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甘い毒

おクスリ、ダメ、ゼッタイ。

「おい、奴は居たか?」


「いや、まだだ」


「しかし腕に一発ブチ込んでやったって話らしい。そう元気には動き回れない筈だ」


…………


………………行きましたかね。


時は20世紀の初め頃。西洋のとある地方。


私は今、この真夜中でも煌びやかな街の中で、かつての仲間から逃げ隠れておりました。


「あぁ……少し調子に乗りすぎたかもしれませんね……」


暗い暗い路地裏の中で、私はそんな事を呟きます。


右腕に受けた銃弾による痛みを堪えながら。


……どうして、私が追われているのか。


理由は明白です。


先程言った通り、私は調子に乗りすぎてしまったのです。


私が元々居た場所は、悪いわるーい人達の集まりでした。


俗に言う、マフィアというヤツです。


私はそのマフィアにて、とある重要なお仕事を任されていました。


人をとっても気持ち良くしてしまうおクスリ……麻薬を作るというお仕事です。


世の中、どこもかしこもお金というものは必要でして、それは法を破るマフィアも例外ではありません。


そこで私達のマフィアでは、麻薬を売ることによってお金を稼いでいたのです。


私のおクスリは、私だけが知る製法で、私だけが作る事が出来ました。


私の作るおクスリというのは、つまるところマフィアにとって生命線といっても過言ではありません。


なので、今までは多少の"オイタ"をしても見過ごされてきました。


下っぱの構成員の方を実験台にしたり、私を誘惑してきたボスの愛人の一人を薬漬けにしたり……


まぁとにかく、私は色々やってた訳です。


しかし私はどうにも満たされないでいました。


自分の作ったおクスリを、自分でも楽しめればまた違ったのかもしれません。


しかし私はいくらおクスリを使っても、なんの変化も起こらないのです。皆さんあれだけ気持ちよさそうにしているのに。


自分だけでは発散出来ない欲望が、ついついエスカレートしていってしまったのでしょう。


そうして私はある時、膨らんだ欲求をとうとう無様にも爆発させてしまったのです。


……何を、したと思います?


……正解は、薬漬けにしてしまったのです。


……私達のマフィア、その、ボスを。


ちょっとずつ、ちょっとずつ、ボスの食事におクスリを混ぜたり、寝ている所を忍び込んでおクスリを注射したり……私はボスを、ゆっくりと壊してしまったのです。


だんだんと壊れてゆくボスの姿は、それはそれは芸術的でした。


あれだけ私のおクスリを"商品"として扱い、自分で使う事を嫌っていたあのボスが、夜な夜なそのおクスリを楽しむようになっていくのですから。


今や完全にジャンキーと化してしまい、もう一人で生きていく事は不可能になってしまったようです。悲しいですね。


……さて、当然ですがボスがジャンキーになってしまった頃には、当然私に容疑が向いていました。


釈明の余地などあるわけありません。


なので私は、こうしてかつての仲間から逃げ隠れしていたのでありました。


いやぁしかし、冷静に考えてみるととても間抜けな話です。


私は何故あんな事を……?と、今になって思ってきました。


何が一番間抜けかって、結局ボスが壊れた姿では大して満たされなかったというところでしょうか。


その結果が、これだというのに。


「さて、どうしましょうかね。」


仮にも幹部の一人だったので、私はもうマフィアの全構成員に顔が割れてしまっています。街の中には到底居られないでしょう。


となれば……


私は街のすぐ近くに、森があることを思い出しました。


その森には"魂を喰らう魔物"が棲むという話ではありませんか。


まぁそもそも私自身この地域の生まれではないので、そうハッキリとは言えないですが、多分魔物云々は迷信でも、そう言われるくらいには危険な森であるのは確かなのでしょう。


恐らくマフィアの方すら寄り付きませんが、私が生きていけるかも怪しいです。


しかし私に選択肢などありません。虎穴に入るか、ここで死ぬかなのですから。


私は覚悟を決めて、森へと向かっていきました。


◆◆◆


……やはりというかなんと言うか、夜の森の中はとにかく真っ暗でした。


一応今宵は月が出ているので、完全に何も見えないという訳ではなかったのですが、すぐそこの陰から何が飛び出してもおかしくないような、そんな不気味さがあります。


こんなところでサバイバルは、中々にキツそうな予感がしますね。


とりあえず休める場所でも……そう思って歩き続けていた私の目に、とんでもないものが飛び込んできました。


「これは……洋館ですか?」


森の中に佇む、厳かな洋館。


建てられたのはかなり古い時期のようでしたが、そんな事を感じさせない綺麗な洋館でした。


人の気配は全く感じません。


私は扉の前まで来ました。


まるで何かに誘われるようでした。


言いようのない、威圧感を感じます。


……鬼が出るか、蛇が出るか。それとも……魔物が出るか。


私は、その洋館の扉を開きました。


◆◆◆


内装は中々に壮観なものでした。


ゴシック調の家具が立ち並ぶ、華美なエントランス。


そのどれもが軽く埃を被ってはいたものの、それでも尚、かつての荘厳さを保っていました。


しかし、そんなものはどうでもよかったのです。


それよりも、私の目は、エントランスの中心に佇む"あるもの"に釘付けになっていたのですから。


私が釘付けになったあるもの。


それは、石像でした。


美しい少女の形を象った、ひとつの石像。


────血を。


私がその石像に目を奪われていると、なにか、頭の中に声が聞こえるような気がします。


────魂を。


私は何かに操られるかのように、その石像に吸い寄せられていきました。


────お前の、魂を寄越せ。


こうして間近で見ると、ますますその美しさを実感します。


……汚したい。


…………ふと、そんな事を考えてしまう程に。


私はおもむろに右腕を伸ばしました。


銃撃を受けて血に濡れた、右腕です。


私はその血塗れの右手で、少女の頬に、触れました。


────それでいい。


その瞬間、私はまばゆい光に包まれます。


周りの家具がガタガタと音を立てました。


「これは……一体……」


何が起こったのかわかりません。


しかし、多分、私はまたとんでもない事をしでかしてしまったのだという直感だけがあります。


私は困惑と好奇心に包まれました。


まばゆい光の中から、何かが目を覚まします。


そして、一際大きい閃光を放ちました。


「うっ……」


私は眩しさに耐えかねて目をそらします。


そして一瞬の間を置いて、また元の場所へ視線を戻しました。


すると、私はとても凄いものを目にしました。


──ブロンドの長い髪。


──透き通るような白い肌。


──ルビーの如く輝く、紅い瞳。


──赤を基調とした、綺麗なドレス。


……そんな、とてもとても美しい少女が、天使のように舞い降りて来たのです。


私は思わず見惚れてしまいました。


この世の何処にも存在しないような、そんな美しさだったのですから。


私はついついその少女に跪いてしまいます。


そうしてその少女は、ゆっくりと私の前に降り立ちました。


「…………」


彼女はじっ、と、私の顔を見つめます。


そして、一言。


「……素晴らしい」


そう呟くと、彼女は私の顎をもたげました。


そして──


──チュッ……。


──そして、私の唇に、口づけをしたのです。


甘酸っぱい、血の味がしました。


彼女が唇を離します。


そして、こう言い放ちました。


「これで、貴様は妾の眷属じゃ」


「そなた、名をなんと言う」


……突然の連続で、頭のキャパはいっぱいです。


しかし、彼女の言葉を、私は自然と受け入れていました。


「……私の名は"ドゥーメイ"と申します」


「ただのしがない、薬師でございます」


「ほう。ドゥーメイ、か。ふむ」


彼女はそう言うと、今度は自らの名を話し始めました。


「妾の名は"クラーナ・ヴェルクリム"」


「貴様ら人間が"魂を喰らう魔物"と呼ぶものじゃ」


"魂を喰らう魔物"。ああ、成る程。


どうやら出てきたのは鬼でも蛇でもなく、魔物だったようです。


彼女は言葉を続けます。


「全く、永いこと眠らされたものよ。人間共め」


「やはり、本気で滅ぼした方が良かったかとも思ったが……」


「まぁ、善いだろう」


……やはり私はとんでもないものを起こしてしまったかもしれません。


「これから、宜しく頼むぞ。ドゥーメイ」


どうやら、私はこの方の眷属になったようです。


理解はまだ出来てませんが、まぁ、そんなことはどうでも良いでしょう。


何故なら私の胸は、かつてない程高鳴っていたのですから。


「はい。クラ────」


────バァン!


私が彼女の名を呼ぼうとしたその時、何者かが洋館の扉を勢い良く開け放ちました。


「こんなトコに居やがったか……ドゥーメイ……」


誰かと思えば、マフィアの方々でした。それなりの人数が、ぞろぞろとエントランスに入ってきます。


まさか、ここまで来るとは──


「……ここまでは来ねぇとでも思ったか?」


「俺達は裏切り者を許さない。何処までも追い詰めて──」


彼がそこまで言った所でした。


「……貴様ら……」


私の後ろにいたクラーナ様が、とてつもない殺気を放ちました。


近くに居るだけで死んでしまいそうな程の殺気です。


「……せっかくの神聖な時間に……割り込みおって……」


「あ?なんだあのガキ」


「……まぁ良い、嬢ちゃん。ケガしたくなきゃあ──」


先頭に居た男が、そう言った直後でした。


大きくて、分厚い大剣のようなものが、私のすぐ横を回転しながら通りすぎて行ったのです。


血のように真っ赤で、でも美しい大剣でした。


その剣は凄まじい速度でマフィアの集団へ飛んでいき──


彼らの頭を、撥ね飛ばしてしまいました。


さっきまで威勢良く怒鳴っていた男達の頭から、赤い花が咲きます。


「…………はっ?」


彼らの内の誰かが、そう言った時でした。


さっきまで私の後ろに居た筈のクラーナ様は、いつの間にか彼らの中心に立っていたのです。


先程見た、あの大剣を携えて。


そこからは一瞬でした。


クラーナ様が剣を振る度、男達の胴体がバッサリと両断されていきます。


まさに、血祭りという言葉がピッタリの光景でした。


刹那の後に残っていたのは、首の無い死体と、胴体が真っ二つに別れた死体達。


月明かりでキラキラと輝く、真っ赤な鮮血の海。


そして、その中に佇む、クラーナお嬢様のお姿だけでした。


私は、その光景を見て──


──とても、とっても、美しいと思ったのです。


「……全く、この下郎共が」


彼女が足元の死体達に向かってそう吐き捨てます。


「やはり人間は嫌いじゃ。忌まわしい」


「ドゥーメイが人間でなければ、今すぐにでも皆殺しに行く所じゃったわ」


「こんな者共の血など、啜る価値も無い」


そう言うと、持っていた大剣を溶かすように消しながら、彼女がこちらへ歩いて来ます。


先程とはうってかわって、柔らかい表情でした。


「さて、気を取り直して──」


彼女が口を開きます。


「これから、宜しく頼むぞ。ドゥーメイ」


私も、先程言いかけた言葉を紡ぎます。


「はい。こちらこそ、宜しくお願いいたします」


「クラーナお嬢様」


満月が辺りを照らす、とても静かな夜。


私は、この御方の眷属となりました。


◆◆◆


私がそう言い終えて少し、彼女はそわそわしだしました。


「それで……それでじゃな……?」


よく見ると、私の右腕をチラチラ見ているようです。


「妾は生き物の体液を啜って生きておるのじゃが……」


「永いこと封印されておったから……腹が減って仕方無いのじゃ」


彼女はそう言うと、もう今はじっと私の右腕……もといそこに滴る血を見ています。


まるでよだれを垂らすかわいい子犬のようでした。


私はフフッと笑いながら、こう言います。


「私は貴女の眷属なのです」


「どうぞ、遠慮なさらずに、お召し上がり下さい」


そして、右腕を彼女へ差し出しました。


お嬢様はその言葉を聞くと、嬉しそうに私の元へ駆け寄ります。


そして、膝をついて私と目線を合わせると、そのまま、私の右手、その人差し指を咥えました。


──ちゅぱ、ちゅぱ。


まるで乳飲み子のように、私の指を、丁寧にしゃぶり尽くします。


───れろ、れろ。


そうして指をしゃぶった後は、掌を舐め始めました。


指と指の間の血も、丹念に舐めていきます。


掌の上を、彼女の舌が踊る感覚。


母性のような愛おしさと、背筋を走る快感がありました。


「ああ……旨いのぅ……♡」


一通り手を綺麗にしたあと、恍惚とした顔で彼女がそう呟きます。


私はその表情で、更に興奮を募らせました。


「むぅ、邪魔じゃ」


そう言うと彼女は私の服に手をかけます。


コートを脱がし、ネクタイを緩め、シャツのボタンを1個1個外す……そして、私の上半身の右半分だけを露にしました。


──れぇぁ………。


無事服を脱がし終わると、お嬢様が私の腕を舐め始めます。


傷口から流れる1本の線。


それを遡るように、舌で拭うように、じっくりと。


舌が傷口へ迫る程、彼女との距離も近くなっていき、同時に、私の心拍数が上がるのを感じます。


そうしてとうとう、彼女の舌は傷口のある私の肩にまで到達しました。


お嬢様の吐息に触れ、私の興奮も最高潮です。


彼女は「くひひ」と笑うと、傷口を、れろれろと舐め始めました。


甘い痛みが、傷口を刺激します。


しかし、その痛みも、私の興奮を煽るスパイスでしかありませんでした。


やがて、出血が収まってくると、ようやく彼女の"食事"が終わりました。


「はぁ……♡ふぁ……♡」


私の前に跪いた彼女の顔はどこか紅潮していて、ぽーっとしています。


「……どうでした?私の血は」


荒れる鼻息を抑えて、私は味の感想を聞いてみました。


「うむ……とても濃厚で……蠱惑的で……」


「心奪われるような……そんな甘い味じゃった……♡」


満足していただいたようで、嬉しい限りです。


……おや、辺りが明るくなっていきました。


どうやら、夜明けが近いようです。


とても至福な時間だったので、つい時間を忘れて耽ってしまいました。


私は余韻に浸るお嬢様へ質問をします。


「そういえばお嬢様、日光は大丈夫ですか?」


「……ふん。妾を吸血鬼なんぞと一緒にするでない」


「しかし……朝がくると眠たくなる。少し、休むとするかの……」


「そうですか、では……」


適当に服を着直し、私が立ち上がろうとしたその時でした。


「ん」


お嬢様が、両腕を広げて何かを待ちます。


「運べ」


ああ、成る程。すっかり失念してました。


どうやらお嬢様はかなり甘えたがりのご様子です。


「ええ。なんなりと」


私は彼女の軽い体を両腕に抱えて、彼女の寝室へと向かいました。


◆◆◆


さて。


お嬢様が眠ってから、相当な時間が経ちました。


彼女の寝顔はとても美しく、また気持ち良さそうです。


私はすやすやと眠る彼女の傍らに立ち、彼女を見つめています。


……何故、私がここに居るのか。


それは勿論、"我慢が出来なかった"からです。


彼女に腕を舐め回されたあの瞬間から、私の欲望はとっくに限界を迎えていました。


私はまた、悪癖をぶちまけようとしていたのです。今まさに、彼女へと。


彼女は人間ではありません。なので人間用のおクスリが効くかはわかりません。


しかし……私の血を舐めた彼女の姿を見て、思った所があったのです。


ぽーっとして、ふわふわとして、気持ち良さそうで……


あれは、私のおクスリを使った人達の反応に近いものがありました。


私は何度かおクスリを自分に使った事があります。


効果は全くありませんでしたが、それが私の血に蓄積して、お嬢様を"酔わせた"かもしれないのです。


今、私は注射器を片手に持っています。


中のおクスリは、今回の為に調合した特別製で、いつものおクスリのように多幸感と快楽を与える効能に、意識を混濁させる効能を足してみたものです。


もし私のおクスリが効くのなら、夜、お嬢様が起きた時、自分が何をされたのかなど、覚えていられない事でしょう。


……もし、彼女にバレたら、私はどうなるのでしょうね。


あの私の仲間だった方達のように、バラバラにされてしまうのでしょうか。


こういう事をするとき、いつも私は"最悪の事態"を考えるのです。


考えはするのですが、それがブレーキとなった試しはありません。


私は静かにお嬢様へと忍び寄り、とうとう、その美しい白い柔肌の腕へと、針を入れてしまいました。


「……んっ……ふぅ……」


彼女の寝息が跳ねます。


……さて、反応は如何程……


そう思った矢先でした。


「あー……?ん……?」


彼女がゆっくりと目を開きます。


興奮か、恐怖か、私の心臓がうるさいくらいに鳴り響きました。


どちらに、転ぶか。


「…………」


「………………」


「……ふぁ……?あは……♡」


……どうやら、私は賭けに勝ったようです。


お嬢様の頬は紅潮しており、息は荒く、そして、瞳の焦点はぼやけている、そんな、蕩けるような表情をしていました。


……さて、おクスリが効くことはわかりました。


しかし、私はこの後何をするか、実の所何も考えていなかったのです。


どうしようかと思案していると……


「くひひ……♡どぅーめい……♡どぅーめい……♡」


……私の理性は吹き飛びました。


私は本能の赴くまま、お嬢様の布団を剥がして、彼女の寝るベッドに乗りました。彼女に覆い被さる形です。


息を荒くしながら、私は彼女の頬に触れます。


とても触り心地の良い、すべすべとした肌でした。


ふと彼女の唇を見ました。


息は荒く、仄かに血の香りが漂う吐息が漏れています。


彼女はうるうるとした目で何かを待ちわびていました。


私はその表情にやられて、自らの唇を、彼女の唇へと重ねました。


──ちゅ、んむ、ちゅぱ。


経験したことのない、気持ちの良いキス。


このまま私まで蕩けてしまいそうです。


しかし彼女は物足りなかったようで……


「んっ……!」


私の頭を両手で掴むと、そのまま舌を入れてきました。


──んむ、ちゅる、ちゅぱ、れろ。


熱く、熱く、とても深いキスです。


知らない快楽を叩き込まれる感覚がしました。


「────っぷはぁっ……!」


あまりの快楽に、私は息が切れる寸前まで唇を重ねてしまいます。


彼女の舌と私の舌。その二つの舌に、唾液の橋が掛かりました。


息を整える間、私は彼女の瞳を見ていました。


血のように紅い、美しい瞳。


襲っているのは私なのに、まるで私の方が襲われていると錯覚するような瞳。


そうしていると、彼女の両手が、彼女自身の身体を撫で回し始めました。


挑発的に、笑いながら。


私はその挑発に乗って、ドレスの上から彼女の胸を撫で回します。


少女というにふさわしい、小さな胸です。


「んっ……♡ふぁ……♡」


時たま、確かな感触に触れることがあり、その度にお嬢様の身体がピクリと跳ねました。


その確かな感触を集中的に指で弾きます。


「くうっ……あ……ぉ……♡」


そうして集中的にそれを繰り返していると……


「んんっ……!……ああ……♡おおぉ……♡」


情けない喘ぎ声を漏らし、一際強く身体を震わせ……静かになりました。


快楽で瞳をトロンとさせて、荒く呼吸を繰り返しています。


その姿は、とても人知越えた魔物、私を従える主とは思えない無様な有り様です。


「はぁ……♡はぁ……♡くひひ……♡」


──もっと、もっと、もっと欲しい。


今の彼女を見ていると、そんな情欲に突き動かされてしまいます。


──それは、ダメです。


──それ以上は、本当に──


……私は、胸に置いていた両手を、すぐ上の方へと、ゆっくりと滑らせていきます。


私はこの欲望をどうにか収めようとしたのです。


もうここで満足するべきだ、と、そう自らを言い聞かせながら。


しかし止まりません。私はそういう人間なのです。


ここで止まる事の出来る人間ならば、今ここでこんな事などしていないのです。


私はとうとう、踏み込んでしまいました。


この御方を、壊す。


その、領域に。


私は、その滑らせた両手で、お嬢様の首を捉えました。


簡単に折れてしまいそうな、そんな、細い首です。


「んあ……?」


おクスリで頭ぐるぐるのお嬢様でも、何か異変を感じたのでしょうか。


しかしそんな事は関係ありません。いや、むしろ興奮を加速させるだけでした。


私はゆっくりと、しかし力を込めて、彼女の首を絞めていきました。


「ぐっ……!なっ……!」


彼女が私の腕に触れます。とてもか弱い少女のようでした。


私がまだ生きているのは、おクスリのお陰でしょうか。


更に力を込めます。


「あっ……!ぐうっ……!ぎ……?」


彼女の表情は、より苦しそうになります。


しかし、しばらくそのまま絞めていると彼女の様子が変わりました。


「え"っ……♡あえ"っ……♡ああ……♡」


どうやら、快楽を感じているようでした。舌をだらしなく伸ばし、だんだん目も、力なくぐったりしていきます。


私の腕を掴む手はとっくにだらんとしてしまって、身体が苦しみに耐えかねてビクビクと跳ねていました。


私の息も、最高に荒ぶります。


もっと、力を込めました。


「あ"……♡ぇ"……♡ぉ"……ぉ……♡」


身体を一際大きく跳ねさせ、そんな無様で情けない鳴き声を上げて……


「…………」


彼女は、沈黙してしまいました。


「……!」


「……私は、何を……」


私は、急激に背筋が冷える感覚がして、その手を放しました。


……殺して、しまったのでしょうか。


なんだかいきなり怖くなっていきました。


今までこんな思いをすることはありませんでした。


自らの行いを省みるなど。


なんせ今まで何をしても消化不良だったのです。ここまで満足の行く体験は初めてでした。


……とりあえず、生死の確認だけでも……


そうして、お嬢様の脈を測ろうとした、その時でした。


「……ドゥー……メイ」


…………彼女が、起きてしまいました。


時刻は、とっくに夕方過ぎです。


…………どう、しましょうか。


私は完全に言い訳をする余裕すらありませんでした。


あそこまでしたのです。正直、殺されるだけで済むかどうか……


そんなふうに軽く頭の中でパニックを起こしていると、彼女は笑いながらこう言ってきました。


「止めてしまって、良かったのか……?」


「えっ……?」


「……妾は死なぬ。何をしても、決してな」


「殺す位でやってしまっても構わぬぞ……♡ドゥーメイ……♡」


……これは、1本とられました。


いつの間にか薬の効果は完全に切れていた……いや、"解毒された"という方が正しいでしょうか。


おそらく私はずっと、お嬢様の掌の上だったのでしょう。


「……して、どうする?ドゥーメイ?」


「妾はもう少し戯れてもよいのだぞ?」


「……あっ、でもやるつもりならもう一度あのふわふわする薬を…………」


「……いえ、今回の所は打ち止めにしておきましょうか」


「続きは、また、夜が更けてからにでも」


私の心はもう、ただ笑うばかりでした。


それは、1本とられたからでしょうか。


もしくは、決して壊れず、私の欲望を完膚なきまでに満たせる"玩具(オモチャ)"を手に入れたからでしょうか。


おそらくその両方でしょう。


「ふむ、まぁよかろう」


「それでは……食事をするとしようか?」


私の心は、この御方に奪われてしまったこの心は、ただひたすら、高鳴るばかりだったのですから。


「ええ……承知いたしました」


私はシャツのボタンを幾つか外して、首元を差し出しました。


お嬢様は私をしっかりと抱き締めると、そのままぐるっと回って、上下を逆転させます。


そうして私の上に乗ると、お嬢様はそのまま、その差し出された首へと歯を立てました。


──ちゅう、ちゅぱ、ちゅう、ちゅ。


血を吸われている最中、私もお嬢様を抱き締めて、その頭を撫でていました。


時は20世紀の初め頃。西洋のとある地方。


その鬱蒼とした森の中には、"魂を喰らう魔物"が居ると言われています。


その魔物は私の目の前で、そして今、私の魂を奪って行ってしまいました。


私は永久を、この御方と過ごす事になるでしょう。


私はとても、楽しみでなりませんでした。


「……お味はいかがですか?クラーナお嬢様」


「……ふふっ昨日と変わらぬよ」


「甘くて、魅力的な、毒の味じゃ♡」

このお話は、とある同人エロゲーに感銘を受けて制作したものです。

薬、吸血鬼、首絞め……

これら全部がハイクオリティに纏まったゲームでした。

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