赤いタートルネックセーターのおっさんの秘宝
俺は先を急ぐのだ。小雨の中を行くのだ。バカのせいで遅刻はしたくない。入社してから8年間、一度も遅刻をしていないんだよね。何度も皆勤賞を頂いちゃってます。
ビーッ、ビッビッビーッ
ビーッ、ビッビッビーッ
バックミラーを見たら、またアイツが来やがったよ。しつこいな。タイマンしろとか言ってたな。実はね、俺は子供の頃からね、武道を嗜なんでいてさ、空手3段、少林寺拳法2段なんだよね〜。空手は全国大会で優勝を2連覇したよ。大学生だった頃にね。あんなアホみたいなおっさんなんか本当にどうでも良いんだよね〜。
ヤバ、信号が赤になったわ。セダンが俺の黄色のフォルクスワーゲンの隣に停まった。
また赤いタートルネックセーターのおっさんがセダンの運転席から降りてきた。
「おい、ガキ! 窓あけれや!」と赤いタートルネックセーターのおっさんは瞬きもせずに怒鳴った。
「うるせーな、なんだよ?」と俺は窓を開けながら言い返した。
「お前よう、突然にクラクションを鳴らしてきたりよう、俺とタイマンをしなかったりしてよう、俺をナメてないか、この野郎! フン、ほりゃ!」と赤いタートルネックセーターのおっさんは言って掛けていたサングラスを取るとセダンの助手席の窓に向かって投げた。
かぁはぁ〜ん
とサングラスは窓にぶつかって明るくて陽気な音を響き渡らせながらアスファルトに落ちた。
「あっ、俺の大事なサングラスが! この野郎、窓のクセに俺をナメやがってよう! 窓ガラス、この野郎め、窓ガラスのクセに!」と赤いタートルネックセーターのおっさんは怒鳴って自分のセダンの窓に向かってツバを吐くとメンチを切って窓ガラスに威嚇した。
俺は初めて窓ガラスと喧嘩する人間を知ったね。俺は仕方なく黙って落ちているサングラスを見た。
「でよう、タイマンしてからさ、出る所に出るよ」と赤いタートルネックセーターのおっさんは裁判所を匂わせる物言いをして俺の優位に立とうとしてきた。
「タイマンしてから、出る所に出たらおっさんが不利になるだけだよ」と俺が言い返した。
赤いタートルネックセーターのおっさんは何も言えないで、しばらく俺を見ていた。
「このガキ〜っ、クソ。俺をナメ腐って見くびってやがるな。いいか? 俺はな、いつか必ず凄く社会に対してギャフンと言わせてからジャンボな男になって表彰状を貰うヤバい男になるんだぞ。後にはな、メディアに騙されたり、メディアに追い込まれたりして、今までの生き様をマスコミに全て晒されてよう、謝罪会見を開けるようなジャンボな男になるんだぞ!」
「ふーん」と俺は言って愛車のフォルクスワーゲンを発車させた。
「あーあん! 待てよう! 待てよ〜う! 逃げてばかりじゃん! 出る所に出てやるからな!」と赤いタートルネックセーターのおっさんの声が遠退いていった。
俺はバックミラーを見た。
赤いタートルネックセーターのおっさんは急いでセダンに乗るとまた追い掛けてきた。
少しばかりフォルクスワーゲンを走らせていると、なになに『この先注意。30メートル先にて工事中。次の手前で左折してください』と黄色い看板が出ていた。会社まで遠回りになるよな。まあ仕方ないけどもね。俺はバックミラーを見た。赤いタートルネックセーターのおっさんが迫っていた。俺は車を左折させた。
ビーッビッビッビッ
ビーッビーッビーッ
赤いタートルネックセーターのおっさんはクラクションを鳴らして運転席から降りてきた。
俺は愛車のフォルクスワーゲンを走らせた。
赤いタートルネックセーターのおっさんは黄色い看板を蹴り倒すと慌ててセダンに乗った。
前の車が混んできたな。
俺は時計を見た。
午前8時になっていた。
赤いタートルネックセーターのおっさんのセダンが後ろに付いたがクラクションを鳴らさなかった。
俺はバックミラーを見ていた。
赤いタートルネックセーターのおっさんはスマホで誰かと話していた。
前の車が動いていく。
俺のフォルクスワーゲンも流れていく。
後ろの赤いタートルネックセーターのおっさんのセダンは動かないでセダンのバックミラーでヘアスタイルを直しながらスマホで話を続けていた。俺の黄色いフォルクスワーゲンを動いたのに気付いて、ようやく赤いタートルネックセーターのおっさんはアクセルを踏んだ。
前の車が渋滞だ。
さっきの道を左折じゃなくて、あえて右折しとけば良かったか?
まあ仕方ないけどね。
赤いタートルネックセーターのおっさんがセダンから降りてきた。
「おいコラ、ガキ! 窓を開けれや!」と赤いタートルネックセーターのおっさんは言って窓を強く叩いてきた。
「うるさい! しつこい!」と俺は怒鳴った。
「ガキ、今な、ある人をここに呼んだからよう、覚悟しろよ! 車を動かさずに俺と向き合えよ! タイマンはいいや。少しばかり話そうぜ」と赤いタートルネックセーターのおっさんは言って俺の愛車のフォルクスワーゲンを見た。
俺は車から降りた。
赤いタートルネックセーターのおっさんが俺を見上げた。
「ガキ、身長はいくつだ?」と赤いタートルネックセーターのおっさんは機嫌悪そうに言った。
俺は無視した。
「このガキ〜、ナメやがってよう! 俺の身長は143センチだぞ! チョロQのチョロ吉って呼ばれてるんだぞ! スゴいべ! 背は低いがアソコはデカイんだぞ。毎朝、ビンビンだ。ビンビンのビンビンによるビンビンのためのビンビンなんだぞ!」と赤いタートルネックのおっさんは言って俺を見上げた。
俺は無視した。
「こ、こ、このガキめがよう! いよいよ頭にきたぞ! あっ、来た来た! こっちだよ〜、こっち!」と赤いタートルネックセーターのおっさんは言って俺の後ろに向かって手を振った。
俺は仕方なく後ろを見た。
つづく
ありがとうございます。次回が最終回です。




