憂鬱なラプソディー
雨の日の運転は気を付けないとさ。路面が滑るし視界が不良になるしさ。今ね、職場に向かう朝の7時半。信号は赤で停車中。CDプレーヤーからジミ・ヘンドリックスの「パープル・ヘイズ」が流れている。良いね、ジミヘンはね。クールだよな、ジミヘン。
信号が青に変わった。
あら? 前に停まっているセダンが動かない。
クラクションを鳴らすかな。
ピップラピー
動かない。
チッ。
ピップラピー
ピップラピー
ピップラピー
セダンの運転席の扉が開き、ちんちくりんのパンチパーマのイカついおっさんが飛び出てきた。赤いタートルネックセーター、サングラス、革のジーンズに革のサンダル姿だった。
赤いタートルネックセーターのおっさんは俺を睨みながら歩いてきた。
俺の車は黄色のフォルクスワーゲンだ。良い車だよ。
「おいコラ、ガキ! 窓を開けろ!」と赤いタートルネックセーターのおっさんはサングラスを取って話した。おっさんの目は離れていた。
俺は窓を開けた。
「あぁん、なんだよ?」と俺は言った。
「クラクション鳴らしやがってよ! ナメんなや!」と赤いタートルネックセーターのヒラメ顔したおっさんは言って鼻くそをほじりだした。
俺は黙っておっさんの鼻くそをほじり終わるのを待った。
「あははん、気持ち〜」と赤いタートルネックセーターのおっさんは言って夢中になって鼻くそほじくりまくっていた。
俺は黙って待つしかなかったね。
「あぁん、あぁん」と赤いタートルネックセーターのおっさんは声を漏らしながら鼻くそほじりに夢中だった。
俺はイライラしてきたさ。
「あぁん、あぁん、はあーん」と赤いタートルネックセーターのおっさんは喘ぎなから鼻くそをほじくり倒していた。
「あはーん!!」と赤いタートルネックセーターのおっさんは叫ぶと慌てて左の鼻の穴から指を取り出した。
赤いタートルネックセーターのおっさんの左の鼻の穴から血が流血していた。
俺は黙って見ていた。
「チッ」と赤いタートルネックセーターのおっさんは言うと自分の車に戻って、一旦、運転席に座るとティッシュペーパーで左の鼻の穴を詰めて再び俺の車に戻ってきやがった。
「テメェ、クラクション鳴らしやがってよ! よくも俺をバカにしやがったな!」と赤いタートルネックセーターのおっさんは言うとシャドーボクシングを始めた。
「タイマンだ、タイマン! その黄色い小便みたいな車から降りろよ!」と赤いタートルネックセーターのおっさんは言って廻し蹴りを始めた。
赤いタートルネックセーターのおっさんは廻し蹴りを止めると柔道の背負投げを始めた。
俺は静かに見届けていた。
赤いタートルネックセーターのおっさんは背負投げを止めると腰を低くして敏捷性のある動きを始めた。
「カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ」と赤いタートルネックセーターのおっさんは言ってカバディをしながら俺を睨み付けて威嚇した。鼻血を出しながらね。更にカバディの半径を広げながら赤いタートルネックセーターのおっさんは機敏な動きを繰り返していた。
俺はウインカーを出してフォルクスワーゲンを発車させた。
「あっ、待て、この野郎!! タイマンしろ!! タイマン!!」と赤いタートルネックセーターのおっさんは怒鳴って自分のセダンに飛び乗り追い掛けてきた。
俺はバックミラーを見ながら車を走らせた。
セダンはしつこく何度もクラクションを鳴らし続けた。
信号が赤になりそうだったので俺はスピードを上げて直進道路を渡りきったタイミングで運良く信号が赤になり後ろのセダンは停車した。
「ざまみろ。クソ野郎」と俺はバックミラーを見ながら言って笑った。
つづく
ありがとうございます!✨