第参節 猿の湧く星1-2
◆ 村の入口
車列が道とも言えない曲がりくねる山のカーブを抜けた先――
唐突に、村が現れた。
谷間にへばりつくような家々。
薄い煙。夕暮れの赤が、屋根と畑を鈍く染めている。
小さい村と聞いていたが、思っていたよりも民家は多く、
奥には大きな家もある。
……なのに、人の気配がない。
子どもの声も、料理の音も
犬の鳴き声ひとつ聞こえない。
枢(静かすぎるな……それに⋯)
心象が無線を切り、窓の外を睨む。
心象「全員、車から降りろ!!
目的の “村”に着いた!
入るぞ!!!」
ドアが開く。冷たい空気。
そして――鼻の奥に刺さる匂い。
甘いような、酸っぱいような。
腐りかけの果実みたいで、でも生臭い。
枢(……酒蔵の匂い?いや、もっと……嫌なやつ。)
馴染が端末を見たまま、低く言う。
馴染「結界のようね、ここが境目。
外縁の見張り潰しても……“本隊”は村の中ね」
シンが口角だけ上げる。
シン「気配を殺してるようですね⋯。
つまり、僕たちを迎える準備は出来てるかと(•‿•)」
心象はうなずく。
心象「良し。それなら話は早い。基本は制圧。
呪具優先で探索。犠牲は問わないそうだし――いつも通り行くぞ!!」
枢(制圧って言った?今、制圧って言った?
この人、一応民間人もいるはずだよね?)
枢(特異対策局って、やっぱ"正義の味方"って感じじゃないなぁ。)
殺気を隠さない甲班を見ながら
枢は身震いした。
◆ 人の顔
村の中心部であろう大通りを、甲班が並んで歩く。
心象が先頭。
シンが少し後ろ。
馴染は中心に寄り、全体を見ている。
俺は――自然に最後尾に押し込まれる。
家の戸は閉まっている。
窓も板で塞がれているところが多い。
……なのに。
道の角を曲がった瞬間、
大きな建物の前に、3人の男が“並んで”いた。
マスクを着けた長身細身の男
サングラスをかけた金髪ドレッドの男
ヘッドホンを装着した若いイマドキ風の男
共通しているのは、三人とも赤と黒で禍々しい雰囲気を放つ法被を着ている。
馴染「⋯!あの法被、、。
猿魔四兄弟⋯!?」
心象「ほう⋯一級賞金首の呪詛師じゃないか!
しかし一人足らんようだが⋯。」
シン「どこかに隠れているのかもしれませんね。
注意しましょう。」
枢(猿魔四兄弟。
局内で共有されている危険呪詛師の賞金首⋯その中でもトップクラスの危険度を誇る一級賞金首。)
馴染「サングラスの男は魅猿。
ヘッドホンは帰化猿。
そしてマスクの男は岩猿⋯
間違いないわ。」
魅猿「ようこそォ゙!
特異対策局甲班の皆さんン!
知ってもらえて光栄だぜェ゙!」
魅猿「あんたたちゃ裏でも有名な方々だからなぁ゙!
殺せば箔がつくってもんよォ゙!」
心象「ガハハハ!!
こちらとしても貴様ら処分できるのは願ってもないことだ!
もう一人はどうし⋯
っ…!?」
岩猿「⋯ゴニョゴニョ」
魅猿「うるさいジジイだ!黙ってろ。だってよォ゙!!」
枢「へぇ、言葉を止めれるのか。言霊の力を使う呪詛師や祈り子にとってはけっこー天敵な力だね。」
シン「そうですね⋯。とはいえ発動も無条件に誰でもというわけではないでしょう。
それに心象さんは言霊に頼らずとも強いですし(•‿•)」
口をパクパクさせながら、心象は3人に突進する。
心象の突進に何の戸惑いも見せない魅猿が手を上げると、
大きな建物からたくさんの村人が出てきて、猿魔兄弟の盾になる。
村人たちは皆一様に白目を剥いて涎を垂らしている
枢「まるでゾンビみたいだなぁ⋯。」
魅猿「ただの民間人を躊躇なく殺せるのかなァ゙!!?
でも安心しろォ゙!猿酒をつくってたのはコイツらの"意思"だァ゙!
だから"何の罪もない一般人"ってわけじゃないからなァ゙!」
帰化猿「もういいよ。
とりあえずコイツラ殺してさっさと今回の依頼終わらせようよ」
シン「ふーむ、つまり元々この村の人たちは何らかの思惑で猿酒をつくっていたところを、あなたたちが乗っ取ったってわけですかね(•‿•)」
心象は村人たちの前で立ち止まる。
何か言いたげな顔だが、言葉は発せられないようだ。
村人たちは顔色が白く
口元だけ、妙に笑っている。
「おかえり」
「おかえり」
「おかえり」
同じ言葉が、揃って落ちてくる。
枢「馴染姉さん、姉さんの力で、心象さんにいまかかってる口封じの呪いを、相手や他の誰かにうつせないのかい?」
馴染「私の祈りはそこまで万能じゃないわ。
元々宿している呪い同士を交換するって力だから、呪詛や呪術には適応されないし⋯
あと交換する者たちの呪いを詳しく"理解"しておく必要があるの。」
枢「へえ⋯。」
枢は目を細めて空を見上げた。
◆ 調査という名の掃討
シンが手を上げる。
シン「心象さんが話せないので、代わりに僕が指揮権持ちますね」
シン「とりあえず、"任務の妨害をしてくる人たち"は任務遂行の為に排除しましょう(•‿•)」
シン「ということで良いですよね?心象さん」
心象は、振り返らない。
だが枢には、一瞬だけ頷いたように見えた。
魅猿「帰化猿、とりあえずやるぞ。岩猿はあのジジイ黙らせてる間は動けねえ。
俺が奴らを分断するから、お前が一人ずつ殺れ。」
帰化猿「はいはいわかったよ。」
魅猿は怪しげなポーズを取りながら、甲班に背を向ける。
魅猿たちの着ている法被の背面には
"狂者拒マズ、猿者追ワズ"と書かれている。
魅猿「僭越ながらァ゙!兄貴の代わりに俺がお前らに猿魔様の判決を言い渡すゥ゙!」
魅猿「⋯地獄行きだァ゙ァ゙!!」
魅猿の叫びと合わせて
周囲の景色が移り変わる
枢の見える景色は燃え盛る炎と餓鬼の群れ
まさに地獄の様相であった。
視界の中から猿魔兄弟の姿も、甲班の姿も消える
枢(ふーん、ミザルって言うから、目でも見えなくなるのかと思ったけど⋯。
"見え方"が変わるのか、、)
枢(単純に視覚が消失するより厄介かもな。
⋯とはいえ)
魅猿「さぁ何が見えてるんだァ゙!?」
枢(声は変わらず聞こえるようだね。)
枢が思案を巡らせている中、
馴染もまた、見える世界が変わっていた。
とはいえ馴染の見える世界は枢の見た地獄とはまた違う。
花畑の中に無数の蝶が飛んでいる。
馴染『なるほど⋯恐らくこの蝶はあの村人や心象さん、猿魔兄弟たち⋯。
下手に動くと同士討ちするわ!
⋯それに、どれが心象さんとシンくんか分からないと呪い交換も出来ない。』
シン『声は聞こえますね。僕はこちらです。』
一匹の蝶が馴染に近づき、
シンの声が聞こえてくる。
馴染『心象さんは話せないのが厄介ね』
シン「恐らくこの系統の呪術は範囲型のはずです。
とりあえず呪術の届かないところまで撤退しますか。」
シンと馴染は、一旦距離をとる。
呪術のかからないところまで走り抜けると、村の入口まで戻ってきた。
馴染「心象さんと枢くんは来てないわね」
シン「多分、僕らが撤退したのを聞いて、心象さんは手当たり次第に攻撃してるんじゃないですか?
⋯枢さんはぶっちゃけどうなっても良いですし」
馴染「とはいえ、まだ心象さんは不死にさせれてないわ。
大丈夫とは思うけど⋯」
馴染「一旦解呪の祈りを試してみるわ。シンくんも反魂の小刀で呪いに対抗できるかやってみて。」
シン「わかりました(•‿•)」
シンは小刀を取り出し、奥に向かって歩き出した。
◆ 狂戦士
心象(ガハハハ!!)
一人のこった心象には、世界が砂漠と無数のハイエナに見えていた。
心象はシンと馴染が撤退したのを聞き、目に見えるハイエナたちを片っ端から殴り潰していく。
帰化猿「っち、このゴリラ野郎が⋯。民間人も構わず殺してやがるね。」
心象(そこかぁ!)
声のするハイエナに高速でタックルを喰らわせる、がハイエナは身軽に躱して他のハイエナたちの中に紛れる
心象(厄介だのう⋯!仕方あるまい)
心象はメリケンサックをポケットから取り出し、装着する。
心象(狂戦士の拳槌⋯あまり使いたくはなかったが⋯。)
狂戦士の拳槌と呼ばれるメリケンサック型の呪具をつけると、
意識が混濁していき、ただ暴れるだけの獣と化す
心象(グフハハハハフフフフ!!!!)
その分他を寄せ付けない凶暴さと身体能力が引き上げられる。
帰化猿「まじで悪魔みてえなやつだ!兄ちゃんこいつまじやばい!」
魅猿「とりあえず今は近づくなァ゙!」
目が妖しく光り、身体中の血管が浮かび上がる心象は、目につくすべてのハイエナを殴り、蹴り、噛み潰していく。
その姿はまさに、地獄の悪鬼のよう
誰も寄せ付けず、見える生物全てを殺し尽くすまで止まらない
ギャァァァァ
ウォオオアオ
潰される餓鬼たちの阿鼻叫喚の場で、一人動き始めたのは枢だった。
枢(⋯さてと。確かこっちだったかな。)
枢は視界が変わってからも、
方向感覚と、事前に見ていた村の地図を脳内に描きながら
"目的の場所"へと歩き始めた




