かいとと色葉
「かいと先輩!」
色葉はたたっと走る。
「かいと先輩、待ちましたか?」
「今来たとこだ」
「かっこいいですね!今来たとこだなんて」
「いや、本当にそうなんだけど」
「いえ!かいと先輩のその言葉かっこいいですよ!」
「そ、そうなのか…?」
かいとは困った顔をするが、ほめられているので笑っておく。
今日は葉無トンネルへと行くのだ。
そのため、色葉と公園で待ち合わせをしていたのだ。
色葉はにこにこしてる。
色葉はいつも笑顔でいる。
それから、公園を出て、ある壁へと行く。
葉無トンネルは出現する場所はだいたいしかわからないことが多い。
一応、里先家の者や、力を持つ者が見えるとなっているが、どこかまでは里先家の者の方が感じやすい。
人の中では希にここへ入ってしまう人もいるようで、運がいいと無事に帰れる人もいる。
壁には真っ暗な闇色の穴がある。
色葉はこの前に来ると笑顔が作れなくなるようだ。
怖いのだろう。
きっと。
「行きましょう、かいと先輩」
怖いと思う。
けれど色葉は思いきり笑顔を作った。
二人は中へ入る。
中は明るい空間だ。
かいとも色葉も大きく目を開く。
そこには。
たくさんのかたまりが浮かんでいる。
うろうろとしていて、二人は言葉を失う。
かたまりに腕が二つ生えたものは、かいとと色葉にすぐに気づく。なぜなら、隠れられるような場所がないからだ。
かたまり達はうろうろしていたのに全員同じくピタリと止まり、顔がどこかもわからないがくるりと回転してこちらを見た。
そうすると、全員同じように体をゆらす。
“「あはははっ」”
全員が笑いはじめた。
ただ、笑っている。
笑い続けている。
色葉はぞくっと体が震えた。
かいともぞっとはしたが、きっと鋭い目をして前を向く。
かたまり達の一人が笑いながら、ゆらゆらと二人へと近づいていく。
“「あはははっ」”
笑い声はかわいらしいのになぜか不気味。
かいとは思いきり拳を向けた。
かたまりはあっけなくつらぬかれ、ざらざらと消えた。
かたまり達はゆらゆらとする。
笑うことはしなく、ゆらゆらとする。
だが近づいては来ない。
なんなのか。
色葉は考える。
多くいるため、変に手を出すと囲まれてしまう。
どうするべきか。
「かいと先輩、あの、この多さはまずいです、正直」
「多いよな、しかもなんか来ないし」
変なのだ。
笑わなくなりこっちにも来ない。
逆に怖い。
「色葉、俺が突っ込んでいってみ_…」
かいとは後ろの色葉の方を向いた。
“「あはははっ」”
かいとの真後ろにかたまりがいた。
かたまりは二つの腕を上げるとかいとの両肩を掴んで、どんっと後ろへ突き飛ばす。
それは一瞬のことすぎた。
色葉は全く動けなかった。
かいとは、後ろへ倒れるとかたまり達は急に動き始め、かいとを囲む。
色葉はその光景に動けなくなりそうになったが、がっと歯がみをする。
「かいと先輩!」
手を伸ばすが、色葉の方にもかたまりは来て、囲まれる。
かいとは地面に倒れ、背中が痛い。
そして、多くの腕がかいとの体を殴っていく。
かいとは、血を吐く。
それは、あまりにも…。
耳に聞こえるのは笑い声。
“「あはははっあはははっあはははっあはははっあはははっ」”
笑い声。
笑い声。
痛い
痛い
痛い
かいとは動けない。
_こんなところで死んでられないのに_
生きている限り嫌なことはあるし、死にたくなるような苦しいこともある。
けれど、それから逃げなかった自分もいる。
いや、逃げたいけど、できなかった時もある。
運良く逃げれたこともある。
けど、けど。
_「かいと先輩!」_
一人なら諦めてられるが、ここには色葉がいる。
_自分だけじゃないだろ?_
痛い
痛い
_痛い?ふざけるな痛いのはもう昔からだろ?昔から生きてるから痛い、何してんだよ俺、ここで終われるのか?_
「終われるわけねえだろ…」
かいとは腕は痛い。
体が痛い。
けど、赤色が包む。
赤色は彼の拳を輝かせる。
「まだ、終われねえんだよ!!」
赤い拳がかたまり達をつらぬき、消していく。
「いってえ…いってえな…」
痛い。
「けどな俺よりももっと痛い思いしてる誰かがいることを知った。だからこの程度で痛いなんて言ってられるか」
赤い拳をかたまりへと向け、倒していく。かなりたくさんいるため、時間はかかるが、倒す。
かいとの後ろを
“「あはははっ」”
と、かたまりが腕を向けていて、振り下ろす。
かいとの目の前にいた、かたまりに輝く剣先が突き刺さる。
「かいと先輩!すみません…!」
その短剣を手に持つのは色葉である。
色葉は顔が赤く腫れていたが、その痛みはあるはずのに何も言わず、かいとの心配をした。
「色葉こそ大丈夫か!?」
「はい、私よりまわりどうなってますか?」
かいとはまわりを見る。
もう何もいない。
木々が縦に並んでいて、その中央にいた。
あれとかいとは思う。
入り口にいたはずなのに。
つまりいつのまにかここまで連れてこられていたようだ。
「まだいないでしょうか」
色葉は警戒してキョロキョロとする。
かいとも見ていくが、笑い声もなければ、かたまりもいない。
二人は警戒しながら歩いてく。
その先には白色のトンネルがある。
そこから出られる。
二人はその近くまで来ても安心はしないが、白色のトンネルの中へと入った。
安心は元の場所へと戻ってきたときだ。
「はあ…もうだめかと思いました…かいと先輩…」
体中が痛く、かいとも震えそうになるが、それよりも色葉の頬にふれる。
「顔、痛いだろ!?」
かいとは、あわてている。
「冷やさねーと!俺の家が近いな、行くぞ」
色葉の手を掴む。
色葉は目をぱちくりさせつつ、ついて行く。
アパートにつき、ある一室へ。
その日はいつきはすでに帰ってきていた。
かいとがいう。
「色葉がけがしたんだ!顔で、だから、えっと」
いつきもあわてて、冷蔵庫へと走ると冷却の袋のようなものをつかみ、ハンカチで包むと、色葉へと渡す。
「色葉、けがしたって、顔って…!?」
色葉は顔に冷たいハンカチをつける。
「ありがとう、いつき、けがって大げさだよ、私よく、けがしてるし」
右頬のシップを指さして笑う。
かいとはいう。
「女の顔は傷つけたらだめだろ!」
「かいと先輩もいつきもそんなに気にしないでって」
色葉は笑う。
「私はこんなけが、よくするの普通だし、今回は顔だっただけ」
いつきは悩んだがいう。
「でも、やっぱり女の子の顔…傷つくのは…大げさなことだよ…」
「そんなこといったら、かいと先輩だって」
かいとの顔もはれていた。
いつきは気づいて、急いで冷蔵庫へと向かった。
かいとは正座をする。
「悪い、俺のせいで」
「いえ、あれは敵の動きがわからなかったからです、かいと先輩は悪くないです」
「…ごめん」
かいとの顔に色葉は困ったように笑う。
「かいと先輩がなんか優しすぎて困ります」
「優しくないが」
「いえ、ありがとうございます」
いつきはそこへと来て、かいとへ同じようにハンカチで包んで渡す。
色葉はいつきの方を見ると、にこっとする。
「いつきもありがとう!」
「え…これしかできず、で…」
「うれしいよ、とっても」
いつきは色葉の笑顔に顔が赤くなってしまった。
かいとは、急にパタンと倒れる。
自分の体の痛みを耐えていてさっきからふらふらしていたのだ。
「かいと先輩!」
「兄さん!」
かいとはというと、けがの手当をしてもらいベットへと寝かせられた。
けがばかりしている彼を病室でいつきと色葉は見つめる。
「兄さんは自分のこと忘れてるね…」
「他の心配ばっかりだよね、自分のこと考えればいいのに」
「…ほんと、そうだよね」
いつきは色葉がかいとを見ていることになんだかもやもやとする。
色葉が他を心配するのはいいが、なんだか。
「色葉…」
「ん?何?いつき」
笑顔で名前を呼ばれる。
名前を呼ばれるのはうれしい。
なのに、なんだか、変な気持ちがいつきにはある。
多分。
_こっちを…見てほしい_
とか、そんな感じ。
でも名前を呼ばれることがうれしいんだから、これ以上は欲しがらないように。
そもそも弱いいつきでは、色葉を守れないし。
「私、ちょっと外出てくるね」
いつきがいうと、色葉は
「うん、わかった」
「ちょっといってくるね」
いつきは外へと出る。
扉を後ろにして、つぶやく。
「私、強くならないと」
いつきは色葉を守れる自分になりたいし、もちろん兄であるかいとだって守りたい。
「強くなって私が守る方になるんだ」




