狙撃の名手3
ホリーが時計塔の入り口につくと扉の鍵は開いていた。
扉を開け、ドアノブを確認するが、鍵を壊した形跡はない。
そこへティムが初老の男性を連れてやってくる。
「こちらはダルホ。彼が、時計塔の管理人らしい。」
「初めまして。ダルホです。時計塔を調査したいとか。鍵はかけていませんのでご自由にどうぞ。」
「初めまして、魔法捜査局のホリーです。普段から鍵をかけていないんですか?」
3人で扉の周囲を確認しながらホリーが管理人に質問する。
「えぇ、貴重品もありませんし、鐘を鳴らす私くらいしか入る人もいないので。」
「誰でも入れる。不審者も入れる。」
ダルホの答えにティムが嫌味で返す。
ホリーが入口の隅にしゃがみ込み何かを拾い上げる。
「何かの紙の一部みたい。何かしら。ティム、何に見える?」
「待って、なにか番号が書いてある。日付っぽいな。昨日のだ。たしか薬を入れるビンにこんな感じの紙が貼ってあった気がする。」
「製造日を表示するための紙ね。青色の紙ってことは魔力回復薬ね。」
ホリーがキットから証拠品を入れる封筒を取り出し、青い紙切れを中に入れる。
「犯人はやっぱり魔法使ったのか。でも、3発しか撃ってないのに回復薬を使うのか?」
扉をくぐり、時計塔の階段をのぼりながらティムが疑問を口にする。
「魔法にもよるけど、アロー系の魔法は通常10発撃っても魔力は枯渇しないわ。ただ、魔力量は個人差があるから3発撃っただけでも魔力切れを起こして、めまいのような症状が出る人もいる。」
「ってことは、犯人は時計塔から魔法を撃ち、魔力が少なくなったからふらつくのを抑えるために魔力回復薬を飲んだってことか。」
階段上り入口から遠ざかるにつれて少しずつ暗くなっていく
「ライト!」
ティムが人差し指を振りながら唱えると指の先に小さな光の玉が浮かび上がり周囲が明るくなる。
ほどなくして、階段を登り切り柵に囲われた町を一望できるフロアに到着する。
「鐘本体はもっと上部ですが、人が登れるのはこのフロアが最上部です。普段は壁際のハンドルを回し鐘を鳴らします。今日の事件の後も鐘を鳴らしに来ましたが、だれもいませんでした。」
ホリーがダルホから説明を受けながら街の景色を見渡す。
時計塔の南には海へと続く商店街が。海には港と、漁に出る船がちらほらと見える。
海で上がった魚と山でとれた山菜や狩猟された動物などが商店街で売られる。
北側には同じように通りがあるが、こちらにはどちらかといえば住宅区といった感じだ。
そして北のはずれにラボが見える。
東には住宅地が広がり、西には大きな湖と川、その水源を使う製鉄所や工房が軒を連ねている。
フロアの柵を調べていたティムがホリーを呼ぶ。
「ホリー、こっちに何かある。」
拾い上げられた小さな粒状のものをホリーがのぞき込む。
「何かの植物の種みたいね。多分場所からして、犯人が持ち込んだものみたいね。重要な手掛かりね。」
ホリーは封筒に種のようなものを入れてフロアを見渡す。
「ほかには何もなさそう。私は一度この二つをもってラボに戻るわ」
「俺は薬屋をあたってみる。」
「ダルホさん、ご協力感謝します。また何か思い出したことがありましたら連絡をお願いします。」
管理人のダルホに声をかけながら階段を降りる。
「じゃあ俺は薬屋へ行くよ。聞き込みが終わったらラボへ戻るよ。」
「ええ、じゃあまた後で。」
二人はそれぞれの方向へ歩き出した。