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ハコニワ・シンセカイ

作者: 黑神レン。

ある日僕は遊んでいた裏山で不思議なごみ箱を拾った。

何故ゴミ箱を拾ったかは分からないが、

そのゴミ箱にはすごく惹かれるものがあったのは確かだ。


ある日、賞味期限の切れたお菓子を捨てた。

またある日は、友達と喧嘩して涙を流したティッシュを捨てた。

またまたある日は、飼い猫がトカゲを口に咥え、ゴミ箱の中に放り投げる様子を確認した。


それからしばらくたった夜中の事、

ゴミ箱から「がおーーー!」と、

それはとても声の小さい何か。

聞き覚えのある声が、僕の耳をつんざいた。

不思議に思った僕はゴミ箱をそっと覗き見る。

するとそこにはなんとミニチュアサイズの白亜紀があるではないか。

驚いた僕は声も出ない。

何でこんな事に?恐竜って絶滅したんじゃなかったっけ?

あまりの衝撃からあらゆる思考が止まらない。

また恐竜が「がおーーーー!」と声を上げる。

僕は声の主に目線をやると、主とは別に倒れて苦しそうな恐竜が目に入った。

怪我はないっぽいがどこか苦しそうな様子。

「もしかしてお水かな……?」

世界を見渡して気付いたことがある。

水が無い。というか大地に活気が無い。

草も荒れ果て、何処か乾燥した様子だ。

この小さな世界に夢中になった僕は、

急いで一階のキッチンまで水を取りに行く。

そして世界に水を与えてみた。

すると世界は瞬く間に木々や草、色々な食物に彩られていく。

僕はその日寝る事も忘れ、

親に起こされる時間まで小さな箱庭を見続けていた。


それからしばらくたった夕方の事。

僕が育てた箱庭は、

人間みたいな二足歩行の生物が誕生していた。

まだ毛むくじゃらで教科書で見た猿人?とか言う者だろうか。

少し可愛らしく摘まんで手に乗っけてみた。

怒りながらもアタフタしているのがなんか小動物みたいで癒される。

学校生活が退屈な僕はそれからも夢中で観測を続けた。


あれから2年の時が流れた。

小学校を卒業し、中学生になった俺は箱庭の事をあまり思い出さなくなっていた。

単純に飽きてしまったのだ。

久しぶりに覗いた先月、世界は現実世界と同様、

ビル群に溢れ人々は忙しなく動き続けていた。

誰が箱庭の中でも現実を見ろって?

もうずっとこれだ。ゴミ箱を拾ったあの数か月後からずっと世界は変わらない。

少し車が飛ぶようになっただけで、あとはほとんど変わらない。

なんかむかつく。この世界は俺が創ってあげたのに。


それから数日たったある日。

俺は親と大喧嘩をした。

お風呂入りなさい。いただきますをしなさい。

早く寝なさい。宿題はやったの?

いちいち小言がうるさい。

お前らが勝手に産んだんだろ。

俺は産んでなんて頼んでない。

気付いた時には手遅れだった。

母さんはそれから何も言わず洗い物に戻っていった。

母さんが今にも泣きだしそうに、涙を堪えていたことが脳裏に蔓延って頭から離れない。


後悔とやるせなさで俺の頭はパンク寸前だ。

部屋にあったものは大体放り投げた。

全然すっきりしない。

最近ずっとイライラが収まらない。

これが反抗期かなんて思っていたら、

数年前に拾って今は物置になっていたゴミ箱を見つけた。


久しぶりに世界を確認してみる。

相変わらずつまらない世界だ。

電車が飛ぶようになっただけであとは何も変わらない。

つまんねーなんて吐き捨て、

近くにあったペットボトルから世界に水をばらまいた。

箱庭の住人たちが慌てふためいている。

世界に変化が訪れた。ちょっと面白いじゃん。

しばらくすると冠水した都市を中継するヘリコプターがやってきた。

俺を観測できないこの世界は俺が何しようがどうする事も出来ない。だからヘリコプターを鷲掴みにしようが投げ飛ばそうが俺には歯向かえない。


都市にヘリコプターが墜落した。

都市に石を投げつけた。

都市にいた人々を摘まんで落っことした。

ビルをペッちゃんこにしてみた。

日常にイライラしていた僕は、

この小さな箱庭にささいなイタズラこそが、

ストレスの発散になっていた。


そんなことを続けていたら世界は寂れ、生物がほとんど息絶えてしまった。

可哀そうだなんて思った事はない。だって俺のおもちゃでしょ?

神様の俺が絶対で自然には逆らえない。

壊してもまた作り直せばいい何度でも。


あれから十何年か経った。

今の俺には大切な家族が出来た。

今になってわかる。

あの箱庭にも大切な日常があったんだなって。

俺は理不尽にたくさんの命を殺してしまった。

子どもが出来た俺にはそれがどれだけ恐ろしい事か、ようやく本当の意味で理解した。

これからは大切な妻や子どもと、

かけがえのない日常を送れることにありがたさを噛みしめて、

今を生きよう。


それから──────────??





空から真っ赤などろっとした液体が降ってきた。

それもなにか爆発を繰り返しているようで、

俺の住む街が蹂躙されていく。

「…………線香花火?」

まさかと思い天を見上げると、空が割れていた。

割れた隙間から大きなまだ小学生ぐらいだろうか?

顔を覗かせ面白かったのか笑みを浮かべている。なんだこれ……?

これはあの時の?もしかしてこれも作られた世界?

確かに天から神が顔を覗かせている。

神がこの世界に降臨してしまった。

最悪だ…災厄が始まる。

我々人類の日常は神によって支配されている。

抗えない法則に太刀打ちなんてできやしない。

神に抗えずただ世界が壊れるその時まで。

災厄は終わらない。


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