教会へ向かうランドセル
朝陽がぼんやりとあたりを照らし始めたころ。
朝露が日の光を反射してキラキラと光るレンガでできた坂道を、
セナは転ばないよう気を付けながら駆け上がっていた。
「はぁ、はぁ…! 急がなきゃ、見れなくなっちゃう…!」
そういいながら、セナが向かう先には大きな教会。
街並みから少し距離を置くように、
周りを神聖なものが守っているみたいにポツンと坂の頂上にたつその教会では、
今まさに朝の讃美歌が聞こえだしたところだった。
朝陽が山の稜線をなぞり、
全体的に薄暗かった街並みが徐々にコントラストをはっきりとさせてきたころ、
セナは教会についた。
「…! 間に合った!」
セナが息を切らしながら、石造りの教会の戸をくぐった時、
重厚なパイプオルガンの音が聞こえてくる。
教会のひときわ目立つ正面に、壁の一部かのように束になった太いパイプの下、
小さな男の子が今鍵盤に手をかけたところだった。
セナは戸のすぐ近くの木製ベンチに腰掛け、
パイプオルガンを弾く男の子、ユキの演奏が終わるまでじっくりとその光景を見ていた。
「お疲れ様、ユキ。今日もすっごく良かったよ!」
朝の時間が終わり、
鍵盤に赤布をかけるユキに近づくと、セナは声をかけた。
いつもの日課を終え、ひと段落つき落ち着いていたユキは、
聞きなれた声にほっと笑みをこぼしながら振り返る。
「セナ、今日も来てくれたんだ。ありがとう。」
「当たり前だよ。いつ見てもユキのオルガンはすごいね。
演奏もきれいでついききに来ちゃうよ。」
「うん、何時弾いてもこのオルガンは良い音を出してくれる。
今日は少し寒かったから、高温もちゃんと事前の調音どおりで特によかったよ。」
そんなことを話しながら、
ユキはパイプオルガンの簡単な手入れと片づけを手早くすまし、
ランドセルに手をかけた。
「よし!お待たせ。それじゃあ学校に行こう。」
「うん!」
朝日はまだ少しゆったりした朝の雰囲気を残していたが、
坂下からは徐々に人の営みが始まらんとする音が聞こえてくる。
今日一日の始まりだ。
新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込むと、二人は元気に駆けだしていった。