葉無トンネル
葉無トンネル(はなトンネル)
色葉はかいとにくっついている。
目の前の壁に真っ暗な闇色の穴がある。
色葉はそれを見ていう。
「先輩は怖くないですか?」
かいとは顔を横にふるとにぱっと歯を出して笑う。
「怖いわけないだろ?」
「私は怖いですよ、葉無トンネル、ここに入るの、いつも」
「俺が怖がったら色葉も怖がるだろ?」
「はい…」
「これは、お前のやることなんだろ?」
「はい…そうです、先輩は…しょうがないから、ですよね」
「別に、いやがってねーぞ?」
「家族のためなら、ですか?」
「なんでそんなこと急に」
色葉はどこか目線を落とす。
震える唇を開ける。
「できれば、したくないですよ…」
「いろは…?」
色葉ははっと我にかえるとにこっとする。
「なんて、じょーだんですよ、さっき、好きとか期待させたお返しです!まったく、だまされやすいですねー!先輩のそういうとこ好きですよー」
笑う。
色葉は笑う少女だ。
明るい少女だ。
二人はトンネルのような穴の中へと入っていく。
トンネルといえば暗い場所というが、そこは明るかった。明るく、なにより広い。
そして、木々が左右に縦に並べられている。
その真ん中を二人は歩いて行く。
色葉はもうかいとにはくっつかず離れ、まわりを警戒するように進む。
かいとは頭をうごかし、きょろきょろとまわりを見ながら歩く。
「…」
「…」
お互いに話すことはしなく、進む。
_ザッ!
何かが飛び込んできた。
色葉が前へと出て、自分の右手を前へと出す。
拳を作り、なにかを殴る。
それは飛んでいき、地面に倒れた。
「出てきましたね」
色葉はどこか悲しそうにそれを見る。
かいとは後ろから別のそれが飛び上がって向かってきて、首をつかまれると後ろへ押し倒される。地面へ倒れたがそれは手が震えていることがわかる。
「先輩!」
「俺のことはいいから、そっちを!」
「はい!」
色葉は自分の方を優先させる。
色葉はいつもと違う、凶暴でないそれに悲しそうな顔をする。
「そっか、今日は…おびえてるやつなんだね」
それは、浮かび上がる。
その姿は人ではない。
言葉ではいえない、だがかたまりに二つの腕がにょきりと出ている。
「おびえてるやつ…か」
なぜかおびえてるとわかる。
だが、それは、向かってくる。
一直線に、おびえながら向かってくる。
色葉はうつむく。
かいとは、押し倒され、それは震える手であるが
「よけるなよ」
右手の拳に赤色の光が包むと、思いきりそれに向かって拳をぶつけた。
色葉は正直安心していた。
今回は凶暴でないようだし、なによりおびえているような相手だ。
小さく口角さえあげる余裕まである。
向かってくるそれは腕を伸ばし、色葉の首を狙ったが、色葉はその腕を両手で掴む。
それを上へ放り上げると、腕を掴んだまま、地面へとたたきつける。
それは、衝撃で動きがとまっていて、色葉は短剣をいつのまにか手に持ち、思いきり刺す。
それは、刺されるとざらざらと姿がくだけていき、消えていく。
「…」
色葉は何も言わずに見つめた。
かいとが色葉のところへと行く。
「色葉、けがとかないか?」
「ないです、今回はおびえてるやつだったので」
「珍しいよな」
「はい、でも倒しやすかったです」
色葉とかいとは先へと進むと白色のトンネルのような穴があり、入る。
ここからの出口だ。
色葉は後ろを向く。
かいとは「どうした?」と聞く。
「あんなに怖かったのに今日は早く終わってしまって、なんか…変な気持ちで」
「よかったじゃねーか、戻れるんだから」
「はい、そうですね!先輩!」
二人はそこを出ると、入ったときと同じ場所の壁の前にいた。
時間は入ったときと変わらないというのが葉無トンネルの特徴でもある。
「んじゃ、戻ってこれたし俺かえー…」
色葉が後ろからかいとに抱きつく。
「色葉?」
「かいと先輩大好きですー!」
「きゅ、急にどうしたんだ!?」
「いいじゃないですかーせんぱぃぃ!」
少し経つと、ようやく色葉が離れた。
「すみません、ずっとくっついてしまって…その、またよろしくお願いします」
「こっちこそよろしくな」
二人は別れる。
色葉は一人公園のベンチに座る。
「おびえてるやつ、か…私みたいだな、いつも、おびえてる、なにもかも怖い、ひきょうな私」
色葉は下を向いた。