37/2096
前川なとりのその後
姉が能力を悪用したと、ゆらという女性が家に来たことでわかった。
小さなアパートだが、家の中でその話を私と母は聞いていた。
姉が能力なんていうものがあったことに驚いた。
どうしてそんなことをしたかは姉は言わなかったというのも話された。
母は姉のことをたくさん聞いていたが、私はうつむいたまま何も言えなかった。
台所の蛇口の水滴がポタンと落ちた。
前川なななの妹。
彼女の名前はなとり。
彼女はぼーっと闇が広がる窓の外を見つめる。
ゆらという女性は帰った。
姉が苦しんでいることはわかっていた。
けど、そのことにふれることは姉がもっと苦しむと思って何も言わなかった。
姉が誰かを傷つけるなんて思ってもいなかった。
姉は、いつも一生懸命で、頑張り屋で、少し無理をすることがあって…。
「…っ」
なとりは何も言えなかった。
なとりは何も言わなかった。
なとりは何も言わず、洗い終わった底の深い皿をふいた。




