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Partners 〜戌亥隼人の奇怪譚〜  作者: 土ノ子ウナム
第三章 虎の威を借る狐
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第死節 羅"ショウ"門

第死節「羅"ショウ"門」


人の気配がない雑居ビルの屋上。

夜風が強く、錆びたフェンスが低く鳴っている。


下を見れば、街の明かり。

上を見れば、雲に滲んだ双つの月。

枢は、フェンスにもたれかかるように立っていた。


背後で、足音がひとつ。

振り返らなくても、誰だか分かる。


枢「言われた通りに“雑務”。

 こなしときましたよっと」


しばしの沈黙。


蛇神「……ご苦労」

淡々とした声で答える。


労いとも、感情ともつかない。

枢は肩をすくめる。


枢「やっぱ呪詛師は二組、雇っといて正解でしたね。

それに猿酒も、ここまでする必要ありました。

アイツら化物でしたわ。」


蛇神「甲班は少々厄介だったからな。」


一瞬の沈黙の後、蛇神は続ける


蛇神「だからこそ――

村ひとつを支配してまで、猿酒を作らせ、さらに甲班に依頼が行くようにわざとバラした。」


枢「はは……

 万事計画通りってわけスか⋯」


蛇神は、小さく首を振る。


蛇神「いやいや。計画通りなものか。

本来は君ではなく、

あの式神もどきに甲班は潰させるつもりだった。


それに、本来は君は祈りの輪へと潜入して、今頃あのヒーローごっこに混ざってもらっていたかったぐらいだ。」


蛇神「計画は、最初から狂いっぱなしさ」


枢は、軽く笑った。

枢「ヒーローごっこかぁ。

それも楽しそうだったかもなぁ。」


蛇神「まぁいい。

結果が出た。それで十分だ。


君の代わりにあっちへ行ってもらった者も、順調に進めてくれている。」


少しの間。

風の音だけが屋上を満たす。


枢「じゃあ……

 残りは?」


枢「戌亥の調査。

甲班の壊滅。

それで――最後、三つ目の“雑務”」


蛇神は、ようやく枢を見る。

蛇神「ああ」

蛇神「特異対策局を、潰そう」


枢は、驚かない。

ただ、少しだけ口角を上げる。


枢「良いんですか?

ここまでの地位を手にしておいて、わざわざ潰さなくてもやりたい放題でしょう。

正直、勿体なくないスか?」


夜風が、蛇神のコートを揺らす。

蛇神「良い。」

即答だった。

蛇神「もう彼らには、十分役割を果たしてもらった。

残しておいて、次の甲班が生まれるのも面倒だ。」


枢は、目を細める。

枢「……役割、ね」

蛇神は、街を見下ろしながら続ける。


蛇神「国と繋がり、呪いを管理し、育む。

彼らは役割を十分に果たした。」


蛇神「特異対策局が育んだ呪いは、祈りの輪のおかげで一般社会へ認知され、浸透しつつある。」


蛇神「隠す段階は終わった。

これからは――溢れさせるだけだ」


枢「いよいよ、

“特異点”ってやつが拝めるわけスね〜」


蛇神は、低く笑う。

蛇神「ふっ……」

その笑いは、どこか空虚で

だが確かに、楽しそうだった。


蛇神「現世が“辺獄と成る”まで、もうすぐそこだ」


蛇神「我々【天呪】が目指す――


辺獄へとな」


風が強く吹く。

枢は、夜空を見上げたまま言った。


枢「……もっと忙しくなりそうっスね」


蛇神「そうだな」


二人の影が、屋上に並ぶ。

街の灯りの下で、

呪いの物語が、静かに動き出していた。


◆ 第三章 幕引き


昼下がりの街。

昼と夕方の境目みたいな、

中途半端な時間。


古びた定食屋のテレビから、

少し大きめの音量でニュースが流れていた。

『――速報です。

 特異対策局は、本日付で正式に解散を発表しました』


油のはねる音。

皿が重なる音。


それらに混じって、淡々としたアナウンサーの声。

『近年の活動内容に対する批判、不透明な権限構造、

市民への説明不足などが問題視され――』


画面には特異対策局本部だった建物の外観。


テープで囲まれ、

報道陣が遠巻きに集まっている。


『世論の反映を受け、

 政府は「役割を終えた組織」として、解散はやむを得ないとの見解を示しました』


テロップが流れる。


【特異対策局 解散】

【市民の安全は今後どうなる?】


カウンター席。

戌亥 隼人は、

味の抜けた味噌汁を一口すすり、テレビを見上げていた。

戌亥(……解散、、、?)


『なお、局長含む幹部職員数名と連絡が取れていない件については――』

アナウンサーが一瞬、言葉を区切る。


『現在調査中とのことです』


映像が切り替わる。

モザイク越しの元職員。

顔を伏せた関係者。

「何も知らない」と繰り返す声。

『――詳細は不明です』


戌亥は、箸を止めた。

戌亥(……あっという間だ。)


ついこの前まで、

あれほど巨大で、あれほど影に徹して、

あれほど揺るがないように見えた組織が。


世論。

ニュース。

解散。


全部、言葉は軽い。

だが――

戌亥(……根津さん、、段象さん、、兎さん⋯。)


テレビに映らないものがある。

「連絡が取れない」

「調査中」

「詳細不明」

それが何を意味するのか。


「……皆、消されたのだろな。

おそらく、呪いの海に沈められたのさっ。」


幼くあどけない声に、似つかわしくない台詞。


「おい戌亥!

ピーマンはいらん!ボクのかわりに食っても良いぞ!」


戌亥「モモ⋯お前なぁ。

ピーマンくらい食いなさい。」


戌亥の対面に座って

ピーマンを箸で避けながら騒ぐ

見た目10代前半ほどの少女

ーーモモ。


黒羊家に向かって北へ歩いてきた道中で、

戌亥はモモの家来になっていた。


戌亥「⋯。やれやれ」


店主が言う。

「なんか怖い世の中になったねぇ。呪いとやらも広まってるみたいだし、お嬢ちゃんたちも気をつけなきゃな。」


戌亥は、曖昧に笑った。

戌亥「……そうですね」


戌亥は押し付けられたピーマンを口に運び、箸を置く。

勘定を済ませ、

立ち上がる。

テレビでは次の話題に切り替わっていた。

天気予報。明日の降水確率。


外に出ると、

街はいつも通りだった。

人が歩き、車が走り、

空は変わらない。


戌亥は、空を見上げる。

モモもつられて空を見上げて快活に話す

モモ「……始まったのさっ!」


誰が。何が。どこから。

戌亥は分からないが、

モモは知ったような得意気な顔で戌亥を見つめる。


戌亥とモモは、店に背を向けて歩き出す。

テレビの音は、

ガラス越しに遠ざかり、

やがて聞こえなくなった。


――第三章 了

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