第2節 去先生の呪術講座1-2
夜。
山道を抜け、辺りは徐々に白く染まる。
町に着く頃には、雪は身の丈ほどの高さにまで積もっていた。
急いで宿をとり、荷物をおろす。
肩が軽くなる。
去「とりあえず2部屋空いてて良かったな!モモが下の酒場で飯にしようってよ。」
戌亥「あぁ。すぐ行くよ。」
去「⋯おう。先に行ってるぜ!」
階段を降りていく音。
戌亥「言霊⋯呪いへの理解か⋯。」
戌亥の身に宿る異能。
鬼の籠手と、白炎。
戌亥(白炎は島の憎しみ、絶望、、、燃やし断罪したいという逆恨みから生まれた呪い)
戌亥(鬼の籠手は⋯犬童と初めて会ったとき、、、あまり思い出したくもないが最初は犬童にかかる呪いだった。
それを俺が引き継いだ⋯。)
戌亥の持つ呪いは自身から生まれたものではないということに、改めて気づく戌亥。
戌亥(俺は他人の呪いを使ってる、、そもそも呪いが効かないっていうのも、俺が式神だからなのか?)
戌亥は深く息を吸って、指先から小さく白炎を出した。
戌亥(呪いのコントロールか⋯。)
指先の炎を浮かしたり沈めたり、くるくると指の周りを回す。
すると下の階から去の大きな声が聞こえた。
去「おーーーい!!戌亥!!
いつまでかかってんだ!
さっさと来いよ!!
モモが酒呑みやがって、お前も相手しろーー!」
戌亥「はいはーい!」
戌亥は白炎をしまい、あえてゆっくりと階段を降りていった。
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雪の町の酒場は、外の静けさが嘘みたいに騒がしかった。
薪のはぜる音。
笑い声。
酒を注ぐ音。
壁には古い写真がいくつも貼られている。
雪合戦の集合写真。
その隣には、色あせた写真――軍服姿の若者たち。
【終戦記念 雪祭り 初回開催】
という手書きの札。
戌亥は、その写真から目を逸らし、席に着いた。
店主「あいよ!」
目の前に、大きなグラスと並々と入った酒。
戌亥「まだ頼んでないんだけど⋯モモ「頼んどいたさ!!戌亥も飲むさ!!」
戌亥は、なんとも言えない気持ちで杯を持ち上げた。
モモはすでに上機嫌だった。
モモ「果実酒おかわりさ!」
店主「はいはい、お嬢ちゃんはよく飲むねぇ」
去「ちなみにコイツ何歳なんだ⋯?」
モモ「乙女の年齢を聞くとは!無礼者め!」
ゲシゲシと両の手で去の肩を叩くモモ
去「あーっ、うぜえな!」
モモを止めようと、肩で押し返す去
モモが押し返された瞬間
去「んぁぁ!ァ゙ダダダ!」
激しい頭痛に襲われる去
モモ「モモに攻撃したからさ!」
去「攻撃じゃねえだろ!」
戌亥「厄介なことに判定ガバガバなんだよね⋯。」
モモ「やぁーい!」
酒場で一番騒がしいのは、僕らかもしれないと
戌亥は笑いながらため息を吐いた。
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落ち着いた去は串焼きを片手に、豪快にかじっている。
去「……この町の飯は味が濃いぃな。」
モモ「それは寒いからお酒を飲むさ!!去は箸を持つのが下手さね〜」
去「うるせえなァ、普通に握ると割れちまうんだよ!」
モモ「確かにこの肉はうまいさ!」
戌亥「話通じてるのか⋯?」
戌亥が苦笑した、そのとき。
「おうおう!
若いのが三人も揃って、ずいぶん楽しそうじゃねぇか!」
やけに通る、陽気な声。
振り向くと、
店の入口に――
にこにこ笑うおじさんがいた。
厚手のコート。
少しの無精ひげ。
目元に深い笑い皺。
左脚をかばうような立ち方だが、それを隠そうともしていない。
男「いやぁ〜、雪の町はいいねぇ! 寒い!うまい!酒が進むだろう!」
勝手に隣の席に腰を下ろす。
去「……誰だァオッサン?」
男「おっと、失礼!」
男は大げさに頭を下げた。
男「俺は寅と呼ばれている!
ただの流れ者で、酒好きで、ちょいと昔に怪我しただけのおっさんさ!」
戌亥は、一瞬だけ警戒する。
戌亥「…寅…?」
寅はそれに気づいたのか、すぐに笑った。
寅「あぁ、安心しな。 もう“特異対策局”の人間じゃないぞ」
去「…特異対策局だと…?」
寅「おっと、そっちの兄ちゃんも警戒心バリバリだねぇ。
局は君のことも"追っていた"からなあ。
⋯だが安心しな!もう局は無いんだ!」
モモ「おじさん、うるさいさねぇ〜」
寅「ははは!手厳しいねぇ!」
寅は酒を一口飲んで、ふぅと息をつく。
寅「しかしなぁ…… 局がなくなるたぁ、思わなかったねぇ」
戌亥の手が、わずかに止まる。
寅「俺の相棒もよ、局が無くなってからふっと居なくなっちまってよ。
俺は怪我で長いこと療養してたから、治って現場復帰かと思ったらこれよ!」
寅「世知辛いねぇ」
戌亥「…怪我…トラさん⋯」
寅「ん?」
戌亥「!もしかして根津さんの……」
寅「ああ!」
ぱっと顔が明るくなる。
寅「そうだよ!乙班で一緒だったんだよ!
口はちょいと無愛想だが、根は優しくてなぁ。」
寅は、からりと笑う。
寅「俺は今は“フリーの怪異探偵”さ!
依頼は来ねぇ!金もねぇ!
だが呪いに困ってる人は放っとけねぇ!」
モモ「ヒーローさね!」
寅「おっ、分かってるねぇお嬢ちゃん!」
去「……ただの厄介事好きだろ」 寅「ははは!否定はしねぇ!
呪いや呪詛師の話があればどこにだって行くよ俺ぁ!」
一気に場の空気が緩む。
戌亥も、少しだけ肩の力を抜いた。
しばしの団欒が戌亥たちを包んだ。
去は少し声を落としながら問う。
去「で、寅さんや。アンタがここに来てるってこたぁ、この町でなんかあんのか?」
寅は酒を一口含み、答える
寅「この雪祭り。明日の""雪合戦"が本番だが……」
寅「その景品目当てに、呪詛師が来るというタレコミがあったんだ。」
寅は、冗談めかした調子のまま言う。
寅「せっかくの雪合戦を、血生臭くさせるわけにはいかねえ。」
モモ「それは許さんさ!」
去「……だから俺らに声かけたってわけか」
寅「ハハハ!そういうこった!」
寅は、戌亥をまっすぐ見る。
寅「頼む。協力してくれねぇか」
寅「若い力が必要なんだ」
戌亥は、少し考え――モモと去を見て頷いた。
戌亥「……分かりました」
寅「ありがてえ!」
寅は、嬉しそうに杯を掲げた。
寅「じゃあ今夜は前祝いだ! 明日は雪玉投げて、呪いも投げ返すぞ!」
モモ「うまい!去!座布団1枚さ!」
去「……なんでそうなるんだ」
酒場に、笑い声が響く。
外では、雪が静かに降り続けていた。
そして――
新しい“争い”が、白い雪の下で形を成し始めていた。




