いつきと桜子
「お願いがあるの」
彼女はそういった。
「私のお願い聞いてほしいの」
彼女は、そう、いった。
だから何かは聞いてみた。
_お願い?って?
「私は、役立たず、だから」
彼女はまっすぐにいう。
「私は自分でいたくない」
_そんなこと、いわれても…
何かは困るが聞いてみる。
_どうして自分でいたくないの?
「弱いのは嫌なの、だから」
彼女はやはりまっすぐにいう。
「私になってほしい」
彼女は何かに自分を渡した。
何かは彼女となった。
ある日の帰り道。
いつきは桜子とともに歩いていた。
桜子は、いつきの兄のかいとと幼なじみである。
桜子は黒く長い髪がふわりと揺れる。
にこりと優しい表情でいつきにはなしかける。
「いつきちゃん、ありがとう」
いつきはぽわっと顔を赤くさせる。
「どうして急に!?私何もしてませんよ!?」
「一緒に帰ってくれてるから」
「そんな!兄じゃなくてすみません!」
「私うれしいのよ、とても、でも…一人でくらい帰れるのに…そうしたら、もっといつきちゃんたちはいつきちゃんたちの時間が使えるのに…ごめんなさい」
桜子は謝る必要のないというのに謝った。
「いえ!謝らなくていいんですよ!?」
いつきはさっきからあわてたはなしかたをしてる。
桜子はどこか目線を落として笑う。
「ごめんなさい…変なこと言って」
「いえ!桜子さんは優しいから…私桜子さんと帰るの好きですよ」
「…ありがとう…」
「いえ!」
いつきは桜子の家まで一緒に帰った。
桜子は大きな木造の屋敷へと入る前にいつきへ頭を下げる。
「ありがとう、いつきちゃん」
「いえ、私こそありがとうございます」
「…また明日」
「はい、また明日!」
桜子といつきは別れる。
桜子は木造の屋敷の方を向くと、そこへ入る。
「ただいま…」
小さくいうと、玄関に誰かがやってくる。
「お帰りなさい!」
明るく元気に桜子に何かが飛びついてきた。
そこには動物がいた。
かわいらしく、黒猫のような姿である。
「ほこ、ただいま」
その黒猫は宙を浮かんでいた。
「お帰りおかえりー!」
桜子は肩に乗る黒猫は放っといて長い廊下を進む。
ほこが聞いてみる。
「桜子、今日どうだった?」
「いつもと同じだったわ」
桜子は目を柔らかくさせうれしそうにいった。
「いつもと同じは幸せ?」
黒猫は質問する。
桜子は歩きながら答える。
「幸せよ、いつも通りって、本当に幸せ」
「どうして?」
「いつもと同じって普通ってことだと思うの、普通って壊れやすくて、でも壊れてほしくないもので…」
桜子はどこか切なげに言葉を続ける。
「なによりもずっと、できれば普通が続いてほしいの」
「続く?」
「ずっと、壊れないで永遠に」
「普通はある日いきなり壊れるものなの?」
黒猫はまだ質問してくる。
「うん、壊れやすいの」
「普通は悲しそう」
「どうして?」
「桜子は悲しそうな顔してるから、だから頭なでてあげる」
黒猫はよしよしと頭をなでた。
桜子はどこか目元を細めると、いう。
「ありがとう…ほこ」
桜子は廊下を進んだ。