第4節 五色邂逅
第4節 五色邂逅
1-1
段象『とりあえず、その✕目の男は機動力が一番高いジジイが一旦見張っててくれ。
もうすぐ封魔第三部隊が到着するので、身柄を受け取りに行く』
段象『その間に、急ぎシンと戌亥は社へ。まだどんな呪詛師がいるかも分からんが⋯
戌亥の呪い耐性は必須だろう』
シン「えぇ!?こ、こんな新人と二人で特攻なんてぇ!怖いですよおお!」
大粒の涙を流し抵抗するシン
戌亥(さっきからなんなんだ⋯。)
心象「ふむ。では馴染。戻してくれ」
馴染(わかったわ。)
祈りを捧げる馴染。
シン「怖いよぉ!新人なんて絶対足ひっぱられるじゃないかあ⋯⋯戌亥くん、行きますか。」
馴染が祈りを捧げた途端、涙を流し嫌がっていたシンは、電源が切れたように無表情になり、またいつもの口調で話す
戌亥(えぇ⋯?)
心象「ガハハハ!驚くのも無理はない。馴染の祈りは"呪詛交換"といってな。
儂の持つ"不老"の呪いと、シンの持つ"不死"の呪いを、さっきまで交換しておったんじゃ!!」
戌亥「不老と⋯不死?」
シン「そうです。それを今戻しました。
僕は不死の呪いにより"死にたくても死ぬことができません"(•‿•)
まぁ、不老の呪いにも"成長しない、自然治癒しない"という代償がありますがね。」
心象「痛覚や苦しみは当然あるがのう!どれだけバラバラにされようと、心臓を中心に再生する。長年その呪いで地獄のように苦しんだシンは、感情を無くしたのじゃ!」
馴染『その代わり、不死の呪いが無くなっている間は、もう一つの人格⋯"ジン"になるのよ』
シンとジン⋯
先程までのやたら泣いたり怯えたりしていたのはジンだったのかと理解する戌亥
段象『これが甲班だ。不死と不老の呪いを状況に応じて交換し、使い分ける。
そうして文字通り"不死の甲班"となったわけだ。』
シン「とりあえず、長話をしている暇はありません(•‿•)
急ぎ社へと向かいましょう」
戌亥「あ、あぁ…(さっきのテンションを見てると、こっちもこっちでやりづらいな…)」
封魔第三部隊の応援が駆けつけるまで気絶している✕目を見張ることになった心象を横目に、
シンと戌亥は社のある山頂へ向けてまっすぐ走った。
鳥居が見える。
あと数十秒で境内。
――しかし。
段象(通信)『止まれ!!前方30mに誰かいる!』
滑るように戌亥・シンの足が止まる。
鳥居の下に、白布の仮面。
目の位置には大きな△。
△目「ようやく来たか…
特異対策局。
…もうすぐ終わる。ここで少し、我輩と遊んでいこう。」
声は平坦、だが空気は乾いていく。
ザザザザッッ
風が吹いた瞬間、周囲が黒く変質していく――
草も木も土も、死骸も、ただの炭の塊へ。
戌亥(……触れたら終わりだ)
△目「安心しろ…。
存分に苦しませて殺してやる。」
呪詛師を確認した後、シンが一歩前に出る。
ただの会話のような声で、
シン「……段象さん、周囲に他の呪詛師の気配はありますか?(•‿•)」
段象『いや、無いな。恐らくソイツ一人だろう。』
△目「何をーー。」
シンが駆け出す。
懐から小さな小刀を取り出し鞘を抜く。
△目「直線で向かってくるとは、愚かな!」
△目の男が手を差し出した瞬間、周囲の木々や地面は黒く渇き、熱を帯びた。
戌亥「炭化…!?」
△目「炭となれ!」
シンの体が黒く染まり、亀裂が走る。裂け目からは赤い熱の光が漏れてーーーまた通常の肌に戻る。
△目「な!?呪いが効かないのか!?」
シン「いや?効いていますよ☺
再生してるだけです(•‿•)」
シンは止まらない。
△目「ならばこれでどうだーーッ」
グシッ
そして――
△目の布面の中心に、シンの持っていた小刀が刺さる。
シン「源公よ、現世の奥へ彷徨え」
△目「な、なん…ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ァァァァァァァァァ!!!」
呪詛を唱えた刹那、△目の男は途端に苦しみだし、面に巻いた白い布が深紅に染まり倒れた。
ボゴッ
胸腔が内側から破裂し、△目は石畳を何十メートルも転がり砕けた。
抵抗の暇さえない完殺。
シンは無表情のまま頷く。
シン「……段象さん、捕虜は一人いればいいんですよね?(•‿•)」
段象『…殺してから聞くな』
戌亥は息を呑んだ。
あの小刀は――“呪具"。
そしてシンが呟いたのは"呪詛"
どちらが恐ろしい呪詛師か、分からない
シンは振り返らず、境内へ向き直る。
シン「さぁ、手遅れになる前に行きましょう(•‿•)」
戌亥は背筋に寒気が走った
炭化し崩れ行く木々の熱さの中で
そのとき、境内から――獣とも子どもとも分からぬ悲鳴が上がった。
戌亥「この声は…ギン子……!!」
黒紋が疼く。
白炎が、怒りに呼応して爪痕をあげた。
戌亥はシンを追って、境内へ駆け入る。
―――そして地獄が広がっていた。
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1-2 社・焦熱の前庭
境内に踏み入れた瞬間、空気が変わった。
焦げた臭い。血の臭い。焼けた獣皮の甘い匂い。
地面は黒く、泥と灰が混じりぬめり、足音ひとつで濁った水音が跳ねた。
そして、目に飛び込んできた光景は地獄そのものだった。
境内中に倒れた狐たち。
毛皮は焼け落ち、四肢は不自然に折れ曲がり、裂けた喉から黒い血が広がっている。
眼球のない頭蓋。半身だけ残った胴。子狐の遺骸。
まだ息があるものもいたが痙攣するだけで、ひとつとして声は上げない。
戌亥「ッ……!」
喉が勝手に震えた。
右の黒紋が熱を帯びて脈打つ。
その最奥――社の前に、黒い狐たちが残されていた。
血まみれで立ち塞がるように輪を形作り、奥にいる者を守っている。
そこに――ギン子がいた。
両脚が砕け、片腕はぶら下がり、白銀の毛は黒く焼け焦げている。
それでも社の扉の前から動かない。
さらに後ろへ進ませまいと牙をむき、低く唸り続けていた。
ギン子「ォ…………ッ……!ここは……通しませ…ん…!!」
声は掠れ、涙なのか血なのか見分けられない。
その真正面に立つ、二人の仮面の男
ここまでに出会ってきた白布面の男たちとは明らかに纏うオーラが違う
戌亥「ギン子さん!!!!」
戌亥の声に気づき、こちらを振り向いたのは赤い仮面の男
赤仮面「よく来たなッ!!
待ちくたびれたぞ特異対策局ッッ!!」
赤い仮面の男の声と共に振り返る
紫色の仮面
紫仮面「ほんと。遅かったわね。
"候補生"の3人は、よく足止めをしてくれていたようね♡」
赤仮面「遅れてやってくるとは…ヒーローみたいだなッ!
だが、遅すぎて救えなければ意味がないッッ!
俺の名前は赫!
そしてこっちのデカい男は叢咲ッ!」
叢咲「デカいは余計よっ!」
赫「ここにある"呪眼の仮面"は貰っていくッッ!!」
赫――真紅の面をした男は
全身に火花を散らし、拳を握りしめ、戦隊ヒーローのような決めポーズをキメる。
もう1人は 叢咲――紫の面。
巨体に電撃を纏い、物憂げなオネエ口調で鼻を鳴らす。
ギン子「戌亥さん!!逃げてください!!ここは……ここには来ちゃ駄目です!!」
ギン子の叫びの意味を理解するより速く――
赫の影が消えた。
火花が一瞬、地面で尾を引き――
赫「遅いッ!!」
爆音。
跳び蹴りと爆破が同時に襲いかかる。
戌亥は直感で身を逸らす。だが――
皮膚が焼け、肉が抉れる感覚。
左腕が、黒く炭化し焦げ落ちた。
戌亥「ッ、アアアアッ!!」
赫「フム!!判断は悪くないッッ!!
だが俺は“ワンパン”で終わらせる気はないぞッ!!!
正義の味方には“苦戦がつきもの”だからなッ!!」
仮面で顔は見えないが、
笑っているのが分かる。
だが笑顔の奥に、殺気だけは凶器のように鋭い。
同時に――シンが小刀を抜き叢咲へ跳ぶ。
シン「一撃で仕留めます(•‿•)」
叢咲「あらやだ可愛い坊や♡
でも急に刺そうとするなんてマナー違反って知らないの?」
紫電が迸り、刀が弾かれる。
そのまま奔る雷がシンの胸を貫き、肉と骨が焼け崩れる――
だが、シンは倒れない。
シン「電撃の異能ですか…
恐ろしい力ですが、鈍化や石化の呪いの方が僕としては厄介でしたね(•‿•)」
叢咲「ほんっと、話には聞いていたけどやりづらい子ぉ〜〜!!♡」
瞬く間に 戌亥と赫、シンと叢咲 の二戦に分離。
赫の爆破は呪いではない。
だから戌亥の耐性は意味を成さない。
赫「反撃しろよ!!
俺がッ!一方的にッ!
殴っていてはッッ!!
盛り上がらないだろッッ!!!」
拳が振るわれるたび地面は抉れ、空気ごと爆ぜた。
戌亥は蹴り上げられ、木に叩きつけられ、肺の空気が抜ける。
戌亥「コヒュッ…!」
叢咲「あ、赫!
その子は普通に死ぬのよ!
忘れないわよね!?」
赫「あぁ!分かっているさッッ!
だがもっと出来るはずだ!
なあ"禍者"!!
お前はこんなもんじゃないはずだッッ!!!」
禍者ーーー
その言葉を聞いて、その呼び名を使っている男を眼の前にして
戌亥は目を見開いた
戌亥(コイツーーー"フードの男"の仲間かーーーっっ!!!!)
その激情と共に、戌亥の体に白い炎が纏う
そして白炎がブーストとなり、まるでジェット機のように
赫の背後に回り込む戌亥
赫「おお!それだッッ!やるではないかッッ!!」
戌亥「お前…!フードの男を知っているか!?」
赫「フードの男…?そんな奴はどこにでもいるだろうッッ!」
背後に回り込んだ戌亥に、強烈な後ろ蹴りを喰らわせる赫
蹴りの衝撃と共に、爆発が起きて戌亥は吹き飛んだ
境内にある、巨大な御神木が折れる勢いで叩きつけられるが、
戌亥はすぐに立ちあがる
シン(――明らかに殺す気なら殺せる。
わざと追い詰めているな…
何が狙いですかね⋯)
叢咲「よそ見なんてしてる暇あるかしら〜?」
シンのほうも、何度も雷撃に貫かれては再生を繰り返し、執拗に食らいつき続ける。
叢咲「しつこい男は嫌われるって言うけど…ワタシは嫌いじゃないわよっ!!♡」
そこへ、重い地響き。
心象「ガハハハハ!!遅うなってすまんのぉ!!! 」
参戦――しかしその瞬間。
空気が冷えた。
境内の社の奥から、ひとりの仮面の人影が歩いてくる。
青い仮面―― さらに仮面の口元には、符札が幾重にも巻かれている。
赫「蒼!」
赫と叢咲は嬉しそうにそちらを向く。
赫「持ってきたのか!?」
叢咲「取れたのねぇ♥」
蒼は言葉を発しない。
ただ、手に握られたそれ――
“幻視の仮面”
蒼がこちらを見た瞬間、世界が揺れた。
ギン子「そ、そんな!入口は抑えていたのに…!」
赫「ハハハ!!
狐のやることなんてお見通しだッッ!
目的の物は回収できたようだし、撤収だなッッ!」
心象「行かせるものか!!」
心象が飛びかかろうとしたその瞬間
蒼「 ▣夢闇夢▣
夢 夢
呪 静 恨
夢 夢
▣夢幻夢▣ 」
蒼の仮面から、言葉ではない言葉が発せられ
揺れる世界が薄灰色に染まり
静止した
戌亥の筋肉が硬直する。
呼吸が止まる。
心象も、シンも、ギン子も
誰も動けない動かない
赫・叢咲・蒼は社から離れ、森の奥へと姿を消していく。
蒼は最後に一度だけ振り返る。
仮面の奥の目だけが――狂おしいほど嬉しそうに笑っていた。
風景に色が戻り、戌亥たちは崩れるように地面へ倒れ込む。
生き残った狐のもとへ駆け寄る。
戌亥「ギン子!!しっかりしろ!!」
ギン子は息をしている。
だが血の量は異常だ。
ギン子「仮面は奪われました。
ですが、最優先は一族が生き残ること。」
戌亥「あ、あまり喋るな……!血が…!」
ギン子「大丈夫ですよ。心配なさらないでください。」
青白い顔で微笑むギン子を見て、戌亥は血の気が引く
戌亥「し、死ぬな!ギン子…!」
ギン子「あっ、まだ"解除"してなかったですね、すみません!」
その瞬間、景色が揺れた。
境内に転がっていた大量の死骸が――
光の粒となって霧散した。
倒れていたと思っていた狐たちが、次々と姿を表す。
深手ではあるが、生きている。
戌亥「…え?」
シン「んー、でもアイツらも気づいていたようですね(•‿•)」
心象「そうじゃな!!幻覚の中だというのに、仮面も奪われたようじゃ…!!」
ギン子「ええ⋯一族総出の秘伝幻術でしたが、いかように破ったのか⋯。」
戌亥「えっ、、、え、、?」
狐たち「あ、先にきていた方々も、幻覚の中でさまよってるみたいなので助けに行ってあげてください!」
シン「とりあえず、本部に戻りますか(•‿•)」
戌亥は言葉が出ない。
ギン子「とはいえ⋯さすがに疲れました。少し休みます。
この後については、またお話しましょう戌亥さん」
そう言ってギン子と狐たちは暗闇の中に姿を消した
段象(通信)『……戌亥、撤退だ。
仮面は奪われた。作戦は失敗。
ただ封魔第二部隊と狐たちの生存は確認できた。……よく耐えてくれた』
段象『だが、先にも言った通り今回の幻視の仮面死守は上層部案件。取り返さなければ任務達成ではないぞ。』
先程までの激しさからは想像もできないほど、木々は穏やかに揺れていた。
―――次章へ続く
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