世間知らず白髪の少女と古代魔法都市(絶望と再生の物語)「あなたが見ている世界。それは、本当に本当の世界ですか?」&「不屈の魂」
この世界には、無数の有限の宇宙があり、その外側は、白い無限の世界が広がっています。既存の世界級魔法は、宇宙の中にあり、4つ目の世界級魔法は、白い世界にあり、観測不可能なものです。
【白亜の残影 - 千年の禁書】
エマ
千年もの間、世界は静謐に管理されていた。女王あやのの鉄の意志のもと、紛争は根絶され、不必要な混乱は徹底的に排除された。人々の生活は安定し、表面上は平和が続いていた。しかし、その平和は、過去の記憶を封印することによって築かれていた。
一千年より前に起こった歴史を調べること。それは、あやのによって絶対的な禁忌とされていた。図書館の奥深くには封印された書庫があり、過去の遺物は厳重に管理され、人々の目に触れることはなかった。特に、「白亜の都市」と呼ばれる、はるか古代に存在したとされる幻の都市の記録は、徹底的に抹消されていた。その都市の思想、自由と平等を謳うその理念は、現在のあやのによる中央集権的な支配体制にとって、最も危険な火種となるからだ。
著名な歴史研究者、エマ・ルブランはその禁忌に疑問を抱いていた。長年、断片的な古文書や伝承を追い求める中で、彼女は白亜の都市が単なる伝説ではない確信を得ていた。幾度もの調査と分析の末、彼女の率いる研究チームは、ついに古代の地層から都市の一部と思われる遺跡を発掘した。精緻な装飾が施された白い石材、現代の技術では再現不可能な幾何学模様。それは、紛れもなく失われた高度文明の証だった。
この発見は、瞬く間に歴史研究者の間で広まった。長らく封印されていた過去の扉が開かれたのだ。そして、その情報は、あやのの支配体制に静かに不満を抱く者たちの間で、希望の光となった。もし、かつて自由な思想を持つ都市が存在したのなら、今の管理された世界もまた、変えられるかもしれない。
研究者たちは、「白亜の都市」に関するあらゆる記録を求めて奔走した。禁じられた書庫への侵入を試みる者、地下に眠る遺跡の発掘に没頭する者。その熱意はやがて、驚愕の真実を明らかにする。白亜の都市の建造に関わったとされる人物の名前が、古代の文献の中に断片的に現れたのだ。そして、その名は――“あやの”。
信じられない事実に、研究者たちは息を呑んだ。あの冷徹な女王あやのが、かつてそのような理想都市を創造したというのか?なぜ、心優しい創造主が、千年もの時を経て、世界を厳しく管理する支配者へと変貌してしまったのか?白亜の都市が存在したのは、歴史上、少なくとも千年以上前のこと。一体、あやのは何歳なのだろうか?
エマは、チームのメンバーである老言語学者、ヨハン・シュミットと共に、古代文献の解読に没頭していた。ヨハンは、長年の研究から、白亜の都市で用いられていた言語が、現代の共通語の原型に近いことを突き止めていた。そして、その言語で書かれた碑文の中に、都市の建設者自身の言葉が残されていた。
「我々は、差別も迫害もない、全ての人が平等に生きられる場所を創る。異なる力を持つ者も、持たぬ者も、互いを尊重し、支え合う。この都市は、希望の灯火となるだろう。」
それは、紛れもなく、かつて白髪の少女が抱いた純粋な願いだった。その言葉を読むほどに、エマたちの疑問は深まっていった。なぜ、このような美しい理想を掲げた人物が、千年後には世界を厳しく管理するようになったのか?
白亜の都市の真実が明るみに出るにつれて、あやのの支配体制に対する不満は、徐々に表面化し始めた。特に、かつての自由な世界を夢見る若い世代を中心に、秘密裏の集会が開かれるようになった。「白亜の遺志を継ぐ者たち」と呼ばれる彼らは、あやのの統治に疑問を呈し、過去の真実を知ろうと動き出した。
あやのは、歴史研究者たちの動き、そして民衆の間に広がる動揺を、イグニシェールの報告によってつぶさに把握していた。彼女の沈黙は、決して無知によるものではなかった。白亜の都市の記憶は、彼女の中で深く眠っていたが、完全に消え去ったわけではなかった。
ある夜、あやのは王宮の最上階にある自分の書斎で、 古代の記録を静かに読み返していた。それは、彼女がかつて白髪の少女だった頃、白亜の都市の建設理念を書き記した個人的な日記だった。 ページには、希望に満ちた言葉、共に生きる喜び、そして裏切りと絶望の痛ましい記憶が、 昨日のことのように鮮明に綴られていた。
「なぜ、私はこんな世界を創ってしまったのだろうか…」
長い長い時を経ても癒えることのない心の傷が、彼女の内部で静かに疼いていた。白亜の都市は、彼女の純粋な願いの具現化したものだった。しかし、人々の裏切りは、その理想を残酷に打ち砕いた。管理された世界は、二度と裏切られないための、彼女なりの自己防衛だったのだ。
【回想】
「彼女に味方は、いなかった⋯⋯⋯。」
昔、世界の片隅に王族であるアルファ・トレント・ヘクマティアルという白髪の少女がいました。その両親は戦争で戦死してしまい、彼女は一人で暮らすことになりました。彼女は名前をみゆき・トレント・ヘクマティアルに変えました。14歳でした。
古代に1つの魔法都市がありました。
そこには、生まれながらに魔法を使える者と生まれながらに魔法を使えない者がいました。
魔法を使えない者は、迫害され、逮捕され、処刑されていました。
(始まりの地)
しかし、1人の少女がいました。彼女は、幻想魔法で、巨大な都市をつくり、魔法を使えない者たちをかくまっていました。しかし、彼女のこの行為は、魔法都市の者たちからは、奇異の目で見られていました。
みゆきの幻想魔法が生み出した都市は、まるで蜃気楼のように、朝日にきらめき、夕焼けに染まる、どこまでも広がる白亜の都だった。
建物は、現実にはありえない曲線を描き、空中に浮かぶ庭園では、見たこともない花々が咲き乱れていた。
この都市は、ただの巨大な隠れ家ではなかった。みゆきの強い想いが具現化した、魔法を持たない者たちにとっての理想郷だったのだ。
都市の中央には、巨大なクリスタルが輝き、そこから発せられる柔らかな光が、都市全体を温かく包み込んでいた。このクリスタルは、みゆきの魔力の源であり、都市のエネルギー供給を担っていた。
住人たちは、みゆきの魔法によって生み出された清潔な水と、空から降り注ぐ光によって生かされていた。
仕事は、それぞれの得意なこと、例えば、植物の世話、道具の修理、子供たちの教育など、争いのない穏やかなものだった。
みゆきは、彼らの心の声に耳を傾け、誰もが安心して暮らせるように、常に都市の細部まで気を配っていた。
[街の朝の風景]
井戸端会議: 朝早く、共同の井戸に水を汲みに来た女性たちが、顔見知り同士で挨拶を交わし、その日の天気や家族の出来事などを話しながら和やかに水を汲む。魔法が使えないため、皆で協力して重い桶を運ぶ。
パン焼きの煙: 早朝からパン屋の竈からは香ばしい煙が立ち上り、焼き立てのパンを求める人々が列を作る。
魔法のオーブンはないため、職人が薪の火加減を丁寧に調整しながらパンを焼いています。
子供たちの準備: 親たちは、魔法の力を使わずに、子供たちの服を丁寧に畳んだり、お弁当を一つ一つ手作りしたりする。
子供たちは、親に手伝ってもらいながら、少しでも早く遊びに行こうと支度を急ぐ。
職人たちの準備: 大工は、前日に研いだばかりのノミや鉋を大切に道具箱にしまい、今日の仕事場へと向かう。
鍛冶屋は、朝一番に炉に火を入れ、金属を熱する準備を始める。彼らの手仕事が街の生活を支えています。
[市場や商店街の賑わい]
魚屋の威勢のいい声: 新鮮な魚を並べた魚屋の主人が、威勢のいい声で客引きをする。
「今日の魚は脂が乗ってるよ!」「おまけしておくよ!」といったやり取りが、活気を生み出す。
八百屋の品定め: 色とりどりの野菜や果物が並んだ八百屋では、主婦たちが一つ一つ手に取って品質を確かめ、今日の献立を考えながら品定めをする。
「このトマト、すごく甘そうね」「おまけしてね」といった会話が日常的に行われる。
手芸店の賑わい: カラフルな糸や布が並んだ手芸店では、女性たちが集まって、編み物や裁縫の話に花を咲かせている。
魔法の道具はないけれど、彼女たちの指先から様々な美しいものが生まれる。
大道芸人のパフォーマンス: 広場では、魔法を使わない大道芸人が、ジャグリングやアクロバットなどのパフォーマンスを披露し、集まった人々を楽しませている。
子供たちの歓声や、大人たちの笑顔が溢れている。
[住居の様子]
暖炉を囲む家族: 夜、一家団欒のひととき。暖炉の火を囲んで、子供たちは今日あった出来事を楽しそうに話し、親たちは優しく耳を傾ける。魔法の暖房はないけれど、家族の温かい触れ合いが心を温める。
手作りの家具: 部屋には、住人たちが自分たちで作った木製の家具が置かれている。
少しばかり不格好だけれど、使い込むほどに愛着が湧く。
壁には、家族の写真や子供たちの描いた絵が飾られ、温かい雰囲気を醸し出している。
工夫を凝らした台所: 台所では、魔法の調理器具の代わりに、工夫を凝らした道具が使われている。
手動の泡立て器や、火加減を調整しやすい竈など、先人の知恵が詰まった道具たちが、美味しい料理を生み出します。
ランプの灯り: 夜になると、家々の窓には温かいランプの灯りが灯る。魔法の照明はないけれど、その優しい光は、住人たちの心を安らげ、穏やかな眠りを誘う。
[仕事の様子]
織物職人の手仕事: 機織り機の前で、織物職人が丁寧に糸を操り、美しい布を織り上げていく。
魔法の力は借りず、熟練の技と根気で、人々の生活を彩る布地を生み出す。
木工職人の工房: 木の香りが漂う工房では、木工職人がノミや金槌を使い、一つ一つ丁寧に家具を作り上げていく。
注文主の要望に応えるため、細部にまでこだわり、魂を込めて作品を制作する。
農家の収穫: 広大な畑では、農家の人々が汗を流しながら作物を収穫している。
天候に左右されながらも、土と向き合い、丹精込めて育てた作物は、街の人々の食卓を豊かにする。
行商人の声: 天秤棒を担いだ行商人が、街の隅々まで声を届けながら、様々な商品を売り歩いている。
「新鮮な野菜はいかがですか?」「丈夫な日用品揃ってますよ!」といった声が、街の活気を支えている。
[祭りやイベント]
手作りの飾り付け: 祭り当日、街の住民たちは、色とりどりの紙や布を使って、街中を華やかに飾り付ける。
魔法の装飾はないけれど、皆で協力して作り上げた飾り付けは、温かみと活気に溢れている。
屋台の賑わい: 祭りには、様々な屋台が並び、焼きそばや綿あめ、手作りの玩具などが売られている。
魔法の力を使わずに作られた食べ物や玩具は、素朴ながらもどこか懐かしい味わいがある。
盆踊りの輪: 夜になると、広場では盆踊りの輪ができる。
老若男女が手をつなぎ、太鼓や笛の音に合わせて踊り、互いの交流を深める。
魔法の演出はないけれど、皆で踊る一体感が、大きな喜びを生み出す。
手作りの演劇: イベントでは、住民たちが自分たちで脚本や衣装、舞台装置などを手作りした演劇が上演される。
プロの役者のような華やかさはないけれど、一生懸命な演技は、観客の心を温かくする。
白髪の少女:「おはよ!おじさん。今日もいい天気だね?」
おじさん:「あ〜、みゆきちゃん。おはよう。今日も、みゆきちゃんは、きれいだね、本当に。」
(笑顔をふりまく白髪の少女)
白髪の少女:「おはよ!おばさん。今日もきれいだね?」
おばさん:「あら!みゆきちゃん!おはよう。ありがとうね(笑)。みゆきちゃんのおかげで、今、私達みんな、とても居心地がいいのよ?本当に、ありがとうね。」
(笑顔のおじさんとおばさん)
白髪の少女:「いえいえ。そんなお礼を言われる程のことじゃないよ(笑)。みんな、私の家族みたいなものなんだから。」
ある日、どこからか、現れた町では見かけない男。彼は、物憂げな表情で井戸端に佇む女に、低い声で語りかけた。
「あなた方は、本来もっと強い魔法力を持っていたはずだ。それが、あの娘の幻想魔法によって奪われたのだとしたら……?」
男の言葉は、日々の生活の中で漠然とした不満を抱えていた者たちの心に、小さな火種を灯した。
「奪われた?私たちの力を?」
男の胡散臭い言葉に、最初は警戒していた者たちも、うまくいかない現状への不満と結びつけ、次第に耳を傾けるようになっていった
静かな共同体に、まるで水面に落ちた一滴の油のように、じわじわと不穏な噂が広がり始めていた。
「あの娘の魔法は、我々の力を奪っているのだ」と。最初は小さな囁きだった。井戸端での立ち話、夕食の食卓での呟き。しかし、魔法が使えないことへの不満を抱えていた者たちの心に、その言葉は徐々に浸透していった。
「そうだ、最近、調子が悪い気がする」「もしかしたら、本当にあの娘のせいなのかもしれない」。
そんな疑念が人々の間に広がりはじめた。彼は、まるで乾いた薪に火をつけるように、人々の不安を煽った。
見かけない男:「あなた方の本来持つべき魔法の力は、あの娘の幻想魔法によって奪われているのです!」
彼の言葉は、魔法が使えない者たちの鬱積した不満と結びつき、日増しに強い憎悪の炎へと変わっていった。
「我々の力を奪った償いをさせろ!」
「あんな小娘に好き勝手させておくべきではない!」
群衆の目は、次第に猜疑心と怒りに染まっていった。
白髪の少女:「みんな、どうしたんだろう?私を避けてるみたい。」
(疑いの目を向ける町の人々)
町のみんな:「あいつが私たちの魔法を奪ってるって。」
町のみんな:「あいつのせいで、私たち魔法が使えないのか。」
ひとりの見かけない男は、薄汚れた旅装に身を包み、どこか人を食ったような笑みを浮かべていた。
見かけない男:「皆さん、ご存知ですか?あの白髮の娘が使う幻想魔法の恐ろしさを?」
彼は群衆に語りかけた。
見かけない男「紫紅姫という禁断の魔法で、他者の魔法力だけでなく、その時の記憶までも奪い取るというではありませんか!そして、奪われた者たちは、まるで操り人形のように、あの娘に友好的な態度を取らされるらしい。」
彼の言葉には、真実か嘘か定かではない、しかし人々の不安を掻き立てる毒が含まれていた。
男の正体は、魔法都市の非魔法使い取り締まり官だった。しかし、彼の目的は単なる取り締まりではなかった。
魔法都市では、魔法を使えない者は常に抑圧され、不満を抱えていた。彼は、その不満を利用し、白髮の少女という共通の敵を作り上げることで、人々のエネルギーを一点に集中させ、都市の支配体制をより強固なものにしようと企んでいたのだ。
見かけない男:「あの娘を排除すれば、あなた方の魔法力は戻るはずだ。」
そう囁きながら、彼は群衆の憎悪の炎が燃え上がるのを、冷たい目で観察していた。
町のみんな:「俺達が、あの娘に愛想が良いのは、俺達の意思じゃないと?」
ひとりの女:「あの娘の魔法は、まるで私たちを無力な存在だと嘲笑っているようだ……。長年、魔法が使えないというだけで、どれだけの屈辱を味わってきたか。やっと得られた安寧も、あの娘の力があってこそ。まるで、私たちは彼女の施しで生きているようなものじゃないか!見かけない男の言う通りだ。あの娘の魔法が、私たちの魔法を奪っているに違いない。そうだ、そうに違いないんだ。彼女さえいなくなれば、私たちは本来の力を取り戻せるんだ!」
町のみんな:「そうだ!あの娘をどうにかしなければ!」
その場に、沈黙ができた。
町のみんな:「道理で、あんな小娘に、こんな巨大な都市を1人で創れる力があるわけないんだよな?完全に、騙されていたぜ(怒)」
町に男の言葉が浸透し始めた頃、人々の間には小さなざわめきが広がっていた。「本当に、このままでいいのだろうか?」「魔法が使えないのは、本当にただの偶然なのか?」と。
長年抑えられてきた、魔法への憧れや、自分たちだけが取り残されているような焦燥感が、男の言葉によってじわじわと刺激されていったのだ。
白髪の少女の存在は、確かに彼らにとって安寧の象徴だった。しかし、同時にそれは、自分たちの無力さを常に意識させる鏡でもあったのかもしれない。
「彼女がいなければ、私たちは何もできないのではないか?」
「彼女は、私たちの可能性を奪っているのではないか?」
そんな不安が、男の「白髪の少女は魔法の力を隠している」という言葉に、都合よく結びついていった。
ある日、市場で野菜を売る老人が、隣の店主に小さい声で話しかけるのが聞こえた。
「あの娘が来てから、確かに暮らしは楽になった。だが、時々、何か隠しているような気がするんだ。」
それは、多くの人々が心の奥底で感じ始めていた、小さな疑念の芽だった。その芽は、男の扇動によって、瞬く間に大きく育っていったのだった。
夕暮れ時のこと、白髮の少女が町の広場に入ると、どこからともなく、険しい表情の群衆が彼女を突然、取り囲みました。
群衆:「おい⋯。女⋯。」
次の瞬間だった。
白髪の少女「いや〜あ〜!やめて!やめて!やめてよ!みんな!やめてよ!やめて!やめてったらー!!!⋯⋯⋯⋯。⋯⋯⋯⋯やめてください⋯。おねがいします⋯。お願いですから⋯。⋯⋯⋯⋯。」
少女は、かくまっていた魔法を使えない者たちから、公の場で、激しい暴力を振るわれ、尊厳を深く傷つけられるような行為を受け、服を破られ、全裸で放置されました。
街を創ったあの日、白髪の少女の心は希望に満ち溢れていた。魔法が使えない人々が、互いに支え合い、笑顔で暮らせる場所。それが彼女の夢だった。
暴行を受け、尊厳を踏みにじられた痛みは、肉体的なもの以上に、彼女の心を深く蝕んだ。信じていた人々の裏切りは、彼女にとって何よりも耐え難いものだった。「なぜ?私があなたたちのために作った街なのに…」何度も心の中で叫んだが、届くはずもない。
彼女の瞳から光は消え、代わりに深い絶望の色が宿った。それでも、心の奥底には、微かながらも生きることを諦めきれない何かが残っていた。それは、彼女がかつて抱いていた、人々の笑顔を見たいという願いの残滓だったのかもしれない。しかし、今はまだ、その小さな光を見つけることすら困難だった。
そこへ、ひとりの男が近寄り、少女の髪を鷲掴みにして言いました。
(自慢の髪の毛を無造作に掴まれ、尊厳のない姿で己の無力さを痛感する白髪の少女)
「調子に乗るから、こうなる。魔法都市のためだ。」彼女は、思い知りました。黒幕は、魔法都市だったと。
その瞬間、少女の作り上げた巨大な都市は、崩れ去り、見るも無残な廃墟になってしまいました。
白髪の少女が去った後、街には一時的な解放感と高揚感が漂った。男は英雄のように祭り上げられ、人々は自分たちの手で未来を切り開いたと信じて疑わなかった。
その後、わずかな力を振り絞り、白髪の少女は、荒廃した都市から逃げようとしましたが、本能のままに牙を剥き、嘲笑う声と共に、無数に伸びてくる手に捕まり、彼女は、荒廃する都市に連れ戻され、長い間、そこで、奴隷娼婦として強制労働させられました。
※ここから先は、過激です。見たくない方は、【1902年間に及ぶ永遠とも思える長い時の中、激しい性暴力の日々の終わり】までスキップしてください。
【1902年間に及ぶ永遠とも思える長い時の中、激しい性暴力の日々のはじまり】
おじさん:「おら!股広げろ!クソガキが!」
白髪しろかみの少女:「はぁ⋯い⋯。」
(少女は、何度も何度も不快な接触を受け、その度に嫌悪感と疲労感に苛まれる。顔見知りの憎悪が、彼女の肌をぞっとさせる。少女は、屈辱と混乱の中で、自分が何なのか分からなくなる。)
おばさん:「休むんじゃないよ!さっさと腰振るんだよ!アバズレが!」
白髪しろかみの少女:「ごめ⋯ん⋯なさい。」
(少女は、言われるがままに身を動かす。自分の大切な部分が、他者を不快にさせないために使われる。『感じたくないのに⋯⋯⋯。』少女の意思とは裏腹に彼女の体は、何かを少女に伝えようとする。『いったい、私は、何をやってるの?』)
知らない男:「しっかし、いい女だな。エロい体しやがって。いっぱい、可愛がってやるからな!感謝しろよっ!?」
白髪しろかみの少女:「あ⋯りがと⋯う⋯ござい⋯ます。」
(まるで、値踏みするかのように、触れられる。『いったい、私は、何なの?』)
知らない女:「ほんと、このクソガキ、いいもん持ってんじゃん!まるで、そういうことをするために生まれてきたようだね!ハハハハハッ!」
(『親から、もらったこの体をそんなふうに言わないで⋯⋯⋯。』)
知らない老人:「しっかし、この年でこんな思いをするとは思ってもみなかったよ?」
(『私は、あなたのものじゃない⋯⋯⋯。』)
知らない老婆:「今のうちに、しっかり教え込んどきなよ!誰が!ご主人様かってことをね!ほら!口を開け!」
白髪しろかみの少女:「は⋯⋯い⋯⋯ご主人様。」
(少女の口の中に、不快な感触の何かが侵入してくる。それは、口の中で何度も擦れ、喉の奥深くまで届く。次の瞬間、苦く熱いものが少女の口の中を満たした。)
白髪しろかみの少女:「オェッ⋯⋯⋯。」
知らない老婆:「吐き出すんじゃないよ!、しっかり飲むんだよ!」
(ゴックン。。。それは、少女の中に侵入してきて、彼女を構成する体の一部となった。)
見たことのない子ども:「あのお姉ちゃん何やってるの?」
(『やめて⋯⋯⋯。見ないで⋯⋯⋯。』)
見たことのない子どもの母親:「償いをしてるんだよ?私達に酷いことをしたからね?」
男の歪んだ欲望が何度も何度も少女の中に押し寄せ、少女の体は、熱く溶けるような、言いようのない苦痛を少女に、現実として突きつけていた。
(『私が、いったい何をしたというの?』)
町の群衆:「いい気味だ!」
四つん這いになった少女の下半身は、熱く溶けるような悲鳴を上げていた。呼吸することすら許さないように、男の醜い欲望が少女の口を塞いでいた。
町の群衆:「このアバズレが!」
満足げな表情を浮かべる男の上にまたがり、男のために何かをするために創られたのかと思うほどに、その敏感なところは、自分の意思とは裏腹に何かを感じていた。
町の群衆:「たっぷり償ってもらうぞ!」
体の自由を奪われ、欲望の対象と化した少女の純粋な体は、それを否定することができなかった。
町の群衆:「お前には、無力ってものを教えてやる!」
優越感に満ちた表情を浮かべる人々の壁に囲まれ、少女に逃げ場はなかった。ただ、それを受け入れることしかできなかった。
町の群衆:「たっぷり、可愛がってもらえよ!」
肉体的にも精神的にも逃げ場のない異常な空間で、少女は、意識を必死に保とうとする。
町の群衆:「あ〜ぁ〜!。出すぞ!クソガキ!」
白髪しろかみの少女:「うぅ⋯⋯⋯。」
男達の憎しみが少女の中に注ぎ込まれる。
町の群衆:「ハハハハハッ!立派な女になったな!」
もはや、少女に希望を抱くという気力すら残っていなかった。少女の無垢だった体は、その初めてを人の皮を被った憎悪と悦楽を糧にする獣達に無残にも弄ばれ、目も当てられない無惨な状態と化していた。
来る日も来る日も、彼女を蔑む男達の相手をさせられ、彼女を蔑む女達からは、罵声と侮蔑の言葉を浴びせられていました。休むことも寝ることも許されず。
冷たい部屋の隅で、少女は首輪につながれ、気に入らない服を着せられていました。時々運ばれてくる食事は、いつもクリームシチュー。でも、それには少し変な、ねばねばした白い液体が混ざっていました。それが何なのか、少女にはなんとなくわかりました。それでも、生きるために、少女はそれを口にしました。体は嫌がりましたが、少女は必死に気持ちを抑えつけました。生きていくためには、そうするしかなかったのです。
少女は、体の奥から湧き上がる感覚に気づきました。でも、今はまだ我慢しなくてはいけません。そうしないと、怖い顔をした女の人たちに叱られてしまうからです。そして、その時は突然やってきます。じめじめとした暗い路地に連れて行かれ、まるで犬のように、そこで排泄することを強いられるのです。ご主人様は、冷たい目で少女の体を見下ろします。周りには、その瞬間を待っていたかのように、たくさんの人たちが集まり、じっと少女を見つめています。
男の人たちが去った後、少女の体はいつもと違うにおいがしていました。冷たい部屋の中、小さくなって座り込む少女に、ご主人様たちはバケツに入った冷たい水を何の気なしにかけます。部屋の寒さと水の冷たさで、少女はぶるぶると震えました。心の中で小さな希望を持とうとしても、すぐに厳しい現実が押し寄せてくるのです。
少女に、人権という言葉はありませんでした。
少女は、衰弱していく中、絶望と悲しみの中で、苦しみ続けました。
体は、何度も揺れ、気力は、遠のくばかり。男たちの汚濁の色が白皙の肌の白髪しろかみの少女の身体に深く刻み込まれ、消えない印を残していく。
男の不快な接触が、少女の中で何度も何度も繰り返される。肌と肌は触れ合い、口と口は何かを交わす。意識の逃げ場がない。男の生温かい温もりをその白い肌で感じながら、少女は何度も何度も何かを知る。自分の体は、誰でもいいのか?少女の体は何かを知りすぎ、熱を帯びていた。男は、少女の体を求め、一体化することをやめず、歪んだ関係を少女の体に刻み込み続けた。
「やめて…お願い…」と懇願する声は、何度も繰り返されるうちに、喉の奥で小さく震えるだけの音になった。
最初は抵抗していた体も、何度も男たちに踏みにじられるうちに、まるで抜け殻のように、ただただ重く、感覚が鈍くなっていった。
温かかったはずの白亜の床は冷たく、希望に満ちていたはずの空は、今はただの灰色に見える。
彼女の瞳から光は失せ、映るのは天井のシミばかり。かつて、人々の笑顔を守りたいと願った心は、今はひび割れて、冷たい絶望だけが染み渡っていく。
毎日繰り返される屈辱と暴力は、彼女の中で「なぜ?」という問いを何度も反芻はんすうさせた。しかし、答えは見つからない。ただ、自分が生きていることの意味さえ、分からなくなっていく。彼女の思考は、停止した。
彼女の透き通るような白い体は、男達のその歪んだ欲望をただただ無言で、もはや何も感じない抜け殻のように、男たちの熱を帯びた荒い息遣いを間近に感じながら、ただその動きを受け止めていた。(もう、何もかもどうでもいい…)心は遠い場所に彷徨い、目の前の光景は現実感を失っていた。それは、もはや彼女にとって、非日常では、なくなっていた。
「彼女を守ってくれるものはいなかった。 彼女の境遇を知りながら、誰一人として⋯⋯⋯。」
ある夜、また見知らぬ男が近づいてきた時、みゆきの心の中で、何かが音を立てて壊れた。抵抗する気力も残っていなかったが、その男の歪んだ笑顔を見た瞬間、これまで感じたことのない黒い感情が湧き上がってきた。
(少女の魂に最後のとどめを刺す男の歪んだ笑顔)
「もう、こんな世界は嫌だ⋯⋯⋯。」
それは、か細いけれど、確かに彼女の中から生まれた叫びだった。なぜ、自分だけがこんな目に遭わなければならないのか?なぜ、あんなに優しくしてくれた人々が、手のひらを返したように自分を傷つけるのか?
理解できない不条理への怒りが、静かに、しかし確実に彼女の中で燃え上がっていく。
「そうだ…こんな世界なら、いっそ壊してしまえばいい」
(魂の限界を超えた白髪の少女の叫び)
絶望の淵で、彼女は一つの考えに取り憑かれる。自分を傷つけた者たちも、傷つけ合う愚かな人々も、全てを自分の作り出した人間という名の人形に変えてしまえば、争いのない、優しい世界を作れるかもしれない。それは、歪んだ希望だったかもしれない。
しかし、彼女にとっては、生き残るための、最後の光だった。過去の優しい記憶を封印するのは、あまりにも辛い選択だった。でも、あの裏切りと痛みを忘れることができなければ、彼女はきっと壊れてしまうだろう。
「もう二度と、あんな思いはしたくない」
そう強く念じながら、彼女は、人形の世界を創造する決意を固めていく。それは、彼女なりの、世界への復讐であり、同時に、自分自身を守るための、最後の手段だった。
【1902年間に及ぶ永遠とも思える長い時の中、激しい性暴力の日々の終わり】
青白い光が彼女の体から放射状に広がった。
白髪の少女は、世界を改変した。
世界は、変わってしまいました。
世界の民の魂は、白髪の少女が作った人形に全て封じ込められました。
本来の世界を愛していた者たちは、偽りの世界に閉じ込められ、愛する者がいた者たちは、それぞれ、バラバラに引き裂かれました。
長い長い夜が訪れます。
この人形の世界では、色々な人形がいます。人間、草食動物、肉食動物、虫、魚、鳥、植物など。そして、人形は自分の体を維持するために、他の人形を喰らう必要があります。本質的な意味で共食いです。
しかし、人形が人形を殺し続けたら、いずれ人形はいなくなってしまいます。なので、この世界では輪廻転生という呪いが稼働しており、人形が死んだとしても、人形の中にとらわれていた者たちの魂という名の本体は、また別の新しい、赤ちゃんという名の人形に強制的に押し込まれる仕組みになっています。こうして、質量保存の法則のような仕組みが成り立っています。
(地球という名の果実)
ある人形(元は優しい母親)が、飢えに苦しむ我が子である人形を見つめている。周囲には食料となる他の人形が見当たらない。彼女は、理性では決して考えられない「共食い」という選択肢が頭をよぎり、激しい自己嫌悪と葛藤に苛まれる。「まさか、私が…」と心の中で叫びながら、本能的な飢餓感に抗えない。
穏やかな草食動物の人形(元は平和主義の老人)が、肉食動物の人形に追い詰められる。かつての自分の知性は、死の恐怖を増幅させる。「助けてくれ…」と心の中で叫びながらも、人形の体はただ震えることしかできない。捕食された後、彼の魂は新たな赤ん坊の人形に押し込まれ、再びいつ捕食されるか分からない恐怖の中で生きていく。
小さな虫の人形(元は無邪気な子供)が、巨大な肉食動物の人形に一瞬で踏み潰される。理不尽な暴力と、あまりにも短い「生」の終わりは、この世界の無常さを象徴していた。
何度も捕食され、何度も新しい人形として生を受ける老婆の人形(元は献身的な看護師)。彼女は、過去の苦しい記憶は薄れつつあるものの、根源的な不安感と虚無感に常に苛まれている。「いったい、いつまでこの苦しみが続くのだろうか…」と、終わりなき輪廻に深い絶望を感じていた。
ある若者の人形(元は希望に満ちた青年)が、自分の死んだ恋人が、別の赤ん坊の人形として生まれたことを知る。しかし、過去の記憶を持たない恋人は、彼を見ても誰だか分からない。彼は、再会できた喜びと、愛する人が自分を忘れてしまったという悲しみに打ちひしがれる。輪廻転生は、彼にとって残酷な呪いであった。
ある人形(元は歴史学者)が、断片的な知識として、かつて本当の自分という存在がいたこと、そして、この世界が誰かによって作られた偽りの世界であることを悟り始める。しかし、その真実を他の人形に語っても、信じてもらえず、孤独感を深めていく。
かつて愛し合っていた夫婦が、別々の人形として生まれ変わり、互いの存在を知らずに生きている。ふとした瞬間に、懐かしいような、切ないような感情が湧き上がるものの、それが何なのか理解できない。人形の世界では、かつての人間関係は断ち切られ、人々は根源的な孤独を抱えている。
子供の人形たちが、遊びの中で他の人形を「ごっこ」で襲う。それは、生き残るための本能的な行動であり、無邪気な遊びの中に、この世界の残酷さが垣間見える。
ごく稀に、過去の優しい記憶を鮮明に思い出す人形が現れる。彼らは、この絶望の世界にわずかな希望を見出そうとするが、周囲の無関心や諦めに打ちのめされ、次第に口を閉ざしていく。
ほとんどの人形は、この歪んだ世界を当たり前のものとして受け入れ、感情を深く抱くことを避けるようになる。日々の生存に汲々(きゅうきゅう)とし、精神的な豊かさは失われていく。
さらに、長い夜が過ぎていきます。
人形の姿となった元白髪の少女は、草花が咲き乱れる庭園にいた。隣には、穏やかな笑顔の青年(彼氏の人形)が寄り添い、二人で摘んだ花を編んで花冠を作っている。風が優しく吹き抜け、花々の甘い香りが漂う。かつての絶望を知る元白髪の少女の瞳には、穏やかな光が宿っている。二人は言葉少なげだが、その間には温かい愛情が満ちている。時折、元白髪の少女は遠い空を見上げるが、その表情にはもう暗い影はない。
元白髪の少女は、人形たちがそれぞれの役割や知識を学ぶ学舎に通っている。かつての孤独を知る彼女だが、ここでは分け隔てなく、様々な個性を持つ人形たちと交流している。今日は、植物の世話をする授業で、生き生きとした緑の葉を優しく撫でている。隣の席の明るい少女の人形と微笑み合い、楽しげに言葉を交わしている。放課後には、他の人形たちと中庭で語り合い、笑い声が響いている。
小さな木造の家の中で、元白髪の少女は幼い子供の人形を膝に乗せ、絵本を読んでいる。子供の人形は、元白髪の少女の白い髪を小さな手で優しく撫で、無邪気な笑顔を見せる。傍らには、夫の人形が温かい眼差しで見守っている。夕食の支度が始まり、優しい香りが漂ってくる。かつての孤独な日々とはかけ離れた、温かく穏やかな時間が流れている。
戦争が起きた!
ある時、元白髪の少女の目の前には、惨劇が見えていました。
殺し合い、レイプ、略奪。この世の惨劇の全てが少女の目の前にありました。
(戦争)
(レイプ)
(人間という名の人形の箱庭という絶望の世界)
(略奪)
「なんで?なんで?なんで、みんなそんなひどいことするの?」
元白髪の少女は、記憶を封印していましたが、本能的に、感じていました。
「私は、魔法が使えるはず。」「私なら、何とかできる。」
その瞬間、元白髪の少女は、全てを思い出しました。
すると、目の前で、起こっていた惨劇がピタリと止み、みんなが元白髪の少女を見ています。
みんな言います。「さあ、元の世界に戻ろう。みんな、君を待っているよ!だから、早く、幻想魔法を解いてよ?私達は、あなたを責めたりしないよ?」
そこには、会ったこともない者達、元白髪の少女を陵辱した者達、元白髮の少女に罵声を浴びせた者達、元白髪の少女を陥れた者がいました。
元白髪の少女は、思いました。「あぁ。。。そうか。みんな、私を騙していたんだ。私が見てきたものは全部お前達の演技だったんだな?そうか。。。そういうことか。。。私が抱いた感情は、全て嘘だったんだ?そうか。。。そうか。。。ふざけるな!!!ふざけるな!!!ふざけるなよ!!!この、ゴミどもが!!!(怒)」
(怒り狂う元白髪の少女)
元白髪の少女は、怒りに身をまかせ、幻想魔法の力で、世界を海に沈めてしまいました。
ゴォォォゴォォォゴォォォゴォォォゴォォォ
ガシャンガシャンガシャンガシャンガシャン
バキィバキィバキィバキィバキィバキィ
「津波だーーーーーーーーーーーーー!!!」
「早く!逃げて!みんな!早く!!!」
「ママーーーーーーーー!!!(泣)」
「早く!立って!逃げるのよ!!!」
「お姉ちゃ〜ん!(泣)」
ウゥーウゥーウゥーウゥーウゥーウゥーウゥー
「国民のみなさん!早く高台へ!高い所へ!!!避難してください!!!早く!!!」
ワンワン!!!ワンワン!!!
(巨大津波と街)
(逃げ惑う人々)
多くの人形が死にました。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
(絶望という名の暗闇に堕ちる人形)
長い長い夜が訪れます。
【とある日本】
春の光が、日本魔法学校の校庭を優しく照らしていた。期待と不安が入り混じる新入生たちが、真新しい制服に身を包み、それぞれの未来への一歩を踏み出そうとしていた。その群れの中に、ひときわ目を引く少女がいた。背中まで伸びる白銀の髪は、まるで新雪のようだった。吸い込まれるような赤い瞳は、どこか憂いを帯びながらも、強い意志を宿していた。彼女の名は、結衣。幻想魔法科に籍を置くことになった。
入学式を終え、最初の授業である「初級魔法概論」の教室を探していた結衣は、複雑な校舎の構造に早くも戸惑っていた。渡された地図を何度も見返すものの、なかなか目的地が見つからない。
「確か、この棟の三階だったはず……」
不安げに立ち止まっていると、明るい声が背後から聞こえた。
「もしかして、迷ってる?僕も今日入学したばかりで、右も左も分からなくて」
振り返ると、 黒髪の、 オレンジの瞳を持つ少年が立っていた。彼の周りには、すでに数人の生徒が集まり、楽しそうに談笑している。
「僕は忍田けんじ。創成魔法の使い手だよ。君は?」
「結衣……幻想魔法の使い手」
短い返事に、けんじは誠実な笑顔を向けた。
「幻想魔法か!すごいな!僕は、炎とか水とか、色んなものを創り出す魔法なんだ!」
彼は、手のひらの上で小さな火花を即座に生み出し、すぐに消してみせた。
結衣は、彼の普通ではない魔法に、ほんの少し興味を示した。
「創り出す……」
その時、もう一つの明るい声が二人に割って入った。
「ちょっと、お兄ちゃん!こんなところで立ち止まってないで、早く行こうよ。初日の授業に遅刻したら、先生に目をつけられちゃうよ!」
声の主は、活発そうな銀髪の少女だった。彼女は、けんじの腕を引っ張りながら、結衣に向かってフレンドリーな笑顔を投げかけた。「私は忍田雪菜。このお兄ちゃんの妹で、コピー魔法の使い手なの。あなたの髪、すごく綺麗!まるで、おとぎ話に出てくる雪の女王みたい」
雪菜の誠実な言葉に、結衣はわずかに顔を赤らめた。
「ありがとう」
けんじは、 少し困ったように頭を掻きながら言った。
「ごめんね、妹が賑やかで。もしよかったら、僕たちと一緒に教室まで行かない?たぶん、方向は同じだと思うんだ」
結衣は、一瞬躊躇したが、二人のフレンドリーな雰囲気に少し心を許した。
「うん、お願いしてもいいかな」
こうして、 1人だった白髪の少女、結衣は、 誠実な創成魔法の使い手、忍田けんじと、 おてんばなコピー魔法の使い手、忍田雪菜と、偶然の出会いを果たしたのだった。
教室までの短い道のり、三人はたくさん言葉を交わした。けんじは、自身の創成魔法の可能性について少し興奮して語り、雪菜は、見た魔法や技術を即座にコピーできる自身の尋常でない能力を少し自慢げに話した。結衣は、自身の幻想魔法については多くを語らなかったが、二人の話に注意深く耳を傾け、時折、短い相槌を打った。
教室に着く頃には、三人の間にはすでに穏やかな空気が流れていた。授業中も、 視線を交わしたり、小さなアイコンタクトをしたりするうちに、彼らの距離は自然に縮まっていった。放課後、けんじが提案した。
「せっかくだし、一緒に学校の中を見て回らない?まだ全然場所が分からなくて」
雪菜もすぐに賛成し、「私も気になる魔法具の研究室があるんだ!」、と目を輝かせた。
結衣は、 少し迷ったものの、二人の フレンドーな誘いを断る理由もなく、「うん」と短い返事をした。
忍田雪菜
忍田雪菜
忍田雪菜
忍田雪菜
忍田雪菜
忍田雪菜
忍田雪菜
忍田雪菜
忍田雪菜
忍田雪菜
忍田雪菜
忍田雪菜
三人で広大な校内を散策する中で、彼らは互いの普通ではない才能に驚き、共通の興味や関心を共有することで、 自然と友情を育んでいった。けんじのクリエイティブな発想と、雪菜の効率的な学習能力は、結衣にとって新鮮だったし、結衣のミステリアスな雰囲気と、時折見せる深い洞察力は、二人を惹きつけた。
共に難しい課題に取り組み、夕食の時間をともにして、放課後にはそれぞれの魔法の鍛錬に付き合う。そんなごくありふれたやり取りの中で、彼らの絆はゆっくりと、しかし確実に強化されていった。孤独を感じていた結衣にとって、二人の存在は太陽の光のように暖かく、彼女の心を徐々に溶かしていった。
しかし、平穏な学園生活を送る中で、結衣の心には、時折、説明のつかない憂鬱が訪れた。それは、夜眠りにつく瞬間や、一人教科書に向かっている時など、突然、鮮明な映像として蘇る、白亜の都市の夢の残滓だった。 雄大で光に満ちた都市、そこで暮らす人々の笑顔、そして、最後に訪れた恐ろしい破壊の光景。それらの夢は、彼女を目覚めさせると、 冷汗と不安な気持ちだけを残して、記憶の彼方へと消えていった。
ある日、三人で学校庭園のベンチに座り、世界の違和感のある魔法現象について話していた時のことだった。ふと、結衣は不安な表情を浮かべ、空を見上げた。
「ねぇ、けんちゃん」
彼女は、短い声で言った。
「この世界には、協力な力を持つ魔法使いがいるって聞いたことがあるんだけど……大魔女ステラは、どこにいるんだろうね?」
大魔女ステラ
けんじは、 少し考えてから答えた。
「大魔女ステラか……伝説の魔法使いだよね。 世界の根底を揺るがすほどの力を持つって言われているけど、実在するのかどうかさえ、 奇妙な話が多いんだ。 世界のどこかに隠遁しているとか、もう この世界にはいないとか……」
雪菜も、「私も教科書で読んだことがあるけど、 奇妙な記述ばかりだったな。 世界を創造した強大な魔法使いだっていう話もあれば、世界を破壊する悪魔だっていう話もあって……」と付け加えた。結衣は、二人の言葉を聞きながら、 世界の深淵に隠された強大な力の存在を、漠然と感じていた。
そんなありふれた日常の学園生活を送る中で、結衣の心に訪れる奇妙な夢の頻度は、 徐々に増していった。そしてある夜、いつものように恐ろしい悪夢にうなされた結衣は、不安に駆られ、 当てもなく 図書室を彷徨っていた。その時、ふと、 最近図書館で見つけた古代の装丁の本が目に留まった。 異様な紋様が表紙に刻まれたその本は、彼女を磁石のように引き寄せた。 以前にも何度かページを繰ったはずなのに、その夜は、異常なほど文字が鮮明に目に飛び込んできた。 特に、夢で見た魔法陣によく似た紋様の近くに書かれた古代の言葉に、彼女の目は釘付けになった。「幻想世界級魔法…… 世界の法則を操る協力な力……その代償として、術者の最も大切な記憶を封印する……」
結衣は、震える指でそのページをなぞった。 長い間忘れていたパズルのピースが、 突然、目の前に現れたような、 電気的な衝撃が彼女の全身を駆け巡った。「記憶の封印……私が……自分の記憶を封印した……?」
その瞬間、これまで断片的だった夢の映像が、 線のように繋がり始めた。白髪と赤い瞳を持つ少女。迫害される人々を匿うために創造された白亜の都市。そして、 最後に彼女を裏切った人々の冷たい 目。街を飲み込む巨大な津波の恐ろしいな光景。
「私が……この世界の……創造主……?」
意識は、 重い鉄塊のように、結衣の胸に落ちた。毎晩見ていた恐ろしい悪夢は、単なる夢ではなかった。それは、彼女自身が犯した過去の過ちの記録だったのだ。自分が創造した白亜の都市を、絶望のあまり、破壊してしまったという、 冷たく重い事実が、彼女の心を深く蝕んだ。
翌日、結衣は 重い足取りで、いつもの三人が昼食をとる場所へと向かった。けんじと雪菜は、いつものように明るく彼女を迎えてくれたが、結衣の暗い表情を見て、すぐに何か普通でないことに気づいた。
「結衣、どうかしたの?顔色がすごく悪いよ」けんじが心配そうに尋ねた。
雪菜も不安げな様子で、「何かあったなら、私たちに話してごらん?」と付け加えた。
結衣は、少し躊躇した後、震える声で話し始めた。「実は…… 奇妙な夢を見ていたんだ。ずっと前から……」そして、彼女は、これまで誰にも語ることのなかった、白亜の都市の夢、そこで出会った人々の温もりと裏切り.。そして最後にこの世界の街を飲み込んだ巨大な津波の恐ろしい光景を、 慎重に言葉を選びながら二人に打ち明けた。話を聞くうちに、けんじと雪菜の明るい表情は徐々に深刻さを増していった。
全てを語り終えた結衣は、 不安げな目で二人を見つめた。
「私……もしかしたら、本当にこの世界の創造主なのかもしれない。図書館で読んだ古文書に、私の髪と瞳の色を持つ者が、 強力な力を持つ幻想魔法使いで、その代償として記憶を封印すると書かれていた……」
長い沈黙が流れた。けんじは、深刻な表情で短い声で言った。「つまり……あの恐ろしい夢は、結衣の……過去の記憶……?」雪菜は、結衣の冷たい手をしっかり握りしめ、「そんな……辛すぎるよ、結衣……」と、 震える涙声で言った。
その時、けんじは、 難しい表情で顔を上げた。彼は、結衣の目を真っ直ぐ見つめた。「僕たちが探していた『大魔女ステラ』なんて、 最初からいなかったんだよ。」
結衣は、彼の予想外の言葉に、驚愕の目見開いた。
「え……?」
けんじは、 静かに頷いた。
「実は、この世界をつくったのは、君なんだよ、結衣?」
「嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ! 嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ! 嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ! 嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!!!なんでそんなひどいこと言うの!?けんちゃん!?」
結衣は、信じられないといった表情で叫んだ。 この世界の創造主が自分だなんて、そんな突飛な考え、 認めることできるはずがなかった。
しかし、けんじの表情は真剣そのものだった。雪菜も、心配する表情を浮かべながらも、彼の言葉に同意するように静かに頷いた。
「お兄ちゃんも、私もね、あなたに人形にされた本当の世界の住民なんだよ、結衣?」
長い沈黙が、三人の間に重く立ち込めた。結衣は、混乱と懸念で心が締め付けられるようだった。しかし、 ゆっくりと、彼女の中で、何かが変わった。毎晩見る悪夢の奇妙なリアリティ、古文書の記述、そしてけんじの誠実な言葉……それらが、 1つ1つ、ありえないはずの結論へと彼女を導き始めていた。
そして、 長く重い沈黙を破ったのは、 結衣自身だった。
「……なんてね♪」彼女は、 少し微笑んで言った。
「そんな気はしてたんだ。私の幻想魔法なら、そんなこともできるんじゃないかなって。それに輪廻転生の呪いの魔法を解けるのは、魔法をかけた本人だけだろうからね」
彼女は、自らの言葉を確かめるように静かに頷いた。
「そのために、過去の記憶を見ないとだめだね?今の私には、過去の記憶がないから、解き方がわからないからね」
【日本】
あるところに、1人の少年がいました。彼の名前は、ゆう。優しくて、正義感あふれる少年です。
彼の住む世界は、日本。
(日本の首都・東京)
春の柔らかな陽光が、リビングの窓から差し込んでいた。白髪の高校生のゆうは、ローテーブルに広げた参考書に目を落としている。隣では、小学三年生の妹、ユイが色とりどりの折り紙を広げ、楽しそうに手を動かしていた。
「お兄ちゃん、見て!お花、できた!」
ユイが小さな折り紙の花を掲げて、満面の笑みでこちらを見た。ゆうは顔を上げ、その可愛らしい出来栄えに目を細めた。「すごいな、ユイは本当に器用だな」
「えへへ!」ユイは照れたように笑い、次は何を作ろうかと折り紙の束を漁り始めた。ゆうにとって、この妹の無邪気な笑顔は、日々の小さな憂鬱を吹き飛ばしてくれる魔法のようだった。
ゆうの白髪と赤い瞳は、生まれたときからのものだった。幼い頃は、珍しいね、と物珍しげに見られる程度だったが、成長するにつれて、周囲の視線が気になるようになった。特に思春期に入ってからは、自分の外見が普通ではないことに、強いコンプレックスを抱くようになった。学校では、避けられていると感じることも少なくなかった。
そんなゆうにとって、ユイは全く特別な存在だった。彼女は、兄の特異な外見を、まるで美しいものを見るように純粋な瞳で見つめた。「お兄ちゃんの髪の色、雪みたいで綺麗!触ってもいい?」「赤い目、宝石みたい!キラキラしてる!」
ユイの言葉は、ゆうの心に温かい光を灯してくれた。彼女の無邪気な愛情だけが、ゆうの抱える小さな棘を優しく包み込んでくれるようだった。
ある日のこと、ユイは自分の宝箱から、小さなビーズのついたヘアゴムを取り出した。「お兄ちゃんにあげる!」
「え? いいのか?」
「うん!お兄ちゃんの白い髪につけてほしいの。きっと、すっごく似合うよ!」
ユイのキラキラとした瞳に、ゆうは何も言えなくなった。妹の優しい気持ちが、胸にじんわりと広がった。少し照れながらも、ゆうはユイからヘアゴムを受け取ると、妹の小さな頭を撫でた。
それからというもの、ゆうは時々、ユイにもらったヘアゴムを鞄につけるようになった。それは、妹の愛情の証であり、自分を肯定してくれる存在がいるという、小さな希望の光だった。
ユイが小学校に入学して初めての運動会の日。ゆうは、少しでも妹の近くで見守ってあげようと、人混みの中、妹を探した。ユイは、小さな体を目一杯に使って、一生懸命に走っていた。
その時、近くにいた母親たちのグループが、ゆうの白髪を見て、ひそひそ声で噂話しているのが聞こえた。「あの子、髪の色、珍しいわね」「何か遺伝的なものがあるのかしら」「ちょっと怖い感じもするわね」。
ゆうの心に、チクリとした痛みが走った。やはり、自分は普通ではないのだと、改めて突きつけられたような気がした。
しかし、その時だった。ゴールテープを切ったユイが、満面の笑みでこちらに向かって手を振ってきた。「お兄ちゃん!見た?私、頑張ったよ!」
その笑顔は、周囲の (ささやき声など、全てを吹き飛ばすほどの力を持っていた。ゆうは、精一杯の笑顔で手を振り返した。「ああ、見たよ!ユイ、すごく速かったぞ!」
ユイの隣には、彼女の友達が数人集まってきていた。「ユイのお兄ちゃん、髪の色、本当に白くて綺麗!お人形さんみたい!」
友達の純粋な言葉に、ゆうは驚いた。以前なら、 敬遠するような視線ばかりだったのに。ユイは得意げに胸を張った。「そうでしょ!私のお兄ちゃん、かっこいいんだもん!」
その時、ゆうは気が付いた。 自分の外見をどのように判断するかは、自分次第なのだと。そして、何よりも大切なのは、自分のことを純粋な心で見てくれる家族や、友達の存在なのだと。
夕焼けが空を茜色に染める頃、ゆうはユイと二人で家に帰っていた。ユイは、運動会でもらったメダルを誇らしげに胸につけて、スキップしながら歩いている。ゆうは、少し前の母親たちのひそひそ話を、もう気にはしていなかった。隣を歩く妹の温かい存在が、ゆうの心を優しく包み込んでいたからだ。
「お兄ちゃん」
ふと、ユイが立ち止まり、ゆうを見上げた。その瞳は、夕焼けの色を映してキラキラと輝いていた。「お兄ちゃんの髪、やっぱり、世界で一番綺麗だよ。雪の髪飾りみたい!」
ゆうは、ユイの純粋な言葉に、心の底から温かいものが込み上げてくるのを感じた。 近くにいる大切な妹の存在こそが、自分にとって何よりも大切な宝物だと、ゆうは改めて思ったのだった。
彼は、日頃から、ネット、新聞、テレビなど世界情勢について、とても興味を持っていました。
「なんで?みんな、仲良くできないんだろう?戦争、テロ、迫害。同じ、みんな、人間なのにさぁ。」
少年の学生生活は、いたって普通。勉強が得意なわけでもなく、運動が得意なわけでもなく。
(学生の通学風景)
(勉強を教えてもらっているゆう)
「あ〜あ〜。俺に、魔法の力でもあったらな〜。」
春の柔らかな陽射しが、教室の窓から差し込んでいた。隣の席のさくらは、シャーペンをくるくると回しながら、退屈そうに頬杖をついている。彼女の短い髪が、光を受けてほんのりと輝いていた。
「ねえ、ゆう」
不意に、さくらが声をかけてきた。その明るい声は、教室のざわめきの中でもよく通る。
「ん? どうしたの、さくら」
ゆうは教科書から顔を上げ、彼女を見つめた。さくらは、いたずらっぽく目を細めて笑った。
「なんか今日、ゆう、ぼーっとしてない? 大丈夫?」
「え? ああ、うん。ちょっと考え事してただけ」
本当は、昨夜も見た奇妙な夢のことが頭から離れなかったのだ。白亜の都、見慣れない花々、そして何よりも、胸を締め付けるような白髪の少女の悲しみ。夢の中の光景は鮮明で、まるで本当に自分が体験したことのように感じられた。
「ふーん。ま、いっか。ねえ、放課後さ、新しいカフェができたんだって。一緒に行かない?」
さくらの誘いに、ゆうは小さく笑った。「いいね、行こうか」
さくらは、ゆうにとって特別な存在だった。明るく誰にでも優しく、一緒にいると心が安らいだ。彼女と話していると、時折襲ってくる奇妙な感覚や、夢のことも忘れられた。
放課後、二人は噂のカフェへと向かった。白い壁に木製の家具が置かれた、落ち着いた雰囲気の店内で、ゆうはブレンドコーヒー、さくらはストロベリーパフェを注文した。
「ここのパフェ、すっごく美味しいんだよ!」
さくらは、キラキラとした瞳でパフェを見つめながら言った。ゆうは、そんな彼女の笑顔を見ているだけで、心が温かくなった。
「よかったね」
他愛ない会話をしながら、ゆったりとした時間が流れていく。しかし、ふとした瞬間、ゆうは奇妙な感覚に襲われた。カフェの窓から見える夕焼けの色、店内に流れる優しい音楽、そしてさくらの笑顔。それら全てが、どこか懐かしいような、それでいて初めて見るような、不思議な感覚だった。まるで、過去に同じような光景を見たことがあるような……。
(この夕焼けの色……どこかで……)
ゆうは、胸の奥に湧き上がる微かなざわめきを感じた。それは、昨夜の夢の中に見た夕焼けの色に、どこか似ている気がした。
「ゆう? どうしたの? 顔色、ちょっと悪いよ?」
さくらの心配そうな声に、ゆうはハッとした。「あ、ごめん。なんでもないよ」
彼は、湧き上がってきた奇妙な感覚を打ち消すように、コーヒーを一口飲んだ。苦味の奥にあるほのかな甘さが、現実へと引き戻してくれるようだった。
帰り道、二人は並んで歩いた。さくらは、今日あった面白い出来事を楽しそうに話している。ゆうは、それに相槌を打ちながらも、心の片隅では、あのデジャヴュのような感覚が引っかかっていた。
(あの夢は、一体何なんだろう……)
空を見上げると、薄紅色の夕焼けが広がっていた。その色を見た瞬間、ゆうの胸に、言いようのない切なさが押し寄せてきた。まるで、遠い昔の誰かの悲しみが、自分の心に流れ込んでくるような感覚だった。
「さくら……」
思わず、彼女の名前を呼んだ。さくらは、不思議そうな顔で振り返る。
「どうしたの、ゆう?」
ゆうは、言葉を探したが見つからなかった。ただ、彼女の優しい笑顔を、じっと見つめることしかできなかった。
「……なんでもない。ただ、一緒にいられて、よかったなって思っただけ」
さくらは、少し照れたように微笑んだ。「私もだよ」
二人の間には、しばしの沈黙が流れた。薄紅色の夕焼けが、二人の影を長く伸ばしていた。ゆうは、まだ解けない夢の欠片を抱えながら、隣を歩くさくらの温かさをそっと感じていた。いつか、この奇妙な感覚の正体を知る日が来るのだろうか。そして、その時、自分とさくらの関係はどうなってしまうのだろうか。そんな不安が、ゆうの胸の奥に、小さな影を落としていた。
それでも、今はただ、このかけがえのない時間を大切にしたいと、ゆうは強く思った。さくらの笑顔が、今の彼にとって、何よりも大切な光だったから。
ゆうは、その日も浅い眠りの中で、どこか遠い世界の光景を見ていた。白亜の都、見たこともない花々、そして、悲しみに暮れる白髪の少女。
それはまるで、鮮明な夢のようでありながら、同時に、決して忘れることのできない強烈な感情を伴っていた。
毎晩のように繰り返される奇妙な夢。その理由を、ゆうはまだ知る由もなかった。遠い過去の少女の魂の叫びが、時を超えて、ゆうの意識の片隅に響き始めていたのだ。
ゆうは、時折、ふとした瞬間に、まるでデジャヴュのような感覚に襲われることがあった。見慣れない装飾の施された建物、聞いたことのない言語、そして、胸を締め付けるような孤独感。それらは、彼の日常とはかけ離れた、遠い記憶の断片のように思えた。
特に、白髪の少女の悲しい瞳が、鮮明に彼の脳裏に焼き付いていた。それは、彼の魂の奥底に眠る、忘れ去られた過去の記憶の断片だったのかもしれない。
たくさんの人が、俺の体に触ってきます。何かをむさぼるような、憎いような、それでいて満足そうな顔で。たくさんの女の人たちは、冷たい顔で、ただ僕を見下ろしています。どうして俺にはこんなに大きな胸があるんだろう?どうして、胸を揉まれているんだろう?どうして、股のあたりに、変な感じがするんだろう?どうして、俺は女の人なんだ?
焼けるような痛みが、全身を貫いた。誰かの汚れた手が、抵抗する俺の腕を強く掴む感触が蘇る。耳元で響く、下卑た笑い声。ゆうは、頭を抱えて蹲った。『違う、これは俺の記憶じゃない!』しかし、魂の奥底から湧き上がる悲しみと怒りは、現実味を帯びて彼を蝕んでいく。
その瞬間、とてつもなく膨大な巨大な大量の白髪の少女としての記憶が彼をおそいました。
「わぁあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
その瞬間、ゆうの意識が急激に揺らいだ。まるで地殻がずれるように、彼の中の何かが大きく動き、体の中心から波紋が広がっていくのを感じた。
「ぁ...」
彼の顔から血の気が引き、膝から崩れ落ちる。額に浮かんだ冷や汗が頬を伝い落ちていく。
最初は小さな光の粒のように、断片的な記憶が浮かんでは消えた。白い髪、水晶のような都市、そして数え切れないほどの悲鳴。それらが徐々に繋がり始め、記憶という名の洪水が彼を飲み込んでいく。
「違う...これは...私は...」
ゆうの視界が歪み、目の前の風景が溶け始めた。代わりに見えてきたのは、かつて自分が創り上げた白亜の都市。そして、自分が白髪の少女であったこと。あの日、大切な人々から受けた裏切り。そして、その後の耐え難い屈辱と絶望。
「あぁ...そうだったんだ...」
彼の体が細く、華奢なものへと感覚的に変化していくようだった。太く低かった声が、徐々に繊細な少女の声へと変わっていく。男であるというアイデンティティが、白髪の少女・みゆきというものに上書きされていくのを感じた。
「私は...みゆき...」
歪んだ視界の中、彼女の手のひらを見つめる。それは少年の手ではなく、繊細で白い、少女の手だった。指先が震え、何かを掴もうとするように空を掻き、そしてゆっくりと握り締められた。
「みんな...嘘だったんだ...」
涙が零れ落ち、足元に小さな水たまりを作る。それは現実の涙なのか、記憶の中の涙なのか、もはや区別がつかなかった。体の震えが止まらない。しかし、その震えは次第に怒りへと変わっていった。
「私が...私がどれだけ...」
彼女の周りの空気が震え始め、淡く青白い光が彼女の体から放射状に広がった。忘れていた力、幻想魔法の力が再び彼女の中で目覚め始めていた。
「何もかも...嘘だったのね」
みゆきはゆっくりと顔を上げ、目の前の世界を見据えた。もう迷いはなかった。この偽りの世界と、過去の記憶。全てを受け入れ、そして次に何をすべきかを彼女は知っていた。
「全てを...思い出した」
彼女の目に宿った決意の光が、この偽りの世界を照らし出した。
(温かい思い出)
「両親も友達も学校生活も全て嘘。嘘だったかもしれない。でも、幸せだった。今まで、味わったことのないほど。みんな、人間という名の人形だったかもしれない。でも、みんなとても優しかった。そこに、嘘はないと思う。」
白髪の少女である、ゆうは、幻想魔法で作った人形の呪いの魔法を解きました。
夜明けがきました。
みんな、人形から、解放され、自由になりました。
その後、みゆき・トレント・ヘクマティアルは、名前をあやの・トレント・ヘクマティアルに変えて、自分の王国をつくり、自分を護衛してくれる親衛隊を幻想魔法で、作り出しました。
新しい王国で、あやのはかつて自分を傷つけた人々とも、少しずつ言葉を交わすようになっていた。
最初は恐怖と嫌悪感でいっぱいだったが、彼らが過去の行いを後悔し、償おうとしている姿を見るうちに、あやのの心にも変化が訪れる。
「あの時の絶望は、確かに私を深く傷つけた。でも、彼らもまた、あの歪んだ世界の犠牲者だったのかもしれない…」
ある日、かつて自分を陵辱した男が、涙ながらに謝罪してきた。あやのは、彼の震える肩にそっと手を置いた。
「もう、大丈夫です。あなたも、辛かったでしょう?」
その言葉は、許しというよりも、共に苦しみを乗り越えようとする、あやのの新たな決意の表れだった。
この新しい王国で、彼女に絶望を与え、世の中の厳しさを教え、また、優しさを教えてくれたみんなとあやのは、一緒に幸せに暮らしました。
(生まれ変わった白髪の少女と新しい王国)
(生まれ変わった白髪の少女とみんな)
あやのの言葉は穏やかだったが、その奥には微かな揺らぎが見えた。
「今は、あの時の人たちのことも、許そうと思っています。全てを受け入れた、あの瞬間から、もう切り離せない存在になったのだと…そう思うようにしています。」
夫婦の寝室で、2人は肌を重ねる。
温かい夫の手に包まれながら、あやのはふと、過去の冷たい感触を思い出す。
小さな吐息とともに、その記憶をそっと押しやった。
あやの:「本当に、これで良かったんだよね…?」
心の奥底では、まだ時折、過去の痛みが疼く。それでも、隣にいる温かい存在を感じるたびに、あやのはゆっくりと息を吐き出す。
あやのは、夫の温かい胸に身を委ねる。
過去の屈辱的な記憶が蘇りそうになるたびに、夫は優しく彼女を抱きしめ、温かい言葉を囁く。
「生まれてきて良かった…」あやのは、心の底からそう思う。過去のセックスは、ただ苦痛と絶望しかなかった。
しかし、今の夫との触れ合いは、温かく、優しく、そして何よりも愛に満ちている。
それでも、完全に過去の影が消えたわけではない。時折、恐怖がよぎることもある。だが、夫の愛情深い眼差しと、ゆっくりと重ねられる唇に、あやのは少しずつ、過去の傷を癒していく。
これは、彼女にとって初めて感じる、真の意味での幸福な繋がりだった。
あやの:「こんな幸せなセックスは、初めて。」
彼女は、大人になり、現在は、夫と2人の子どもと共に暮らしている。庭で遊ぶ子供たちの笑い声を聞きながら、あやのは穏やかな微笑みを浮かべる。
以前は、他者の視線に怯え、自分の過去を隠すように生きてきた。しかし、今の彼女は、夫の優しい眼差しや、子供たちの無邪気な笑顔に触れるたびに、少しずつ心の傷が癒えていくのを感じている。
時折、過去の悪夢にうなされることもある。そんな夜は、夫が優しく抱きしめ、朝が来るまでそばにいてくれる。その温もりに包まれ、あやのは再び眠りにつくことができる。
過去の記憶は消えないけれど、今の彼女には、それを乗り越えるための強さと、愛する人たちの支えがある。
顔の刻印は、夫のものという証
(生まれ変わった白髪の少女)
(お風呂でリラックスする大人になった白髪の少女)
(夫とのひととき)
(お昼寝をする母と娘)
世間知らずの白髪の少女と古代魔法都市(双翼の女王 - 再生と協調の叙事詩)
【再会】
あやのがアストレア王国を統治し、人々の生活がゆっくりと安定を取り戻しつつある頃。王宮に、見慣れない美しい女性が現れます。どこか神秘的な雰囲気を纏い、落ち着いた物腰のその女性は、あやのを見るなり、瞳に熱い光を宿し、優しく微笑みます。
「あやの…、私の可愛い妹」
突然の言葉にあやのは戸惑いを隠せません。彼女には姉の記憶などなかったからです。しかし、その女性の瞳の奥にある深い愛情と、どこか懐かしいような感覚に、心の奥底が微かに震えます。
姉は、世界改変の瞬間に、その空間操作能力によって、歪んだ世界の干渉を受けずに済んだ唯一の存在でした。妹が作り出した人形の世界を外から見ており、いつか妹が真実に気づき、世界を解放してくれることを信じて、その時を待っていたのです。解放後、妹を探し続け、ようやく再会を果たしたのでした。
【世界の状況と統治への疑問】
人形の世界から解放された人々は、初めは混乱し、戸惑っていました。しかし、時間の経過とともに、失われた記憶を取り戻し、それぞれの人生を再び歩み始めています。あやのの穏やかな統治と、人々の自立を促す政策によって、世界は徐々に活気を取り戻していました。
しかし、あやのの心には拭えない疑問がありました。かつて世界を守ってきたのは王族であり、その血を受け継ぐ自分と姉こそが、再び世界を導くべきではないか、と。解放された人々の中には、王族ではない平民が政治の中枢を担うことに不安や不満を抱く者も少なからずいました。
姉もまた、妹と同じように王族としての責任を感じていました。彼女の空間操作能力は、世界の均衡を保つほどの力を持つ故に、その責任はより重いものでした。
「あやの、私たちは、この世界を守る使命を負っている。かつての過ちを繰り返さないためにも…」
姉の言葉は、あやのの胸に深く響きました。
【姉の能力と姉妹の関係】
姉の空間操作能力は、想像を絶するものでした。離れた場所に瞬時に物を移動させるのはもちろん、空間そのものを歪めたり、遮断したり、繋げたりすることも可能でした。その力は、災害からの復興、資源の効率的な輸送、そして何よりも世界の平和維持に不可欠なものでした。
姉は、再会した妹を心から愛していました。人形の世界で苦しんだ妹を抱きしめ、その小さな肩を優しく撫でます。
「辛かったね、あやの。もう大丈夫だよ。私が、ずっと一緒にいるから」
姉の温かい言葉と、包み込むような愛情に、あやのの凍てついていた心がゆっくりと溶けていくのを感じました。姉の存在は、あやのにとって、失われた家族の温もりであり、何よりも心強い支えとなりました。
【新たな統治】
あやのと姉は、それぞれの立場から世界を統治していくことを決意します。あやのは、これまで通り、人々の生活の安定と心のケアを中心に、慈愛に満ちた政治を行います。一方、姉は、その強大な空間操作能力を活かし、世界のインフラ整備、災害対策、そして平和維持に尽力します。
二人は互いに協力し、補い合いながら、より良い世界を目指します。王族としての知識と経験、そして何よりも民を思う心。姉妹の連携によって、世界は新たな安定と繁栄の時代を迎えることになります。
しかし、かつて王族に迫害された歴史を持つ人々の中には、再び王族が世界の中心となることに警戒感を抱く者もいます。あやのと姉は、そのような人々の声にも真摯に耳を傾け、対話を重ねることで、信頼関係を築いていこうとします。
姉の空間操作能力は、時に人々に畏怖の念を抱かせますが、彼女の優しさと、妹への深い愛情に触れるうちに、人々は次第に彼女を信頼するようになっていきます。
そして、あやのと姉は、かつての悲劇を繰り返さないために、魔法の力を持つ者と持たない者が互いに尊重し合い、共存できる社会の実現を目指すのです。
この新たな世界で、あやのは、姉というかけがえのない存在を得て、過去の傷を癒しながら、愛する人々と共に、穏やかな幸せをゆっくりと育んでいくことでしょう。そして、姉と共に、この世界を末永く守り続けていくのです。
【白亜の夢、知識の灯火】(白髪の少女の女教師時代と魔法を使えない者達のお話)
世界の片隅に、アルファ・トレント・ヘクマティアルという名の白髪の少女がいた。両親を早くに亡くし、みゆき・トレント・ヘクマティアルと名を変えて14歳になった彼女は、孤独の中で生きていた。その髪は雪のように白く、瞳は赤い色をしていた。
古代に栄えた魔法都市では、魔法を使えない者は迫害されていた。みゆきは、魔法を使えない苦しむ人々のために、強大な幻想魔法で巨大な都市を創造し、彼らを匿った。朝日にきらめき、夕焼けに染まる白亜の都は、魔法を持たない者たちの希望の象徴だった。
都市の中央に輝くクリスタルからエネルギーを得て、人々は穏やかに暮らしていた。みゆきは、彼らの心の声に耳を傾け、誰もが安心して生活できるよう気を配った。
しかし、みゆきは、ただ彼らに安寧を与えるだけではなかった。彼女は、自らが持つ膨大な知識を、未来を担う子供たちに伝えたいと願っていた。かつて、家の書庫で独学で学んだ天文学、歴史、哲学、そして様々な技術。それらは、魔法が使えない彼らにとって、世界を知り、生きるための大切な灯火となるはずだった。
学舎は、都市の一角に建てられた簡素な木造の建物だった。そこで、みゆきは教壇に立ち、子供たちに言葉を紡いだ。彼女の語る世界の成り立ち、文字と数の起源、動植物の生態。その一つ一つには、悠久の時の重みが宿っていた。
「空に輝く星々は、遠い昔から変わらず私たちを見守っています。それぞれの星には名前があり、物語があります。夜空を見上げれば、私たちは決して一人ではないと知ることができるのです。」
「文字は、私たちの想いや知識を未来へと繋ぐための大切な道具です。一つ一つの線には意味があり、組み合わせることで、無限の物語が生まれます。」
みゆきの授業は、一方的な講義ではなかった。彼女は、子供たちの疑問に丁寧に答え、時には戸外に出て、自然を観察することもあった。花の色、葉の形、土の匂い。五感を通して世界を感じる喜びを、彼女は教えようとした。
子供たちは、最初は戸惑っていた。魔法が全ての世界で生きてきた彼らにとって、魔法を使わない生き方は想像もつかなかった。しかし、みゆきの熱心な教えと、優しい眼差しに触れるうちに、次第に心を開き始めた。
(教鞭をとる白髪の少女)
「先生、どうして私たちは魔法が使えないんですか?」
ある子供の素朴な質問に、みゆきは悲しみを湛えた瞳で答えた。「それは、生まれた時の偶然です。でも、魔法が全てではありません。あなたたちには、魔法とは違う、素晴らしい力があります。それは、考える力、感じる力、そして、共に生きる力です。」
彼女は続けた。「知識は、あなたたちの翼になります。世界を知り、理解することで、魔法の有無に関わらず、自分の足で立ち、未来を切り開くことができるのです。」
みゆきの教室には、次第に活気が満ちていった。子供たちは、目を輝かせながら彼女の言葉に耳を傾け、積極的に質問をするようになった。彼女の教えは、彼らの心に希望の種を蒔き、知的好奇心の芽を育てていった。
しかし、そんな穏やかな日々にも、ゆっくりと暗雲が立ち込めていた。
ある日、見慣れない男が街に現れ、人々に囁き始めた。「あなた方の本来持つべき魔法の力は、あの白髪の娘の幻想魔法によって奪われているのです!」
男の言葉は、魔法が使えないことへの不満を抱えていた人々の心に、小さな火種を灯した。最初は小さな囁きだったものが、次第に大きな噂となり、人々の間に疑念と不信感が広がっていく。
みゆきは、子供たちの学ぶ意欲が薄れていくのを感じていた。街の大人たちの間に漂う不穏な空気が、子供たちの心にも影を落としているようだった。
「先生、先生は本当に私たちの魔法を奪ったんですか?」
不安げな表情で尋ねる子供に、みゆきは優しく微笑んだ。「大切なのは、誰かの言葉に惑わされるのではなく、自分の目で見て、自分の頭で考えることです。あなたたちが学んでいる知識は、そのための助けになるはずです。」
しかし、男の言葉は、日増しに人々の心を蝕んでいった。「紫紅姫という禁断の魔法で、他者の魔法力だけでなく、その時の記憶までも奪い取るというではありませんか!」
疑念は憎悪へと変わり、かつてみゆきに感謝していた人々は、次第に彼女を敵意の目で見るようになっていった。
そして、ついにその日はやってきた。夕暮れ時、みゆきがいつものように学舎から出てきたところを、険しい表情の群衆が取り囲んだ。「おい⋯。女⋯。」
彼らの目は、かつての感謝の色を失い、憎悪と疑念に染まっていた。みゆきは、彼らの変わりように言葉を失った。「み、皆さん…どうしたんですか…?」
しかし、彼女の問いかけに答える者は誰もいなかった。次の瞬間、群衆の手が、みゆきへと伸びてきた。「いや〜あ〜!やめて!やめて!やめてよ!みんな!やめてよ!やめて!やめてったらー!!!⋯⋯⋯⋯。⋯⋯⋯⋯やめてください⋯。おねがいします⋯。お願いですから⋯。⋯⋯⋯⋯。」
知識の灯火を掲げ、子供たちの未来を照らそうとした白髪の少女に、残酷な運命が迫っていた。彼女の悲痛な叫びは、かつて彼女が創造した美しい幻想都市に、深く暗い影を落とした。
【白き幻想】
魔法都市エルデニアは、煌びやかな魔法が飛び交う裏側で、禁忌を抱えていた。魔法を持たぬ者は人にあらず。迫害と差別の果てに、処刑という名の断罪が日常的に行われていた。そんな絶望の中で、一筋の光が灯る。白髪に赤い瞳を持つ少女、みゆき。彼女は、自らの幻想魔法で創り上げた巨大な都市に、魔法を持たない人々を匿い、静かに暮らしていた。相手の心からの承諾を得て、事象、存在、能力を吸収し、己の力に変える。想像を具現化する力、紫紅姫。それは、迫害された者たちにとって唯一の希望だった。
しかし、エルデニアの支配体制は、その静かな楽園を許さなかった。盤石な支配を誇示するため、悪意に満ちた噂が広められる。匿われている者たちへの疑念、そしてみゆきへの恐れ。その暗い感情は、やがて暴走へと変わり、みゆきは信じていた者たちから想像を絶する凌辱を受ける。絶望の淵で、彼女の心は深く傷つき、世界への信頼は音を立てて崩れ落ちた。
【魔法都市エルデニアの闇】
エルデニアの実態を暴きたい。虐げられる人々の真実を知りたい。みゆきは、幼い正義感を胸に、単独で隠密調査を開始する。白のキャミソールドレスに、同じ色のフード付きコートをまとい、街へと繰り出した。しかし、その異質な容貌は、否が応でも人々の目を引いた。白髪と赤い瞳は、エルデニアにおいて忌むべき存在の象徴。潜入というには、あまりにも無謀で、幼い考えだった。
調査の末、みゆきは都市の外れにひっそりと佇む廃墟を発見する。それは、かつて人体実験が行われていた場所だった。足を踏み入れると、鼻をつく腐臭と、無造作に転がる夥しい数の死体に、みゆきは息を呑む。不死の軍団を創り出すという狂気の実験。失敗したのか、原型を留めない肉塊があちこちに散らばっている。そして、床には異様な光を放つ、巨大な赤い魔法陣が描かれていた。見たこともない複雑な紋様が、禍々しい力を宿しているように感じられた。
この場所で何が行われていたのか。エルデニアの闇の深さに、みゆきは慄然とする。しかし、この行動こそが、魔法都市が彼女を陥れる決定的な動機となる。禁忌に触れた者への容赦なき排除。みゆきの存在は、エルデニアの隠蔽された悪事を暴く可能性を秘めていた。彼女が見たものは、決して見過ごされることはない。
やがて、みゆきは、絶望を遥かに超える悲劇的な運命へと突き落とされる。彼女の存在は、今やエルデニアにとって脅威でしかない。白き髪の少女が見た真実は、彼女自身を破滅へと導く導火線だったのだ。赤い瞳に映る未来は、絶望の色に染まり、この冷酷で非情な世界では、二度と輝きを取り戻すことはなかった。幻想都市は、崩壊した。
【回想終わり】
しかし、歴史の真実が明らかになろうとしている今、彼女は再び過去と向き合わざるを得なくなっていた。白亜の都市の理念は、今の支配体制を根本的に否定する。もし、その真実が広く知られれば、世界は再び混乱に陥るかもしれない。
あやのは、イグニシェールの幹部たちを個人的に召集した。「白亜の都市に関する全ての情報を、完全に統制せよ。研究者たちの動きを監視し、必要であれば…排除も辞さない。」
彼女の声は凍てつくようであり、 千年の長い時間が磨き上げた鉄の意志を感じさせた。しかし、その冷たい声の奥には、微かなためらいが 隠されていた。かつての自分の理想を否定することは、彼女自身を否定することに他ならないからだ。
イグニシェールは疑問を持つことなく命令に従い、歴史研究者たちへの圧力は激しくなっていった。研究資料は没収され、研究活動は強制的に停止された。エマやヨハンや他の主要な研究者たちは、監視下に置かれた。
しかし、真実は完全に封じ込めることはできない。エマたちは、 禁止区域にひそかに研究室を設け、秘密裏に研究を続行していた。そして、彼らはついに、白亜の都市が滅亡した真の原因に辿り着く。それは、外部からの侵略などではなかった。都市の内部からの崩壊――人々の間の不信、差別、そして暴力が、 純粋な理想郷をゆっくりかつ着実に蝕んでいったのだ。
その真実を知った時、エマは深い衝撃を受けた。白亜の都市は、まさに現代の世界が抱える問題を提起していたのだ。そして、あやのが世界を管理しようとする本当の動機も、そこにあるのではないかと彼女は考えた。彼女は、かつての失敗を繰り返したくないのだ。 純粋な理想は、人々の弱さによって破壊されることを知っているからこそ、力による管理を選んだのだ。
しかし、その管理は、人々の自由と個性を残酷に奪っている。本当に、それが正しい道なのだろうか?エマは、あやのの千年の孤独と苦悩を想像し、複雑な感情に苛まれた。
一方、「白亜の遺志を継ぐ者たち」は、エマたちの発見した真実を知り、行動を開始した。彼らは、秘密裏にネットワークを構築し、白亜の都市の理念、自由と平等の理想主義を人々に伝えようとしていた。 禁書の隠しコピーが出回り、古代の歌や物語が地下で配布されていった。
その動きは、 ゆっくりではあるが、着実に人々の心に火を灯し始めていた。管理された千年の静けさの表面化で、 変化の兆しが静かに 広がりつつあった。
ついに、エマたちは、白亜の都市の中央に存在したとされる巨大なクリスタルの隠された場所を突き止めた。古代の文献によれば、そのクリスタルは都市のエネルギー源であり、人々の心を繋ぐ シンボルだったという。もし、そのクリスタルを発見し、その力を活性化することができれば、世界を変えることができるかもしれない。
しかし、その場所は、あやのの最も厳重な監視下に置かれていた。王宮の深いに場所に位置し、イグニシェールの無数の目が それを守っていた. 侵入はほぼ不可能だった。
それでも、エマたちは諦めなかった。「白亜の都市の理想は、決して消してはならない。たとえ、それが千年の時間を経て歪んでしまったとしても、その純粋な思いは、今の世界に必要な光なのだ。」
エマたちは、「白亜の遺志を継ぐ者たち」と接触を取り、共同でクリスタルへの侵入作戦を計画した。それは、あやのの千年の支配に対する、 決定的な挑戦だった。
決戦の夜、月は赤色に染まっていた。エマをリーダーとする研究者たち、そして「白亜の遺志を継ぐ者たち」のメンバーたちは、 隠されたルート を経由して王宮への侵入を開始した。彼らの胸には、 古代の理想への希望と、未来への情熱が燃えていた。
一方、あやのは、全てを把握した上で、静かにその時を待っていた。彼女は、 千年の時間の中で、何度も自問自答を繰り返してきた。管理された平和は、 本当に幸福なのか?かつての純粋な願いは、本当に間違いだったのか?
王宮の地下で、エマたちはついに巨大なクリスタルを発見した。それは、 古代の記録に残されていた通り、青い光を 静かに 放っていた。しかし、 千年の長いの時間の中で、その輝きはいくらか鈍くなっているようにも見えた。
その時、あやのが姿を現した。彼女は寂しそうであり、千年の時間が彼女に与えた重圧を背負っているようだった。彼女の白い髪は、月の光を受けて白銀に輝き、赤い瞳は深い悲しみを湛えていた。
クリスタルとあやの
「なぜ、禁じられた過去を暴こうとするのですか?」彼女の声は、千年の沈黙を破るように、静かに響いた。「それは、再び混乱と破滅を招くだけです。」
エマは、 断固とした眼差しであやのを見つめ返した。「私たちは、真実を知りたいのです。あなたが、かつて純粋な理想を抱き、この世界をより良くしようとした少女だったことを知っています。なぜ、あなたは変わってしまったのですか?」
あやのの瞳に、一瞬の揺らぎが見えた。「世界は…純粋な理想だけでは救えない。人々の弱さ、醜さ、裏切り…。私は、もう二度と、あの残酷な絶望を味わいたくないのです。」
「しかし、あなたの今のやり方は、人々の自由と希望を奪っています!」若い反逆者のリーダーが、断固とした声で叫んだ。「白亜の都市の理想は、過ちから学び、再び純粋な世界を目指す勇気を与えてくれるはずです!」
あやのは静かに 首を横に振った。「甘い希望ですわ。人々は、 繰り返す。同じ過ちを。私は、それを許さない。」
その時、クリスタルが弱いながらも輝きを増した。 古代の記憶、白亜の都市の純粋な思いが、 千年の時間を超えて、人々の心に静かに 語りかけてくるようだった。
あやのは、苦悶の表情を浮かべた。彼女の中で、千年の支配者の論理と、かつての純粋な少女の感情が、激しく矛盾していた。
「これは… 私の創った… 希望の光…」
彼女の唇から、かすかな呟きが漏れた。その瞬間、彼女の周りの空気が振動し始めた。 千年の時間の中で封印されていた、彼女自身の古代の記憶が、目覚めはじめていたのだ。
世界規模の戦争が始まるのか。それとも、新たな未来への対話が始まるのか。それは、まだ誰にも分からなかった。ただ一つ言えるのは、かつて純粋な願いを抱いた一人の少女の記憶が、千年の時間を超えて、再び世界を揺るがそうとしているということだった。そして、その少女の心の奥底には、まだ消えかけてはいるものの、かすかな純粋な思いが残っているかもしれない、ということだった。
エマ
【白亜の残影 - 千年の黎明 】
王宮の地下深く、青白い光を放つ巨大なクリスタルの前で、千年を生きる女王あやのは、静かに佇んでいた。彼女の白い髪は、クリスタルの光を浴びて一層輝きを増し、赤い瞳は、かつてのような冷たさではなく、深い思索の色を宿していた。
エマの言葉、そして若い反逆者たちの叫びは、彼女の千年の孤独に小さな亀裂を生じさせていた。「純粋な理想は、本当に間違いだったのか?」クリスタルが微かに共鳴するたび、封印されていた過去の記憶が、彼女の心に鮮やかに蘇る。白亜の都市の建設に燃えた日々、人々との温かい交流、そして、残酷な裏切りと絶望。
その夜、あやのは一人、王宮の庭を歩いた。月明かりの下、白亜の花々が静かに咲いている。かつて、この花を愛でた少女の面影が、彼女の心に重なる。管理された平和は、確かに争いのない世界をもたらしたが、同時に、人々の創造性や自由な精神を奪ってきたのではないか。
クリスタルの前でのエマとの対話、そして何よりも、自らの過去の記憶との再会を通して、あやのの中で何かが変わり始めていた。鉄の意志と呼ばれた彼女の心に、再び、白髪の少女みゆきの純粋な願いが、微かに灯り始めたのだ。
数日後、王宮の広間に、世界の主要な指導者たちが集められた。固い表情で座る彼らの前に、あやのは静かに歩み出た。その姿は、かつての冷酷な女王とは異なり、どこか柔和な雰囲気を漂わせていた。
「皆さま」あやのは、深く息を吸い込み、ゆっくりと語り始めた。
「私が千年もの間、世界を管理してきたのは、過去の悲劇を繰り返させたくなかったからです。白亜の都市の崩壊…人々の不信と暴力が、あの希望を打ち砕いた。その記憶は、今も私の胸に深く刻まれています。」
会場は静まり返り、指導者たちは、千年女王の言葉に息を呑んで耳を傾けた。
「しかし」
あやのは続けた。
「クリスタルの光、そして皆さんの声を通して、私は気づきました。管理された平和は、真の幸福ではないと。人々から自由と希望を奪うことは、かつての過ちと同じ過ちを繰り返すことだと。」
彼女は、ゆっくりと頭を下げた。
「私の統治は、今日をもって終わります。今後は、皆さんと共に、自由で開かれた、新しい世界を築いていきたい。」
その言葉は、会場に大きな衝撃を与えた。千年もの間、絶対的な支配者として君臨してきた女王が、自らその座を降りると宣言したのだ。
数週間後、あやのは自らの名前を「結衣ゆい」と改めた。それは、人々の心を結び、共に未来を紡いでいくという、彼女の新たな決意の表れだった。そして、彼女は世界に向けて、新たな提案を行った。「世界防衛軍」の創設。それは、かつての軍隊のような侵略や支配を目的としたものではなく、世界全体の平和と安全を守るための、警察のような役割を担う組織だった。
結衣の提案は、最初は懐疑的な目で見られた。しかし、彼女の真摯な言葉と、過去の過ちを深く反省する姿勢は、徐々に人々の心を動かしていった。エマをはじめとする研究者たちも、結衣の変化を信じ、新しい世界の構築に協力することを誓った。
世界防衛軍の創設は、困難を伴った。各国の軍隊の再編、新たな組織体制の構築、そして何よりも、人々の意識改革が必要だった。しかし、結衣は諦めなかった。彼女は、自らの幻想魔法の力も使い、世界各地に訓練施設を設け、平和維持のための専門的な知識と技術を兵士たちに教え込んだ。
世界防衛軍の兵士たちは、かつての軍人とは異なり、市民の安全を守ることを第一に考え、法と秩序を遵守した。彼らは、紛争の調停、災害救助、そして犯罪の抑制など、多岐にわたる活動を行い、世界各地で人々の信頼を得ていった。
そして、結衣は、世界中の人々が自由に交流し、知識や文化を共有できるような、開かれた世界の実現に向けて尽力した。国境は徐々にその意味を失い、人々の移動や情報の行き来は活発になった。科学技術の発展は加速し、人々の生活水準は向上していった。
かつて、管理された静けさの中に閉じ込められていた世界は、今や、多様な文化と自由な思想が交錯する、活気に満ちた世界へと変貌を遂げていた。人々の顔には笑顔が溢れ、未来への希望が輝いていた。
結衣は、かつての白亜の都市の中央に、新たな象徴となるモニュメントを建立した。それは、崩壊した都市の白い石材と、新しい世界の希望を象徴する透明なクリスタルを組み合わせたものだった。モニュメントは、過去の過ちを忘れず、未来への教訓とするための、静かな誓いだった。
夕焼け空の下、結衣はモニュメントを見上げた。隣には、穏やかな笑顔のエマが立っている。
「結衣」
エマは優しく語りかけた。
「あなたは、本当に世界を変えたのね。」
結衣は、静かに微笑んだ。
「いいえ、エマ。変わったのは、私自身です。そして、信じてくれた皆さんのおかげです。」
かつて、絶望の淵で世界を憎んだ白髪の少女は、その過ちを深く悔い、人々の未来を照らす光となっていた。世界は、千年にもわたる夜明けを経て、ようやく、自由と希望に満ちた朝を迎えたのだ。そして、その黎明の光は、かつて純粋な願いを抱いた少女の、決して消えることのない魂の輝きだった。
結衣
現在の結衣
アストレア王国王立電力会社の制服
【これは理想の物語です。現実は、回想の中で、姉が妹を殺して世界は解放されました。なので、この小説の序盤と終盤の物語は本来存在しないのです。つまり回想以外のお話は本来存在しないのです。】
姉に殺された【妹】と妹を殺した【姉】
【新章】
「あの日の意志は娘のなかに」
娘・結衣
王立心療内科の診察室で、アルファはカルテにペンを走らせていた。銀色の長い髪が、時折、書類の上を滑る。赤い瞳は、患者の心の奥底を見透かすように、静かに輝いていた。
コン太は、隣のソファで優しく微笑んでいた。九本の尻尾が、彼の穏やかな雰囲気をさらに際立たせる。彼は、妻の仕事が終わるのを、いつものように静かに待っていた。
今日の午後の患者は、若い女性だった。彼女は、最近、奇妙な夢に悩まされているという。夢の中では、いつも見知らぬ人形たちが、悲しげな表情で彼女を見つめているらしい。
「その人形たちは、何か言っていましたか?」アルファは、穏やかな声で尋ねた。
女性は少し考えてから、首を横に振った。「いいえ、ただ、ずっと私を見ているんです。まるで、何かを訴えかけてくるみたいで……」
アルファは、その言葉にわずかな引っかかりを感じた。人形。悲しみ。それは、彼女の心の奥底に眠る、決して忘れることのできない記憶の断片を呼び覚ますようだった。
診察を終え、コン太と共に家路につくアルファの心は、どこか重かった。娘の結衣は、リビングで絵本を広げ、楽しそうに一人で遊んでいる。銀髪とオレンジ色の髪が混ざり合った美しい髪が、夕日に照らされて輝いていた。その無邪気な姿を見るたび、アルファは胸が締め付けられるような思いになる。
夕食の食卓を囲みながら、コン太はアルファの様子を気遣った。「どうかしたのかい、アルファ?」
アルファは、今日の患者の話をコン太に話した。人形の夢。それは、かつて妹の結衣が創り出した、人形たちの世界を彷彿とさせた。誰も傷つかない、けれど、どこまでも続く絶望の世界。
コン太は、アルファの手をそっと握った。「ユイ……いや、アルファ。もう大丈夫だよ。結衣ちゃんは、ここにいる。君のそばに」
アルファは、コン太の温かい手に、そっと自分の手を重ねた。彼の存在が、どれほど彼女の支えになっているか、言葉では言い尽くせない。
その夜、アルファは眠りにつくまでの間、娘の結衣の寝顔をそっと見守った。小さな寝息を聞いていると、過去の悲しみも、未来への不安も、少しだけ和らいだ気がした。
結衣。それは、かつて世界を絶望に突き落とした妹の名前。そして今、彼女の腕の中で眠る、愛しい娘の名前。アルファは、この小さな命を守り抜くことこそが、彼女に与えられた使命なのだと、改めて心に誓った。
明日もまた、普通の日常が始まる。それは、かつて失われた、かけがえのない日々。アルファは、コン太と結衣と共に、その一日一日を大切に生きていくと心に決めた。たとえ、心の奥底に癒えることのない傷跡が残っていたとしても。
娘の結衣
銀髪とオレンジの髪の少女、結衣は、埃っぽい魔法学校の廊下を一人歩いていた。非魔法使いでありながら、その類稀なる射撃の腕と、決して人を殺さないという強い意志で、この特異な学び舎で次席の座を掴み取った異色の存在だ。今日は、首席の光魔法使い、クリス・バーンが珍しく訓練場に姿を見せるという噂を聞きつけ、その圧倒的な光魔法を間近で見ようと足を運んでいた。
訓練場では、クリスが光の剣を無数に放ち、標的を蜂の巣にしていた。その眩いばかりの光の奔流は、まさに神業。結衣は、ただただ見惚れるしかなかった。負けず嫌いな結衣だが、クリスに対しては、ライバル心よりも憧憬の念が強かった。いつか、あの光のように、誰かを守れる強い存在になりたいと、心の中で強く願っていた。
その静寂を切り裂くような、地を揺るがす咆哮が響き渡った。黒い影が空を覆い尽くす。それは、黒いドラゴンよりも遥かに巨大な、古龍グレンガレオンだった。太古の力を宿す超大型ドラゴンは、その巨体に見合わぬ速さで魔法学校へと迫り来る。
「避難しろ!」
数名の教員の叫びも虚しく、生徒たちは恐怖に駆られ我先にと逃げ出した。しかし、結衣とクリスは、その場に立ち尽くしていた。傍らには、結衣が手なずけたスライム、一角獣、そして黒いドラゴンの姿もあった。
「逃げないのか?」クリスの声は、どこか冷静だった。
「私は、ここにいるものを守る」結衣は、母アルファから託された多機能戦術戦闘服「機動天衣」に身を包み、腰のホルスターからエーテル鉱石製のハンドガンを抜き放った。
「私もだ」クリスの瞳にも、強い光が宿った。
古龍グレンガレオンが、巨大な口を開き、漆黒のブレスを放った。それは、全てを飲み込む破壊の奔流。教員たちと、結衣の仲間たちは、まともに受け吹き飛ばされ、地面に叩きつけられ動けなくなった。
しかし、結衣だけは違った。「機動天衣」の魔法的な防御フィールドが、ブレスの威力を軽減し、軽傷で済んだのだ。一人、立ち上がった結衣は、古龍に向けて銃を構えた。
「させない!」
トリガーを引く。エーテル鉱石製の銃から放たれた現代の銃弾は、古龍の鱗に弾かれる。圧倒的な力の差を前に、結衣は苦戦を強いられた。巨大な足が、倒れている結衣を踏み潰そうと振り上げられる。その時、黒いドラゴンが身を挺してその足を受け止めた。骨がバキバキと音を立て、苦痛の悲鳴を上げる黒いドラゴン。それでも、結衣を守ろうと必死に踏ん張っている。
その隙を突き、一角獣がスライムを背に乗せ、古龍の開いた口へと突進した。スライムは、古龍の体内で自己増殖を始め、巨大な胃袋を内側から膨張させていく。激痛に悶え苦しむ古龍は、堪らず口からスライムの群れを吐き出し、咆哮を上げながら退却していった。
全てが終わった後、結衣は、満身創痍の黒いドラゴンに駆け寄り、優しく撫でた。クリスは、そんな結衣の姿を静かに見つめていた。
「あんた、すごいな」クリスが、初めて結衣に素直な言葉をかけた。
「みんながいたから…」結衣は、かすれた声で答えた。
その日を境に、二人の間には、これまでとは違う、特別な感情が芽生えた。互いの強さを認め合い、弱さを補い合う、固い友情。負けず嫌いな結衣にとって、クリスは依然として目標だったが、同時に、かけがえのない親友となったのだ。共に困難を乗り越えた二人の瞳には、未来への新たな光が宿っていた。
数年後。結衣とクリスは、世界防衛軍という、世界の平和維持を目的とした国際的な組織に所属していた。古龍グレンガレオン撃退の功績は世界中に知れ渡り、クリスはその圧倒的な魔法力から、大将のさらに上、特級大将という異例の階級に抜擢された。一方、結衣もまた、非魔法使いとしては異例の出世を果たし、中将の地位に就いていた。中将の多くが強力な魔剣士や魔法使いである中、結衣の存在は異彩を放っていた。世界防衛軍の主力は、依然として現代兵器だった。戦車、軍艦、戦闘機。それらは、魔法とは異なる力で世界を守るための要だった。
そんな中、世界防衛軍にとって新たな難敵が現れた。その名は、フランデール・ルフタシア。若い女の魔法使いで、その能力は、信じられないものだった。彼女は、触れた物の構造を分解する魔法を持っていたのだ。その力を使って、世界防衛軍の兵器を次々と分解し、希少な部品を闇市場で密売していた。その目的は、ただの金儲け。スケールの小さい悪党だった。
クリスと結衣は、この厄介な魔法使いの調査を依頼された。二人は、フランデールの潜伏先を突き止め、その圧倒的な力で彼女を追い詰めた。クリスの眩い光の魔法は逃げ場を奪い、結衣の正確無比な射撃はフランデールの動きを封じた。抵抗する間もなく、フランデールは捕縛され、世界防衛軍の本部へと連行された。
尋問室。結衣の母、アルファが静かに座っていた。彼女は、世界に数人しかいないと言われる、世界級魔法の一つ、幻想魔法の使い手だった。その能力は、常識を覆すものだった。彼女は、他者の持つ魔法を無条件で奪い取り、自分のものにすることができ、また、それを別の誰かに譲渡することさえ可能だった。
アルファは、目の前で震えるフランデールに冷たい視線を向けた。「貴様の魔法は、無駄な力だ」
フランデールは、恐怖に顔を歪めた。「やめて…私の魔法を奪わないで!」
アルファは、フランデールの懇願を無視し、その指先から淡い光を放った。フランデールの体から、目に見えない力が吸い取られていくのが、結衣には感じられた。フランデールは悲鳴を上げ、床に崩れ落ちた。
アルファは、奪い取った分解の魔法を、傍らに控えていた、非魔法使いの実力を持つ軍人に譲渡した。その軍人は、驚愕の表情から一転、決意を宿した瞳でアルファに敬礼した。その場で、彼は中将に任命された。
床にへたり込んだフランデールは、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして叫んだ。「私は…無能者になりたくない!私の魔法を返して!」
アルファは、立ち上がり、冷たい眼差しでフランデールの頬を容赦なく殴りつけた。乾いた音が尋問室に響いた。
「人を舐めすぎだ」アルファの声は、氷のように冷たかった。「お前のような小物が、世界の秩序を乱そうなどと、片腹痛いわ。0から出直して、世界の広さを知れ、クソガキ…。」
フランデールは、ただただ泣きじゃくることしかできなかった。結衣は、母の容赦のなさと、フランデールの絶望的な姿を、複雑な思いで見つめていた。魔法を持つ者と持たぬ者。力を持つ者と持たぬ者。その差は、時に残酷なほどに大きかった。しかし、アルファの言葉には、確かに真実が宿っているようにも思えた。甘い考えでは、この世界で生き残ることはできないのだと。結衣は、自身の銃を握りしめ、その重さを改めて感じた。彼女には、魔法はない。だが、彼女には、決して揺るがない意志と、守りたいものがあった。それこそが、彼女の力なのだと、改めて心に刻んだ。
【渋谷スクランブル降臨】
ミユキ
世界級魔法である幻想魔法で創られたドラゴン
白銀の髪が夜風に舞う。紅玉の瞳が、見慣れない光景を捉えていた。ミユキは、騒然とした喧騒の中に、突如として現れた。隣には、漆黒の鱗を纏った巨大なドラゴンが、威圧的な姿で佇んでいる。
「お嬢様?人が多いですね?降り立つ場所をまちがえたのでは?」
ドラゴンの声は、周囲の騒がしさに反して、ミユキの耳にはっきりと届いた。ミユキは、群衆を押し分け、信号が青になった横断歩道を渡ろうとする人々を一瞥した。
「いいの。私は、元王族。だから、人の顔色をうかがう必要はないの」
その言葉通り、ミユキは微塵も動じることなく、人々の間を歩き出した。しかし、突然の異質な存在の出現に、スクランブル交差点は瞬く間にパニックに陥った。悲鳴、怒号、そして逃げ惑う人々。
事態を重く見た日本の警察、そして自衛隊が出動。さらに、日本を庇護下に置いていた在日外国軍までもが、その強大な軍事力を背景に対応に乗り出した。彼らは、この異常事態を自分たちの支配下における脅威と認識したのだ。
在日外国軍の狙撃手が、冷静にスコープ越しにミユキを捉える。トリガーが引かれた。
その瞬間、黒い影が狙撃手の頭上を覆った。轟音と共に、ドラゴンが急降下し、巨大な片足でその存在を踏み潰した。赤い液体が飛び散り、周囲の騒然とした空気が一瞬凍り付いた。
ミユキは、その光景を冷たい瞳で見下ろしていた。彼女は、白い世界に飛ばされる直前、姉の空間操作能力を幻想魔法でコピーしていた。そして、この世界に降臨した後、その力を行使し、世界中の核兵器を消失させていたのだ。それが、在日外国軍が彼女を危険視し、狙撃という強硬手段に出た理由だった。
有限の黒い宇宙群と無限の白い世界
しかし、その行動は、彼女の強大な力と、それを守るドラゴンの存在を過小評価した、致命的な誤りだったと言えるだろう。
【ミユキが創るアストレア王国】
ミユキ
ブラック アストレア王国軍 特級大将 体長40m (ミユキの守護者) 序列第1位
ホワイト アストレア王国軍 特級大将 体長40m (ミユキの守護者) 序列第2位
アルファ アストレア王国軍 体長20m 中佐 ホワイトの部下 1万人
ラスター アストレア王国 公安 少将 身長171㎝ Hカップ
アイリーン アストレア王国専属メイド 1億人 身長160㎝ Hカップ
ライデン 王立心療科病院魔獣セラピーの魔獣
【1章:新たな秩序の胎動】
ミユキは知っていた。この世界は変わらなければならないと。かつてアルファという少女が経験した「第1次世界防衛戦」と「第2次世界防衛戦」のような悲劇、魔法を使えない人々への迫害、そして「人形化計画」といった禁忌の事変を、二度と繰り返してはならない。
「強さとは、あきらめないこと。」
「どんなに辛いことがあっても、あきらめなければ大丈夫だよ。」
彼女の言葉は、自らが背負った過去の痛みと、それを乗り越えてきた覚悟の証だった。そして、その覚悟は、現実となる。
幻想魔法の力で、ミユキは太平洋上に広大な大陸を創り出した。そこには、彼女の理想が詰まった新たな国、アストレア王国が建国された。王国の中心には、王立心療科病院トラウマ・PTSD・性暴力被害者救済科が設けられ、過去の傷を抱える人々に寄り添う。国民は毎月10万ベルが支給され、インフラ、部屋代、食料、医療、衣類、雑貨の費用は実質無料という、かつてない福祉国家だ。移民は戦闘技術の習得が必須であり、多神教が許容され、言語は日本語に統一された。
アストレア王国専属の守護者として、ブラックと並ぶ体長40メートルの白いドラゴン、ホワイト(特級大将)、そしてその部下である1万匹のシルバーのドラゴン(体長20メートル、中佐)が空を覆う。情報と防諜を担うのは、黒いドラゴンの角と尻尾を持つ少女、公安の少将ラスターだ。そして、王国の日々を支えるのは、完璧に統率された一億人のメイド軍団アイリーン。彼女たちは、ミユキが過去に自分を守る存在がいなかったからこそ、今、自分の手で創り出した「大切な者たち」であり、王国の盤石な基盤そのものだった。
「私にべったり依存してくれて構わないですよ。とても嬉しいです。」
彼女の言葉は、彼ら、そしてこれから迎え入れる国民への、偽りのない慈愛の表明だった。
世界防衛機関の設立と火星への進出
既存の国連がロシアとウクライナの戦争のように機能不全に陥っている現状に鑑み、ミユキは新たな国際組織、世界防衛機関を設立した。その会議への参加条件は、たった一つ。「志願制の軍を保有する国であること」だ。徴兵制を排し、国民の自由意志を尊重するこの条件は、彼女が「承諾」という幻想魔法の弱点から学んだ、真の平和への道を示すものだった。
そして、この世界防衛機関の強力な実働部隊となるのが、世界防衛軍である。3億5000万人もの職業軍人を擁するこの軍は、ミユキの直接的な管理下に置かれ、世界防衛機関は彼女を動かせない。この強大な軍事力の中核を成すのは、1万匹の青いドラゴン(体長20メートル)だ。彼らは翼を持ち、言葉を話し、戦車を軽くひっくり返すほどの力を持つ。青いドラゴンたちは、アストレア王国専属のドラゴンとは異なり、真に中立的な立場で、世界防衛機関の旗の下、地球全体の平和維持に貢献する。
ミユキのビジョンは地球に留まらなかった。空間操作能力魔法を駆使し、彼女は遠く離れた火星に、新たなアストレア王国を築き始めたのだ。地球の危機に備えるため、そして人類の新たな可能性を切り開くため、火星はもう一つの理想郷となる。
「私にとって、みんなは大切な者たちです。」
ミユキの首や手首に付いている金属製の首輪や手枷は、「世界を守る」と「女の子を守る」という彼女の使命の証だった。過去の禁忌の事変、人形の世界での出来事。「お姉ちゃん...。お願い...。私を殺して!また、同じことやっちゃう!」という慟哭を胸に、彼女はもう、世間知らずではない。無限の白い世界での懺悔を経て、すべての記憶と力を取り戻した結衣は、ミユキとして、新たな世界の秩序を、今、この手で塗り替えようとしていた。
【2章:世界が目覚める時①】
日本政府内では、ミユキからの防衛協定と物資提供の提案を巡る激論が続いていた。長年依存してきた日米同盟を解消し、未曾有の力を持つミユキと新たな関係を築くことは、国家の存立基盤に関わる究極の選択だった。
「…しかし、首相!アメリカは黙っていないでしょう!これは、我が国の安全保障を根底から揺るがす行為です!」防衛大臣が、血走った目で叫んだ。
「分かっている。だが、核兵器が消滅した今、彼らの核の傘は意味をなさない。そして、あの女…ミユキは、我々が生きる上で必要な全てを無償で提供すると言っている。これほどの提案を、無視できるのか?」首相は、疲弊した顔で反論した。
その頃、情報機関はミユキの正体を探るべく、あらゆる手段を講じていた。「アストレア王国女王、王立心療科病院院長、世界防衛機関盟主、世界防衛軍最高司令官……。」報告書を読み上げる公安の担当官の声が震えた。まるで、伝説の書物を読み解くかのように、その存在は非現実的だった。
【米国の激怒と空母打撃群の展開】
日本の動きに対し、アメリカは即座に反応した。
「日本政府は、我が国の安全保障に対する重大な裏切り行為を行おうとしている!これは、アジア太平洋地域の安定を脅かす暴挙だ!」
ホワイトハウスの緊急記者会見で、大統領は激しい口調で日本を非難した。そして、その数時間後、アメリカ海軍の空母打撃群、3個が日本近海に向けて全速力で展開された。最新鋭の戦闘機とミサイルシステムを搭載した巨大な艦隊は、かつて日本を庇護下に置いてきた強大な軍事力を誇示し、ミユキと日本政府への明確な警告と威嚇だった。
太平洋の波間に浮かぶ空母の巨大な影。戦闘機が轟音を上げて飛び立ち、威嚇射撃が日本の領海すれすれで行われた。CNNの速報が世界中を駆け巡り、第三次世界大戦の勃望を囁く声が上がり始めた。国連も緊急会議を招集したが、その機能不全ぶりは明らかで、有効な手立ては何一つ打ち出せないまま、事態は膠着状態に陥った。
【ミユキの断固たる行動:「茶番は嫌い」】
しかし、ミユキは、そのような「茶番」には一切興味を示さなかった。
渋谷スクランブル交差点で初めて具現化された体長40メートルの黒いドラゴン、ブラックが、日本の首相官邸の屋上で咆哮を上げた。その声は、拡声器を通じたものではなく、地球の核から響くような、本能的な恐怖を呼び起こすものだった。
「間もなく、日本の近海に展開するアメリカの空母打撃群は、存在を停止します。」
ブラックの言葉は、テレビを通じて全世界に同時通訳され、その場にいた報道陣を凍り付かせた。
その直後、太平洋上。アメリカの兵士たちは、突如として視界が歪むのを感じた。空母の甲板にいた兵士が、困惑した顔で空を見上げる。海面にいた潜水艦のクルーが、ソナーの異常な反応に耳を澄ませる。
その瞬間、巨大な空間の歪みが、空母打撃群の周囲を飲み込んだ。それは、まるで漆黒の宇宙の口が、艦隊を丸ごと呑み込もうとしているかのようだった。
「な、何だあれは!?」
「緊急回避!全速で離脱しろ!」
艦長たちの怒号が響き渡るが、すべては手遅れだった。
ミユキの空間操作能力魔法によって、3個の空母打撃群は、瞬く間に地球の重力圏を離れ、漆黒の宇宙空間へと放り投げられた。空気のない真空、絶対零度の世界、そして星屑が瞬く無限の闇の中へ。
何の前触れもなく、文字通り「存在を停止」させられた空母打撃群。通信は途絶し、レーダーからその姿は完全に消え去った。
世界中が沈黙した。テレビ画面には、空っぽの太平洋と、信じられないという顔で中継を見守るアナウンサーの姿が映し出される。
ミユキは、首相官邸の屋上から、夜空に浮かぶ無数の星々を見上げていた。彼女の表情は、どこまでも冷静で、その紅玉の瞳には、一切の迷いが見えなかった。
「茶番は嫌いなの。」
彼女の呟きは、誰にも聞こえなかった。しかし、その行動は、既存の世界秩序の終焉と、ミユキが創り出す新たな時代の幕開けを、全世界に告げる、決定的な一撃となった。
【3章:世界が目覚める時②】
アメリカの空母打撃群がレーダーから消え去った後も、世界の混乱は収まらなかった。しかし、ミユキの次の行動は、その混乱を恐怖と絶望、そして一部の人々には畏敬の念へと変えることになる。
ホワイトハウスの地下深く。大統領と軍の最高幹部たちは、通信が途絶した空母打撃群の状況を巡り、激しく議論していた。
「まさか、本当に宇宙へ……?そんな馬鹿なことが許されるはずがない!」
「これは宣戦布告だ!我々の全戦力を持って、あの女を……」
怒号が飛び交う中、一人の将軍が血相を変えて飛び込んできた。
「大統領!報告です!世界各地の基地で、航空機、戦車、軍艦…全ての軍用車両が、一斉に消失しています!」
その言葉に、部屋中の空気が凍り付いた。
全米、そして全世界の軍事拠点から消え去る「乗り物」
その現象は、瞬く間に世界中へと波及した。
アメリカ本土、広大な空軍基地の滑走路から、最新鋭のステルス戦闘機F-22が、まるで幻のように消え失せた。格納庫に並べられていた爆撃機や輸送機も、跡形もなく消滅。陸軍基地では、M1エイブラムス戦車が、整備員の目の前で宙に浮き上がり、そのまま漆黒の空へと吸い込まれていく。海軍基地の港では、原子力潜水艦や駆逐艦、揚陸艦といったあらゆる軍艦が、まるで巨大な泡が弾けるように、水面から消滅した。
それはアメリカ軍だけでなく、同盟国を含む世界中の軍事拠点でも同様だった。
「レーダーから消えた!」「エンジンが停止したまま浮き上がった!」「海中から消え去った!」
世界中の司令部から、信じられないという報告が次々と上がった。混乱は瞬時にして頂点に達し、各国の防衛ラインは一瞬にして無力化された。空を飛ぶ鳥の群れは変わらず、道路を走る一般車両もそのまま。しかし、「乗り物」と呼べる軍事的な移動手段は、全て、空間操作能力魔法によって宇宙の深淵へと放り投げられていた。
ミユキからの最終通告
この前代未聞の事態に、世界は完全に沈黙した。テレビのニュースキャスターは言葉を失い、経済市場は暴落し、各国の政府は機能を停止しかけた。
その静寂を破ったのは、再び日本の首相官邸の屋上からの中継だった。ミユキの隣には、漆黒のドラゴン、ブラックが堂々と佇んでいる。
「これまでの行動は、私が示した最初の警告だ。」
ミユキの声は、世界中のスピーカーから響き渡った。その声には、一切の感情の揺れがなく、冷徹なまでの意思が宿っていた。
「私は、平和を望む。争いのない、恒久的な秩序を築きたい。そのために、不要な『茶番』は、もう終わりにしてもらう。」
彼女の紅玉の瞳が、画面の向こうの全世界を見据える。
「理解したか? 世界よ。お前たちは、もう、私に抗う手段を持たない。」
言葉は簡潔だった。しかし、その背後に見え隠れする二つの世界級魔法の絶対的な力と、具体的な行動で示されたその冷徹なまでの意思は、世界に、自身の無力と、ミユキの支配が始まったことを、嫌というほど「わからせた」。
この瞬間、既存の国際秩序は、完全に終わりを告げた。世界は、ミユキという絶対的な存在の下で、新たな時代へと突入することを余儀なくされたのだ。
【4章:世界が目覚める時(激震)】
アメリカの全ての軍用機や艦船が宇宙の彼方へ放り投げられ、世界の防衛ラインが白紙に戻された後も、ミユキの「茶番は嫌い」という行動原則は、一切の猶予なく続行された。
各国政府が呆然自失し、いまだ有効な対応策を打ち出せないでいる中、ミユキは彼らの返答を待たなかった。彼女は、世界が長年目を背けてきた「病巣」に対し、外科手術のような冷徹さでメスを振るい始めたのだ。
【一切の手加減なき「浄化」】
世界各地に点在する麻薬カルテル、テロリスト集団、人身売買業者、武器密売業者——。これまで国際社会が手をこまねいてきたあらゆる「悪」に対し、ミユキは一切の容赦なく介入を開始した。
太平洋上に突如として現れたアストレア王国から、そして地球上の主要拠点から、世界防衛軍の青いドラゴンたちが、漆黒の夜空を切り裂いて飛び立った。体長20メートルの彼らは、翼を持ち、言葉を話し、そして「魔法を持たない人間1000人以上の戦力」という圧倒的な個の力を持つ。
南米の密林深くに隠された麻薬カルテルのアジト。テロリストが人質を盾に立てこもる中東の街。アフリカの紛争地で横行する人身売買の拠点。そして、闇市場で大量の兵器が取引されるヨーロッパの地下組織。
青いドラゴンたちは、その強大な力で、隠蔽された拠点ごと壊滅させ、首謀者たちを瞬時に殲滅した。戦車を軽くひっくり返す彼らの力は、これまで人間が築き上げてきた軍事力を遥かに凌駕する。精密な爆撃も、大規模な地上戦も必要ない。ただ圧倒的な力で、悪の根源を断ち切る。その光景は、監視カメラや上空を舞うドローンによって全世界に中継され、人々は息を呑んだ。
世界中で起こる紛争への介入
同時に、世界中でくすぶっていた、あるいは激化していた紛争や戦争にも、ミユキの介入は容赦なく及んだ。
ロシアとウクライナの戦場。長引く消耗戦で疲弊しきった兵士たちの頭上に、突如として青いドラゴンたちが舞い降りた。彼らは、一方の勢力に加担するのではなく、戦闘行為そのものを強制的に停止させた。戦車や火砲を破壊し、戦闘機を墜落させ、兵士たちを武装解除させる。抵抗する者は、容赦なく排除された。
中東、アフリカ、アジア。あらゆる地域で繰り返されてきた流血の歴史に、ミユキは終止符を打つかのように介入した。彼女の命令を受けた青いドラゴンたちは、まるで神の鉄槌のように、全ての戦いを強制的に終わらせていった。
【世界に刻まれた「絶対」の支配】
各国政府は、目の前で繰り広げられる「浄化」と「停止」の光景に、為す術もなく震え上がった。抗議の声は、ミユキの耳には届かない。彼女は一切の情を挟まず、ただ自身の理想とする「過度な苦しみや喜びのない、ごくごく平穏な日々」を、この手で築き上げるために行動していた。
これはもはや、茶番でもなければ、交渉の余地も存在しない。ミユキは、自身の絶対的な力と、それを直接管理する世界防衛軍を用いて、世界に新たな秩序を強制的に刻み込み始めたのだ。
混乱、恐怖、絶望。しかし、その一方で、長年続く紛争の終結や、悪しき組織の壊滅に、一部の人々には淡い、しかし確かな「希望」の光が見え始めていた。
世界は、今、ミユキの掌の上で、その姿を大きく変えようとしている。そして、次の段階で、彼女がこの世界に求めるものは何か、その真意が問われることになるだろう。
【5章:慈悲と知恵の顕現】
世界中を震撼させた一連の「浄化」作戦の後、ミユキは一切の猶予なく、次の段階へと移行した。もはや誰も、彼女の意思に逆らう術を持たないことを理解した世界に対し、彼女は、力だけではない、もう一つの側面を示すことになった。
【日本との本格的な連携:平和への投資】
アメリカの軍事力を無力化し、世界の闇を強制的に一掃したミユキは、日本の首相官邸を訪れた。そこには、憔悴しきった表情ながらも、どこか諦念を漂わせる日本政府の首脳陣がいた。
「これより、貴国との防衛協定、及びエネルギー協定を締結します。」
ミユキの言葉は簡潔だった。日本は、ミユキの提案を受け入れるしかなかった。抵抗すれば、自分たちの国もまた、何らかの形で「茶番」として宇宙に放り投げられるかもしれないという、絶対的な恐怖が支配していたからだ。
しかし、その提案は、恐怖だけでなく、確かな希望も内包していた。人工石油、人工天然ガス、鉱物資源、食料、医薬品、その他あらゆる物資の無償提供。輸入大国である日本が、長年の貿易依存とそれに伴う他国からの圧力から解放される瞬間だった。
そして、ミユキはさらに、驚くべき提案を行った。
「日本に、1000万人を収容できる小児科病院を建設します。」
その言葉に、首相は息を呑んだ。国の財政、建設用地、運営体制――通常の常識では考えられない規模だった。しかし、ミユキの言葉に迷いはなく、その瞳には、子どもたちの未来を見据えるような慈愛が宿っていた。
病院の建設は、ミユキの幻想魔法によって、驚異的な速さで進行した。巨大な建造物がまるで地中から湧き出るように、一瞬にして姿を現す。その壮大さと、建設に携わる人間の姿が見えない超常現象に、国民はただ茫然とするしかなかった。
【博識なる女王の贈り物:魔法の薬】
病院の建設と並行して、ミユキはもう一つの奇跡を起こしていた。
彼女は幼い頃、故郷の王国の王宮書庫で、古今東西、あらゆる分野にわたる知識を貪欲に吸収してきた。その圧倒的な博識は、この魔法なき世界においても遺憾なく発揮された。
ミユキは、自らの幻想魔法を用いて、次々と新薬を創造した。その薬は、この世界の科学では到達し得ない、まさに「魔法の薬」だった。
「副作用は限りなく少なく、体に優しい、自然由来の物です。病気を根本から癒し、人々の苦しみを和らげます。」
彼女の言葉通り、治癒困難とされてきた難病が、子供たちの苦しみを伴うことなく、次々と癒されていった。魔法の薬は、既存の医薬品とは比較にならないほどの効果を発揮し、病院で働く医師や看護師たちを驚愕させた。彼らは、目の前で起こる奇跡に、ただひれ伏すしかなかった。
ミユキの冷徹な「浄化」と、その後の温かい「慈悲」の顕現。二つの世界級魔法と、それによって創造された圧倒的な戦力と社会基盤は、力によって世界を屈服させるだけでなく、人々の心に深く入り込み、その生き方そのものを変革していく。
日本は、ミユキの絶対的な庇護の下で、そして世界は、彼女が提示する新秩序の狭間で、その未来を模索し始めることになった。
【6章:広がっていく波紋】
ミユキによる世界の「浄化」は、瞬く間に混沌を秩序へと変えた。麻薬カルテルは壊滅し、テロリストは姿を消し、人身売買や武器密売といった闇の取引は、青いドラゴンの絶対的な監視の下で息を潜めた。そして、長らく血を流し続けていた紛争地帯からは、銃声が消えた。それは、暴力的な介入によって強制された平和ではあったが、同時に、多くの人々にとって、想像もできなかった「平穏」の到来でもあった。
【力と思いやりの狭間で】
日本の首相官邸には、各国からの問い合わせが殺到していた。「あの恐るべき存在は一体何者なのか」「彼女が提唱する世界防衛機関とは何か」。かつては日米同盟の庇護の下にあった日本が、今やミユキと直接的な協定を結び、その恩恵を享受し始めたことは、世界のパワーバランスを根底から覆す現象として注目された。
ミユキが日本に建設した1000万人規模の小児科病院は、世界中に衝撃を与えた。幻想魔法によって生み出された魔法の薬は、副作用が少なく、多くの難病に苦しむ子供たちの命を救った。その光景は、連日、世界中のメディアで報じられた。絶望の淵にあった家族に希望が差し込み、子どもたちの笑顔が戻るたびに、ミユキの「慈悲」の側面が強調された。
「容姿を見られることは、嬉しいことですよ。私、胸は豊かですから。」
テレビのインタビューで、ミユキがそう告げた時、当初は彼女の容姿への好奇と恐怖が入り混じっていた世間の反応は、少しずつ、しかし確実に変化し始めていた。彼女の言葉の一つ一つが、これまで経験してきた苦しみや、そこから学んだ教訓に裏打ちされていることを、人々は感じ取っていく。
「強さとは、あきらめないこと。」
「どんなに辛いことがあっても、あきらめなければ大丈夫だよ。」
彼女の言葉は、まるで魔法の薬のように、人々の心にも届き始めた。長年続いた戦争や紛争で傷ついた人々は、ミユキが強制的に生み出した平和の中で、ようやく安堵の息をつくことができた。そして、その平和が、彼女の圧倒的な力だけでなく、その根底にある「守る」という強い思いと、「承諾」を求める哲学に基づいていることを、徐々に理解し始めたのだ。
【広がる世界防衛機関への加盟】
空母打撃群を宇宙に放り投げられ、さらに全ての軍用乗り物を失ったアメリカ合衆国だけは、ミユキへの激しい怒りと不信感を募らせていた。彼らは、ミユキの行動を一方的な侵略とみなし、あらゆる手段で抵抗しようと試みた。しかし、その手中に残されたのは、もはや核兵器も、それを運ぶための軍用車両も存在しない、無力な軍隊だけだった。彼らは、表向きの抵抗を続ける一方で、秘密裏にミユキへの対抗策を探ることしかできなかった。
しかし、アメリカ以外の各国は、この現実を前に、選択を迫られた。ミユキの軍事的な介入は、これまで人類が経験したことのない、一方的で、しかし、圧倒的な「平和」をもたらしていた。そして、ミユキが提示する「志願制の軍」を条件とする世界防衛機関への加盟は、従来の国家体制における「強制」からの解放を意味するものでもあった。
経済的な援助と、絶対的な安全保障の提供。そして、何よりも、彼女の「平和」への強い意志と、それを実行する揺るぎない力。各国は、その提案に魅力を感じ、緩やかに世界防衛機関への加盟へと動き出した。
巨大な大陸を太平洋上に創り出したアストレア王国には、各国からの使節団が続々と訪れていた。彼らは、そこで目にする驚くべき光景に、畏敬と困惑、そして一縷の希望を抱いていた。アストレア王国の秩序だった社会、豊かな暮らし、そしてミユキが作り出した忠実な守護者たち。
アストレア王国専属の体長40メートル、黒いドラゴンのブラック、白いドラゴンのホワイト。公安の少将ラスター、そして一億人のメイド軍団アイリーン。彼らはミユキの理想を体現し、王国の安定と繁栄を支えていた。
世界は、ミユキという絶対的な存在の下、強制的な「平和」と、それに続く「承諾」の選択という、前代未聞の時代へと足を踏み入れ始めていた。
【7章:秩序の浸透】
ミユキによる怒涛の「浄化」と、その後の日本への慈悲深い支援は、世界を動かした。アメリカだけは未だ抵抗の姿勢を崩さなかったが、核兵器が消え去り、主要な軍事力が失われた世界において、彼らの声はもはやかつてのような影響力を持たなかった。各国は、ミユキが提示する「平和」の力と、その裏にある圧倒的な武力を前に、新たな現実を受け入れ始めていた。世界防衛機関への加盟申請は、日を追うごとに増えていった。
【世界防衛軍の駐留:新時代の要塞】
世界防衛機関への加盟が緩やかに進む中、ミユキは次の手を打った。加盟国に対して、世界防衛軍の駐留基地の設置を提案したのだ。それは、単なる軍事施設の建設ではなかった。そこは、世界が真に平和となるための、新たな要塞となる。
「世界防衛軍は、加盟国の安全保障を完全に担保します。いかなる脅威からも、貴国の平和を守り抜く。」
ミユキの言葉は、各国首脳の心に響いた。彼らは、自国の防衛力を失った今、この絶対的な守護の提供を拒む理由を持たなかった。そして、その駐留軍の中核を成すのは、1万匹の青いドラゴンたちだった。彼らは、魔法を持たない人間1000人以上の戦力を持つと言われ、空を自在に舞い、地上を制圧する圧倒的な存在だった。
各国の主要都市の近郊や、戦略的に重要な場所に、幻想魔法によって巨大な駐留基地が次々と姿を現した。その建設速度は、従来の常識を遥かに超えるものだった。一瞬にして大地が盛り上がり、強固な構造物が天空にそびえ立つ。基地は最新鋭の技術とミユキの魔法が融合したもので、司令室には、ミユキの側近であり、公安の少将であるラスターが統括する防諜ネットワークと直結した情報端末が設置され、世界中のあらゆる情報がリアルタイムで集約される。
青いドラゴンたちは、そこに常駐し、上空からの監視、地上での治安維持、そして緊急時の即時介入に当たった。彼らは、ただの兵器ではない。言語を話し、人間とコミュニケーションを取り、その圧倒的な存在感で、犯罪や紛争の芽を摘み取った。人々は、当初はその異質な存在に畏怖を抱いたが、彼らがもたらす確かな平和と安全を目の当たりにするにつれ、徐々に信頼を寄せていった。
【「志願制の軍」への移行】
世界防衛軍の駐留は、加盟国に大きな変化を促した。世界防衛機関への会議参加条件である「志願制の軍」への移行が、喫緊の課題となったのだ。
多くの国では、長年の徴兵制や義務兵役が根付いていたが、ミユキの示した「平和」と「自由意志」の哲学は、国民の間にも静かに浸透し始めていた。各国政府は、世論の変化とミユキの揺るぎない意思に押され、軍事制度の改革に着手する。強制ではない、自らの意思で国と平和を守ることを選択する兵士たちの育成が始まった。
アストレア王国では、日本の自衛隊員が駐留を開始していた。彼らは、アストレア王国の豊かな生活と、その根底にある「志願制」の精神、そしてミユキが創り出した秩序の完全性を肌で感じていた。特に、アストレア王国専属のブラック、ホワイトといった特級大将のドラゴンや、一億人のメイド軍団アイリーンが織りなす盤石な社会システムは、日本の隊員たちに大きな衝撃と感銘を与えた。
「守るのに理由なんてありません。」
ミユキの言葉は、世界防衛軍の駐留基地が、単なる力の象徴ではないことを示していた。それは、彼女が「白い世界」での懺悔と内省を経て到達した、真の平和と共存の理念を世界に浸透させるための、具体的な一歩だった。世界は今、強制された平和の中で、自らの意思で新たな秩序へと「承諾」していく過程にあった。
【現代の魔女、ゆいの「ゆりかご」】
「魔女」ゆい
都市の喧騒が遠のく、古民家が点在する一角に、ひときわ目を引くカフェがあった。「ゆりかご」と名付けられたその店は、いつも温かい光に包まれていた。店主は、名をゆいという。艶やかな茶髪に、好奇心に満ちた大きな瞳。彼女は、ごく普通のカフェオーナーに見えるが、実はこの現代に生きる「魔女」だった。
ゆいの能力は「見稽古」。見たもの、聞いたもの、読んだものを、文字通り「自分のもの」にする力だ。それは単なる模倣ではない。彼女は、かつて世界を大きく動かしたミユキ、そしてその姉アルファの能力、幻想魔法と空間操作能力魔法を、静かに、しかし確実に習得していた。
「いらっしゃいませ」
今日も、カフェの扉を開く客に、ゆいは優しい笑顔を向ける。彼女の淹れるコーヒーは、どんなに疲れた心も解きほぐす不思議な力があった。ある日、常連客の若い女性が、深くため息をついた。
「ゆいさん、私、職場でのパワハラに悩んでて……。でも、どうにもできなくて」
ゆいは、静かにその女性の言葉に耳を傾けた。彼女の瞳は、女性の心の奥底に潜む恐れと絶望を、まるで本のページをめくるように読み取っていた。カップを手に取る女性の震える指先。その指先に、ゆいはそっと自分の指を重ねた。
「大丈夫。あなたは、一人じゃないからね」
次の瞬間、女性の体に、温かい光が流れ込むのを感じた。それは、微かな、しかし確かな魔法の譲渡だった。女性はハッと顔を上げ、ゆいを見つめた。言葉にならない驚きと、体の奥から湧き上がるような力が彼女の心に広がる。数日後、その女性は職場のパワハラに対して毅然とした態度で立ち向かい、問題は解決へと向かった。
「ゆりかご」と世界女性連合
ゆいは、一人で魔法を使うだけではなかった。彼女は、ミユキが創り出した新たな秩序の裏側で、静かに、しかし着実に「世界女性連合」の創設を進めていた。その目的は明確だ。女性に力を与え、過去の悲劇を繰り返させないこと。
ある日、カフェの奥の部屋で、ゆいは数人の女性たちと向き合っていた。彼女たちは、それぞれの国で女性支援活動を行っているリーダーたちだ。
「私たちの目的は、女性が自らの足で立ち、誰もが安心して暮らせる世界を築くことです」
ゆいの言葉に、彼女たちの目は輝いた。そして、ゆいは、彼女たちに幻想魔法の力で創った魔法を譲渡した。その力は、それぞれの女性の活動に応じて形を変える。ある者は、虐待を受けている女性たちを危険から空間移動させる力を得た。またある者は、貧困にあえぐ地域の女性たちに、食料を「創造」する能力を授けられた。
世界女性連合の活動は、水面に広がる波紋のように、世界中に広がっていった。ゆいは、各国の女性リーダーたちに魔法を譲渡するだけでなく、見稽古で得た膨大な知識を用いて、女性の自立支援プログラムや、心理的なケアの体制を構築していった。彼女の空間操作能力魔法は、世界各地に、女性のための安全なシェルターを瞬時に創り出すことを可能にした。
温かい魔女の笑顔
ミユキの築いた秩序が、力による平和であるならば、ゆいの目指すのは、内側から湧き上がる力による、真の自由と平等だった。時に、二人の「結衣」の哲学は対照的に見えるかもしれない。しかし、その根底にあるのは、過去の痛みを知る者だけが持つ、深く温かい慈愛の精神だ。
夕暮れ時、カフェの窓から漏れる光は、今日も穏やかに街を照らしている。ゆいは、カウンターの向こうで、子供たちの笑い声に耳を傾けていた。彼女の首には、ミユキと同じように、世界を守るという使命の証である、金色の指輪が輝いている。
「ねえ、ゆいさん。どうしてゆいさんは、そんなに優しいの?」
無邪気な子供の問いかけに、ゆいは優しく微笑んだ。
「守るのに理由なんて必要ありません。」
彼女の言葉は、まるで温かい魔法のように、子供たちの心に、そしてこの世界に、静かに浸透していく。現代の魔女、ゆいは、今日も、人々の心に希望の種を蒔き続けている。
幻想魔法(紫紅姫=むらさきべにひめ):事象・能力・存在などを吸収して自分のものにでき、任意の相手に能力を譲渡できる世界級魔法。(世界の法則を司る魔法) 弱点:相手の心からの承諾が必要であること。
代償:【自分】の記憶の封印 or【自分】の記憶の喪失
ミユキ・トレント・ヘクマティアル
身長178㎝ Kカップ
「強さとは、あきらめないこと。」
「力とは、才能だと思うけど、力がなくても私は、好きですよ。」
「どんなに辛いことがあっても、あきらめなければ大丈夫だよ。」
「存在の在り方は、関係ない。そこで受けた心の傷は、本物だ。」
「私にとって、みんなは大切な者たちです。」
「私にべったり依存してくれて構わないですよ。とても嬉しいです。」
「怖がらないで。あなたは、1人じゃないからね。」
「強くなるには、自分の弱さを知ること。」
「守るのに理由なんてありません。」
「強い者は、あきらめない者です。それは、皆が平等に持っているものです。」
「ごめんね。私は、守ることしかできないの。あなたの心の傷を治すことはできないの。本当にごめんね。」
「容姿を見られることは、嬉しいことですよ。私、胸は豊かですから。」
[私の首や手首に付いている金属製の首輪や手枷は、「世界を守る」と「女の子を守る」という使命の証です。]
(過去の禁忌の事変(人形の世界)において)「お姉ちゃん...。お願い...。私を殺して!また、同じことやっちゃう!」(実は、お姉ちゃんの存在は、知ってました。)
世間知らずの白髪の少女と古代魔法都市(無能と呼ばれた王女の逆転劇)「『無能』とバカにされた王女ですが、実は世界を救う力を持っていました。」にて、姉は失踪してしまったため、記録として秘かに極秘文書として王国の書庫に保管されていたから。
おまけ:古代の歴史(アルファの幼少期の話)
※古代の歴史について調べることは禁止する。
かつて大きな王国が栄えていた。そこには、魔法を使える者と魔法を使えない者がいた。
王国は、魔法を使えない者を逮捕して殺害していた。
第1次世界防衛戦:悪平民と善平民の戦い(悪平民による人形化計画)
アルファがまだ幼い頃、ある王国では魔法を使えない人々への迫害が始まった。最初は小さな嫌がらせだったものが、次第にエスカレートし、ついには逮捕、そして殺害へと繋がっていった。
そんな中、魔法を使えない人々が立ち上がり、王国に対して反乱を起こした。それが「第1次世界防衛戦」と呼ばれる戦いだった。
善平民の敗北→悪平民による、殺し合い、レイプ、略奪が横行。
第2次世界防衛戦:悪平民と世界中の王族による戦争
「第2次世界防衛戦」が始まった。今度は、悪平民と世界中の王族との戦いだった。魔法の力を持つ王族たちは圧倒的な力で悪平民を打ち破ったが、その戦いの中で、アルファの両親は命を落とした。
(ゆうや(父)戦死)・なぎさ(母)戦死)
まだ、幼かったが、アルファ・トレント・ヘクマティアルによって、人形から人々の魂を解放する。
アルファは、両親を失い、一人ぼっちになった。焼け野原となった街を彷徨い、飢えと寒さに震える毎日。そんな中で、彼女は生きるために必死だった。
【結衣・トレント・ヘクマティアル】
「私が力をあげるのは守るため。私の体は1つしかないから。」
「私は、夫のものです。私は、夫に屈服しており、服従しており、心から隷属しています。」
アストレア王国女王
王立心療科病院トラウマ・PTSD・性暴力被害者救済科(魔獣セラピー専門科)院長
(希望する女性は、王族であるヘクマティアル家に入家できます。)
アストレア王国諜報機関イグニシェール盟主
世界防衛機関盟主
世界防衛軍最高司令官
顔の入れ墨は、夫のものという証
「私を、あの地獄の掃き溜めの記憶から救ってくれたのは、旦那様です。」
【アストレア王国への移住と暮らしについて】
移民は、戦闘技術を習得していること:剣術、射撃、体術、魔法など何でも良い。
アストレア王国は、多神教のみ許している。結衣がいる異世界は、神の国であり、そこには多様な種族がいる。スライム、ゴブリン、人、ドラゴン、九尾の狐、魔物など。
アストレア王国の言語は、日本語。
国民へは毎月10万ベルのお金を支給。(日本の円がベルになっただけ。)
インフラ、部屋代、食料、医療、衣類、雑貨などの費用は、実質無料である。
国営スーパーには、金色の指輪が売っています。私は、金色の指輪を着けています。その意味は、「私とあなたは、繋がっている」という意味です。
世界防衛軍の任務は、強制ではなく、志願制です。(派遣先が激戦地の場合)
現在のアストレア王国軍の最大戦力は、3億5000万人(職業軍人)
【転生制度】
結衣の幻想魔法によって、貴方様が作った獣人の女の子のデザインの貴方様のための体をお創りして、貴方の魂を転生させます。貴方様の性別は、不問。
創造条件:転生後は、結衣・トレント・ヘクマティアル直属遊撃隊に所属すること。永久にやめられません。注意すること。肉体は、体術特化型。銃弾無効化。
この構想は、現在、検討中のものです。
結衣:「私の絶対的な地位も絶対的な力も、すべては過度な苦しみや喜びのない、ごくごく平穏な日々を皆様に送ってもらうため。私のすべては、世界の警察のようなものです。」
結衣:「アストレア王国王立電力会社では、ハイヒールは禁止です。完全実力主義です。ハイヒールは災害時、走れない、避難できない。戦闘時、戦いづらい。はっきり言って、機能性ゼロです。軍用ブーツを推奨します。私は、いつも黒の軍用ブーツを履いています。キャップや魔女帽子は、着用は自由。キャップでも魔女帽子でも、男女好きな方を選べます。」
結衣:「私の戦闘スタイルは受動的迎撃システム。幻想魔法で、自分の体を改造済み。(自分から攻撃することは、ほとんどない。攻撃は、最大の隙。攻撃は、最大の防御ではない。それは、時と場合と状況による。)」
世界防衛機関の会議への参加条件:①首相以上の階級がある国。②軍事力が1万人以上であること。③志願制の国であること。※会議への参加は、首相以上に限る。補佐官は、同行しても良い。
ミユキは、表向きは、姉に殺されたことになっていましたが、姉の世界級魔法である空間操作能力魔法の力で無限の白い世界に飛ばされていました。そこは、何もない虚無の世界。懺悔するには、ちょうど良い場所。
「魔女」ゆいのモデルは、私です。