陸と留美絵
ふわりっ
白い綿毛が漂う。
たくさんの綿毛が音もなくぶつかる。
こどもがおもちゃ箱から思いきりおもちゃを放りだすように、散乱としている。
その先に、何かがある。
そこは綿毛は飛んでいない。
その場所の中央には台座がある。
台座の前に女性がいた。
女性の前にある台座にはびんが置かれていて、透明のビー玉が中に入っている。
祈るように自分の両手を重ねている。
黄色の花を想像させるような髪色。
横に一つ三つ編みをしている。
上下黒色のスーツ。
その彼女へ人の腕のようなものが近寄る。
その腕は空中に浮かんでいて、三本ほどが彼女を狙う。
その腕はザクリッと切られる。
切った本人はというと、茶色の髪を二つお団子にしている少女である。
ひし形の髪飾りをつけている。
少女はもう二つの腕も自分の茶色の犬の前足のようになる手の平の部分から伸びる3本の爪で切りつけた。
彼は、沢野陸だ。
少女とはいったが、少年である。
容姿は少女と言うほどにかわいらしく、女子制服を着ている。
双子の姉が著ていたかもしれない服…である。
彼は女性を守るように背中を向ける。
そして、もう一人。
糸田留美絵である。
黒髪を二つにしばり、地面にうつぶせに転んでいた。
陸は声をかける。
「大丈夫ですか!?」
ちなみに戦いで転んだのではなく、先ほど、台座以外の場所からも腕が飛んでいて、追いかけて転んで、そのままだった。
「…」
がばっと起き上がると、叫ぶ。
「ごめんなさい!ごめんなさい!いつの間にか転んでて、うわあ、迷惑すぎる!しかも、立ち上がれないなんて!うああ!ごめんなさい!」
陸はあわてる。
「落ち着いてください!大丈夫ですよ!?もう、腕とかいないです」
その言葉にいっそう泣きそうになる。
「うわああ!陸さんにばかり!戦わせて!ごめんなさい!」
「いえ、けがないですか?」
「ないです!」
留美絵は叫んだ。
そこへ、空中にまた腕が現れる。
空中に浮かぶ人の腕は、二の腕がなく腕の下半分が浮かんでいる。
それが急に7本ほどある。
陸は爪を向けたが、
留美絵は起き上がるとはっとする。
「そっか!だから転んだんだ!」
留美絵の能力は“糸”である。
細く、見えない糸。
能力を使おうと思うとき、自動的に見えない糸があちらこちらに張られている。
余計にふらついたり、転んだりもしていたため、思いきり手を上げてみる。
そうすると、腕を糸で縛るようにして、動きを止めることができた、が。
「あの、留美絵さん…」
陸までもが糸で縛られ、動けなくなっていた。
「ご、ごめんなさい!えーっと!」
糸で腕を止めることができていたが、仲間までもを動けなくさせてしまったため、一度能力をやめるしかない。
ぱっと、糸がほどけると、陸は動けるようになる。
慣れてはいるが、糸は陸に見えないため気をつけることは難しい。
全体的に縛るときは、腕を粉々にしたりはできず、動きを止めるのみである。
腕は動けるようになると、台座の前の女性へと向かう。
陸は一度後ろへ下がり、勢いをつけて走り出す。そして、地面を蹴ると、飛び上がる。
空中に浮かぶ腕のため、距離的に自分でどうにかするしかないのだ。
まずは、一つ、腕を切りつける。
次へといく。
留美絵は、手のひらを向けると見えない糸をいつくも伸ばす。
腕はピタリと止まる。
その腕を絡めると、思いきり後ろへ引く。
腕はぎゅうと締め付けられ、粉々になった。
今のところ、陸が二本を爪で切った。
留美絵が一本となると、あと四本いる。
四本は女性へと向かっていく。
陸は向かっていく。
留美絵は自分の糸を見る。
とにかく、糸はもう張られている。
ただ、それをうまく使えず、仲間までもを危険に合わせるのが、彼女である。
ので、留美絵は陸へ言う。
「糸は結衣さんのまわりにもあります!ので!陸さんまだ行かないでください!」
留美絵は上に手を上げる。
見えない糸が向かっていく腕を縛る。
留美絵は思いつきでやろうとすることが多いので、失敗する。
まだ慣れてないが、全体ではなく、部分的に糸を縛るをする。
腕が止まる。
留美絵がいう。
「私は、糸を縛るのをやめるとき、何かいいます!えーと、何がいいでしょう…えっと、えっと!」
陸はあわてる留美絵のため、自分は冷静になろうとして、答える。
「“今だ”とかでいいと思います!あと!僕は爪を上げますので、そのときに糸を解いてください!」
「は、はい!」
糸は、部分的でも動きを止めるしか、できない。
なので、せっかくの糸の能力も万能ではない。
とにかく
合わせる。
留美絵は、陸が爪を上げようとするのを見て、叫ぶ。
「今です!」
陸は爪を切りつけ、四つを順番に切りつけていくが、一つはうまく避けて、女性へと向かう。
陸は手を伸ばすが、腕はいってしまう。
留美絵は、走り出す。
が、間に合わない。
女性へ腕は飛んでいった。
その腕は女性というよりは、女性の前に置かれたびんを狙っていた。
目を閉じていた女性はその腕の手首をぐっと掴む。
女性は一言。
「今終わったわ…眠りなさい」
その言葉に台座に置かれたびんの中のビー玉が青色となっていて輝く。
腕はさらさらと消えていった。
女性は立ち上がると、陸と留美絵を見る。
「二人とも…この数日、ありがとう、無事に封印が終わったわ…ああ、よかった」
夢橋結衣
彼女は、専門は封じられているものを出さないようにするが役目だ。
ので、今回この場所の封じる力が弱まっていたため、ここへと来ていた。
一人ではできないため、協力を依頼したのだ。
その結衣は、胃の辺りをなでる。
「…正直、不安だったの…もしも封印がうまくできなくて、出てきてしまったらとか…集中のときは考えないけど、ああ!よかったあ、終わったわ」
胃の辺りをなでながらいう。
留美絵がおどおどと答える。
「あ、あの!転んだり!よろよろしてたり、私うっとおしかったですよね!?ごめんなさい!」
「目を閉じて集中してたから大丈夫よ!」
「うるさくてごめんなさい!あの!陸君!」
「は、はい」
「糸で縛ってしまってごめんなさい!」
「あ…大丈夫でしたよ」
留美絵は謝り続けた。
それから、最後に全員で祈るように両手を重ね、時間がたつと。
ここを出る。
そのために、白い綿毛の中を歩いて行く。
音もなく漂う綿毛たち。
陸達は、その中を進み、空間を出た。
使われていない空きビルの壁から出てきた。
「それじゃあ、またよろしくね」
結衣がいい、行ってしまうと、陸と留美絵も別れる。
「迷惑ばかりかけてすみません…陸くん」
「そうですね、気をつけてくださいね」
にこっとする陸に留美絵はビクッと肩をふるわす。
「…気、気をつけます、がんばります…!」
「はい、お願いします」
留美絵とも別れ、陸は一人で歩いて行く。
「…」
ひし形の髪飾りにふれる。
双子の姉におそろいにされたのだ。
「姉さん、今日も、僕は僕のすることをしたよ」
と小さくつぶやいた。




