが盗んだんじゃないのか?
僕は全員に声を掛けたので、出入口のミホのところへ行く。
「ご苦労様。事件は解決した?」
「盗まれたのは魔法の種だそうです。ただ、容疑者のオジサンが盗んでないらしいんですが。あ! そういえば警部が気になることを言ってました」
僕の言葉にミホは反応する。
「なんて言っていたの?」
「あっちとこっちじゃ見えるものが違うんだって。あっちとこっちってどこのことでしょうね?」
「ゲームの世界と現実世界ってことでしょ。ちょっと待って。研究室を覗いてみるから」
ミホがそう言うと彼女の気配が消える。
「ギ、ギ、ギャアアアアアア!」
その瞬間、まるで電源が切れたかのように僕の意識は吹っ飛んだ。
周りの喧騒で僕は目が覚めた。どうやら部屋で寝ていたらしい。格好はいつもスウェットだ。
なんか外が騒がしいな。
僕は着替えて外に出る。
パトカーが数台、救急車、なんだよ。マスコミのロケバスもいっぱい。なんか凄えな。どうやら場所は製薬会社のようだ。僕はいつもの癖で警察の警戒線を越えていく。
「ちょっと、君。君。ここから先は入っちゃダメだよ」
えっ?
警官に怒られた。
どゆこと?
僕は警戒線の外に戻ってヤジ馬の一人になった。
隣のヤジ馬のオバチャンに声を掛ける。
「何あったんすか?」
「殺人事件みたいよ。聞いた話じゃ、鈍器で頭を殴られて血まみれみたいよ。発見したのは女の子でボロ泣きしてたよ。可哀そうで見てられなかったよ」
なんかどっかで聞いた話のような気がする。
その翌朝。
ドンドンドン!
部屋のドアを強く叩く音。
「かおる! 出てこい。さっさと出てこい!」
ミホの声だ。
僕がドアを開けると、腕組みして仁王立ちのミホちゃん。
「あんた、何やってんのよ。本当に人が死んじゃったじゃない!」
僕が呆然として黙り込んでいると、ミホはまくしたてる。
「これはね。ゲームなの! なんで本当に殺人事件が起きちゃうのよ!」
僕がさらに黙っているとミホちゃんは続ける。
「事件はゲームの中で起きている。ゲームの中で起きているんだからゲームの中で解決すればいいだけだね」
ミホはそう言うとポータブルゲーム機を取り出す。
「今度こそ事件を解決してこい。スイッチオン! 行って来い。名探偵かおる!」
僕の意識は吹っ飛んだ。ミホのケタケタ笑う声だけ響き渡る。
ここは?
ん、なんだよ。
N大学?
間違いない。
僕はミホの気配を探す。いない。それだけは言える。
ここはN大学のどの辺だろうか。
いや、どの辺というよりも、いつ頃だろうか。僕が知ってるN大学よりも新しいような気がする。かといって、僕はN大学の関係者ではないから正確には分からないが、おそらくここは1号館で間違いない。
「教授、このような研究が許されるわけないですよ」
女の声。
「企業からの寄付金が集まる金の成る木案件なんだよ。倫理なんかどうでもいい」
おそらく教授の声。
2人は僕に気づいていないようだ。
でも、この2人って!




