狙撃の名手5
ケーンたちがダルと合流したとき、すでにほとんどのアリバイを聞いて回った後だった。
ケーンが絞り込んだ容疑者のリストをダルへと渡す。
「ダル、この5人のアリバイは確認できているか?」
「こちらの4人は確認しました。いずれも犯行時刻にアリバイがあります。今からちょうどこの5人目の家へ行くところです。」
ダルが最後の一人の情報が書かれた紙をケーンへと返す
「シモンズ26歳、退役軍人か。退役理由は上官への暴力、報告された能力の偽装。ただ、技術面での成績は優秀とあるな。」
「いくら能力があっても、軍で上官に逆らってちゃ追い出されるにきまってる。その辺がわからないってのはあまり頭がよくないな。」
ケーンが読み上げた情報にティムが皮肉を言う。
「こいつが本命だ。いきなり暴れる可能性もある。用心していくぞ。」
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その家は北西のはずれにあった。
住宅地からは離れ、工房や作業所などに囲まれた場所にあり、
日が傾きかけた今ではひっそりとしたエリアの一角にあった。
ケーンが家の戸をノックすると間もなくしてリストで見たより少し痩せこけた男が出てくる。
ケーンが捜査官バッジを見せながら声をかける
「シモンズだな?ハイネ魔法捜査局のケーンだ。」
「あぁ、俺がシモンズだが、何か用か?」
「今日の正午前後はどこにいた?」
「昼はずっと家にいた。」
「証明できる人は?」
「いない。見ての通り一人暮らしだ。」
扉の隙間から見える室内はこじんまりとまとまっていて、一人暮らしだろうことがうかがわれた。
「その時間に商店街で光属性の魔法によって人が殺された。何か知っていることは?」
「俺は何も知らない。その事件のことだって今知ったんだ。」
シモンズは顔色を変えることもなく答える。
「昨日、薬屋で魔力回復薬を購入したな?昨日の日付の製造日表示の紙が現場で発見された。」
「あぁ、買ったよ。だが、その紙が俺の薬の物とは限らないだろ?もういいか?忙しいんだ。」
少し慌て始めたシモンズだが、まだ犯行を認めない。
ケーンはふとシモンズの靴についた小さな粒に気が付く。
「シモンズ、湖に行ったことは?」
「いかねぇよ。なんにもないだろ?」
「そうか。」
ケーンはふいに靴に向かって魔法をかける。
「グロウ!」
すると、シモンズの靴についていた小さな粒から芽が発芽し、スルスルと成長し、小さな青い花が咲いた。
「それはリバーサイドナルシス。この辺りでは人気のない湖の周辺でしか見かけない。現場の狙撃位置に同じ種が落ちていた。もう言い逃れはできないぞシモンズ。お前が犯人だ。」
ケーンが問い詰めると、シモンズはしばらく口を閉ざし、観念したのかゆっくりと口を開いた。
「見事な狙撃だっただろう?俺は軍でも魔法の精度は一番だった。上官は俺の少ない魔力量を理由に戦力外扱いにしたんだ。だが、どうだ!?狙撃は完璧だっただろ?魔力量なんて回復薬で何とでもなる!」
「市民を守るのが兵士だ。お前はその守るべき市民を殺したんだ。」
ケーンは手錠を出し、シモンズの手首にかけながら続ける。
「それにお前は完璧じゃなかった。だから俺たちがここにいる。」
「チーフ、僕とティムで駐屯所に連れていきます。」
ダルがシモンズを家から連れ出す。
入れ替わりにホリーがケーンのもとに歩いてくる。
「終わったわね。私も狙撃の練習しようかしら。チーフ、ラボに戻ったら練習に付き合ってくれない?」
「そうだな、また別の日に時間をとるよ。」
「あら、今日はデートかしら?」
ケーンからの答えにホリーが茶化す。
「いや、今から被害者のご家族に報告に行く。」
「そう・・・、私も行くわ。」
「そうか、では行こう。」
ケーンとホリーは住宅街へ向かって歩いて行く。
あたりはすっかり暗くなり、町には明かりが灯っていた。