有理架といつき5 終わり
「泣いてしまってすみません。もう一度戦ってください…お願いします」
いつきの目は前を向いている。
有理架はにこっとする。
「戦うんですのね。後ろを向いてですわ」
いつきは頷く。
後ろを向く。
有理架は何かを体育館にまく。
いつきは静かに待つ。
有理架はにこっとする。
「嫌なことをいっているのに…感謝して、しかも泣くなんて私を馬鹿にしてるんですの?なのでこっち向くですわ」
いつきは後ろを向くと腕を掴まれ、とんっと、体育館の中央に押される。
「針が飛び出してくるんですわ。で、避けてくださいですわ」
いつきは顔が青くなる。
顔が真っ青だ。
「逃げてもいいんですわよ?」
_逃げる?どこへ?
いつきは辺りを見回す。
「……………!」
_どこから、どこから…………
いつきは体が震えてる。
有理架は見つめる。
いつきは逃げればいい。
逃げることも大事だ。
だけど、逃げないことも大事だ。
体育館の床に、尖った先端が浮いてくる。
「……………!?」
いつきは、なぜか、右に動く。
なぜか。
右に飛ぶ。
体育館の床に体をぶつけたが、よけなかったら、貫かれていた。
ツル針が飛び出してくる。
いつきは、後ろを見る。
なぜ反応できたのか。
_“いつき”だ。“いつき”の努力だ。
これがないと、私は………自分のことを自分でも守れないのか
有理架は、静かにほめることなくいう。
「避けるとは思ってなかったわ」
「………………私も、です」
「うれしくないんですの?」
「…………うれしい、です」
_うれしいけど自分の力じゃない
こんなの、こんなの……………………。
いつきは床に座って、唇を噛む。
__私の力じゃない…………こんなの…………
悔しいが、前を向いた。
いつきは反応だけは少しはできるが、体がどれほどできても、心まではうまくできない。
彼女は“いつき”ではないから。
それから、いつきは頭を下げる。
「ありがとうございました!」
有理架はいう。
「いいんですわ。いつでも来ればいいですわ」
有理架はむうとする。
「…私はあなたを見てると腹が立ちますわ、だから…あなたを思ってとかではないですわ」
有理架はそれでもこう続ける。
「あなたは、友人ですわ。冷たくなるのは…友人だから、それだけですわ」
いつきはにこにこする。
「素直じゃないですね。有理架さんのそういう所、私は大好きです」
いつきは素直だ。
意外と。
本当だから。
有理架は顔を赤くして、腕を組む。
「……………き、気をつけて帰るんですわ!」
「はい!」
有理架は顔を赤くさせていて、両頬を手で覆う。
「あなたのそういう所、苦手ですわ」
いつきは拳を作って爪が手のひらに刺さる。
_こんなの、私の力じゃない
誰かの力だ
私の……………力じゃない…………