逃げの間3 終わり
机の中には履歴書が入っていた。
「これ…」
履歴書とは仕事をするために書く紙のことである。
これを書くことで自分のことを相手に伝える。
高校生の時だ。
私は高校の三年生であった。
その時期は、就職だろうと、進学だろうと本当に忙しい時期。
その時期は本当にピリピリしていた。
そして、その時期にたいしたことではないがあることがあり、私は学校へ行けなくなった。
その時期では本当にもうどうすることもできず、私はいつの間にか引きこもりになっていた。
今思えば本当にたいしたことはないこと。
けれど、自分にとっては大きなこと。
「その一つで人の人生って変わるんだよね…」
私は笑って、履歴書を見る。
一生懸命に何百枚も書いたことを思い出す。
悪い思い出じゃない。
いいともいえないが。
でも、
「私も、今はこんなだけど頑張ってたんだね?」
涙がぽたりと落ちた。
それは、私の涙じゃない。
後ろに誰かがいる気がした。
振り向く。
そこには
学生服を来た少女がいた。
それは、
「昔の私?」
少女はポタポタと涙を流す。
私は手を伸ばす。
「あなたは」
私は自分の名前をいう。
「昔の過去緑?」
私の名前は、過去 緑である。
少し、変わった名字かもしれない。
少女はうなずく。
声を出す。
「私は、一生懸命に…なのに、こんなの、ひどい」
「うん、そうだね」
私は少女を抱きしめる。
「わかってる、あなたは頑張った、できることはしようと努力はした、そして逃げた」
私は言葉を続ける。
「逃げるのは嫌だった、戦いたかった、わかってる」
私は私へという。
「でもね、よくあることなの、この世界はさ、いろんな理不尽があふれてる、あれからね、私もいろいろ知ったんだよ?」
私はなんていうけど、まだまだだ。
「といっても、まだまだわからないこと多すぎて毎日勉強してる」
それを聞いているか、わからないが、少女は涙目でいう。
「私、頑張ろうとしたのに」
「うん、だからね、過去のことは忘れない、絶対に」
私ははっきりと告げる。
「昔の私も今の私も同じで、違う、でも私はまだ逃げていたいななんて」
少女はいう。
「逃げてればいいじゃん」
「逃げるのはできなくなった!」
少女はきょとんとする。
「え?」
「あれからね、実は状況がもっと悪くなったりしてて…あ」
あっ、そっかと私は分かる。
どうして私がここへ来たのか。
だから逃げたかったんだなって。
忘れていた。
全部。
少女はうつむく。
私はもっと抱きしめる。冷たい人だ。自分なのに。だから、温かくしたい。
「私は、これからどうなってく?」
少女は不安そうに聞いた。
私は思い出し、はっきりという。
「もっと悪くなるかも、でも、私は死ぬ瞬間までは諦めないって決めてた」
逃げの間にいた時は忘れてた。
いろいろなことを。
少女は私の目を見たからかいう。
「ほどほどに、がんばってね」
「うん、真面目すぎず、ほどほどに頑張る」
少女は小さく笑う。
「うん、緑、また、ね」
さよならじゃない。
だって、私と少女は同じだから。
だから私も笑う。
笑って答えるんだ。
「またね、緑、私は忘れないから」
教室がざあと薄れていく。
「…」
そうすると、教室が消えて、私はなぜか走り出す。
なぜか分かる。が、怪物は消えてなくて、かいとは戦っている。
私はかいとへと声をかける。
「あの、私は外へと出ます!あなた、も」
かいとは私を見ると怪物を拳で飛ばしてしまう。
こちらへと走ってくると私を通り過ぎる。
私は後ろを向くと怪物がいた。
私へと近づいてきた怪物を拳でたおした。
怪物は四足歩行の動物の姿で、頭はなく、体には口があり、牙が見える。
体の上の方から2本の人の腕がにょきりとはえている。
かいとは、私をだき抱えると、聞く。
「どっちに行けばいいんだ?」
「え!?えっと、あっち、です」と指をさすが、ただクリーム色や紫色の混じった色をした空間があるだけ。
でも、私はなぜかどこへ行けばいいかが分かる。
かいとは私を抱え、走って行く。
後ろからは多くの怪物が追いかけてくる。
私はそれを見た。
あれはなんなのか?
かいとは汗を流し、走り、いう。
「出るってことだよな!?」
「はい!私は…逃げることはできないので」
「そっか!わかった」
空間の先へと向かうが、何もない。
私はどうしてと思うが。
「こっちのはずなのに…」
「…そっか、わりぃ、俺がいるからだ」
「え?」
「ここは逃げの間、一人でここを進むんだ」
「あの、あなたは…?帰れ、ますよね?」
「ああ、帰らねーとなんないからな」
「…あ、の」
私は不安そうに彼を見る。
「決めたんだろ?ここを出るって、なら、行くんだ」
私は進んでみる。
後ろを向くとかいとは怪物と戦っている。
かいとは叫ぶ。
「止まるなよ!行け!」
私は走り出す。
空間は続く。
でも、その空間の先に行けば、ここを出られる。
でも、彼は心配だ。
でも、でも、進む。
走っていく。
怪物は追いかけてきてる。
_私は、ここから出るんだ!_
私は目が覚めるとそこは保健室であった。
そうだ。思い出した。
私はあれから進めないでいて、でも進みたくて外へ飛び出した。
そして、探した。今を変える方法を。
ようやく見つけ、できることをはじめることができて…
前まで小学校として使われていた場所で行われている授業に参加していたのだ。
そこの先生が声をかける。
「大丈夫!?緑さん急に倒れて」
「…私、」
「あ、はい、ハンカチ」
「え?」
「泣いているから」
自分が泣いていることにおどろいた。
ハンカチを、受け取った。
とりあえず帰ったが彼はどうなったのか。
確認する方法がない。
彼は…。
私は指を重ねて祈る。
「どうか、無事でありますように」
かいとはまだ怪物と戦っていた。
拳で殴っていき、とりあえず倒すが、数が減らない。
今回、逃げの間に来たのはある人からの依頼できたのだ。
前まで使っていた小学校で授業をする先生の彼女は最近まで家を出てもいなかったと聞いた女性が、無理に頑張ろうとしていて、心配はしていた。
そういう人間の元へは逃げの間と呼ばれるものが近づくことがある。経験したことのある先生だからこそ、依頼してきたのだ。
まさか本当に逃げの間が出てくるとはおもってなかったが。
かいとはそこへ、自分ごと来ているため、帰り道がない。
だが、どうしても助けたかったのだ。
かいとはそこへいると、赤い玉が怪物へと飛んできて、怪物が倒れていく。
「桜子!?」
かいとの前には桜子がいた。
「なんで!?」
「ゆらさんに無理に話してもらったの、かいとくんが帰ってこないから」
「だからって、ゆらさんはだめだといっただろ!?」
「うん、でも来たから、ほんと、かいとくんは一人行動多いよね?ゆらさんもせめて二人一組にすればいいのに…」
「俺は、自分の役目の時はできれば一人が好きだし…みんなと行動とか得意じゃ…」
「…ばかっ!」
桜子が顔を赤くして怒っている。
「逃げの間はここへ来たものが出るか出ないかの場所なのに!帰ってこられなかったらどうするの!?」
「いや、俺帰る気だったし」
「なら、もっと!早く帰ってきてよ!」
かいとは謝る。
「…ごめん…」
かいとの手をつかむと桜子は歩いて行く。
「帰るよ」
が止まる。帰り道がわからない。
桜子は黙る。
「帰れない…」
桜子が泣きそうな顔をして、かいとは困る。
「あ!えっと!帰れっから!な!?」
「うん…」
かいとは考える。
そして、思う。
「彼女は、あっちって言ってた、なら、俺らもあっちへ行けば帰れるんじゃ」
「そ、そうね」
桜子は泣くのをこらえようとしてる。
かいとは桜子の頭に不器用に手を乗せる。
「だ、大丈夫とはいわねーが、帰れるから!な!?」
かいとは急に真面目な顔をしていう。
「誰がお前を一人にするかよ」
桜子は顔を上げる。
「え…?」
かいとは顔を赤くさせる。耳までまっかだ。
かいとが桜子の手を握り後ろを向いて進んでいく。
何も言わない。
桜子はどきどきと心が速く音がなる。
つないだ手は少し、汗ばんでいたが、でも、でも、桜子はそれが嫌でなくて、泣きそうにかいとを見ていた。
進むが、そこには何もない。
後ろを向くと怪物がくる。
かいとは拳を向ける。
桜子も戦おうとしたが、かいとはいう。
「桜子は出る方法探してくれ!」
桜子は「…え…う、うん!」と答えると、空間に手を伸ばしてみる。
そこはただの空間。
でも、そこに何かはないのに、かんじる。
それは、
_「どうか、無事でありますように」_
何かの思い。
これは、この思いは?
桜子はその何かを手でふれようとする。
何かを思う気持ち、それこそが、ここを出る方法。
「かいと!こっちに来て!出られるかもしれない!」
「あ、ああ!」
怪物はかいとへ殴りかかる。
かいとは痛みが走り、ふらりとする。
桜子はそれを見て、手を向ける。
赤い玉を飛ばす。
怪物は倒れてしまう。
かいとは顔をどこか引きつらせるが、桜子の元へとなんとか来る。
「かいとくん、手…!」
桜子の手をかいとはつかむ。
桜子は出口と同時に誰かの思いを自分のもう片方の手でかんじ、つかむ。
クリーム色と紫色の混じった空間がゆらぐと、かいとも桜子も意識を手放した。
目が覚める。
そこはかいとが逃げの間へと行く前にいた場所の前まで小学校として使われていた空き教室。
かいとは手の温もりを感じ、横を見ると、桜子が隣で寝ていた。お互いに横になっていた。
かいとは桜子の頬へと手を伸ばす。
自分の人差し指を曲げてそっと、ふれる。
ほっとするように笑うが、すぐに苦々しい顔をする。
その上から声をかけられる。
「帰ってきたか」
ゆらが上からかいとを見下ろしていた。
「ゆらさん」
「まあ、無事でよかった」
かいとは立ち上がると
ゆらを強い目で見る。
「なんで桜子を止めなかったんだ」
「止めたさ、お前は別の場所に行くとひどく疲れるからやめろとな」
そこへ茶髪で二つお団子をしていて、ひし形の髪飾りをつけている少女が来る。
「桜子さん!」
すぐに桜子の所へ行く。
ゆらをにらむ。
「ゆらさん、どういうことですか」
「桜子の望んだことだ、ほれた男のために」
「せめて、僕に行かせてくれれば」
「桜子だったから、帰ってこれた」
かいとは、桜子を抱き抱える。
「ゆらさん」
ゆらは
「なんだ?」
という。
「桜子は大丈夫だよな」
「ああ、本当に危ないなら本気で止めるさ」
かいとは少し安心して、桜子を連れて行く。
茶髪の少女もかいとについていった。
ゆらは一人残るが、はあと一息。
「戻ってきてよかった…」
過去緑は
かいとと会ったら必ずお礼を言おうと思いながら、今日もできることを必死にしている。
緑は、小さくつぶやく。
「過去に狂わされて困ったけど…でも、私は今日もできることはする!よし!」
緑は前を向き、歩きだした。




