第死節 羅生門
戌亥「管理者…?」
蛇神「そうだ。
君たちは特別な存在だ。
式神だからこそ寿命は無く、だが器となるための"心"は存在する。
呪いや祈りといった他者の心を吸い成長する。
これから訪れる永遠の辺獄において、君たち禍者こそ管理者にふさわしい。」
蛇神の言葉に、理解が追いつかない戌亥
横で立つ赫が突然口を開く。
赫「…だが戌亥くんッ!
君は管理者となるにはまだ甘いッ!!」
赫「その守護の天命と、君を連れ出した女のせいで"絶望"を知らないのだッ!!」
叢咲「そう…。呪いは負の感情から生まれるものだけれど。
恐れや怒り、憎しみなんかより、絶望こそが最も強い呪いを生み出す」
蒼「だからこそ、力もろくに制御できていないさ。」
蛇神「君を見つけたときは高揚したよ。君を絶望させるために様々な手を尽くした。」
そのとき、蛇神の目が妖しく、赤黒く光る。
そして周囲にいる黒羊家の者たちを見つめる。
戌亥は、その光に対して、反射的に悪寒が奔る。
蛇神に見つめられた黒羊家の者たちは、蛇神と同じように眼が光り始め、一斉に、そして即座にーーーー
自らの舌を噛みちぎり、自死した。
〜回想
男は薄く笑いながら妖しく目を光らせる。
目が合わせると犬童の目もまた同じ色に光りだした。
闇に溶け込む犬童の黒く太い腕は
蛇のように這う赤黒い血管を浮かせながら
自分自身の顔を覆った。
〜回想終
思い出されるあの時の記憶
戌亥は、理解した
戌亥「お…お前はァァ゙!!!」
蛇神「ふっ…ふふ…。
思い出してくれたかな。
黒羊家の者たちもまた、もう必要ないからね。
"犬童くんと同じように、退場してもらう"ことにしたよ。」
蛇神が言葉を言い終わる前に
戌亥は全身に剛炎を放ちながら飛びかかる。
その炎はいつもの白い炎ではなく
血のような赤色が混じる、闇よりも深い黒の炎。
黒炎を纏う戌亥の鬼の籠手が、
蛇神の喉元へ掴みかかる直前
爆炎と轟雷が戌亥を貫き押し戻す。
赫「おっとッッ!」
叢咲「こらこら、焦っちゃやーよ♡」
赫と叢咲が、蛇神の手前に立つ。
蛇神「君が生きていたせいで…
いや、君と仲良くなったせいで犬童くんは死んだのだ」
戌亥の怒りと憎しみの感情が、
悲しみと罪悪感に蝕まれる
蛇神「ふっ…ふふふ。
まぁ君の代わりは5人いる。
正直な話、もう君はいなくなっても良くなった。」
蛇神「…いや、むしろ邪魔なだけだ。
これ以上禍者が増えないように黒羊家も潰したのだし、彼らが管理者として君の代わりを全うするだろう。」
蛇神「始末しておいてくれ。
禍者たちよ。」
総裁の亡骸も、爆炎で崩れゆく黒羊家の屋敷も、
すべてを背に、蛇神は静かに歩き出す。
その後ろに馬ヶ原が続く。
戌亥「……待て!!」
反射的に叫ぶ。
戌亥の叫びと同時に、去も前へ出た。
去「逃がすかよ……!!」
その瞬間――
去の前に、青い影が降り立つ。
静かに。
だが、確実に進路を塞ぐ位置に。
蒼「……ここまでさね」
去「……モモ……」
蒼は、わずかに首を振る。
蒼「その名前は、もう使わない」
蒼「今の私は――蒼」
去「……どけ」
低く、唸るような声。
蒼は、去を見る。
その視線は、仲間を見るものではない。
蒼「忘れたさ?
戌亥も去も…私には攻撃できない。
それに⋯」
蒼「…仮に攻撃できたとしても、私には勝てないさ」
蒼「不動凍治」
その一言で、
去の周囲で空気が“一変”した。
去「……っ!?」
身体が、言うことをきかない。
踏み出そうとした脚が、まるで凍りついたように止まる。
去「……なん、だ……?」
蒼「去はそこで待っておくさ。」
去の膝が、音を立てて地面につく。
去「……クソ……!!」
歯を食いしばり、必死に抗おうとする。
蒼は、わずかに目を伏せる。
蒼「……ごめんさね」
去は理解する。
これは力の差ではない。
構造の差だ。
命令する者。
命じられる者。
去「……ふざけるな……」
去「俺は……まだ……!」
蒼が一歩、前へ出る。
蒼「去」
蒼の呼びかけと共に、去の眼と蒼の眼が合う。
蒼「――
▣夢闇夢▣
夢 夢
呪 静 恨
夢 夢
▣夢幻夢▣
」
去の身体が、完全に停止した。
戌亥「あれはッ!!」
叫びながら、戌亥は去の元へ行こうとする。
だが、赫と叢咲が行く手を阻む。
赫「お前はッ!
ここで死ぬのだッ!!」
叢咲「お役御免ってわけね〜」
戌亥は黒炎を弾けさせながら飛び回るが、叢咲の電流と赫の爆炎が戌亥の右足に直撃する。
叢咲「ねえ…。今からでも私たちの仲間になりなさい。
それなら殺す必要はなくなるわ。」
赫「ムッ…叢咲ッ!!
何を言う!!!」
叢咲「赫は少し黙ってて。
落ち着いて考えてほしいの。
今はアナタは私怨で我を忘れているかもしれないけれど…
そもそも世界は既に呪いに侵されているわ。」
叢咲「遅かれ早かれ、いつかは飲み込まれる。
総裁はそうならないように、完全統治の元、人々を飼育しようと思ったのだろうけど…」
叢咲「それならいっそ、今のうちに解放して、呪霊でもなんでも生き残れる者が生き残る。
そんな自由な世界にしたい。
…これは救いなのよ?」
戌亥は、叢咲の落ち着いた話し方で少しだけ冷静になる。
戌亥「耐えられない者は…死ぬしかないのか。」
叢咲「逆にそれ以外あるの?
強者が弱者を助けて助けて、助け続けて…。
終わりのない苦しみを背負わせ続けるのかしら?」
戌亥「だけど…!」
戌亥の脳裏には、真守や丑嶋、猫武といった呪いとは無縁の生活を送る者たちが浮かぶ
赫「叢咲ッ!
彼には何を言っても無駄だッ。
それよりも俺達もさっさと行かねばッ!
黃と翠は先に行ったぞッ!」
黃と翠…おそらく5人いたイノルンジャーの残り2人。
黄色の仮面と、緑色の仮面をした者たち
不思議と冷静になった頭で、そんな事を考える戌亥。
戌亥「去も…殺すのか?」
叢咲「さぁ⋯それは彼次第ね。
邪魔になるようなら⋯殺すわ。」
赫「これから生まれる、俺達の世界にとって不要な者は死ぬ!
蛇神さんは俺たちに約束してくれたッ!
世界を創った後は、俺たちに任せるとッ!
蛇神さんが神となる新たな世界で、俺達は王として君臨するのだッ!!」
戌亥「王⋯。」
叢咲「そうよ。
今まで黒羊家に、祈りの輪に飼われていた私たちを解放し、自由を約束してくれた。
だからこそ蛇神さんに協力しているのよ。」
戌亥「それならお願いだ⋯
俺がお前らの仲間になれば、去や他の皆を助けられるのか?」
叢咲「⋯アナタ次第ね。」
叢咲「少なくとも⋯アナタが私たちを信じられる根拠をあげるなら⋯。」
叢咲「蒼の呪詛はアナタにも通用するでしょう?
それは何故か、、彼女の言葉は呪いではなく"祈り"だからよ。」
戌亥「⋯!」
――祈りの力は、信じることで成立する。そして、正の感情で生み出される。
戌亥「モモ⋯」
戌亥「分かった⋯俺はお前たちの仲間にーーー」
「何勝手なことを言ってるんですか?」
言葉と共に、刀が戌亥の背を貫く。
枢「蛇神さんは、"始末しろ"と言ったんですよ。
聞いてましたよねえ」
叢咲「馬ヶ原⋯ッ
先に行ったんじゃ⋯」
枢「ハハハ。
こんなこともあろうかと思いまして。
とりあえず、言われたことはしてもらわないと。」
深く、深く突き刺さる刀。
身体が重く、鈍くなっていくのが分かる。
枢「あっ、君と仲の良かった人たちも、一応殺しておきますね〜。
後々邪魔になりそうだし!」
枢は刀を抜き、上段に振り上げる。
枢「世界のこと、自分自身のこと、、そして友達を殺した人。
君が知りたかったこと、全部知れてよかったじゃないですか!」
にこやかに笑う枢に、叢咲は不愉快さを覚えたが、どうすることもできないと悟った。
枢「君の天命も、ここで終わりです。」
戌亥「ま、待て⋯!
皆は⋯皆は関係な⋯!」
戌亥が言葉を言い切る前に、
振り下ろされる刀。
戌亥の意識はここで潰えた。
今度は、幻覚でも何でもなく。
ーーーーーー
枢「さて。
行きましょうイノルンジャーの皆さん!
世界を救いに!
あ、イテッ」
枢は歩きざま石に躓き転ぶ
枢「あたた⋯かっこつかないなぁ。」
ーーーーーー
Partners 〜戌亥隼人の奇怪譚〜
終




