18.参加準備
俺とリオが出席することに決まったので、トーマスとリオで準備をすることになった。
準備と言っても、服装と装飾がすべてだ。俺はトーマスとリオに連れられ、リオが貴族令嬢だったころに贔屓にしていたと言う服装・宝飾の店クロスジュエルにやってきた。
相当格上の店で、子爵、男爵程度が来るような店ではない。あることは知っていたが、縁がないと思っていたので、外観もよく見たことがない店だ。
入店してみても、場違い感は拭えない。店員の目もそう言っている気がする。目がくらむような宝飾の数々と、サンプルとして置いてあるらしいドレスやスーツに圧倒されていると、リオが店員に
「シャーレはいらっしゃいますか。いらっしゃるなら呼んで欲しいのですけど。」
と言う。
「会頭ですか。失礼と存じますが、お名前を賜りたく…」
「リオドールとお伝え頂ければお分かりになると思います。」
「ありがとうございます。少々お待ちください。」
リオはメイド服でも、毅然とした雰囲気を出せば店員を威圧、圧倒できてしまう高貴さがある。さすが元侯爵令嬢。セーラもなれるかな、なって欲しいような欲しくないような。
「リオドールお嬢様、大変お久しぶりです。また当店にいらして頂き、大変光栄でございます。」
見るからに高級そうなスーツに身を固めた、50歳過ぎの男がやってきた。
「フフッ、お嬢様なんて、言われたのは30年ぶりね。
今はもうおばあ様と言われてもおかしくない年になってしまったわ。」
「何をおっしゃいますか、若き貴婦人としか見えません…」
いつまで続くのかと呆然として眺めていたが、ようやく一段落したようで、
「今日は私が預けていたドレスの仕立て直しと、この坊っちゃんが王城に上がるのにふさわしい衣装と装飾品を探しに来たの。この坊っちゃんは、かの英雄の生まれ変わりなんですのよ。」
とリオが本題に入った。
(えっ、没落貴族の預かりものなんて、ちゃんと保管してるの?)
と考えていたが、それは当然と言う感じで。俺に向かって
「こちらが『蘇生の英雄』様ですか!お初にお目にかかります。会頭をさせていただいております、シャーレと申します。」
(『蘇生の英雄』?英雄の生まれ変わりってことか。妙な二つ名付けるなよ。まさかそう呼んでいるのか?)
と、戸惑いながらも、子供っぽく
「こんにちは!よろしくね。」
うん、上出来。
(しかしここまで高級店ともなると、預かったものを相手がどうなろうとちゃんと保管してるんだな。きっと没落と復活の歴史を知っているのだろうな。)
リオがシャーレに向かって、
「ジュニア様にどなたか付けて頂いて、ふさわしい衣装をお願いしたいのだけど。」
「承知いたしました。メートを付けます。
おい、メートを呼んでくれ。」
俺とトーマスは、どうやらシャーレの娘らしいメートに、店の奥に案内された。
「僕、良くわからないからお姉さんに任せるよ。」
トーマスはメートに、
「予算はこれくらいで。あまり華美になりすぎぬようお願いします。リオドールと王城に上がりますが、リオドールが目立つようにしたいので。」
俺が採寸やら、布合わせやらをされている間、リオはシャーレとどこかへ行ってしまった。
一通り終わって、しばらくしてリオがシャーレと戻ってきた。
「お直しさせて頂く衣装の他は、すべて処分でよろしいのですか?」
「ええ、結構よ。宝飾品は合わせて使うもの以外はもう少し預かって頂けると嬉しいのだけど。」
「もちろん、お預かり致します。お直しの費用を頂いて、ざっと600位返金させて頂くことになると存じます。返金は仕立て上がりの時に…」
「あら、そんなになるの。もっと早く処分すればよかったわね。でもそうすると今お直しするドレスも処分してたかもしれないから良かったのかしら。返金は預かっておいてちょうだい。今は要らないわ。」
リオは不穏なことを企むような笑みを浮かべた。
それを見て背筋が寒くなる感じがしながら思った。
(30年前は隠せたんだろうけど、平民生活30で技術が落ちたんだね、貴族怖い)
新たな登場人物(年齢はジョージジュニアとの年齢差)・既出人物の追加情報
ジョージジュニア・リブロード(俺:蘇生の英雄)
シャーレ(クロスジュエル商会 会頭) 58年
メート(シャーレの娘) 30年