表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Partners 〜戌亥隼人の奇怪譚〜  作者: 土ノ子ウナム
第四章 二兎を追う者は一兎をも得ず
23/31

第3節 唸るジャイロボール1-1

1-1

朝。

雪が日光を反射し、白く照らされた町は、夜とは全く別の顔をしていた。


屋根。道。露店。

すべてが白に包まれ、きらきらと輝いている。


戌亥は、思わず目を細めた。

戌亥「……すごいな」

去「おう⋯。寒ぃけどな!」

モモ「雪ーーーっ!!」


モモは叫ぶなり、雪に飛び込んだ。

ズボッ。

モモ「……ん?」

腰まで埋まって、もがいている。


モモ「……戌亥。引っ張るさ」 戌亥「はいはい」

手を取って引き上げると、

モモの髪も服も雪まみれだった。


去「なにやってんだお前」

モモ「雪がモモと離れたくないって⋯!」

去「意味わかんねぇ」


町の通りには露店が並び、

焼き物、酒、布、木彫りの人形などが所狭しと並んでいる。

「雪だるま饅頭!」

「熱燗ありますよー!」

「投げ雪用、特製雪玉!」


モモ「見ろ戌亥!あの雪だるま、顔が悪いさ!」

戌亥「……確かに、目が完全に死んでるな」

去「呪われてんじゃねぇのか」

店主「ちょ、縁起物だよ!?」


モモは屋台の前で立ち止まった。

モモ「むっ……?」

戌亥「どうした?」

モモ「この雪像……なんか……」

 

じっと見る。


去「なんだ⋯?」

モモ「……ちょっと似てる。」

去「誰にだ」


モモ「モモに!」

去「⋯は?」


雪で作られた少女像。

腕を組んだ偉そうな立ち姿。

戌亥「そうかなーー」

胸が平らで、真っ直ぐ雪が落ちている。

去「……言われてみりゃあ一緒だな。」


モモ「やはり!町公認のモモ像さね!縁起物さ!」

去「勝手に認定すんな!」


少し離れたところで、

寅が酒の入った紙コップを片手に、雪を踏みしめていた。


寅「いやぁ〜、昼の雪祭りもいいねぇ」

戌亥「……朝から飲んでるんですか⋯。」

寅「寒いだろ?体の内側から温めるんだ」

去「ただの酒飲みだろ」

寅「否定はしねぇなあ!」


寅も合流し、三人+一人で歩いていると、町の広場に大きな掲示板が見えた。


【第十回 終戦記念雪合戦】

【優勝賞品:町伝統 手作り雪人形】


モモ「これさ!これが例の雪合戦さね!」

去「大戦が終わって十年、か」

戌亥は掲示板を見つめる。


後ろでは、雪で遊ぶ子どもたち。

笑い声。

その光景が、少しだけ胸に引っかかった。


人混みから少し外れ、

川沿いの雪道を歩く。

寅は、ゆっくりと口を開いた。

寅「……なぁ、戌亥くん」


戌亥「はい」

寅「根津のこと⋯なんだが。」

戌亥「……はい」


少しの沈黙。


寅「俺は生きてると信じてるんだ……」

寅「不器用な男だったが、勝手におっ死ぬような無責任なやつではなかった。」


戌亥は頷く。


戌亥「……はい」

寅「それにな、アイツは局の中じゃ一番“人”だったよ」

寅「俺が怪我したときもな、

『生きてるなら十分だ』

って、そう言いやがってよ」


寅は笑う。


寅「局の連中、特に班長や上層部ともなると“任務”を見るが、」


寅「アイツはいつも“人”を見てた」


戌亥「……そう、ですね。」

寅は、少しだけ目を細めた。

寅「戌亥くん」

戌亥「?」

寅「アイツは君のこと、よく話してたよ。」

戌亥「……え?」

寅「“危なっかしいが、放っとけねぇおもしろい部下だ”ってな」


寅「なぁ、根津と最後に会ったのは、多分戌亥くんだろう?

なんか⋯言ってたか?」


戌亥は、言葉を失う。

戌亥「それは⋯。」


去が割って入る。

去「……昔話よりも、寅さんよ。」

寅「おう?」

去「今日呪詛師が来るって話、そもそも確かなんだろうな?」


寅は一瞬きょとんとして、

それから笑った。


寅「わからねえ!!」


寅は、軽く引きずる自分の左脚を軽く叩く

寅「罠の可能性もある。」


戌亥「罠……?」

寅「俺と根津は特異対策局時代に、そりゃあたくさんの呪詛師から恨みを買ってる。

この足だってそうだ。」


寅「俺を殺すため、潰すためにおびき出す罠の可能性ももちろんある。」


去「⋯だろうな。」

寅「だけどよ、そうじゃなかったらどうする。後悔してもしきれねえや。」


寅「それに……特異対策局があろうと無かろうと、平和な社会に仇なす呪詛師は、止めなきゃならねえ。」


寅は苦笑する。


寅「まぁ、罠かもしれないからこそ、君たちに協力をお願いしてるってのが格好つかねえけどな。」


去「⋯まぁ、わかってるならいい。

そんで、その呪詛師の目星はついてるのか?」


寅「あぁ。そもそも目的は多分優勝景品の雪人形⋯の装飾として使われてる雪藁紐だ。」


寅「世にも珍しい透き通るような藁紐でな。

これが呪具の補修や祈祷の品を作るのにぴったしだと言われてる。


呪いや祈りの基となる想いの力を、よく通すってな。」


去「なるほど。俺は聞いたことねぇが、呪具を使うタイプの呪詛師からしたら、喉から手が出るほど欲しいってことか。」


寅「まぁな。

もちろん必須ではないが、金で買えるようなものでもないしな。


あの紐は確かに想いの通りが良くなる気がする。」


戌亥「…それを、奪いに来ると?」

寅「まぁ、いきなり襲撃してくるとは限らねえ。

特異対策局が無くなったつっても、今は祈りの輪の奴らもいる。


祈りの輪は呪霊だけじゃなく、呪詛師にも対応しつつあるらしいし、実際奴らの戦闘力は高いだろう。」


去「なら正々堂々雪合戦に参加するってことか?」


寅「参加する可能性も高いな。だが正々堂々ではないだろう。

何しろ呪詛師だ、優勝するために、相手への妨害やら自身の強化やらするんじゃねえかな。」


寅「正々堂々参加して景品として受け取るってんなら、止める理由はねえ。

だが、民間人に危害が出てからでは遅いのも事実。

何か起きる前に止めたい。」


モモが胸を張る。


モモ「立派なヒーローさ!」

寅「ははは!ありがとよ!」

寅は、空を見上げた。

寅「まぁ、、今まではヒーローとは言えないやり方ばっかだったからな。

せめて局が無くなったこれからは、少しでもヒーローとして人を助けてえんだ。


戌亥くんは、その意味わかるだろ?」


戌亥は少し間を置いて答える

戌亥「まぁ⋯そうですね。

特異対策局のやり方ではない。


特異対策局は、、依頼達成の為なら、民間人への被害も辞さないやり方も多かったですから。」


寅は少し足元を見つめて、また真っ直ぐと前を見る。


寅「祭りなんて、町の人たちが楽しむためのもんだ。子どもたちにとっても、遊びみてえなもんだ。」


寅「⋯そんな遊びを守るために戦うのが、大人の仕事だと思ってる」


戌亥は、ゆっくり頷いた。

戌亥「……分かりました」


遠くで、

雪玉が空を飛ぶ。

笑い声が弾けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ