第2節 去先生の呪術講座1-1
山道を抜ける頃には、空気が少しだけ柔らいでいた。
去が先を歩き、 戌亥がその後ろ、 モモはというと、二人の間をちょろちょろしている。
モモ「いやぁ、家来が増えるのは良いことさ!」
去「増えてねぇ。
勝手に数えてんじゃねぇ⋯と思う。」
戌亥「否定の仕方が弱いよ、もう。」
去「お前も分かるだろ。
どこからが逆らい判定になるんだコレ⋯」
二人を見ながらモモはケタケタと笑っている。
戌亥もつられて笑いながら、ふと思い出したように言った。
戌亥「⋯そういえば去。」
去「んぁ?」
戌亥「お前、言霊がどうとか、印がどうとか言ってたよな。
あれ、どういうことなんだ?」
去「あー、まぁそうだな。
別に隠すようなことでもないしな。」
去は少し歩くペースを下げ、戌亥の方へ振り返りながら話す。
去「いいか。 まず大前提から話すぞ」
モモ「あっ!蝶々が飛んでるさ!」
◆ 呪いと異能の基礎
去「これはお前も知ってると思うが、呪いも祈りも、元は心の力だ」
戌亥「心……感情のことだよな」
去「まぁ平たく言えばそうだ」
去「怒りや憎しみ、恐怖、執着⋯」
去「そういう“負の感情”から生まれるのが――呪い」
戌亥は白炎に包まれながら絶叫する島を思い出す。
去「逆に、 願い、希望、誰かを想う気持ち⋯」
去「それが強くなれば――祈りと呼ばれる力になる。」
モモ「ふむふむ。つまり、モモの力は祈りさね。」
去「……どこがだオイ」ボソッ
戌亥は真剣な眼差しで聞いている。
去「そもそも俺達人間が使う異能ってのは、おおよそそのどっちかが基になって、身体や性質として根付いたもんだ」
去「呪い由来の異能もあれば、 祈り由来の異能もある」
戌亥(……鬼の手は、どっちなんだ)
去は続ける。
去「呪いには大きく二つある」
去「呪術型。そして、被呪型」
去は指を二本立てた。
■ 呪術型
去「呪術型ってのは、 負の感情を“誰か”や“何か”に向けてぶつけるタイプだ」
去「そもそも人を呪うなんて、本来抑えられないような強い負の感情から始まったもんだ。
上手くコントロールなんて出来やしねえ。」
去「だからこそ、コントロールするために言霊(技名)を使う」
戌亥「……具体化するためってことか?」
去「まぁ〜⋯そうだな。」
去「言葉には力が宿る。冷えろと言いながら燃やすことは難しい」
去「燃やしたいなら、『燃えろ』と言う方が形になる。
なんとなく分かるだろ?」
戌亥「なるほど。」
モモ「萌えろ!萌えろ!」グヌヌ
戌亥「⋯。」
去「そんで、印を結ぶってのは、更にその補助みてえなもんだ。」
去「俺みたいに手や体を使うやつもいれば、紙に呪印を書いたり、札に呪詛を書いたり⋯。
印って言っても、これは多種多様だ。」
去「そもそも正解なんてねえ。たまたま見つかるもんもあれば、呪詛師一族が代々受け継ぐ秘伝の呪印ってのもある。」
戌亥「印を結ぶことで、呪いを安定させたり、威力を引き上げたりするってことか。」
去「ま、印の効果はほんとにそれぞれだ。俺の【如意亡】も別に印を結ばなくても発動はする。
だが、射程を長く、よりまっすぐに飛ばすためにいろいろ試した結果があの印だ。」
モモ「なんか某ヒーローのスペシ◯ム光線みたいだっ去「それ以上言うな。」
戌亥「なるほど。言霊で呪いの力をコントロールしつつ、印で安定、強化する⋯」
モモ「じゃぁ、名前が長いほど強いさ?」
去「そうとも限らねえ。
それに、戦闘中に長々と話してたら言い終わる前にやられちまう。
ま、それもまた『呪詛』として紡がれていくようなもんだ。」
■ 被呪型
去「そんでもう一つが――被呪型だ」
去「これは“すでに呪われてる”やつが、 その代償を払いながら力を使う」
去「俺みたいにな」
去は、自分の腕を見る。 さっきより少し細くなっている。
去「怪人の呪い」
去「常識外の力が出るが、、、制御できねえ。」
去「それに使うたびに身体に無理がかかる。
痛み、疲労、寿命――何かしら持っていかれるだろうな。」
去「まぁ他にも呪具を使うやつや、狐の一族みてえな固有の異能を持つ奴らもいる。」
去「全部を知るなんてのはむりだ。」
◆ 戌亥への忠告
去「で、だ」
去は戌亥を指さす。
去「俺からすれば、お前は今、 力を使いこなせてはない。」
戌亥「え?」
去「あんな無理やり、、、
よく出来てるとは思うが、、ただ呪いの力を暴発させてるだけだ。
燃費も悪いし、、、何よりあんな戦い方してたら周りにいる俺たちが危ねえ。」
戌亥「……じゃあ僕はどうすれば?」
去は少し考え、 それからぶっきらぼうに言った。
去「⋯それは自分で考えるもんだ。」
去は頭をかきながらまたペースを戻して前を進む。
去「意地悪ってわけじゃねえぜ?俺にはお前の負の感情も、どんな力として扱いたいのかも、なんも理解してやることは出来ねえからよ。」
去「それに、その呪い自身のこともな。」
三人は進む。北へ。 黒羊家へ。
戌亥「呪い自身への⋯理解か。」
戌亥の胸の中で、 まだ名前のない呪いが、静かにうずいていた。




