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三題噺もどき3

商店街

作者: 狐彪

三題噺もどき―ごひゃくにじゅうに。

 


 風に吹かれて、髪が乱れる。


 行き慣れた商店街に来ていた。

 アーケードの下を歩いているから、日差しはさほど感じられない。

 それでも、肌が刺されているような感覚になるのはなぜだろう。

 風はそれなりに強いから、数週間前に比べたら多少は暑さもマシになっていると思いたいが、それでも汗はかくから外に出るのは苦手だ。

「……」

 その上、このアーケードはいつでもそれなりに人が居るから、歩くのも疲れる。

 体力がさほどないのもあるけれど、人混みは基本的に嫌いなのだ。

 ならばなぜこんな所に来ているのかというと。

「……」

 目の前の数メートル先を歩く家族に連れられたのだ。

 今日は珍しく、全員の休みが被り、遠出をしようということになって。

 ついさっきまではもっと山奥の有名な観光スポットに行ってきたのだけど。

 昼食を食べるついでに、中心部のこの辺りにしかいない店に寄りたいとなったので、ここに来ていたのだ。

「……」

 人より歩くのが遅いのか、家族が早いのか。

 この距離を保つだけでも精一杯だったりする。

 この後の予定があるわけでもなし。そんなに急ぐ必要もないのに、何を急いでいるのやら。

 こんな人混み抜けるだけでも疲れるのに、あのスピードについていくのはもっと疲れる。

 最悪連絡手段はあるし、目的地は分かっているから良いんだけど。

「……」

 視界の中に、家族の姿を捕らえたままに、左手側に視線をずらして歩く。

 人と目が合うような高さに自分の視線を置くのは苦手だ。

 目と目を合わせて話すとか、よくそんなことできるなぁなんて思う。知らない人の視線がたまたま重なっただけでも、心臓が破裂しそうになるのに、会話をするなんてもっと無理だ。

「……」

 左手側には広い道路が走っている。

 バスがものすごい勢いで曲がったり、タクシーがものすごいスピードで走り去ったり。

 下手に広い道路なので、こんな所は運転できないな。狭い道なら慣れてはいるが、無駄に広い道は車線が左折専用とか右折専用とかいろいろあって情報の処理が追い付かない。

 自分の運転で、ここまで来ることはないとは思うけど。

「……」

 道路から視線を外し、右手側に視線を移す。

 ずらりと店が並び、狭い通路がときおり見える。

「……?」

 ふと。

 並ぶ店の中に。

 見覚えのない建物があった。

 最近できたのだろうか……まぁ、いう程ここには来ないから知らない店ぐらいあると思うけど。でも、この雰囲気で最近できたは、ない気がする。

「……」

 どこか古びたような、そういうデザインだと言われれば納得はするけど。

 あまりにも、外観と中身があっていなさすぎると言うか……。

 ガラス張りの陳列棚には、可愛らしいテディベアが数個並んでいる。

 大きなものが2体と、中くらいのが2体。小さいものが1体飾られている。

 丸い机を囲うように並べられており、食卓を囲む家族のように見えた。

 きっとそういうコンセプトなのだろう。

「……」

 仲睦まじい家族の姿が目に浮かぶ。

 そんな可愛らしいテディベアが並ぶのに、この店の古ぼけた感じは、なんというかあまりにも不釣り合いすぎる気がする。

 レンガ造りのデザインなのか、壁の装飾は所々剥げているし、入り口のあたりには蜘蛛の巣まで張っている。看板らしいものは文字が消えてしまっていて全く読めない。

 ずっと昔からそこにあったように見えるのに。

「……」

 よくわからない違和感に、ぞわりと寒気がした。

 あまりにも不釣り合いな癖に、当然のようにそこに居座っているのがあまりにも気持ちが悪い。周りを歩く人も、その店があるのは昔から知っているように、通り過ぎていく。テディベアに反応を示しそうな、幼い子供すらも見向きもせずに。

「……」

 ここから離れなくては―と、咄嗟にそう思った。

 けれど、縛り付けられた視線は動こうともせず、並ぶテディベアの家族に縫い付けられていた。せめて足が動けばと思うのに動かない。

「……」

 優しい母と、優しい父。

 頼もしい姉と、可愛い妹。

 そこに生まれた新しい命。

「……」

 なぜ動けないのか全く分からない。

 焦りが心をかき乱し、焦燥に駆られていく。

「……」

 ここから離れたい。こんなもの見たくない。



 ―羨ましいなんて思ってない。







 Pipipipipipi――――――!!


「……」

 耳元で鳴る電子音にたたき起こされた。

 相変わらず。

 変なものばかり見る。

















 お題:テディベア・ガラス・焦燥

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