ジェラート
突然の夕立が降ってきた。
ヒカルとカツヤ、エマたち3人は近くのファミリーレストランへ駆け込む。
今は高校が夏休みである。3人は中学生の頃から仲がいい同級生だ。
体育会系でムードメーカーの女子、ヒカル
家庭の事情でバイトを掛け持ちしている、カツヤ
スタイル抜群でしっかり者の、エマ
今日は3人で街へ遊びに出ていた。映画館でアクション映画を見た後
ゲームセンターへ行き、おしゃべりしながら歩いていたところに
突然のこの夕立である。
ファミレスの窓際でテーブル席について、各々タオルやハンカチで夕立で濡れた体を拭く。
ヒカルの横にはカツヤが座っている。その向かいにはエマが座っている。
「いやあ、びっくりするよね。ずっと晴れてたのにね。これだから夕立は困るよ」
お冷を飲みながらヒカルが言った。
窓の外が雨雲で暗くなり、ゴロゴロと鳴り始めた。
「げっ、雷来てる?」
エマが少しだけ肩をすくめるしぐさを見せて、窓の外の薄暗がりの空を見やる。
「あはは、そういえばエマって雷が苦手だったっけ?」
カツヤは笑いながらエマに言う。
「私だって苦手なものくらいあるよー!」
可愛く頬を膨らませるエマ。
エマは昔から大きな音が苦手なのであった。中学生の頃はよく周りから
からかわれていたものだ。
テーブル席について、ドリンクを飲み落ち着いたら空腹を感じ始めた。
「みんなお昼ごはん、まだだったよね、ここで食べようか?」
とはヒカル。
映画の後はゲームセンターで遊びまくっていた3人。
空腹も忘れて遊んでいた。
「私はハンバーグ定食にする」
「さすがは体育会系だね、ヒカルは。がっつりいくね」
「だって、おなかすいてるんだもん」
「俺はそうだなあ・・。夏だし、ここはやっぱりカレーかな」
これはカツヤ。
「私は冷やしパスタとアイスレモンティーにしよっと」
エマって見た目も綺麗なんだけれど、食べるものもなんか洒落てるな。
体格もスレンダーで性格もキチンとしてる。
弱いところが見つからないな。おまけに雷が怖いなんて可愛すぎる。
そんなことを思うヒカル。
少しして3人の食事が運ばれてきた。
「おいしそう!いただきまーす」
舌なめずりをしてすぐにナイフとフォークを手に持ち、がっついて食べ始めるヒカル。おいしそうにハンバーグを口いっぱいに頬張り口元にソースをつけて、満面の笑みになる。
「コラッ、ヒカル!もう少しゆっくり食べなさいよ。女の子がはしたないよ」
礼儀作法に厳しくて、しっかり者のエマがしかりながらもナフキンを手渡してやる。
「このハンバーグ、めちゃくちゃおいしい!」
そんな2人のやり取りを笑みを浮かべながら見ているカツヤ。
ピカッ!ドドーン!
外で雷が響き渡った。
「ひやあ!」
エマは頭を抱えて小さくなる。
「あはははは、この子本当にかわいいねえ!」
その様子を見て笑うヒカルとカツヤ。
ヒカルは少しづつではあるが気付いている。カツヤの視線がいつも
エマの方向を向いている気がする。学校にいるときも、こうしてみんなで一緒に集まっているときも。いつも、、、。
もちろん話は聞いてくれてるし、ヒカルのことを無視したり、邪険にするわけではないのだけれど、なんとなく彼の関心が自分には向いていないような気がするヒカル。
やっぱりカツヤの気持ちって、、、。
そういうことなのかなあ?
雨は段々ときつくなってきているようだ。外はまだ夕方ではあるが夕立のせいで暗くなってきている。
3人は昼食を食べ終えて、食後のドリンクを飲んでいる。
「俺、ちょっとお手洗いに行ってくる」
そう言ってカツヤがトイレに立った。
テーブル席にはヒカルとエマが残る。
「高校は今夏休みだけれど、毎日どう過ごしてるの?勉強してるの?」
ヒカルがオレンジジュースをストローで飲みながら、向かいに座るエマに聞いた。
「勉強はぼちぼちかな。最近はバイトに出てることが多いよ」
窓の外を見やりながらそう答えてきた。
ヒカルは運動部で部活をしているので、バイトをする時間はないが仕事に興味はある。
「へー、そうなんだ。何のバイトしてるの?」
「ファーストフード店の店員だよ。目が回るくらい忙しい時もあるけど、
カツヤも同じシフトに入ったからだいぶ助かってるんだよね」
「カツヤも」、という言葉でヒカルの心がドキッっと跳ね上がった。
「えっ!?同じシフトって。もしかしてエマ、カツヤと同じところで
バイトしてるの?」
「あー、そうだよ。前にカツヤがバイト先探してるって聞いてたからね。
私が店長に話してみたら、すぐに決まったの」
エマとカツヤが同じ仕事仲間・・・・・。
複雑な心境になるヒカル。心の底のほうから悔しさがこみ上げてくるのを感じる。仕事とはいえ、カツヤとエマの2人が一緒にいる時間が多くなる。エマから自分の職場にバイトに誘った?それって抜け駆けじゃないのか?。
この子、私の気持ち知ってるくせに。
「そういうの、私にも言ってほしかったな。2人だけで同じバイトなんて、、。」
窓の外を眺めていたエマはその言葉に引っ掛かりを感じたようで、前に向き直って少しだけ顔をしかめて見せた。
「あー、ヒカルにはまだ言ってなかったっけ?でもさ、言う必要があるの?
カツヤのバイトのことなんて、ヒカルには関係ないことじゃないかな?」
「それは、そうだけれど・・・。友達なんだし、その、・・。」
正論を直球で投げられたら返す言葉がない。
・・・・・・・・・・・。
店内のBGMが小さく流れている。
外は大雨になってきており、ガラス窓にはたくさんの雨粒が流れる。
2人の間にギクシャクとした空気が流れてしまう。
そこへカツヤが帰ってきた。そして、2人の間の微妙な悪い空気を感じ取る。
「え・・・、どうしたの2人とも?なにかあったの?」
彼女たちの顔を交互に見て、思いがけない暗い表情に困惑している。
その日はもう遊ぶ気分にはなれなかった。
ヒカルの部屋
この前のエマとカツヤが同じバイト先で仕事をしているということが、
どうしてもモヤモヤとするヒカル。心がチクチクと痛んでいるのを感じる。
あの日以来、エマとは連絡を取っていない。こちらからも取らないし
向こうからも連絡はない。メールも電話も。絶賛喧嘩中。
ここは飛び切りの作戦を仕掛けるべきである。前から温めておいたものだ。
スマートフォンでカツヤに電話をかける。
数回のコール音で出たカツヤ。
「お疲れさま。どうした?」
いつもの明るい調子である。
「あっカツヤ!お疲れ様。突然なんだけど今度の水曜日、2人でショッピングモールに行かない?お父さんの誕生日祝いを買いたいんだ。カツヤに一緒に選んでほしいな」
な~んてね、そんなの言い訳です。本当はあなたに逢いたいだけですよ!
と心でだけ想うヒカル
エマからしたらヒカルのカツヤに対するお誘いも抜け駆けになるのかな?
それはお互いさまってことにしましょう?
次の水曜日に2人で買い物に行くことになった。
夏のコーディネートには自信がある。白のシャツワンピースにブルーのニットカーディガンを合わせる。この日のために、目一杯のオシャレを頑張った
ヒカル。
作戦とはこのことである。お買い物を建前として、本音は違うところにある。お父さんを使わせてもらったのだ。
カツヤと2人で駅前のショッピングモールを歩く。
「プレゼントかあ・・。お父さんは何か好きなものとかあるの?」
「んー、そうだなあ・・。お酒と任侠映画が好きかな?よく見てるし」
ネクタイ、ハンカチ、ぬいぐるみ、など色々なショップを見て回る2人。
渋いチョイスではあるが、グラスを買った。これならお酒も楽しめるであろう。
ショッピングモールを出て、近くの広い公園を歩く2人。そこへアイスクリームを売っているキッチンカーを見つけた。
「よしっ、今日の買い物のお礼に私のおすすめのストロベリージェラートを奢らせてよ。あそこのジェラート、おいしいんだよ!」
「いいの?ありがとうね!」
カツヤは快く応じてくれた。2人分のジェラートを買い、近くのベンチに
並んで座り、食べ始める。この日はとても良い天気である。
ヒカルは小さなスプーンでカップのストロベリージェラートを一口食べてみる。とても冷たくて、舌触りがなめらかである。すごくおいしい。
「メチャクチャうまいね、これ」
カツヤも食べてみたようだ。すごく気に入ってくれた。
気分はローマの休日のオードリー・ヘップバーンです。
今日は天気もいいし、買い物デートも順調だ。ジェラートもおいしい。
最高だな!
そこへカツヤのスマートフォンの着信音が鳴った。
「あっ、チョットだけ電話出るね」
というとジェラートの入ったカップをベンチにおいてスマートフォンを取り出す。
「もしもしお母さん、どうしたの?え・・・、うんうん・・」
カツヤの笑顔が段々と陰ってしまう。ヒカルに断り席を外して少しだけ離れた所まで歩いていき大きな木の陰で話している。
なんか嫌な予感しかしないな。そんなことを思う。5分ほどして帰ってきた。
「大丈夫?急用かな」
「うん・・、お母さんからの電話でね、妹が熱を出したらしいんだ。
まだ小さくてね。お母さんは仕事があっても妹を一人にしておけないし、いろいろ買ってこないといけないから、家に帰ってきてほしいって言われたんだ」
そういう事情なら仕方がない。カツヤは何度も謝りながら、帰ってしまった。
公園のベンチで一人、残されたヒカル。
横にはカツヤのために買ったけれど、電話中にドロドロに溶けてしまったストロベリージェラートが悲しそうに残っている。
まだ一口しか食べていないのに、すごくおいしいのに。
気合い入れていっぱいお洒落してきて、作戦まで考えて、
バカみたいだな、私って。
数日後の夕方、
ヒカルのスマートフォンにエマからの着信音が鳴った。名前の欄にエマと記載されている。少し戸惑ったが、出てみた。
「もしもし、ヒカルです」
わずかな間があってスマートフォンの向こうから声が返ってきた。
「あ・・、もしもし、突然ごめん。」
「ううん、大丈夫だよ・・・、」
「その・・、今から少しだけ、会えないかな?2人で話がしたいんだ」
ファミレスでのギクシャクムードから連絡を取っていなかった2人。
ずっと相手のことが気になっていたが、連絡を取る気にもなれなかった。
直接話したいとは、何の話だろうか?
夕方の公園のベンチで、ヒカルの横にエマが座っている。
ヒカルがカツヤのことを気になってるのはずっと感じていたエマ。いつでも3人は近くにいたんだから気づかないわけはない。
でもエマもカツヤのことすごく気になってた。
「正直に言うね、私、昨日・・、カツヤから告白されたんだ。付き合ってほしいって言われたんだ」
「!!」
絶句してしまうヒカル。表情は固まり、心臓がドクンと波打った。
カツヤの気持ちには薄々感づいてはいたのだけれど、こうやって現実として突き付けられるとたまったものではない。
「うれしい気持ちは当然あったし、でもね・・、私はヒカルのカツヤに対する想いもわかってた。気づくよ、普通。
それでね、あんたもカツヤも大切な友達だし、これからもずっと仲良く
していたいし・・、
その関係は壊したくなかったから、カツヤには何か噓を言ってでも
断ろうかとも考えたんだけれど・・。
でも、私もしんどいくらいにカツヤのことが大切なんだ・・。」
そんなことを話しつつ、エマは下を向いて泣き始めた。彼女の両目から涙がたくさん流れている。いつも強気でしっかり者のエマが泣いていた。
そのことが一番びっくりした。
ハンカチでエマの顔を拭いてやるヒカル。泣きたいのはヒカルのほうなのに、彼女のこんな姿見てたらびっくりして泣けなくなった。友人の初めて見せる表情に困惑する。
でもメチャクチャ悔しいけれど、なんかすっきりした風だ。
3人のハッキリしない三角関係が終わったし、ヒカルは彼女が涙を流して泣いているを見て
「もう、いいか」って思った。
青臭いことしているけれど、こういう事っておそらくは大人になってからもいい思い出として持っておけることだろう
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