桜子
桜子は屋敷にいた。
今日は学校が休みである。
「私が学校に行けるなんて…」
屋敷の2階の部屋にいた。
部屋はベッドがあり、机に学校の教科書がある。
それ以外は何もない。
音楽が好きだが、音楽の聞ける道具はない。
青色の携帯と、赤井敬造がもたせてくれた携帯が机に置かれている。
桜子は全てに感謝している。
ここにいること。
ここにいさせてくれること。
感謝している。
が、かいとやいつきの家族がここを追い出される理由を作ったのは自分である。
なのに、かいとの家族は何も悪くも言わず、守ってくれている。
「…」
桜子は下へと行くと、屋敷の広い部屋に、男性がいた。
年齢は五十代程だろうか。
黒髪で、顔立ちは整っている。
男性は、桜子に気づくとにこりとする。
「桜子、どうかしたのかい?」
「あ…敬造さん、いえ…」
赤井敬造
赤井家の主である。
「何か、不安なことがあるのかい?」
「いえ、ないです」
「そうかい…かいとくんといつきちゃんは元気かい?」
「元気です」
「そうかい、それにしても上の方は厳しいね、かいと君達は悪くないというのに」
桜子はうなずく。
「かなたさんも悪くありません」
「でもね、やはりかなたくんが悪い、誰かに相談してくれたらよかったのに」
「相談、ですか」
「相談は大事だよ、こどもであっても、言葉にしないと相手には伝わらないから」
敬造はどこか斜め上を見て、さみしそうに言った。
「学校はどうだい?」
「とても、楽しいです、様々な人がいて…外は花とか、色々あって…きれいです」
「そっか、よかった」
優しげに笑う敬造に桜子も笑う。
「私を学校に行かせてくれて…ここにいることができ…本当に感謝しています」
「私じゃないよ、上の方がそうしているんだ、私じゃない」
「上の方に感謝しています」
桜子は続ける。
「この場所にいさせてくれる敬造さん、あなたがいなければ私はここにいられませんでした」
「…私は何もしていないよ」
「いえ、ありがとうございます」
敬造はどこか恥ずかしそうにすると、話を変える。
「学校に好きな人はいるかい?」
急である。
桜子は無言で顔を赤くさせる。
敬造ははっとする。
かいとが好きなことはすでにわかっている。
「急に聞いてすまない、で…その相手はしっかりしてるかい?」
「えっと、好きな人はいないですよ!?」
「いや、わかるよ?いることくらい」
敬造は必死になる。
「男はね!しっかりしている相手じゃないとなんだ!」
「…!?」
急に拳を作り、話しはじめる敬造に桜子は困る。
「男は、強く、たくましく、忍耐強く、そして!愛がある相手!それが大事なんだ!他にも…」
桜子は長くなると思い、部屋を出て廊下を歩いて行く。
桜子の元へ黒猫が飛んでくる。
ほこである。
「桜子、敬造は話長いねー」
「うん、部屋勝手に出てきちゃった…最初は聞いてたけど…」
桜子は目を横へとずらす。
「長すぎて…」
「うん、わかるー」
桜子はほこの頭をなでる。
うれしそうにのどを鳴らす。
「桜子になでられるの好き、もっとしてー」
「うん」
ほこは桜子になでられ満足げにすると、ふくよかで豊かな胸に飛び込む。
「桜子、ずっと一緒だよ」
「うん、一緒だよ」
桜子は胸にほこを包むように抱えると、小さくうれしそうに笑った。
敬造はまだしゃべっている。
「あとね、やっぱり優しさがあり、相手への気づかいがあり、そして、共に協力を…他にも、他に…あとは」
桜子がいないことに気づかずしゃべり続けていた。




