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Partners 〜戌亥隼人の奇怪譚〜  作者: 土ノ子ウナム
第三章 虎の威を借る狐
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第壱節 我輩は捕虜である。

「我輩は捕虜である」


俺が特異対策局の“捕虜”になって、気づけば一年が経っていた。


捕虜って聞くと、もっとこう……

鉄格子とか、鎖とか、拷問とか、、

「今日も生きてるだけマシ」みたいな生活を想像するだろ?


両手縛られてさ、爪一枚ずつ剥がされたりとか?


はたまたスゲーボン・キュッ・ボンなドS女上官に鞭でシバかれたり?


違う。

全然違うんだ。


俺は今、

特異対策局本部の廊下を、紙コップ片手に歩いている。

コーヒーは薄い。

砂糖はたっぷり、でもミルクはない。

まぁでも無料。


「……これ、捕虜の待遇じゃないよね〜?」


自分で言って、自分で首を傾げる。


あ、俺の名前?

名前は馬ヶまがやま くるる

一応、説明しておくと俺は――

北稲荷山の“仮面襲撃”で捕まった。

✕目の男と呼ばれた白布面の元持ち主。

仮面の男たちの仲間⋯候補だった。


異能は石化。

見たもの触れたものを石に変えちゃって、生き物の“時間を止める”呪い。

我ながらつえーよな!


……まあ、今は使えないけどな。

呪いの元である布面は没収済み。


ついでに身分も自由も没収。

捕虜だから。


でも捕虜なのに俺は今、

局内をフラフラしている。

理由?

「解放するわけにはいかないけど、閉じ込めるほど危険でもない」

――という、

特異対策局的・超あいまい判断の結果である。


「お、枢じゃん」


廊下の向こうから、聞き慣れた覇気のない声。

振り向くと、相変わらず目の下のクマが深い不健康そうな男。


枢「段象だんぞうさんじゃないスかー!ちわーす!」


調査課丙班のベテラン調査員。

超集中とかゆーチート能力つかう人。

ぶっちゃけまだ仲良くなれてないと思う。


段象「またウロウロしてんのか?」


枢「だって暇なんスもん。捕虜ってやることなくないすか?」


段象「⋯はぁ、うちの緩さにも呆れるぜ。

反省文でも書いて座っとけよ。」

枢「一年分書いたっす!」

段象「⋯そうか。」


うっそ信じたよ。

顔に似合わず純粋なんだよなこの人。


段象は深い目のクマを更に深くさせながら、俺の紙コップを覗く。


段象「それ、飲めたもんじゃねぇだろ」

俺「ですよねー。

あ、これが拷問ですかこれが!」


段象「⋯捕虜向けブレンドだ」

俺「やっぱ拷問じゃないすか!」

ズコーッとこける仕草をして、本当にこけかけた。


段象「⋯ふっ。」

段象は少しだけ笑ってまた歩きだす。

相変わらず忙しそうな人だ。

俺は段象さんの背中について歩く


局内は相変わらず忙しい。

書類が飛び、怒号が飛び、端末が鳴る。


最近は一般人からのクレームやらいたずらやらもあっててんてこまいだ。


原因なんざ捕虜の俺でも分かる。

戌亥 隼人。

あの、問題児。

英雄扱いされたり、炎上したり、、、

最後は局ごとひっくり返して消えた男。


段象が、少し声を落とす。

段象「……あいつが抜けてから、色々めんどくさくてな」

枢「空気、違いますよねー」

段象「⋯だろ。」


枢「まぁ、短い間しかいなかったんでしょ?なんなら俺の方が付き合い長いでしょ!もう」


段象「⋯そうだな。」


枢「なんか人の話聞かないやつだったって聞きましたし、大したやつじゃなかったんスよ!」

枢「段象さんも持て余してたんやないスか?いなくなってむしろセイセイしてるとゆーか〜⋯」


ガッ!


見たこともない形相で胸ぐらを⋯掴まれた。


段象「⋯、、、すまん。」パッ


枢「⋯⋯⋯たはっ!すません!言い過ぎましたね!かつてのパートナーですもんね!」


段象「いや、お前も仲間をアイツに殺されてるんだ。言いたいこともあるだろう。」


枢「なはは。」

仲間、、、体のど真ん中を炎で焼き貫かれた◯目の布面男。


枢「ま!お互い様っちゅーことで!」


段象は一瞬だけ、さみしそうな顔をしてから、

段象「まぁ、いなくなったもんは仕方ねぇ」


そう言って、

いつもの段象に戻った。

段象「てかお前、どこまで着いてくる気だ?」


枢「あっ、暇ついでに蛇神さんから頼まれごとあって!兎さんに用事があるんす!」


段象「もう立派な小間使いだな。兎はそこの部屋にいるぜ。俺はちょっと資料室にこもる」


枢「うい〜ッス!最近ずっとッスね!いてらっしゃーい」


部屋に入っていく段象さんの背中は、やっぱりどこか寂しそうに見えた。


うさぎと捕虜

管理室の中に、いつも通り兎さんは居た。


兎さんは相変わらず、

小柄で、目がでかくて、落ち着きがない。

そして段象さんがこっそり隠していたおはぎの封を空けていた。


兎「あっ!? く、枢さん!?

ど、どこ行くんですか!?

勝手に動かないでください!」


枢「ええ〜、でも昨日ここ通っていいって」

兎「それ一昨日です!!

 一昨日はOKでしたけど、今日はグレーです!」

枢「グレー!?」

兎「はい! グレーゾーンです!」


枢「捕虜の移動が日替わりでグレーになる世界、怖くないすか!?」

兎「そ!それはすみません!

上が曖昧で⋯!」

枢「上って、誰すか?」


兎「……えっと……」

兎は一瞬、言葉に詰まった。

そして、

兎「……いっぱい、です」

枢「雑ゥっ!」

でも、その答えが

この組織を一番正確に表してる気がした。


枢「ちなみにそのおはぎは上の人のものでは?」

兎「い、いっぱいありますから⋯!枢さんもお一つどうですか?」エヘ


枢「あいや〜、俺はイイっす。」

兎「言う気だな!?言う気でしょ!」

枢「大丈夫ッスよ!

ちなみにもう一つ隠し場所知ってるんすよ⋯!

なら俺、このお菓子もらいますわ!」


兎「えぇ!そんなとこに隠してあったんだ!」


そういって、調査員情報整理ファイルの棚から、チョコレートを出してみせる。


枢「内緒っすよ!お互いに!」

兎「えへへ」


イタズラな笑みを浮かべる兎さんも⋯イイ。


その後兎さんとお菓子を食べながら談笑して、最後に資料室へ寄った。


枢「コンコン〜っと。段象さーん。いますか〜」

段象さんはもう既にどこかに行ったみたいで、資料室にはいなかった。


枢「ありゃー、いないや。

お、机の上には、、、イノルンジャーの資料と、、根津さんからの戌亥追跡資料の一部があるや」

 

机の上には、パンパンになった煙草の灰皿

枢「段象さん、煙草吸わないはずなのになぁ〜。」


■ 捕虜なりに分かること

一年もここにいれば、

さすがに色々見えてくる。

特異対策局は、

確かに人を助けている。


1年前の俺は仮面の男として襲いかかった側だったけど、

一般人には迷惑かけてないし

狐のことも殺すなって赫さん言ってて殺してないし、、、

むしろ得意対策局には◯目の仲間を殺された。


枢(まぁ、あの日限りの仲間だったし、全然仲良くもなかったけど。)


あの頃から、

この組織余計なお世話だなーくらいにしか思ってなかったけど

世間が言うほど悪い奴らじゃないんだろう。


呪霊も倒す。

怪異も封じる。

市民も守る。

でも――


「選ぶ」


この言葉が、やたら多い。

誰を助けるか。

何を切り捨てるか。

どこまで使うか。

祈りも、呪いも、

“使えるなら使う”。

俺みたいな捕虜も、

「使えそうだから生かされてる」。


(……まあ、居心地は悪くないけど〜)


そんなことを考えていると、

背後から声がした。

「楽しそうだね、枢くん」

振り返ると、

廊下の奥に、蛇神が立っていた。


相変わらず、

感情の読めない目。

俺は、へらっと笑う。

枢「いやぁ、捕虜ライフ満喫してますわ!」

蛇神「そうか」

短い返事。


でも、その視線は――

俺の内側を、じっと測っている。

(この人の目、最初に会った時から苦手だなー。)


蛇神「勝手なことはしないように。枢くん。」

枢「うーっす⋯」


肩をポンと手で叩かれ、

蛇神さんは俺が来た道へ歩いて行った。


振り返るともう、蛇神さんはいなかった。


――第三章 第1節了

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