ようたのその後
ようたはある部屋の一室にいた。広い。
ようたと感覚をあけて立つ女性は青い髪でスーツを着ている。
「さて、とりあえず椅子に座ってくれ」
女性はいう。
ようたの隣には机が一つ、あとは椅子が二つある。
ようたは椅子に座ると、女性は机の反対の方の椅子に座る。
「まず、私はゆらだ、お前はなんていうんだ」
ようたは小さく答える。
「ようた…です」
「ようたか、じゃあさっそく、あの“赤い”ボタンは誰からもらった?」
「女の人です」
「女…?青色のローブとか着てたか?」
「?…着てなかったです」
「そうか、特徴とかは?」
ようたは目で斜め上を見る。
「緑色の…ネックレスしてました」
「形は?」
「しずく…みたいな、あの、水のしずくっていうんでしょうか…?その形でした」
「そうか、わかった」
ようたはいう。
「あの、怪物とか…」
「ああ、あれか、びっくりしたろ?でもみたことないか?」
ようたは小さくいう。
「動画とか、遠くからとかしか…」
「まあ、でもテレビとか言ってるだろ?」
「自分の目の前とかはなくて…」
ゆらは机に何か書類を置く。
「あの、これは?」
ゆらは説明していく。
「怪物などに直接関わったものには口外禁止してもらうため名前を書いてもらう」
ようたは書類を見る。
何か多く書かれている。
「えっと、」
「一つ、自分の関わった怪物のことは他に詳しく話してはならない(家族には話すことはいいが家族が他へと話すことはやはり禁止する)」
「二つ、怪物の種類によってはその後にまた怪物に巻き込まれることあれば…」
ゆらの近くへと緑色の浮かぶ丸い浮游体が来る。がようたには見えない。
「この緑浮游体へ助けを思えばこちらへ知らせはくる、が、この書類に名前を書くのは本人が決めることになっている。」
「僕、ですか?」
「ああ、本人が決めるとなっている」
ようたは書類を見ていくと、いう。
「わかりました」
ゆらは目をふせる。
「といっても、助けを呼ぶタイミングが早い方がいい…その、必ず助けられるとはいえないんだ、本当にすまないが私たちは…完璧じゃないんだ」
ようたは察する。
「助けられなかった方もいるんですか…」
ゆらは静かにうなずく。
ようたも静かに答える。
「…今回巻き込まれたのは僕の責任です、だから…もしもの時があっても憎みません」
ようたはわかっている。
自分は異世界に行こうとしていた。
つまり、自分の進み方をもう受け取ったときに決めていたのだ。
だから、あちらへ行ったら必ず何かしらには巻き込まれていただろう。
ようたはもう一度書類を見て、全てを確認していく。
終わると書類を置く。
「名前を書くか?」
「はい…僕は守られてしまうんですね」
「…必ずじゃない、守ろうとはするが」
ようたは名前を書きおわる。
そうするとようたの前に緑色の浮游体がいた。
「うわっ…!?」
ゆらはいう。
「これが緑浮游体だ、見えるか?」
「あ、はい…」
「他には見えないからな、安心してくれ」
「そうなんですか…」
「ああ」
ゆらは立ち上がると部屋の扉を開ける。
「では、ようたさん、帰っていい」
「赤いボタンのことはこれでいいんですか?」
「だいたい分かることができた、それではまた」
「…はい」
ようたはビルから出ると空が明るい。
夜にそういえば来て、少し休ませてもらった。それから話を聞かれたので眠くない。
学校が今日は休みのため、そのまま昨日ここへとやってきていた。
家族に連絡はいっていると聞いた。
ようたは外に出る。季節は春頃だが寒い。
つぶやきが大きな声になっていく。
「異世界に行きたかったなあ…行きたかった…行きたかった!」
叫ぶ。朝のためか人は外にはいない。
異世界に行きたかった。
だけど行けなかった。
現実がまたはじまる。
現実がまたはじまるのだ。
ようたは暗い目をしてそれでも帰る場所へと歩いて行く。
「現実からは逃げられないな」
緑色の浮遊体は歩いて行くようたの後ろをついていった。