似世界 いつき 324
似世界
いつき
いつきは歩き出すと海草の中にいた光は無い。
「あれ?誰もいない?」
いつきは歩き続ける。
海草は静かだ。
「誰もいない……なら!行ける!」
いつきはとにかく捜すことにする。
かいと、ツミウ、逃げの間を捜す。
都合の良い現実に覆われていたが、走る。
「兄さん!逃げの間さん!!」
走る。
海草の中を見る。
誰もいないが飲み込まれた時を見た。
捜すことにする。
いつきはその時になぜか逃げの間の者の痛みへ向かった時の気持ちを思い出す。
なぜ、思い出すのか。
「痛い…………!」
いつきは両方からガチッと歯を噛む。
「あの痛みの元に行けた、なら別の痛みにも向かえる」
痛みに近付いた。
あの痛みは傷とはまた違う心の痛み。
あの痛みは耐えることは難しい。
逃げの間の者も耐えられなかっただろう。
分かるとはいうものではないが、いつきは気づいてしまった。
痛いのだ
心は簡単に消せるが
けれど痛いのだ
直すには
人では足りない
人では癒やせない
人を癒やせるのは人と思っていたが
違う
逃げの間の場合は
人だからこそ癒やせない
そんな傷もあるのだ
それを知った
彼女を癒やしたのは痛みそのもの
イロノルレフ亜という痛みが癒やした
逃げの間の者を人は救えなかった
痛みが同じ痛みを感じた人ではなく
痛みこそが彼女を癒やし続け、今は多くを話すようになれたのだ
人は人を救える
人は人を助けられる
逃げの間の者を救えるのは痛み
逃げの間の者を助けられるのはイロノルレフ亜という痛みであった
そういうこともあるのだと、いつきは知った
そういうこともあると知った
歩き続けると白色の影がある。
白い雷雲が回りを漂う。
「誰か来たね。別世界の誰か」
いつきは目を開く。
「白くてきれい………?誰?ですか?」
白い影はニコリとすると。
その姿は少女の形をしていた。
白の姿だから白と思いきや、黒の透明な雰囲気の少女。
「私は明後日を愛するライゾンフィア。明後日に幸せを願い、自らも幸せを望まず、彼女を愛する」
「え………と」
「私は明後日を愛している。最後も誰もの幸せを願った。自分の幸せだけを望めばよかったのに」
「あさってさんですか?」
「愛する人。優しくなくて、誰よりも幸せを望まず、誰もの明後日の幸せを願い続け、叶わなかった。私は愛しているの。明後日を」
いつきは本当に誰かを想う言葉、表情に笑顔になる。
「好きな方の話をすると、やっばり顔明るくなってしまうんですね」
いつきはライゾンフィアの笑顔に何だか安心した。
ライゾンフィアはけれど幸せばかりを口にはしない。
「でも、明後日は消えたの。誰もの幸せを願い、叶うこともなく、私は明後日を何時も愛し、覚えているの。だから」
幸せなことばかりをいわない。
「幸せに終われたわけではないの」
「そ、そうなんですか…………」
ライゾンフィアは静かにいう。
「私が来たのは都合の良い現実へ包まれた者を助けるため。それが私が呼ばれてしまった理由」
「ライゾンフィアさん。呼ばれたんですか?」
「そう。あとは用もあってね………」
「用?ですか」
「あなたと一緒に捜しに来たんです」
「私ですか?」
「そう。呼ばれたから」
いつきとライゾンフィアは共に行動する。
海草の中を歩いて行く。




