かいと
_____
_…………
_はじめまして。
_桜子と半分になったんだね?
_でも、どうしてそんなことしたの?
声がする。
声が、していた。
その声はもう昔から聞いている声だ。
昔から、だから、それは。
_私は気になるの
誰かに何か聞かれてる?
俺に聞いているんだろうか?
俺は、辺りをキョロキョロとする。
そこは、暗闇だ。
暗い闇の中だ。
俺は、その中にいる?
_聞かせて
その声は、聞いたことがあるとかじゃない。
だって。
_かいとくん_
この声は。
俺は、その声の誰かの名前を呼ぶ。
「さくら…こ?」
桜子の声だ。
絶対に。
_うん。私は桜子だよっ…でも…私はね
桜子はにこっとする。
子どものような笑顔で。
_暴走して、闇に染まり尽くした時に出るのが私。…なら…私は…
かいとの前に桜子の姿の少女が現れる。
桜子と同じ黒髪。
桜子と同じ瞳。
桜子としか言えない。
_私は、もう一つの桜子だよ
その顔は、どこか微笑んでいるが、悲しげに感じた。
暗いはずなのに桜子の姿ははっきりと見えている。
「桜子…は!そうだ!桜子はどうなったんだ!」
俺はようやくそのことに気づく。
闇の中にいたからか。
頭もぼんやりしていた。
_桜子は半分人で、闇を吸収する力は持ってる、危なくないって。桜子の自分で闇を消していた努力や、あなたたちがそばにいたことで…今があるんだろうねー
「半分人ってことは…」
_危険ではない…かな?知らないけど
俺は、膝をつく。
「よかった…本当に…よかった…桜子は幸せになれる…よな…これで」
桜子は一度、遅れるように言葉をいう。
_大丈夫なんじゃない?
かいとは、気づかなかった。
俺は、勝手なことをした。
でも、でも。
_かいとくんは痛い思いして、半分、闇を宿したね。正直にいうとー。あなたの方が危なくなってるかもよー
俺は黙る。
俺は、何となくわかってた。
桜子はかいとに抱きつく。
かいとは、驚いて、固まる。
ふくよかな感触が。
まて、俺。
落ち着け。
おちつけ。
桜子はかいとの焦りに気づきつつ抱きしめる。
_後悔ないー?私を怒っていいよ。でも本当の桜子に怒るのは許さなーい
俺は、ドキドキしつつ、顔をまっ赤でいう。
「怒るわけないだろ。俺がそうしたいからそうしたんだ!誰かのせいにしたくない」
桜子はどこか目を潤ませてぎゅうと抱きつく。
「それより力強くないか!?離れ…」
_私、大好き。かいとくんのこと
「…え」
なんで?
俺?
え?
_かいとくん。桜子も私も本当にかいとくんのことが好きなんだよ。好きすぎるほど好き!好き!すきー!
「…え…そうなのか?」
_だから嫌だったのに!幸せになってほしいのに!私のことなんてもう見ないふりしてどこかに逃げればいいのに!この!ばーか!
急にばか呼ばわり…。
まてまて。
「ばかはないだろ。ばかは…いくらなんでも」
_ばか!かいとくん!
怒ってる…俺の勝手とか、そういんじゃなくて。
俺のために。
俺が幸せになってほしいって。
俺のために。
幸せじゃないと思われてるのか…?
俺は。
なら、俺は
桜子の頭にそっとふれる。
桜子は上目使いでこっちを見てくる。
_かいとくん?
「俺の幸せを勝手に決めるなよ…幸せか不幸せなんて俺が決めるんだ。俺のこの世界への感じ方で全部決まるんだ。俺は、今幸せって思ってる。全部妄想でも」
「正直、今幸せでもこれからはわからない。絶望で終わるとしても…俺は、幸せだった時を忘れないでいたい。…て、何がいいたんだ!俺は!えーと、長くなって悪い!」
俺は、頑張って伝える。
えーと、えーと、えーと!
「俺は、幸せだ!」
_でも
「幸せは俺が決める。自分で決めるんだ。だから、俺は…俺は…幸せだ」
俺は、なぜか。
桜子が俺の頬にふれた。
幸せと思うことはなんだか目元がじわりとする。
_泣いてるの?
「泣くわけねーだろ!」
人前で泣くとか!
んなの!かっこわりーし!
そこ!重要!
なのに。
_幸せって思い込んでるようにも見えるー。でも。私にそう言ってくれるのは…嘘じゃないし、うれしいな~
「嘘のわけないだろ、自分で決めたことだ」
桜子は、抱きしめてくる。
離さない。
_…離したくないなー。離したくない。かいとくんは私のものだよ。私のものと思いたいな。かいとくん?私はあなたが好き…好きすぎるの。もう、あなたは私のものと思ってるの!
「そ、そんなに…俺のこと好き…なのか?」
かいとは、とてもかわいい桜子に好きと言われると、ありえないと思う。
だって、
「俺の何が…好きなんだよ…?」
聞いてしまう。
桜子はぎゅっと抱きしめてきて、髪に指を入れる。
_全部!全部が好き!全部!ぜーんぶが好きなの!
「え」
かいとは顔を赤くする。
恥ずかしい!でも、抱きしめられるの…嫌じゃない!…うれしい………!
桜子は、気づく。
すっと離れる。
先ほどまでの強く抱きしめていたが、離れるのは少しの迷いみたいなのがない。
_さよなら。かいとくん。あ、またねー。
桜子は笑う。
一つも陰がなく、本当にかわいく、笑う。
_大好きだよ_
かいとは、つい手を伸ばす。
そして、目が覚める。
まず見えたのは天井。
そして、手を握られている感触。
「かい…とくん…?」
桜子は、そこにいて、手をぎゅっと握る。
強いが、柔らかな。
かいとは、いう。
「桜子…」
桜子は涙を落としてしまう。
すぐに自分でふくと、寝るかいとを抱くように上に重なる。
「起きて…くれて…よかった…かいとくん……………ばか………」
さっきも誰かに言われたような気がしてかちんとくる。
起き上がる。
かいとは、桜子へという。
「ばかはいくらなんでもないだろ」
誰かと同じ会話をしたような、そんな気がした。