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Partners 〜戌亥隼人の奇怪譚〜  作者: 土ノ子ウナム
第三章 虎の威を借る狐
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第参節 猿の湧く星1-1

第参節 「猿の湧く星」


1-1

枢が甲班と合流したのは、西第二区画の外れにある臨時詰所だった。


コンクリ打ちっぱなしの倉庫。 外観は倉庫だが、中身は簡易作戦室。


壁には結界札、床には術式、天井には監視用の霊灯。

――ああ、これ、ガチ案件じゃんか。


枢(空気が重いなぁ。

甲班はいっつもヤバい案件回されてて、あんまり局でも絡めてないし、そもそも北稲荷山で俺たち殺し合ってるしなあ。


これ絶対、笑っていいような現場じゃないやつだなぁ。)


心象「よし、全員揃ったな!!」

甲班のリーダー格――心象しんぞうが前に出る。


相変わらず、背筋が真っ直ぐで、無駄に声がでかい。

見た目と違って実年齢はなかなかの爺さんと聞いて心底驚いた。


心象「今回の依頼は、準一級、場合によっては一級呪具案件だ!」


その一言で、場の温度が下がった。


俺は、思わず手を挙げる。

枢「えーっと……特異対策局内でいう一級って、アレですよね?

“やばい”の上の“超やばい”でしたっけ?」


甲班のオペレーター役の傀儡 馴染が、ちらっと俺を見る。


「こんなシチュエーションで冗談言える余裕あるの、逆にすごいと思うわ。」


心象は横目で枢を一瞥しながら続ける。


心象「今回は蛇神の推薦で馬ヶ山くんも参加するということで、呪具等級の再確認を行おう!!」


馴染がパソコンを操作し、

壁のモニターに、簡易的な区分が映し出される。


【よく分かるかんたん呪具等級】

一級(A級)

 集団規模で死に直結する。

 災害、事故、疫病、戦争と同等レベル。


二級(B級)

 個人規模の死に直結、もしくは集団規模で死を誘発する。


三級(C級)

 個人の不幸、事故、重大な怪我。


心象「これ以上も、これ以下の等級もあるが、まぁ一般的にはざっとこんな感じだ!

今回の"猿酒"は、完成品であれば一級相当。


理由は単純だ。存在しているだけで、死者が出て、呪大戦とかでも使用されるレベルだからだ!!」


作戦室に緊張がはしる


枢(うわぁこええ……ハズレくじだなぁ。)


心象が、資料をめくる。


心象「今回の目的である"猿酒"は古くから言い伝えのある呪酒だ。


壺に蓋をした状態で、長年にわたり“儀式”を繰り返すことで完成する」


誰も口を挟まない。

だが、「猿酒」というワードが出た瞬間、今回の作戦に同行する一部のサポートメンバーたちは顔面が蒼白になる。


「聞いたことはあるが⋯本物か⋯?」

「まさか実在するとはな、、、」


心象「儀式だが、生物を生きたまま大壺に閉じ込め、死に至らせる。

対象は諸説あるが――生まれたばかりの赤子、妊娠中の女性、あるいは子を宿した雌の動物」


言葉は抑えられている。

だが、それでも十分すぎるほど重かった。


心象「それらを壺に閉じ込め、生きたまま発酵させる。

この工程を、何度も、何年も繰り返し呪いの濃度を上げていく!!」


一人、二人と若いサポートメンバーが、わずかに顔を歪める。


心象「完成した酒は、飲めば万病を癒すと言われている。

臓器不全も、精力や疲労の回復でも、果ては老いにも効くとか。」

枢「……万能薬じゃないスか」

心象「その代わりだ!!」


心象の声が、低くなる。

心象「蓋を開けて中を“見た者”は、必ず死ぬそうだ!」


心象の大きな声が響き

そのまま沈黙。


心象「見れば極度の吐き気、悪寒、精神錯乱。

耐えきれず、自壊する。例外は確認されていない。」


枢(飲むのはOK、見るのはアウト。

なにその理不尽ルール。)


心象「今回、とある村でこの猿酒が秘密裏に作られていることが判明した。当然厳禁とされている行為だ。」


地図が映る。

山間の、小さな村。


心象「甲班の任務は二つ。

猿酒の所在確認。そして――破壊だ!!」


誰もが青ざめる中、

相変わらず口角だけ貼り付けたように上げて、それ以外は無表情で何を考えているのか分からない、

甲班のシンが、ぽつりと聞いた。

シン「……村人はどうしますか?(•‿•)」


心象は、即答する。

心象「任務達成のためであれば、

村人を含め、多少の犠牲は厭わないそうだ!」


その言葉は、あまりにも平然としていた。

枢(あー……たくさん死ぬなこれ。)


胸の奥で、何かがすっと冷える。

枢(まぁこれが“一級案件”か)


心象が、俺を見る。

心象「馬ヶ山 枢。

君は今回、監視付き同行だ。勝手な行動は許されないが、せいぜい役立てるようにと蛇神には言われている!!」


心象「儂が監視する。とはいえ、貴様の戦闘力は実際に体感しとるし、役にも立ってもらう!!よろしく頼むぞ!!!」


枢「あ、了解っス!

とりあえず壺の中、見なきゃいいんですよね?」

馴染「……見ちゃだめよ。絶対に」

即座に馴染が被せてきた。


枢「もちろんッス!。

俺、いのち だいじに 派なんで!」


軽く言ったつもりだった。

でも――

誰も笑わなかった。

いや一人、ずっと口角だけ上げているシンを除けば


心象「また、猿酒をつくるような連中だ。

村には呪詛師も混じっているだろう。心してかかるように!!」


倉庫の外で、風が鳴る。

村へ向かう車列が、静かに動き出した。

さてさて……

枢(この任務、失敗したらどうしようかなぁ。)


壺の中身よりも、

この場にいる甲班の目の方が、

よっぽど底が見えなくて――

俺は、へらっと笑った。


◆ 前哨

山道は、思ったよりも静かだった。

舗装の剥げた一本道。

左右に伸びる杉林。

夕方の湿った風が、車列の間を抜けていく。

枢は後部座席で、シートベルトをいじりながら外を眺めていた。


枢(……村に近づくほど、嫌な感じがするなぁ。)


空気が、重い。

ただの田舎とは違う。


“溜まっている”――そんな感覚。

前方の車で、心象が無線を入れる。


心象『各員、警戒を強めろ!!

この辺りから、呪いの濃度が跳ね上がっているぞ!!!』


馴染の声が続く。

馴染『結界の歪み、確認。

村の外縁部に、簡易結界と呪詛式反応ありね』


シンは、変わらず軽い声だった。

シン「歓迎、されてるみたいですね(•‿•)」


その瞬間だった。

――ズン。

地面が、沈んだ。


「ッ!!」

運転手が急ブレーキを踏む。


次の瞬間、道路脇の土が盛り上がり、黒い符が浮かび上がる。


呪詛師だ。

林の中から、三人。

さらに背後から二人。

全員が顔を隠し、手には血で描かれた符。


「侵入者だ!!」

「情報にあったとおりだな!」

「猿酒は渡さねぇぞ!!」


枢(うわ、来た来た……!)


だが、甲班は止まらなかった。

心象が車のドアを蹴り開ける。

心象「下らん!!

前座にもならんわァ!!!」

次の瞬間――


心象が消えた。


否。

消えたように“見えただけ”だった。

ドンッ!!

一人目の呪詛師の腹に、拳が突き刺さる。

骨の砕ける音。

身体が宙を舞い、木に叩きつけられる。


呪詛師A「が⋯っ!?」


声にならない。

呪詛師B「貴様ァ〜!

くらえ、爆呪の札!!」

二人目が呪符を投げる。


心象は避けない。

呪いが直撃し、爆発――


……する前に

呪符を、心象は左手で掴み噛みちぎる。


枢(……そんなのありかよ〜)

心象「その程度の呪い札、儂には効かん!!!」


呪詛師B「あわわ⋯!ゴフゥッ!!!」

心象は、そのまま二人目を殴り倒す。


一方、シンは静かだった。

心象を眺めるシンの背後から、呪詛師が飛びかかり、

ナイフが、シンの首を裂いた。


血が噴き出る。

枢「おっ――」


だが次の瞬間、

裂けた首が、ぐにゃりと元に戻る。

シン「……なんだ。ただのナイフですか(•‿•)」

呪詛師C「化け物め!ならこれでどうだ!腐食の呪い札!」


シンは腰から、細い小刀を取り出し、呪詛師に向かって一閃、投げた。


呪い札を持つ呪詛師の左手ごと小刀が貫き、呪詛師の放った呪いが――反転する。

呪詛師C「な……ッ!?」

自分の呪いを受けた呪詛師が、

その場で膝をつき、左手から全身まで腐り溶ける。


枢(無理だろ〜……これ……)


馴染は、一歩も前に出ない。

だが、最後の呪詛師が術式を完成させ、周囲に大量の五寸釘が浮く。


馴染が静かに祈る。

馴染『――交換』

(呪いの宿主を⋯入れ替える。)


次の瞬間。


心象の「不老」と、シンの「不死」が入れ替わる。

心象は最後の呪詛師から連射される五寸釘に滅多刺しにされているが、たちまち再生しながら猛襲し、呪詛師をボコボコに殴り倒した。


呪詛師「……ぁ……あ。」

崩れ落ちる。

戦闘終了。


時間にして、

三十秒もかかっていない。

心象が肩を回す。

心象「ふん。

村の連中も、相当焦っているようだな!!」


シンは血の付いていない小刀をしまう。


シン「これで、警告は終わりですかね(•‿•)」


馴染は端末を確認する。

馴染『追加反応なし。

今のが、外縁部の見張りでしょう』


枢は、口を開けたまま立ち尽くしていた。

……なにこれ

枢(俺、依頼的に要らなくない?)


心象が、ちらりと枢を見る。

心象「どうした馬ヶ山!!

腰でも抜けたかのう!!」


枢「い、いやぁ……

これ、俺、説明要員ですよね?」


心象「バカなことを!!!

貴様は最前線に立たんか!!!」

枢(……む、無理で〜す。)


皆が車に乗り込み、

車列が、再び動き出す。


山の奥。

小さな村へ向かって。

枢(この人たちが負ける未来、想像つかねぇな)


枢は小さく汗を垂らし、微かに笑みを溢していた。


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