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祝賀会と余韻

「プラットフォーム揃い踏みを祝して~~、乾杯っ!」

 駅近くのマクノナルドにて、桜下高校オカルト同好会の四人はドリンクの入ったカップをつけ合わせていた。先日夜に行われたアカリのデビュー配信は十人程度の集客に留まり、当人たちが想像していた程の好調なスタートを切れたとは言えなかったが、それなりに多くのコメントをもらえたこともあり、戦果は十分として祝いの席が設けられた。

 少女たちはメガ盛りのフライドポテトを机の中心に広げて摘まみ合いながら振り返る。


「Vのアバターもみんな可愛いって言ってくれて安心したよ。キラリ先生には頭が上がりません」

 配信担当、アカリ。直接顔を出すのではなく、イラストをフェイストラッキングの技術で動かしながらトークをする、バーチャルストリーマーとして先日デビューを果たす。アバターのモデリングを自身で担ったため、他三名よりも遅れてのSNSデビューとなった。


「ふふん、もっと褒めたたえなさい。というかもしかして私、いわゆる“ママ”ってやつになっちゃった?17歳の子持ち……けしからん」

 スウィッター担当、キラリ。四人の中では地味な印象を受けるが、イラストが得意で廃墟フェチな一面があったりと、内面が尖っていて三人からよく可愛がられている。


「けしからんとかないわー。つか写真撮ってねーわ。はいみんな摘まんでー」

 ブログ担当、ミヤコ。何かと時代に逆行しがちな派手好きのギャル。とにかく物量やデコレーションで大きく飾るのが彼女の提唱する“レトロカワイイ”のポイントなんだとか。


「うんうん、ボクは感無量です。まさかこうしてオカルト仲間と青春出来る世界が存在したなんて……。まさに運命、いや宿命かな?」

 テイクトゥック担当、サナエ。流行りものに目がない同好会のリーダーである。次に来る最前線のエンタメはオカルトである――そう豪語するサナエは、オカルト歴三か月の新参者だ。


 四人はかつて同じ幼稚園に通っていた過去があったが、小中学校は全員が様々な理由でバラバラとなっていた。奇しくも同じ高校へ進学することとなった彼女らは、サナエが声をかけて回った事から再開を果たし、各々変わり果てた姿を笑い合いながら仲の良いグループを形成することとなる。

 基本的にはサナエがいつも唐突に何かを始めると宣言し、ある日を境に途端に興味を失う。そんな周期を繰り返しながら学生生活をぐるぐると回しており、今はオカルト――とりわけ心霊写真に夢中になっているというところだ。


「私もスウィッター用に写真撮ろ。手ぇどけて?……お、昨日の今日でもう何件か投稿きてるよ。昨日の配信観ましたーって。明日の確認分は大体三十件くらいかな。サナエん家でいいの?」

「うん、いいよ。いつも通り夜の八時に。チェックした後の鑑賞会は“胡蝶蘭の砂時計”ってやつ用意してるから。後味悪い系っぽいので機嫌取りの食料を忘れないように!」

 オカルト同好会が毎週土曜日に行っている定例会。寄せられた心霊写真の確認と、映画の鑑賞会からレビューのディベートまでをセットで泊まり込んで行っている。


「それもホラー系?流石にちょっと飽きてくるかもです」

「えーいいじゃん、ウチ邦画ホラー好きだよ。独特のチルい感じとか?ドキドキよりワビサビ?みたいな?」

「キラリちゃん通訳お願い」

「え?つまりアレでしょ。緊張と弛緩で驚かせる洋画と違ってじわじわと真綿で首を絞めてくる感じ」

「あぁそれか。でも今の映画ってそういう昔の邦画らしさみたいなものは薄れてきてる感じがしない?」

「ふっふっふ。サナエさんを舐めてもらっちゃあ困るんだな。こちらの作品、九十年台公開の作品となっております」


 その後も他愛ない雑談で時間が過ぎていき、一時間ほどで祝賀会もつつがなく終わった。各々帰宅の途についていき、方角が違うアカリとサナエは途中で解散、キラリとミヤコは一駅隣の最寄りから徒歩で家に向かっていた。

「サナエのホラーブーム、いつまで続くと思う?」

「ぼちぼちじゃね?ナエっち振りとかナシでポイだからなー。ナエちマジ冷凍庫」

「あぁ…ん?なんで冷凍庫?」

「体はホットじゃん。食べきったら中はクールみたいな?瞬間冷凍」

「なるほどね?たまに再加熱するから確かに冷凍保存してるのかも。にしてもちょっと面白いよね。大昔の友達が今になってみんな集合してつるんでるの。サナエが声かけてこなかったらそもそも思い出してないまであるもん」

「それも保存してたの引っ張ってきたんじゃん?急にウチらスパッと切られたりして」

「いや怖すぎかよ」

「でもナエっちっぽいなーって許しちゃいそうな気がする。……あー、ぷりです。萎えぽよ」

「悪いやつではないんだけどね。中身がバケモンすぎる。良い意味でイカれてるわ」

「そり。でもそこが好きピ」


 キラリはサナエについて一目置いてはいるものの、あくまで良くも悪くもフラットな知り合いという認識にとどめていた。ミヤコは他人に対して自分からすり寄るような姿勢は見せないものの、少し心配症で依存するタイプなのか自ら切り込んだ話題に悶々とした気持ちが抑えられないようだ。

「ぬあー、ダメだ。ウチコンビニ寄るからこっち曲がるけどキラリンどうする?プリン買わないとアガんないわ」

「いや、私はいいや」

「そ?じゃまた明日ー」

「んー、じゃあねー」


 明日の同好会。どんな写真が寄せられているのだろうか。

 良い廃墟の写真があれば良いな、なんて思いながらキラリは暢気に夕暮れの住宅街を一人歩いて行った。


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