ある彼の話5 終わり
男子高校生は高いビルの並ぶ辺りにつく。
そこに信じられないものがいた。
「え」
ビルの前に何か言葉では言いづらい形の怪物がいるのだ。
説明するとすると、ボコボコとした体に腕と足がついているという感じだ。顔がどこかもわからず、男子高校生は体を震わせた。
「なんだよ、あれ…」
男子高校生はそれを見た。
男子高校生と同じ学生服を着た少年が怪物の大きな腕で掴まれているところを。
黒の学生服を着ている。というか、男子高校生は気づく。
「ようた?」
人々はすでに走っていて、怪物のまわりには男子高校生がよんだ“ようた”という少年しかいない。
ようたとは、男子高校生にとって友人という関係である。
「よう、た…!」
手を伸ばして前へと行こうとする。
「ようた!」
だが、立ち止まる。
足が動かない。
怪物の姿に怖がっている。
びびっている。
でも、ようたがと思うが、動けない。
「…くそっ!なんでうごけねんだ!?」
足を前へと出そうとするのに、動かない。
_誰かが横を走って通り過ぎた。
男子高校生は動けない。
彼と同じように学生服を着た誰かは迷いなく走って行く。
男子高校生は目を開く。
「まにあいやがれえ!!!!」
誰かは叫び、汗を流し、少年を掴む腕に拳を向けた。
腕に拳が当たり、その衝撃で怪物は少年を落とす。
男子高校生は動けない。
でも。
でも。
怪物は拳をぶつけた学生服の彼の頭をもう片方の手で掴むと、地面へとたたきつける。
男子高校生は動けない。
その光景はおそろしすぎた。
でも、怪物の落とした少年は地面に倒れている。
地面へとたたきつけられた少年の方は男子高校生を見て、いう。
「たのむ!彼を…」
彼とは“ようた”のことだろう。
男子高校生は地面にたたきつけられた方の少年から目が離せない。
「彼を!!助けてくれ!」
男子高校生はすでにもうこの状態についていけなかった。
だからこそごく自然に動いた。
ようたの元へと行くと肩を抱くようにして連れて行く。
それは
「俺だって!!できることするんだ!」
叫びながら、男子高校生はなんとか遠くにようたを連れてこれた。
「ようた!?大丈夫か!?」
ようたは歩かされていたが、地面に膝をつき男子高校生も膝をついた。
「…あのひ…?」
ようたは、男子高校生の名前を呼んだ。
そう、男子高校生の名前は“あのひ”である。
「ようた、なんで」
ようたは小さく答える。
「異世界にいきたくて…」
あのひは目を開いた。
_かいとは、地面に倒れてたが立ち上がらないでいるため、怪物は腕を振り上げる。
そこへ、赤い三つの玉が飛んできて怪物へとぶつけられた。
怪物は後ろへと倒れる。
怪物の体は少し、砕けている。
それを狙っていたのか、かいとは、なんとか立ち上がり、拳が赤色に包まれると、怪物へと思いきり拳を打ち込む。
怪物の体へと腕が突き抜け、そこから怪物の体は亀裂が入るように崩れ落ちていった。
終わった。
男子高校生は、いや、あのひはそれを見ていた。そして、思う。
「異世界もののヒーローってあんな感じだよ、な…」
かいとはようたの方へと来る。
傷だらけだが、いう。
「赤色のボタンを使おうとしたのか!?」
ようたは「はっ!はい!」と答える。
「聞かせてくれ!それは、誰から…!…………」
ふらりとかいとは後ろへと倒れ、ようたとあのひは二人で支えた。
それからは黒髪の美人ともう一人茶髪で二つお団子のかわいらしい系の少女が来たりとして、かいとはつれてかれた。
あのひはつぶやく。
「異世界もののヒーローってまわりに女子が多いよな…」
ようたの話が聞きたいとようたまで連れて行かれてしまう。が、その前に、あのひは聞く。
「どうして、異世界に…行こうとしたんだ?」
ようたがどこか困った顔で答える。
「兄さんといつも比べられてて、異世界に行けばもう、比べられないと思ったんだ」
「そうだった…のか」
知らなかった。
そんなこと。
「僕は異世界に行きたすぎて困ってたんだ」
「そんなにか?」
「うん、そうしたら、あの怪物が出てきて」
あのひはさけぶ。
「行かなくてよかった…!と、思う」
「…え」
「異世界に行きたいの、少しだけわかるんだ、でも…小説とか、マンガでは元の世界の大事な誰かをおいていってしまう、俺にはそれは耐えられない、てかできない」
ようたは静かに聞く。
「小説では行ったっていいと思う、だけど、この世界から…お前がいなくならなくてよかったって思ってる…ごめん、ようたにもなんか理由とか事情とかあるのに、俺はなんにもできないのに、でも、でも」
あのひはそれでもいう。
「ようたがここにいてよかった」
ようたは目を開いた。
ようたは泣くことはなく、どこか小さく笑って行ってしまった。
あのひは地面に座り込む。
頭を掻く。
「何勝手なこといってるんだ、俺…だからってなんもできないのに!てか、俺だって行こうとしてたじゃねーか!」
空に向かって叫ぶ。
夕日はすでに落ちていて、真っ暗な空が広がる。
並ぶ街頭が辺りをそれでもてらす。
ぴょこっと青色のローブがやってくる。
「やあ、さっきのあなた」
「うわっ」
「びっくりしたあ?」
「するだろ!」
「まだ異世界に行きたい?」
「行きたいに決まってるだろ、でも」
「ん?」
あのひは強い目をする。
「俺は、ここで異世界の話を書く、行こうとは…多分もう思わない…だってよ」
あのひは悔しそうにいう。
「俺は、あんなふうになれない、よくわかった、だからここで生きてく」
「おう、決めたねー」
「ああ、俺は異世界の主人公なんてできねえからな」
「そっかあ、じゃあ、またねー」
青色のローブは行ってしまう。
あのひは立ち上がる。
「さーって、俺は平凡な主人公として生きていくか、ここで」
「平凡に生きていくのも難しいんだよな、でも…生きるか、命ある限り」
あのひは迷言をいう。
「俺は平凡な主人公が向いてすぎて最高だ」
一人で言って、顔を覆った。
耳まで真っ赤だ。
なんか恥ずかしいことをいったあのひであった。
「いや、主人公って、脇役だろ、俺なんて…」
そこへ青色のローブがまたぴょこりとくる。
「主人公はいつだって自分だあ!で、いないとだよー」
「は!?……………自分の世界の主人公は自分だー!」
「そうだそうだー!」
青色のローブはそれだけ言っていってしまった。
あのひは顔を覆いつつ
「帰って、異世界の物語の続き書こう…」
とつぶやいた。